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特集:ケース編
ケース編
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

 薬剤師が存在感を高めるには、どうすればいいのか。意識だけでなく日常業務での工夫によっても、医師との情報交換は円滑になり、互いの理解も深まるはずだ。薬剤師からの積極的な取り組みで、医薬連携の成果を上げているケースを紹介しよう。

 クリニックモールという立地を生かして、薬局が医師と患者の橋渡し役を担っているのは、アイセイ薬局薬園台店(千葉県船橋市)。

 同店では2012年9月、地域住民を対象とした健康教室である「からだゼミナール」を開催。モール内にある薬園台さかいクリニック院長の酒井真人氏を講師に招き、同氏が専門とする泌尿器科疾患の診療について分かりやすく解説してもらったり、健康や薬に関する相談を受けてもらった(写真1)。同店店長の松原ひとみ氏は、「酒井先生の専門領域を生かしつつ、地域住民にもっと先生のことを知ってもらいたいと考え、アイセイ薬局グループがノウハウを持つ『からだゼミナール』という方法を提案した」と話す。

アイセイ薬局薬園台店の松原ひとみ氏と、同じクリニックモールで診療する薬園台さかいクリニックの酒井真人氏(右上)、どい耳鼻咽喉科の土井勝之氏(右下)。

写真1 からだゼミナールの告知用チラシ(アイセイ薬局薬園台店)

健康教室を薬局内で開催。地域でのクリニックの知名度向上に貢献した。

 モールがオープンしたのは10年12月。病院勤務を経て開業した酒井氏は、「診療所は病院と異なり、いわば点の存在。個々の患者との狭いつながりにとどまりがちな中、広いネットワークを持つ薬局と関わることで、地域に溶け込む機会を得ることができた」と話す。からだゼミナールに参加したことをきっかけに、同クリニックを受診するようになった患者もいたという。

 また、「医師にとって、診察時に聞き出せなかった患者の訴えや薬局での様子などを知りたいというニーズは高いようだ」と松原氏は話す。そのため同氏は、患者が立ち寄りやすい薬局の雰囲気づくりを心掛けている。クリニックモールは広い駐車場があるスーパーマーケットに隣接しているため、処方箋を持っていなくても、買い物帰りに相談に来る患者も少なくない。

 同じモール内にある、どい耳鼻咽喉科院長の土井勝之氏は、「病院に比べて、診療所では1日に診察する患者数が圧倒的に多い。特に小児患者では、体重の変化などをフォローし切れないことも多く、薬局で用量や投与禁忌の有無をダブルチェックしてもらえる安心感は大きい」と話す。

 医師の意向や必要としている情報をくみ取り、薬剤師としてできることをしていく─。この“原点”に立ち返ることこそ、医師との信頼関係を築く一番の近道といえそうだ。

 今後、確実にニーズが高まっていくと予想される在宅医療。雄勝調剤薬局(秋田県湯沢市)では、薬剤師が率先して在宅医療へのスムーズな移行をサポートしている。

 同薬局はJA秋田厚生連雄勝中央病院の門前にあり、無菌調剤室も備えている大型薬局。従来から中心静脈栄養法(total parenteral nutrition:TPN)のための処方箋を複数の医療機関から受けていた。「近年、在宅療養患者の増加や、無菌的調剤が不要な輸液製剤の登場などに伴い、在宅中心静脈栄養法(home parenteral nutrition:HPN)の割合が増えている」と、ファーマックス(秋田市)エリアマネージャーで雄勝調剤薬局管理薬剤師の佐々木智氏は話す。

 同薬局が、約20km離れたある総合病院の地域医療連携室から連絡を受けたのは、11年3月のこと。TPNを受けていた入院患者が退院後に在宅療養を希望しているが、患家近くの湯沢市立皆瀬診療所はHPNの経験が乏しく、院外処方箋を出したこともないため困っているという相談だった。

