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副作用症状のメカニズム
腰痛
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 56歳女性。2年前に乳癌の手術を受けた。エストロゲン受容体陽性(ER+)だったため、術後にアナストロゾール(商品名アリミデックス他)が処方され、現在も継続して服用している。来局して待合の椅子に座るときに、ぎこちない様子だったので薬剤師が尋ねたところ、「けさから、座るときに腰が痛むようになった」とのことだった。

腰痛が生じるメカニズム

 2010年の国民生活基礎調査によると、健康状態について国民が最も自覚する症状は腰痛であった。痛みの定義は既に本連載で解説したが、腰痛発生の観点から復習してみよう。

 痛みを感じる痛覚神経は、神経終末そのものが受容体の役割を担っている(参考文献1)。これを「侵害受容器」と呼ぶ。機械的刺激、熱刺激、冷刺激、化学刺激、炎症刺激などを受けるイオンチャネルや受容体があり、あらゆる危険から身を守るアラームとなっている。

 重い荷物を持ったり、姿勢が悪いと腰痛が生じる。これは「生理的な痛み」である。関節やその周囲の筋肉の強い伸展や捻転などの機械的なストレスによって、細胞膜にあるカルシウム(Ca)やナトリウム(Na)チャネルが開き、CaやNaが細胞内に流入することで活動電位を生じ、体性感覚神経の有髄神経や無髄神経によって痛みが伝わる(参考文献2)。

 椎間板ヘルニアや骨粗鬆症による椎体骨折などでも、このメカニズムによって急性腰痛を生じる。また、熱いものや冷たい氷に触ったときは痛みを感じるが、これも侵害受容器の熱受容体に刺激が伝わることによって生理的な痛みが生じることによる。

 機械的刺激や熱・冷刺激などが、強かったり長く続くと組織に炎症が起こり、痛みが生じる。これを「炎症性の痛み」と呼ぶ。組織が損傷したり破壊されると、ブラジキニン(BK)やアデノシン三リン酸(ATP)、水素イオン(H:プロトン)などの発痛物質が産生される。次いで、侵害受容器の閾値を下げるプロスタグランジン(PG)、ヒスタミン(HIS)、セロトニン(5HT)、ノルアドレナリン(NA)などや炎症性サイトカインが放出される。

 サイトカインや神経終末から分泌されるサブスタンスPなどは、血管拡張作用や血管透過性亢進作用を持ち、発赤、局所発熱、腫脹などの炎症症状を起こす。肥満細胞からはHISが分泌され血小板が活性化し、5HTが分泌され白血球が遊走して炎症が起こる。

 激しい炎症や虚血が起こると、H+が産生され細胞外液のpHが低下する。この刺激は、侵害受容器の酸感受性イオンチャネルを刺激し、痛みを伝える。放出されたサイトカインは、侵害受容器の炎症刺激受容体を刺激し、自発痛が発生する。

 炎症が腰椎や脊椎で起こると、急性の強い痛みが起こる。損傷はもちろん、脊椎炎などの感染性疾患、脊椎腫瘍などの腫瘍性病変などでも腰痛が起こる。

 解離性大動脈瘤や腹部大動脈瘤破裂などでも、腰痛が起こることが知られている。急な激痛があり胸痛を併発する場合は、命に関わる重篤なケースもあり、救急車を呼ぶ必要がある(参考文献3)。

 また、尿路結石(腎結石、尿管結石)で激烈な腰背部痛が起こる(参考文献2、3)。これは、尿管に結石が詰まり、尿の通過障害によって腎臓内圧が高くなり、皮膜が伸びて痛みが起こるためである。腎障害でも同様の機序で腰痛が起こる。

 消化器疾患では胃・十二指腸潰瘍や膵炎などで腰痛が起こるが、多くの場合は腹痛や嘔気、嘔吐などの消化器症状を伴う。婦人科疾患では、月経時に腰痛が起こる子宮内膜症をはじめ、子宮癌、卵巣癌などで腰痛が起こる。造血器疾患では、骨髄腫や白血病、悪性リンパ腫で腰椎の病変が起こり、腰痛が起こることがある。

 骨粗鬆症や骨軟化症による脊椎骨折によって起こる腰痛も多い。これらの疾患があると、転倒などのきっかけがなくても、日常生活の動作によって骨折することがある。その場合、骨折が見逃されることもある(参考文献4)。起き上がるのに時間がかかる場合などは、要注意である。

