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薬理のコトバ
アレルギー
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

講師:枝川 義邦
1969年東京都生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。博士(薬学)、薬剤師。07年に早稲田大学ビジネススクール修了。経営学修士(MBA)。名古屋大学、日本大学、早稲田大学を経て、12年4月より帝京平成大学薬学部教授。専門はミクロ薬理学で、記憶や学習などに関わる神経ネットワーク活動の解明を目指す研究者。著書に『身近なクスリの効くしくみ』(技術評論社、2010)など。愛称はエディ。

 新年を迎え、新しい気持ちで一年を始められた方も多いと思う。気持ちだけでなく身体も新しく、なんていう希望はかなわないので、まずは今の身体を大切に使っていくことを年頭の誓いとしてみた。身体のチューンナップには様々な側面からのアプローチが可能だが、一つのキーワードは「免疫」。この世界で生きていくために、なくてはならない身体のしくみだ。

 免疫機構は、私たちの身の回りにある異物から身を守るために日夜、監視の目を光らせ、不穏分子を排除してくれている。しかし、そんな大事な機構ゆえ、ひとたび行き過ぎた警備に走ると不具合につながる。最たる例は「アレルギー」。今回は、新年のウオーミングアップも兼ねて、アレルギーとは何かをまとめておこう。

「モノと時間」で5種類に分類

 もはや古典的ともいえるアレルギー反応の「クームスとゲルの分類」では、反応に関与する細胞や物質、つまりモノと、抗原曝露からの反応時間(潜時)の違いが分類の大きな柱となる。この「モノと時間」が異なることで病態も異なってくるため、同分類はそのまま病態の分類にもなっている。

 まずはI型。これが狭義のアレルギー反応とされる。抗原に触れてから30分くらいで症状が出る即時型の反応で、ヒスタミンやロイコトリエンなどのケミカルメディエーターが情報を媒介する。飛び出す抗体は免疫グロブリン(Ig)E。花粉症などのアレルギー性鼻炎や蕁麻疹などの皮膚掻痒、アナフィラキシーショック、そして気管支喘息もI型に属する。

 症状が強く出る時間帯も分かっていて、23時くらいからの真夜中にヒスタミンへの感受性が上がる。このことが、夜中になると身体が痒くなる一因とされている。例外が喘息発作で、これは明け方近くに多い。気道が狭くなる時間帯に、発作が好発するのだ。

 次にII型。細胞の表面に抗原が提示され、それに対する抗体(II・III型はIgGとIgM)が反応し、さらに補体系が活性化されることで細胞が融解する反応をいう。この反応により赤血球が融解して発症するのが再生不良性貧血だ。肺胞や糸球体基底膜の融解は、まれな疾患であるグッドパスチャー症候群で、肺出血や糸球体腎炎を引き起こす。

 III型はアルサス型とも呼ばれ、免疫反応で生じる「免疫複合体」による局所的なアレルギー反応を指す。抗原や抗体などが互いに結合して形成される免疫複合体は、通常は速やかにマクロファージなどの貪食細胞により処理される。しかし、これが過量になると、貪食細胞が処理しきれずに食べ残しを出してしまい、組織に沈着。その部位で補体系が活性化して、白血球からヒスタミンや蛋白質分解酵素が放出され、アレルギー反応や組織傷害が引き起こされる。関節リウマチや全身性エリテマトーデスといった疾患は、このタイプのアレルギー反応が原因だ。

 そしてIV型は、T細胞がからんだ細胞性免疫によるアレルギー反応。I~III型(B細胞が関与する液性免疫)とは異なり、症状が出るまでに1~2日かかるため遅延型とも呼ばれる。これにはツベルクリン反応やアレルギー性接触皮膚炎、過敏性肺炎などがある。

 近年では、これらの分類にV型を加えた「ロイトの分類」が使われるようになった。V型はII型からのスピンオフで、抗原を提示した細胞に抗体が結合するところまでは同じだが、細胞の融解ではなく細胞機能の亢進が起こる。メカニズムのおおよそは同じでも、結果が真逆となるわけだ。V型で生じる代表的な疾患には、甲状腺が腫大しその機能が亢進するバセドウ病がある。

治療薬使い分けの基本戦略は

 この“行き過ぎた免疫反応”を抑制・制御するために使用される薬剤についても、ざっとおさらいしておこう。

 I型アレルギーを例に取ると、発症のスキームは免疫反応に続くような流れで描かれる。まずは抗原への曝露により、抗原特異的な抗体がB細胞で産生され、火山の噴火のごとく放出される。ここまでは通常の免疫反応だ。

 この抗体が肥満細胞表面の受容体に結合することで、肥満細胞が感作される。そして、抗原に再び曝露された際、肥満細胞上の抗体に抗原が結合すると、ヒスタミンやロイコトリエンといったケミカルメディエーターが怒濤のように放出され、血管透過性や粘液分泌の亢進、平滑筋の収縮といったアレルギー反応が生じることになるのだ。

 治療薬は、このアレルギー反応を下流から上流へと逆流する順序で選択していく。第一選択薬は、怒れる女神のごとき肥満細胞が吐き出すケミカルメディエーターを水際で遮断する、抗ヒスタミン薬などの受容体ブロッカー。アレルギー情報を標的組織に入れないようにする薬なので、症状の抑制には有用だが、あくまで対症療法にすぎず、根本的な解決にはならない。

 流れを少し遡ったところで作用するのが、ケミカルメディエーター遊離抑制薬。肥満細胞に働きかけてケミカルメディエーターの放出をやめさせる、つまりアレルギー情報を出させなくする薬だ。免疫反応自体には影響を与えずに、“行き過ぎた部分だけをなかったことに”してくれる薬だが、しっかりとした効果が発揮されるまでに4~8週間ほどかかるのが難点だ。

 ステロイドや免疫抑制剤は、さらに上流で、免疫反応の源泉ともいえる抗体産生を阻害することで“全てをなかったことに”してくれる。アレルギー症状は治まるが、多様な副作用をももたらすことは周知の通り。使用はできるだけ短期間にとどめることが望ましい。

 免疫機構の行き過ぎの程度に合わせて、3つの薬を使い分けるのはなかなかの技。身体のチューンナップにも、こうした技を使いこなせるようになりたいものだ。

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