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特集:調査・コミュニケーション編
調査・コミュニケーション編
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

 1人の医師が日常診療で「頼りになる」と思う薬局薬剤師は、平均1.6人─。本誌が2012年11月、『日経メディカル オンライン』の医師会員を対象に行った調査で、こんな結果が明らかになった(Q1)。

本特集および医師調査で、「薬局薬剤師」とは、保険調剤を行っている薬局の薬剤師を指します。

 日本薬剤師会のまとめによると、11年度の医薬分業率(処方箋受取率)は64.6%。今回の本誌の調査でも、院外処方を行っている医師は80.5%に上った。処方箋を介して間接的ではあるものの、大半の医師が薬局薬剤師と接点を持つようになったといえる。

 ならば医師にとって、薬剤師の“存在感”も増しているのでは─。そんな期待を抱きつつ、普段は聞けない医師のホンネを聞いてみようと企画したのが、今回の調査だ。

 頼りになる薬剤師が1.6人というQ1の結果は一見、十分に思えるかもしれない。しかし衝撃的なのは、平均人数よりも、頼りになる薬剤師は「いない」と答えた医師が3割に上ったことだ。

疑義照会のみでつながる一方通行の関係

 調査の結果を基に、医師と薬局薬剤師のコミュニケーションの実態を見ていこう。

 今回の調査で、院外処方を行っている医師を対象に、薬局薬剤師と直接やり取りをする頻度を尋ねたところ、「毎日」「1週間に3~4回」と答えた医師は合わせて約3割にとどまり、「1週間に1~2回」と「1カ月に1~2回」とで約半数を占めた(Q2)。開業医と勤務医で比較してみると、「毎日」「1週間に3~4回」との回答は、開業医(n=226)では39.0%だったのに対し、勤務医(n=267)では23.6%と、薬剤師と関わる頻度に差が見られた。

 また、コミュニケーションの手段は「電話で」が抜きん出て多かった(Q3)。回答した医師が勤務する医療機関の形態や近隣の薬局立地の状況が異なるため、一概には結論付けられないが、処方箋を介して毎日関わっている割には、直接的なコミュニケーションは乏しいとみることもできる。

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 しかも、Q2は、医師が薬剤師に問い合わせたり、薬剤師から問い合わせを受けたりするといった双方向のやり取りの頻度。どのような内容や目的で薬剤師とやり取りするのか、その中身を医師に尋ねたところ、大半は「薬剤師からの疑義照会を受ける」というものだった(Q4)。

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 一方、医師から薬剤師に問い合わせをする内容や目的を尋ねたところ、残念なことに最も多かった回答が「薬剤師に問い合わせることはない」(141人、内訳:開業医46人+勤務医95人)だった(Q5)。日常診療における薬剤師の業務や態度に関して、感心したり満足に思ったりしたエピソードを自由回答で尋ねてみても、「特にない」と記入した医師が614人中180人以上もいた。

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 これは、医師が発行した処方箋を基に、薬剤師が調剤・投薬するという業務の流れからすれば、当然のことかもしれない。とはいえ、もともと互いの顔が見えにくい状況の中で、コミュニケーションが薬剤師から医師への一方通行になっていることが、医師から見た薬剤師の印象に大きく影響しているといえそうだ。

 実際、日常診療で関わりのある薬剤師の業務や態度に関して、不満に思うことを医師に尋ねたところ、疑義照会を受ける煩わしさに関して、次のような意見が多数寄せられた。

Dr. 非常に多忙な時に疑義照会をしてくる。(50代男性、開業医、内科・整形外科)

Dr. 添付文書通りに処方しないと、いつも疑義照会される。(20代男性、勤務医、神経内科)

Dr. 問い合わせの手間が省けるよう処方箋に具体的に記しているのに、聞いてくることがある。(40代男性、勤務医、消化器内科・整形外科)

 一方の薬局薬剤師も、疑義照会の必要性を医師に理解してもらえないもどかしさを感じているようだ。『DIオンライン』の会員である薬局薬剤師を対象に、同時期に実施した調査で、日常業務の中でがっかりした医師の態度について自由回答で尋ねたところ、次のような不満が目立った。

Ph. 疑義照会を一切受け付けない医師がいる。電話しても事務スタッフが「問い合わせは受け付けないよう医師から言われていますので」と言って電話を切ってしまう。「私の処方に文句を付けるのか」「添付文書が全て正しいのか」と逆ギレする医師もいる。薬剤師としての仕事を全うしているだけなのに、それを全く尊重しない態度に怒りを覚える。(30代女性、薬局経営者)

Ph. 事務スタッフがカルテだけを見て回答するケースが非常に多く、真の意味での疑義照会ができない。(30代男性、管理薬剤師)

Ph. 広域病院からの処方箋で、一般的な用法とは異なる処方や「用法口授」の記載がある場合、医師に疑義照会を行っても「そのまま出してください」の一点張り。病名・症状なども教えられないと言われ、患者さんに聞いても「特に説明されていない」とのこと。面識のない医師ではあるが、薬局は薬を渡すだけの場所としか思われていないようで残念。(40代女性、管理薬剤師)

Ph. 用法など添付文書上の記載と異なっていたため念のため疑義照会すると、あっさり変更の指示が出ることがある。何らかの処方意図があったのかと思いきや、さにあらず、「あ、そうなんだ……」とちょっとがっかりする。(40代男性、管理薬剤師)

