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Interview
診療所の評判は薬局薬剤師の力で何倍にもなります
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

家庭医として地域医療に取り組むためには、個々の患者の考え方や生活環境に合わせたオーダーメード医療の視点が欠かせない。その実践に当たっては、薬局薬剤師との上手な連携がカギになるという。日本における家庭医療の普及と、それを担う医師の養成に力を注ぐ医療法人北海道家庭医療学センター(札幌市東区)理事長の草場鉄周氏に話を聞いた。  (聞き手は本誌前編集長、高志 昌宏)

1999年京都大学医学部卒業。日鋼記念病院で初期研修後、北海道家庭医療学センターで家庭医療学専門医コース修了。2006年に現在の本輪西ファミリークリニック(北海道室蘭市)院長、08年から同センター理事長。日本プライマリ・ケア連合学会副理事長。

─先生にとって、薬剤師はどのような存在ですか。

草場 日鋼記念病院(北海道室蘭市)で研修医として病棟を中心に仕事をしていた頃と、初期研修を終えて地域の診療所にも出るようになってからで、薬剤師の印象は大きく異なります。病院にいた時は薬局薬剤師とは接点がなく、病院薬剤師も今のように病棟に上がって来ることはなかったので、日常診療で薬剤師を意識することはほとんどありませんでした。

 ところが家庭医として診療所で働き始めると、状況は一変しました。私が医師になった時は既に医薬分業が国の方針として進められており、診療所も院外処方になっていましたが、多くの患者は、診療所とその近隣の薬局とを明確に区別していなかったからです。患者にとって「医者にかかる」ということは、医師に診察してもらい薬が出ることまでを指すわけなので、考えてみれば当然でしょう。

 そのため、薬の数が足りないといった調剤のちょっとしたミスや、服薬についての説明不足があると、薬局だけでなく診療所にもクレームが来ました。一方で、薬局のおかげで診療所の評判が上がったこともあります。最初に勤務した診療所は坂の上にあり、冬の朝は道が凍結して滑りやすく危なかったのですが、そんなときに近くの薬局の人が診療所まで薬を持ってきてくれたりすると、患者はとても喜び、「良いお医者さん」ということになりました。

 近隣薬局の薬剤師の手際の良さや患者への対応が、診療所の評判に直結していたわけです。診療所に勤務するようになってからは、薬局や薬剤師に対する関心が高まり、大切な存在であると認識するようになりました。

─家庭医療において、薬剤師にはどのような役割が期待されていますか。

草場 私たちは今、日本に家庭医療を根付かせようとしています。家庭医療を実践する上で大切なことは、患者一人ひとりの考え方や生活環境に合わせた、オーダーメードの医療を提供することです。オーダーメード医療というと、遺伝子型を調べて、薬の反応性の違いによって投与量を変えるといった話になりがちですが、それが全てではありません。個々の患者の状況に合わせた治療を行うこともオーダーメード医療であり、それを実践することが、家庭医の持ち味といえます。その家庭医が医療を提供する場は外来と在宅が主になりますが、そのどちらも、薬剤師の関わりがとても重要になってきます。

 詳しく説明しましょう。最近は、例えば関節リウマチに対するメトトレキサートとか、骨粗鬆症に対する4週1回投与型のビスホスホネート製剤など、通常の「1日何回服用」とは異なる用法の内服薬が増えています。一方で患者はますます高齢化しており、加齢に伴う理解度の低下だけでなく、認知症の合併率も増加します。投与法の複雑さは、このような患者の服薬コンプライアンスを、意外に強く低下させてしまうのです。

 これにはきめ細かな服薬指導で対応するしかないのですが、限られた時間の中で、医師は患者から症状を聞き、身体所見を取りながら診断を考え、同時に治療をどう組み立てていくかに集中しなければなりません。看護師は患者の生活面から、診断や治療のサポートに当たります。となると、細かな服薬指導は、やはり薬剤師にお願いするしかありません。

