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薬歴添削教室
心筋梗塞二次予防のための療養指導
日経DI2013年1月号

2013/01/10

日経ドラッグインフォメーション 2013年1月号 No.183

 今回は、チューリップ入善薬局に来局した62歳男性、大和宏隆さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。大和さんは、心筋梗塞を発症して病院に入院し、退院後に初めてチューリップ入善薬局に来局しました。初回アンケートの記録によると、以前から少なくとも高血圧と診断されていたようです。

 今回の発作では幸い事なきを得ましたが、心筋梗塞が再発すると、命を落とすことにもなりかねません。大和さんが再び心筋梗塞を起こさないよう、二次予防が重要になってきます。薬剤師としてどのような療養指導を展開できるかに着目して、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴を担当したのが薬剤師A~C、症例検討会での発言者が薬剤師D~Iです。(収録は2012年8月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
チューリップ入善薬局(富山県入善町)

 チューリップ入善薬局は、富山県内を中心に、新潟県や石川県でも薬局を展開するチューリップ調剤株式会社が、2006年4月に開局した。応需している処方箋は月1600枚程度。近隣にある内科診療所からの処方箋がほとんどを占める。

 同薬局には、20代と30代が1人ずつ、計2人の薬剤師が常勤している。

 薬歴は電子薬歴を導入し、SOAP形式で記載している。薬歴の記載に当たっては、過去からの経過を分かりやすくするため、表書きの患者サマリー部分を常に更新することや、申し送り欄を設けて患者の状態を詳細に把握できるようにすることを心掛けている。高齢の患者が多いことから、常に残薬を意識し、アドヒアランスが良好となるよう、患者に適した服用形態の提案を積極的に行っている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 表書きの内容から見ていきましょう。患者さんは62歳の男性です。アレルギー歴、副作用歴、現在の病名など、基本的な情報がよく書かれていると思います(薬歴(1))。表書きに書かれている日付は、確認した最新の日付と考えてよろしいですか。

A はい、そうです。内容を更新すれれば上書きされます。

早川 分かりました。患者さんは、初回アンケートに必ずしも全部答えてくれるとは限りませんが、きちんと把握できていますね。特に、飲酒の有無などは、今後の服薬を考えていく上で重要な情報になる可能性があります。担当したのはBさんですか。

B はい。患者さんに初回アンケートに記入していただき、投薬上、気になったところがあれば確認しています。

早川 この患者さんについて、初回の時点で気になったことはありましたか。

B 職業は書いてもらえなかったのですが、夜勤があるということは、初回アンケートに書いてありました。勤務先は保険証から推定できました。交代制の勤務なのかなと思いました。

早川 車の運転や飲酒についてはどうでしたか。

B アンケートに書いてくれました。具体的な量をお聞きしたところ、毎日ビール1本くらい飲んでいるということでした。

早川 この患者さんは、初回アンケートに比較的よく答えてくれていますね。

B 選択肢の中から選ぶ形式にしてあるので、皆さん比較的よく書いてくれます。初回アンケートに記入がなくても、薬剤師が必要だと思ったことは、改めて聞くようにしています。

早川 そのような姿勢で仕事をするのは素晴らしいですね。

これまでの治療経過を推測する

早川 初回、2011年8月11日の薬歴を見ていきましょう。S情報に「心筋梗塞になり入院していた」とあります。これは非常に重要な情報です(薬歴(2))。薬は院内で処方してもらっていたとのことです。皆さんはこの段階で、患者さんにどんなことを確認したいですか。

D 入院中の治療について。

E 退院時の生活指導について。

F いつごろから高血圧と指摘されていたのか。

早川 大事なポイントが出ました。他にありますか。

G 処方された薬からは、この患者さんはステントを留置されたという印象を受けるのですが、いつごろなのか。

H タケプロン(一般名ランソプラゾール)が出ているので、消化性潰瘍の既往があるのか。また、糖尿病も心筋梗塞の危険因子となるので、血糖コントロールの状況についても知りたい。