 連絡を受けた同薬局の海野由貴子氏と松田三千代氏らは、保険処方箋の様式や書き方を皆瀬診療所所長の品川利夫氏と事務スタッフに説明。混注可能な薬剤のリストを提示し、必要に応じて内服薬への変更を提案した。

 また、HPNに用いる輸液ルートやフーバー針、消毒薬含浸綿棒といった医療材料は、通常はHPN指導管理料に含まれるため、病医院が提供する。しかし品川氏によれば、対象患者数が少ない上、高価でかさばる医療材料の在庫を抱えることは困難だった。そこで雄勝調剤薬局が医療材料を代理で購入、実際に使用した分の費用を診療所に請求する形にした(写真2)。「当初、HPNの患者は受け入れられないと思ったが、薬局や訪問看護師の協力によって、患者の希望をかなえることができた」と品川氏は振り返る。

写真2 在宅用の医療材料(雄勝調剤薬局)

在宅医療に必要な医療材料を代理で購入・保管(上)。採用品は診療所や訪問看護ステーションと相談して決める。患者に渡す際、「連絡票」(下)を同封するとともに診療所にファクスで送信し、実費を1カ月分まとめて診療所に請求する。

 海野氏らは、「今後も薬剤師としてどんな形で在宅医療に関われるかを考えて実践し、信頼を得ていきたい」と意気込みを見せている。

雄勝調剤薬局の薬剤師。左から順に谷藤由美子氏、加藤佳奈子氏、佐々木智氏、海野由貴子氏、松田三千代氏。在宅医療における医療連携について、2012年10月に開催された日本薬剤師会学術大会でポスター発表を行った。

 アルファーム薬局鹿沼店(栃木県鹿沼市)では、緑内障の治療を受けている患者のお薬手帳に「緑内障シート」(写真3A)を貼り、他科での薬剤処方の可否について、眼科主治医の意図を薬剤師が把握できるようにしている。

写真3 緑内障シートAとメッセージカードB(アルファーム薬局鹿沼店)

カードは、医師・患者向けに数種類用意。100円ショップなどで購入したポリプロピレン製の袋をお薬手帳の表紙に両面テープで貼り付け、カードを差し込む。

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 「これまで、眼科で治療を受けている緑内障患者に対し、他の医療機関から抗コリン薬や睡眠導入薬などの注意すべき薬剤が処方されるケースがしばしばあった。その度に疑義照会すると内科医を煩わせてしまうし、疑義照会によって本来は投与可能な薬剤まで削除されることもあり、結果的に患者にとってデメリットとなってしまうと感じていた。そこで、お薬手帳を活用して解決できないかと考えた」。同社栃木・群馬営業一課課長の根本洋司氏は、経緯をこう説明する。

 「緑内障シート」には、他科処方の制限の有無や、どのような薬剤が処方された場合に照会する必要があるかを眼科医に記入してもらう。中には、「患者の緑内障は開放隅角緑内障であり、急性発作は起こらないが視野狭窄が進行する可能性がある。全ての抗うつ薬や抗不安薬について、短期間の服用は問題ないが、長期にわたって服用してはならない」と、詳しく記載してくれた医師もいたという。

 「緑内障シートを使うようになって、患者さんもお薬手帳を積極的に医師に見せるようになったようだ」と同薬局一の沢店の橋本恵子氏は話す。加えて、「緑内障シートが、投薬する薬剤師への注意喚起にもなり、よりきめ細かな服薬指導を心掛けるようになった」(根本氏)というメリットもある。

 同薬局ではまた、お薬手帳の表紙にカードサイズのポリプロピレン製の袋を貼り、医師や患者への一言メッセージを記したカードを差し込んで患者に渡している(写真3B)。お薬手帳を開かなくても、薬局からの伝言が一目瞭然だ。