 さらに、薬の選択に関しても、薬剤師の知識が必要です。「この薬なら、1日1回投与で済む剤形が発売された」とか「この2つの薬剤の併用は相互作用が報告されているので、一方を同系薬のこちらの薬にした方が安全」といった提案は、医師にとってはとてもありがたいのです。

 あるとき、上腕にやや運動制限がある独居の高齢者から、「先生、分かるかい。この湿布薬だと一人では貼れないんだよ」と言われたことがありました。よく話を聞くと、フィルムを剥がして背中に貼ろうとすると、基布が柔らかすぎるためかよれてしまい、きれいに貼れないのだそうです。

 このクレームに対し、「基布がしっかりしているこちらの製品なら、患者に多少の運動制限があっても自分で背中にきれいに貼れますよ」と提案してくれるような薬局が近くにあれば、間違いなく診療所の評判は2倍にも3倍にもなるでしょう。「薬剤師のくせに、私の処方に文句あるか」と言うような医師は、今やほとんどいないはずです。

─在宅医療では、薬剤師の関わる場面がありますか。

草場 もちろんです。患者が自宅でどのような生活をしているかが分かることが、在宅の大きなメリットです。例えば、処方した薬に「めまい」の副作用があったとします。患者の自宅が整理整頓されていなかったり、旧家で段差が多く手すりもないといったことが分かれば、服薬指導の際にもめまいの説明におのずと力が入るはずです。

 「1度でもふらつきが起こったら、医師にでも薬剤師にでもすぐに知らせて」と患者に念を押すことができるし、医師に「めまいを起こす薬剤の処方は要注意」という情報を上げてもらうこともできる。在宅療養を行っている患者は、それだけ症状が重く固定化しているので、薬の利益や不利益も出やすいと考えられます。それをきちんと評価できる薬剤師の訪問は、意義があるわけです。

 自宅に行ってみたら残薬が多く、それをきっかけに、薬を飲みたくない理由を話してくれたというケースも意外にあります。医師より薬剤師に対しての方が、患者も本音を話しやすいようです。

─薬剤師が医師と対等な関係をつくるのは難しいのではないでしょうか。

草場 チーム医療は、医師が頂点にいて、その下に多くのコメディカルがいるというピラミッド構造ではありません。むしろオーケストラと考えてください。医師は指揮者となって患者への医療の提供をコーディネートする立場にあり、薬剤師をはじめ全ての専門職がその職能を発揮しないと、良いハーモニーを奏でることはできません。

 このような関係にあることを、医師はもっと自覚しなければならないし、薬剤師に対しても積極的に意見を求めることで、その力を発揮してもらうような関わり方をすべきなのでしょう。日本プライマリ・ケア連合学会でも、専門医取得のための研修では、多職種連携という視点を重視しています。それぞれの専門職が縄張り争いをするのではなくて、今ある隙間を埋め合うことで、必要十分な医療を提供できるようになればいいはずです。

 今、日本の医療は大きな転換期にあります。厳しい財政状況を踏まえつつ、患者中心の医療や介護をどう構築するか、皆で考えていく必要があります。そのとき感じるのは、介護やリハビリなど職能が確立した時期が新しい分野の人の方が、患者の視点に立った考え方に慣れているということです。

 これに対して一番保守的なのが、最も古くから医療提供職種として確立していた医師や薬剤師なのかもしれません。われわれは医師の意識を変えようとしています。薬剤師の方も参加してほしいし、同時に意識変革が必要であることに気づいてほしいですね。

インタビューを終えて

 「近隣の薬局薬剤師の手際の良さや服薬指導の丁寧さが、診療所の評判に直結している」との指摘には、なるほどと思いました。確かに患者にとっては、病医院と薬局とを意識的に区別する必然性は低そうです。であるならば、医師・薬剤師どちらにとっても、自施設の患者満足度を知るためには、お互いが上手に情報交換すればよいことになります。薬剤師にとっては文字通り「敷居が高い」のですが、これを口実に医療機関とのコミュニケーションの場を設けることはできないか、と考えました。(高志)

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