 そのほか、腰髄の神経節に潜伏感染している水痘帯状疱疹ウイルスが、加齢や免疫の低下によって活性化され、腰痛を起こすことがある。

 侵害受容器を介さず、末梢神経や伝導路ニューロンが興奮することで生じる痛み(神経因性痛)もある。神経の損傷や神経根の周囲の炎症で起こる。しびれなどの感覚障害が併発する。

 また、解剖学的に説明のつかない痛み(心因性痛)は、その発生に生物学的、心理的、社会的、行動上などの要因が複雑に関与している(参考文献5)。痛みが続くと、通常の閾値以下の刺激で痛みを感じる過敏化が起こり、悪循環が生じて慢性的な腰痛となる。

副作用で腰痛が起こるメカニズム

 上記のような疾患が服薬によって発症する場合は、腰痛以外の主要な症状が随伴することが多い。また、例えば倦怠感と腰背部痛から始まることが多い抗癌剤による二次性の白血病など、副作用をイメージさせない腰痛も多いので注意したい。

 薬剤性の腎障害では、初期に腰背部痛が起こることが多い。分子標的薬や抗サイトカイン製剤の投与で、脊髄炎などの感染症が起こることがあるが、その初期症状としての腰痛も最近報告されるようになった。

 不妊治療のゴナドトロピン療法で卵巣過剰刺激症候群による卵巣腫大が起こった場合も、腰痛や腹痛から始まることが多い。消化器障害の場合は、腹痛や消化器症状を併発する。

 副作用による腰痛として多いのは、骨代謝障害による骨粗鬆症や骨軟化症が起こっているケースである。骨は、常に古い骨が吸収され新しい骨が作られている。その主役は、骨芽細胞と破骨細胞で、骨芽細胞は膠原線維を作り出し、アルカリ性ホスファターゼを分泌し、Caやリン(P)を膠原線維に沈着させる。これがヒドロキシアパタイトの結晶となり、骨が新生される。一方、破骨細胞は酸性ホスファターゼを分泌して、ヒドロキシアパタイトを融解し、骨を吸収する。

 運動とCa、P、ビタミンDの摂取量が十分であれば、骨は太く丈夫になる。高齢になると、骨吸収が骨新生を上回り膠原線維が減って、骨は弾力を失い骨折しやすくなる。

 体内のCaの99%とPの80%は骨に、Pの15%は筋肉に蓄えられている。CaとPの血中濃度の積(Ca×P)は、副甲状腺ホルモンのパラソルモン(PTH)とカルシトニン(CT)、ビタミンDによって一定になるように調整されている。

 PTHは、血中のCaを増加させる方向に働く。つまり破骨細胞の分化と活性化を促し、骨からはCaの遊離を、腎臓では尿細管からのCaの再吸収を促進して血中濃度を高め、リン酸の排泄を促す。

 甲状腺から分泌されるホルモンであるCTは、破骨細胞の分化と活性を抑制し、骨新生を促進させ、骨からのCaの遊離を抑制する。ビタミンDは、肝臓で酸化を受け、腎臓で活性型ビタミンDに変わり、血中に放出され、腸管からのCaやPの吸収を促す。そして、骨芽細胞を活性化させ、骨にCaが沈着するのを助ける。一方、Caの血中濃度が低いときは、破骨細胞を活性化させて血中Ca濃度が上がるように働く。

 加齢とともにこれらのバランスが崩れ、腎機能が落ちてCaの吸収が悪くなり排泄量が増え、血中のCa濃度が減少する。それを補うためにPTHの分泌が増え、CTの分泌が抑制される。その結果、骨の融解が進み骨粗鬆症となる。

 エストロゲンは破骨細胞の働きを抑制し、骨吸収を抑える。従って、閉経によりエストロゲンが急に減少すると、破骨細胞が活性化して閉経後骨粗鬆症となる。

 副腎皮質ステロイドが骨粗鬆症を起こす機序は、(1)腸管からのCaの吸収を阻害する、(2)腎尿細管からのCaの再吸収を阻害し、低Ca血症を来す、(3)低Ca血症を防ぐために副甲状腺機能が亢進し、PTHの分泌が増える、(4)性腺や脳下垂体に影響し、エストロゲンやテストステロンが減少する、(5)骨髄にある多分化幹細胞に影響し、幹細胞から骨芽細胞への分化を抑制する(参考文献6)、(6)骨芽細胞や骨細胞のアポトーシスを誘導し、その寿命を短縮させる(参考文献7)─などが考えられている。