早川 この患者さんは糖尿病もあるのですか。

B 糖尿病はないです。

I どのような理由で薬が一包化されたのか。この患者さんは夜勤があるとのことですが、もし食事を取る時間が不規則なら、一包化するとかえって飲みにくいんじゃないかと思うので。

早川 色々出てきましたね。色々出るということが大事です。

 では、皆さんから出た疑問を深めていきましょう。心筋梗塞で入院していたということなので、まずは、入院中にどのような治療が行われていたのかを押さえておきたいですよね。ステントが入っているかもしれないという発言もありました。入院中の治療について、皆さん自身、ある程度推測していると思うのですが。

G 先ほども発言しましたが、処方された薬から考えて、ステント留置目的で入院していたのでは。

早川 薬から考えて、というのはどういう意味ですか。

G バイアスピリンとプラビックス(クロピドグレル硫酸塩)が併用されています。

早川 そうですね。「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン」でも、冠動脈ステントを留置された場合は、低用量アスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の併用が推奨されています。

 入院に至った状況はどうでしょうか。急に心筋梗塞の発作を起こして病院に担ぎ込まれたのか、それともいわゆる待機的な経皮的冠動脈インターベンション(PCI)なのか。

H 患者さん自身が「心筋梗塞になり入院していた」と話しているので、イベントがあったのでは。

早川 その点について、患者さんにどのように聞けば鑑別ができますか。

A 「どのような状況で入院されましたか」と聞く。

早川 では、ステントが留置されたかどうかは、どのように確認しますか。

B 「血管の中に管を入れましたか」でしょうか……。

早川 いいかもしれませんね。実際はどうだったのか、この場で確認することはできませんが、今のような思考回路で考えていくと、必要な情報を患者さんから聞き取った上で、病態、重症度、治療経過、そして、処方された薬が適切かどうかの評価ができると思います。

 先ほど、「いつから高血圧と指摘されていたのかを知りたい」という発言がありました。心筋梗塞でこの病院に入院する前に、患者さんが受診していたのはどこでしょうか。

F 病院とは別のところで治療を受けていた可能性もあると思います。

A 保険証から、この患者さんはX社の工場勤務であることが分かります。社内の診療所で薬をもらっていた可能性があります。

早川 社内の診療所で血圧の管理をしていたということが分かれば、いつから高血圧なのかということも分かるかもしれませんね。

 あと1つ、確認したいのですが、この患者さんの体形はどうですか。

B 普通です。肥満ではないです。

早川 分かりました。このような経過の患者さんの場合、体重も把握しておきたいですね。

患者の病識を探るタイミング

早川 9月8日の薬歴を見ましょう。初来局から約1カ月後です。S情報に「あんまり良くなっている気がしない」とあります。どのような状況で、この言葉が出てきたのでしょうか、(薬歴(3))。

C お薬を渡す時に「調子はいかがですか」と聞いてみたところ、自分から話してくださいました。

早川 Cさんとしては、抗血小板薬を2剤併用しているので、出血傾向に着目して質問したのですね。

C はい、そうです。ただ、具体的にどのように調子が悪いのかというところまでは、話していただけませんでした。

早川 自らこのように話しているわけですから、ここは、患者が自分の病気についてどう考えているのか、質問するチャンスですね。皆さんなら、どのように聞きますか。

E 病院で受けた検査について聞く。答えてくれたら、ある程度、自分の病気について認識を持っているのかな、と。

F 「自分の病気について、医師からどのような説明を受けていますか」という聞き方もあると思います。

B 食事や運動について、自分で取り組んでいることがあるのか。

G お酒を毎日ビール1本くらい飲んでいるとのことですが、セーブしてこの量なのか、それとも好きなだけ飲んでいるのか。

早川 そういう切り口からアセスメントするというのはいいですね。

F グッドミン(ブロチゾラム)が出ていますが、夜勤のある人は、夜勤明けの時だけ睡眠薬を飲んでいる場合が多いです。どのようなタイミングで薬を飲んでいるかを聞くと、患者さんの生活パターンがつかめるかもしれません。

早川 なるほど。皆さんは、グッドミンの処方意図をどのように推測しますか。Fさんは、患者は交代勤務で、時間帯によってはよく眠れないことがあるかもしれないので、そのために出ているのではないかという見方です。

