Tさんの症状は、バレニクリン酒石酸塩(商品名チャンピックス)による副作用の可能性がある。Tさんには大腸ポリープ切除の手術歴があり、イレウスを発症するリスクがあるため、速やかに医療機関を受診するよう指導する。 Tさんに処方されたバレニクリン酒石酸塩 (商品名チャンピックス)は、2008年4月に薬価収載された、経口の禁煙補助薬である。同薬は、ニコチン依存症管理料の算定に伴って処方された場合、保険給付で対応できることから、使用例が増えている。
たばこを吸うと、血中にニコチンが取り込まれ、ニコチンが脳の腹側被蓋野にあるα4β2ニコチン受容体に結合する。すると、脳の側坐核から、ドパミンが大量に放出され、喫煙者は快楽を感じる(参考文献1)。喫煙を繰り返すと、血中のニコチン濃度が一定以下になったときに不快に感じるようになる(離脱症状)。こうして喫煙を繰り返してしまう状態をニコチン依存症と呼ぶ。
バレニクリンは、α4β2ニコチン受容体に結合して、同受容体を部分的に刺激し、少量のドパミンを放出させることで、禁煙に伴う離脱症状やたばこに対する切望感を軽減し、患者の禁煙を助ける。同薬の投与期間は12週間で、0.5mgの1日1回から投与を開始し、4~7日目は0.5mgを1日2回、8日目以降は1mgを1日2回投与する。
服用時には、吐き気、腹部の張り、上腹部痛、便秘などの消化器系の副作用が比較的高頻度で出現することが確認されている(参考文献2)。同薬のインタビューフォームによると、国内外の臨床試験で、0.25mg、0.5mg、1.0mgを1日2回投与された3627例のうち、28.5%に当たる1033例で嘔気を認めた。また、8.3%(302例)で、鼓腸(消化管にガスがたまったような感覚)が出現した。
嘔気などの消化器系の副作用は、過剰に服用した場合や、服用量が変化したとき、指示通りに服用できなかったときに、出現しやすい。症状は、同薬を食後に服用することで、軽減する。
さらに、同薬の消化器系の副作用については、国内で発売後にイレウス(腸閉塞)を発症した例が報告されたことから、12年3月に添付文書が改訂され、使用上の注意の「その他の副作用」の項に、イレウス(頻度不明)が追記されたことも知っておきたい。
12年11月現在、バレニクリン服用によるイレウスの発症機序は明らかになっておらず、同薬を服用後にイレウスを発症した患者に特定の傾向も確認されていない。しかし、イレウスは、消化管の手術による癒着や腸管内の異物(宿便など)などが原因で生じることがある。海外で報告された、同薬を服用後にイレウスを発症した例も、患者は同薬を服用する1年前に大腸ポリープ切除術を2回受けていた(参考文献3)。そのため、消化管の手術歴がある患者には特に注意したい。
イレウスの症状は、悪心・嘔吐、腹部膨満感、腹痛、便秘などである。Tさんは、同薬服用後に気持ちが悪く、便秘気味であること、また、昨日からおなかの辺りが重たく張ると訴えている。さらに、Tさんは、大腸ポリープの手術歴がある。そのため薬剤師は、Tさんが訴える症状がイレウスの初期症状である可能性も考慮して、すぐに医療機関を受診するよう、強く勧めるべきと考えられる。 参考文献 イラスト:加賀 たえこ お薬を服用してから気持ちが悪く、便秘気味であるのに加えて、昨日からおなかの辺りが重たく張る感じが続いているのですね。
Tさんが服用されているチャンピックスというお薬は、服用後に気持ちが悪くなったり、胃腸にガスがたまったように感じることがあります。さらに、非常に少数ですが、腸閉塞を起こした例も報告されています。
腸閉塞は、激しい腹痛や嘔吐を起こす、命に関わる病気です。大腸の手術歴がある方や、便秘気味の方で起こりやすいといわれています。
Tさんは、以前、大腸ポリープの手術を受けていらっしゃいますし、便秘気味だと話されていましたよね。腸閉塞を起こしかけている恐れがありますので、念のために、すぐに医療機関を受診してください。
出題と解答 : 大澄 朋香
(千葉県薬剤師会薬事情報センター)
1) 日本医事新報 2011;4524:40-1.
2) 日本医事新報 2012;4593:54-5.
3) Curr Drug Saf. 2011;6(1):59-60.
こんな服薬指導を
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