 ステロイド性の骨粗鬆症では、椎体骨折が多い。ステロイドの服用が1日20mgを超えると急激に骨折リスクが増大する。ただし、1日2.5mg未満でも椎体骨折は起こり得る(参考文献6)。骨折リスクは、2.5mg/日以上を3~6カ月投与したときに最大となる(参考文献8)。吸入ステロイドも例外ではなく、高齢、閉経後、高用量吸入の場合はリスクが高くなる(参考文献9)。

 抗精神病薬は、ドパミンD2受容体を遮断し、高プロラクチン血症を呈することにより、骨粗鬆症を誘発する。また、リュープロレリン(リュープリン)などゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)やアロマターゼ阻害薬は、前述の機序の(4)で、性腺や脳下垂体に影響し、エストロゲンやテストステロンが減少することによって骨粗鬆症が起こる。

図 副作用で腰痛が起こるメカニズム

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 また、プロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬は、胃内pHを上昇させ、腸管からのCaの吸収を阻害し、骨粗鬆症を誘発する(参考文献10)。ピオグリタゾン塩酸塩(アクトス他)、レボチロキシンナトリウム(チラーヂンS)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、ヘパリン、フロセミド(ラシックス他)も骨粗鬆症の原因となる(参考文献11、12、13)。

 ビタミンAは、1.5mg/日、具体的には週1回以上のレバーの摂取で、骨密度が10~14%減少する(参考文献13、14)。喫煙は、(1)の腸管からのCa吸収を阻害する作用、(2)の腎尿細管からのCaの再吸収を阻害し、低Ca血症を来す作用、(4)の性腺や脳下垂体に影響し、エストロゲンやテストステロンを減少させる作用があり、喫煙者は非喫煙者に比べて骨折のリスクが1.26倍に増加する(参考文献15)。多量のアルコールも(1)と(2)の機序で、アルコールの摂取量に比例して骨粗鬆症リスクを増加させる(参考文献16)。

 抗痙攣薬は、ビタミンDの代謝障害による低Ca血症を起こし、PTHが分泌され((3)の機序)、骨粗鬆症が起こる。バルプロ酸ナトリウム(デパケン他)による骨粗鬆症は、(1)や(4)の機序およびビタミンK代謝への影響なども考えられている(参考文献16)。

 腎不全などによって体内にPが蓄積すると、PTHが分泌され骨粗鬆症が誘発される。またPTHは、腎臓からのPの排泄を促進するため、低P血症となる。低P血症では、骨の石灰化が妨げられ骨軟化症となる。骨軟化症は、ビタミンDの長期にわたる欠乏によっても起こる。

 抗ウイルス薬のアデホビルピボキシル(ヘプセラ)やテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(ビリアード)、バルプロ酸、またイホスファミド(イホマイド)などの抗癌剤で、ファンコニ症候群と呼ばれる近位尿細管障害が起こることが知られている。ファンコニ症候群は、糖尿、リン酸尿、アミノ酸尿、低尿酸血症、尿細管性アシドーシスを起こし、腎不全や骨軟化症を引き起こす。

* * *

 最初の症例を考えてみよう。患者はアナストロゾールを服用して2年になる。薬剤師は、アロマターゼ阻害薬による骨粗鬆症で腰椎骨折の可能性があると考え、受診を勧めた。患者が整形外科を受診したところ、圧迫骨折と骨密度の減少が見つかったという。

参考文献
1)井上泰、ナースビーンズ 2006;8:932-7.
2)山下敏彦、Modern Physician 2006;26:222-8.
3)茶谷賢一ら、産婦人科治療 2006;92:115-21.
4)田中靖久、Geriatric Medicine 2007;45:1007-10.
5)松平浩、Practice of Pain Management 2011;2:106-11.
6)田中郁子、骨粗鬆症治療 2012;11:120-5.
7)田中郁子ら、Osteoporosis. 2003;6:11-4.
8)Van Stta TP et al., Osteoporos Int. 2002;13:777-87.
9)田中良哉ら 『ステロイド骨粗鬆症のマネジメント』(医薬ジャーナル社、2005)
10)Hamed Khalili et al., BMJ. 2012;344:e372 doi:10.1136/bmj.e372.
11)Kahn SE et al., Diabetes Care. 2008;31:845-51.
12)Turner MR et al., BMJ. 2011;342:d2238.
13)Tisdale E et al., 『Drug-Induced Diseases』(American society of health-system pharmasists、2011)
14)内閣府、『食品安全委員会ファクトシート』 www.fsc.go.jp/sonota/factsheet-vitamin-a.pdf
15)Kanis JA et al., Osteoporos Int. 2005;16:155-62.
16)河崎祐貴子ら、骨粗鬆症治療 2012;11:145-7.

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