H 入院中のストレスで不眠となり、退院後もしばらく飲んでいたのでは。この後は処方されていませんから。

A 他の薬が35日分なのに、グッドミンは30日分なので、今までもらっていた薬が残っているのかもしれません。常用している印象はありません。

E 自分の病状や体調に対する不安が、多少はあるのではないでしょうか。

早川 心筋梗塞には、不安症や不眠症が併発しやすいといわれています。夜中にいきなり胸痛発作が起こるというのは恐ろしいことですので、再発したらどうしよう、という不安が生じるのも無理はありません。この辺りについても、患者に聞き取って、アセスメントしていきたいですね。

 続いて、10月13日に進みましょう。処方が変更されています。グッドミンは出ておらず、ルプラック(トラセミド)、ラシックス(フロセミド)、ニトロペン(ニトログリセリン)が追加されています(薬歴(4))。担当薬剤師もこの点に着目して聞き取りをしていますね。

A はい。S情報に書いてあることは、僕が聞き出したというより、ほとんど自分から話してくれました。

早川 これまでの薬剤師の対応が良かったので、患者さんが話したい気持ちになっているのかもしれませんよね。

ここで新たに、「心不全」であることが分かりました。皆さんならこのタイミングで、どんなことを聞きたいですか。

I 体重。

早川 そうですね。聞き取る理由があります。他にはいかがですか。

E 水分や食塩の制限について。

D 心不全になったタイミング。

早川 まずは「発症時期」が重要ですね。それと「重症度」。重症度によって、予後が大きく違ってきます。患者さんにきちんとした病識を持ってもらい、治療の意義を理解してもらう良いタイミングです。この患者さんは既に、心筋梗塞を1回起こしているんです。そして今、何のために治療をしているかというと。

F 心血管イベントの再発抑制。

早川 そうです。心血管イベントを抑制すること、そして、それによる死亡を防ぐこと、それが治療の目標です。この点は明確にしておく必要があります。

尿酸値が上昇した理由は?

早川 続いて、11月10日、12月8日は、処方に変更はありません。患者さんからは「むくみもなくなってきた」というS情報が得られています(薬歴(5))。12月8日には心電図や採血の検査を受けており、問題はなかったということですが、具体的な結果については聞き取りましたか。

A 問題なかったというだけで、さらに突っ込んでは聞けませんでした。

H 利尿薬が出ているので、低カリウム血症や、そこから来る不整脈が心配です。心電図と採血で問題ないということが確認できたのは非常に良かったと思います。

早川 そうですね。

H 課題としては、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)のブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)と利尿薬が併用されていることから、急激な血圧低下が起こる可能性があるので、血圧値を毎回チェックした方がよいかなと思いました。

早川 現在の治療により重篤な副作用が起こらないかどうかを、しっかり確認していきたいということですね。

 では、2012年1月19日にいきましょう。アロプリノールが追加されました。「人間ドックで尿酸値を指摘されたため、薬が追加になった」とのS情報が得られています。さらに、「おそらくは利尿薬の影響だろう」との医師の見方も聞き取っています(薬歴(6))。尿酸値が上昇した理由はこれだけでしょうか。皆さんはどう思いますか。

C 食事の影響もあるのでは。

早川 あり得ますね。プリン体を多く含む食品を取り過ぎているかもしれません。

I ということは、ビール?

早川 そうです。このタイミングで挙げておくべき話です。

A 寒い時期でもあるし、年末年始でもあるので、宴会などでお酒を飲む機会が多かったのかもしれません。普段の食生活に変化がなかったか、聞ければよかったと思います。あと、寒いせいで出不精になり、運動不足になった影響もあるかもしれません。

早川 少なくとも、患者さん自身にもそういう認識を持ってもらうことは必要じゃないでしょうか。自分の生活のことは棚に上げて、もしかしたらそちらが悪影響を及ぼしているかもしれないのに、利尿薬のせいで尿酸値が上がっただけだ、むくみも治まった、もう大丈夫だ、と患者さんが思っていたとしたら……。誤った認識を持ったままだと、どこかで治療が破綻する可能性があります。私たち薬剤師が、尿酸値が上がる原因をきちっと把握することで、よりよい対応ができるはずです。