 医師患者関係や医療者間のコミュニケーションについて研究している、東京大学医学教育国際協力研究センター特任研究員で薬剤師の飯岡緒美氏は、医師と薬局薬剤師の距離を広げてしまう要因として、医師に比べて薬剤師が持つ情報量が少ないことに加え、もともと顔を合わせたことがない中で、電話という顔の見えない手段でコミュニケーションを取っていることを挙げる。確かに、患者の話は客観性や正確性に欠け、薬剤師が処方内容や薬歴から患者の疾患名や医師の処方意図を推測するとしても限界があるのは否めないだろう。

 だからこそ薬剤師側が、この“溝”を埋めるために試行錯誤していることも、今回の調査結果からうかがえた。医師とのコミュニケーションにおいて、注意していることや心掛けていることを自由回答で尋ねたところ、疑義照会の仕方や言葉遣いに気を配っているという意見が目立った。

Ph. 医師や医療機関が多忙であることを考慮して、簡潔かつ的を絞った問い合わせをするよう心掛けている。後回しで可能な場合は業務が落ち着いてから行ったり、詳細な問い合わせはファクスでやり取りしたりする。(30代男性、管理薬剤師)

Ph. 電話で問い合わせをする時は、忙しい時間を割いてもらえることに対して必ずお礼を言うようにしている。顔が見えないだけに、言葉で表現することが良い関係を保つ上で必要だと思う。「間違いじゃないですよね?」といった責める口調は使わないようにしている。(40代女性、管理薬剤師)

Ph. 質問形式で問い掛けることが基本。明らかな間違いでも気を使いながら疑義している。この気遣いや薬剤師の謙虚な姿勢が、いつしかお互いの信頼関係につながり、どんなことでも聞ける状態に変わると思う。(30代男性、薬局経営者)

Ph. 併用禁忌や注意など変更が望ましいと思われるときは、選択肢を幾つか挙げて、薬剤師としてベターと思われる提案をするように心掛けている。(40代男性、勤務薬剤師)

Ph. 疑義照会は代替案の提案とセットで。患者さんが医師に伝えられなかったことによって生じた不都合を理解してもらい、患者さんの希望が通るよう変更してもらう。(50代女性、勤務薬剤師)

薬剤師

薬局薬剤師にしかできない仕事で患者にメリットを

医師-薬剤師間のコミュニケーションに詳しい
飯岡 緒美氏
(東京大学医学教育国際協力研究センター特任研究員、薬剤師)

 今回の調査では、薬剤師からの疑義照会を医師が受けるという、一方通行のコミュニケーションの実態が浮き彫りになった。実際、疑義照会の意義や、それが薬剤師に義務付けられたものであることを知らない医師もいる。薬剤師は薬学教育の中で、ロールプレイなどを通じて疑義照会のノウハウを身に付けるが、それがかえって、医師に“杓子定規の対応”とマイナスに捉えられる一因にもなっていると考えられる。

 疑義照会は、医療におけるリスクマネジメントの一つだが、他の職業領域において、2者の間に権威勾配や主従関係があると、エラーが起きやすくなるという。

 その観点からすれば、医師と薬剤師はもう少しフラットな関係であるべきだろう。そのためにも薬剤師は、医師との情報の格差を少しでも減らせるよう、疾患や検査値などに関して、最低限の知識は身に付けておく必要がある。

 ただし、特に個人経営の薬局の薬剤師は、卒後に勉強する機会を作りにくく、モチベーションを保ちにくいのが現状だ。ジレンマを感じている薬剤師も少なくないだろう。

 今後、薬局薬剤師の存在感を医師にアピールするには、患者にメリットを実感してもらうことが欠かせない。現状では、患者は薬局を選んでいないし、「薬剤師さんにこうしてもらった」と医師に話すこともまれだ。

 待ち時間や金銭的負担など、目に見えるメリットが得られる方に患者が流れていくのは当然のこと。だが、分業率が60%を超え、薬学部に6年制が導入された今、薬局薬剤師は薬剤師にしかできない業務を見いだし、患者にメリットをもたらせるよう努力していかなければならないだろう。(談)

医師

薬剤師は“ピュアな理系”、ぶれない仕事に大いに期待

「もはやヒポクラテスではいられない 21世紀新医師宣言プロジェクト」の中心メンバー
尾藤 誠司氏
(東京医療センター[東京都目黒区]臨床研修科医長・臨床疫学研究室長、医師)

 私は、薬剤師という職種は、“理系の極み”だと思っている。医師は時として理系と文系の視点が入り混じり、ツメが甘くなったり情に流されたりすることがある。だからこそ薬剤師には、“クール・ビューティー”であってほしい。原則に基づくきちんとした仕事ぶりこそ、薬剤師のプロフェッショナリズムだから、疑義照会も自信を持ってやってほしい。

 医師はとかく「自分一人で何でもできる」という幻想を抱きがちだが、今後求められるプライマリケア医とは、一人だけが突出した能力を身に付けることではなく、日本全国どこでも同水準の医療が受けられることを目指すもの。そのような流れの中で、医師や看護師、理学療法士といった様々な医療職種は、患者さんが現在置かれている状況を、それぞれの職種が持つ固有の“物差し”で評価して共有し、連携を図ろうとしている。

 薬剤師は他の医療職種に比べ、自分の働きによって患者さんの病状が良くなったという実感を得にくいのも事実だろう。だが、薬剤師にもぜひ、治療の過程だけでなく、患者さんが置かれている状況を薬剤師自身の物差しで見る力を身に付けてもらいたい。(談)

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