 中でも、「予想以上の効果があった」(橋本氏)のは、次回来局時に自宅残薬を持参するよう患者に呼び掛けるカード。大量の残薬を持参した患者に対しては、一包化を提案する別のメッセージカードをお薬手帳に挟むことで、次回受診時には医師にスムーズに一包化を了承してもらえるという。実際、患者の服薬コンプライアンス向上に結びついたケースもあったそうだ。

 患者は残薬があることを医師に言い出せない。一方の医師は、患者は薬をきちんと飲んでいるはずだと思っているため、効果がなければ薬を増やしてしまう。「このような医師と患者の意識のずれを、薬剤師が埋めていければ」と根本氏は話している。

「緑内障カードなどのツールは、薬剤師が医師に提案する取っ掛かりになる」と話すアルファーム薬局の橋本恵子氏(左)と根本洋司氏。

 お薬手帳は薬局や薬剤師だけが使うもの、というイメージを払拭すべく、薬剤師自ら医師に呼び掛けてできたのが、静岡県の島田市医師会・歯科医師会・薬剤師会と島田市による「かかりつけ手帳」(写真4)だ。10年11月に完成し、11年5月から市内を中心に配布している。

写真4 島田市の「かかりつけ手帳」

従来のお薬手帳のイメージを払拭するため、「かかりつけ手帳」というネーミングにした。

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 「一人の患者が病院や診療所ごとに複数のお薬手帳を持っており、医師や歯科医師にもあまり見せていない。せっかくのお薬手帳のメリットを患者に実感してもらえていないのでは」

 09年2月、当時の島田薬剤師会会長で成岡ファーマシー代表取締役の成岡厚英氏が状況を見かね、島田市医師会会長(当時)だったレシャード医院院長のレシャード・カレッド氏に手紙を出し、“市内統一版お薬手帳”の作製を提案したことがきっかけだ。レシャード氏は、「薬局薬剤師とより密な連携を取りたいと考えていたため、いい機会だと思った」と振り返る。

 「かかりつけ手帳」の作製に当たっては、薬剤師による処方薬情報の記録にとどまらず、医師や歯科医師をはじめ様々な職種が活用できることを重視。例えば、「くすりの記録」として、抗コリン作用のある薬剤の使用の可否や、歯科医師にも重要な情報である抗血栓薬およびビスホスホネート製剤の使用状況について、医師が具体的に書き込めるようにした。歯科医師が治療内容や義歯の挿入部位を記録する欄や、居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)や訪問看護ステーションの名前や連絡先を記載する欄も設けた。

 さらに、カバーにはカードサイズのポケットが複数付いており、患者が診察券や健康保険証などを一緒に保管できるほか、市立島田市民病院が作成している入院診療計画書(クリニカルパス)も挟めるよう、大きめのポケットも付けた。「病院で行われた治療内容を外来診療時にも確認でき、薬物療法を含む全般的な治療方針の決定に役立っている」とレシャード氏は話す。

 薬局薬剤師も、かかりつけ手帳ならではのメリットを実感している。例えば、HbA1cやプロトロンビン時間などの血液検査の結果を印字した紙を、医師が手帳に挟んでくれるようになり、医師に問い合わせなくても正確な検査値を把握できるようになった。また、病院から吸入指導を依頼されることも増え、薬局での指導の結果をフィードバックできるようになった。「かかりつけ手帳の導入によって、医師の間に『薬局薬剤師に聞いてみよう、依頼しよう』という意識が自然と生まれつつあるようで、うれしく思う」と成岡氏は話す。

 レシャード氏は、「薬局薬剤師には、さらに医療の現場に顔を出し、医師が患者から聞き出せなかった情報を拾い上げたり、薬学的見地に基づく代替案を医師にフィードバックしたりしてもらいたい。多職種のチームワークによる相乗効果は非常に大きいと期待している」と話している。

「統一版の手帳を作る試みが多職種連携にまで発展した」と成岡ファーマシーの成岡厚英氏。レシャード医院のレシャード・カレッド氏(右)は、「病医院でも手帳を持参するよう呼び掛けている」と話す。

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