 3月1日に移りましょう。「検査結果も問題なく、尿酸値も正常範囲に落ち着いていた」とのS情報が得られました(薬歴(7))。アロプリノールによる発疹がないことを確認しているのは、よい対応だと思います。

A 初回来局から9カ月くらいたち、ようやく落ち着いてきたという印象です。気候も少しずつ暖かくなってきて、患者さん自身も安心しているようでした。

早川 よかったですね。では最後に、この患者に対して、今後、どのような療養指導をしていくかについて考えていきましょう。どんどん挙げてください。

F 肥満に注意する。

早川 この患者さんは肥満ですか。

A 肥満というわけではありませんが、おなか回りは、ややメタボ系です。

G 食事はおそらく奥さんが作っていると思うので、奥さんにも来てもらって、献立や調理法について聞く。

早川 具体的に、何をどのようにすればよいですか。

E 脂肪分や塩分は控えめにして、肉より魚中心の献立にする。n-3系脂肪酸を多く取るようにする。

H 心臓へのリスクを評価した上で、できる運動をなるべくしてもらう。有酸素運動だけではなく、筋力に負荷をかける運動もよいと思います。

A 飲酒については、少なくとも現状維持で、飲み過ぎないように。

I 患者さんの趣味を聞き出して、その延長線上で、楽しくできそうなことを提案してあげたい。家族構成が分かれば具体的な提案がしやすいと思う。

早川 いい観点が出ました。患者さんは、薬剤師に対して良い印象を持っており、色々と話してくれています。そこで、もう一歩、パーソナリティーの部分にまで踏み込んで、生命予後の改善のために薬剤師がしっかりとした役割を果たせるようにしていきたいですね。

チューリップ入善薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

岡本 康志氏

 早川先生もおっしゃっていましたが、薬歴の患者サマリーの部分に、患者さんの人柄も書くとよいのではないかと思いました。今までは、接し方が難しい患者さんのことしか書いていませんでした。患者さんのポジティブな面についても薬歴に記載しておくことは良いと思いました。

沓掛 和彦氏

 このようなオーディットは初めてで緊張しました。患者さんにどのように聞き取りをすればよいかということは、普段から考えていましたが、今後は聞き取りを通じて分かったことを、患者サマリーに積極的に追加していくようにしていきたいです。

青塚 保志氏

 初回の来局から聞き取りを行い、毎回経過をフォローする中で、色々な角度から患者さんを見ていく必要があるということが分かりました。今回は皆でディスカッションしたので多くの観点が出てきましたが、1人でも色々な引き出しを持って患者さんに接することができればよいと思いました。

内田 陽一氏

 今まで、薬剤師は処方箋調剤を行うことを通じてドクターのフォローをするという意識がありましたが、患者の生命予後を考えながら毎回の投薬を行うことの大切さを、今回ご教示いただきました。この仕事は面白く、やりがいがあるということを、改めて実感できました。

全体を通して

早川 達氏

 薬歴を読んでいくと、しっかり指導をされていることがよく分かります。その指導に対する患者の反応が、薬歴から見えてくるとさらに良いと思います。

 今回の症例は、病識・薬識が一つの焦点でした。どの部分が分かっていて、どの部分が弱いのか。全体としては理解できていたかもしれませんが、細部についてどうするのが望ましいかについては、不足している部分もあるように推察されます。われわれ薬剤師としては、こうした推察を基に、確認すべき点、評価すべき点、指導すべき点を理解した上で対応することが大切です。本日のアセスメントは、それを明らかにすることができたと思います。

 ディスカッションの中では、担当した薬剤師の患者への印象も述べてもらいました。担当者によっても印象は変わるでしょうが、その積み重ねが、患者の予後への考えや病識を評価していくための重要な情報となっていきます。検査データや病名などの客観的とされる情報のみならず、患者のパーソナリティーについても薬剤師のアセスメントとして遠慮せずに書くようにしましょう。

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