DI Onlineのロゴ画像

特集:パート2
医師に聞く 塗り薬の処方意図と指導のコツ
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

 外用療法は、医師によって治療の“さじ加減”が異なることが少なくない。専門医はどのような処方と患者指導で治療効果を上げているのだろうか。コモンディジーズであるアトピー性皮膚炎、尋常性ざ瘡(にきび)、脂漏性皮膚炎について、薬剤師が知っておきたいノウハウを聞いてみた。

 アトピー性皮膚炎の中等~重症患者を数多く診察してきた大矢幸弘氏は、ステロイドと保湿剤やタクロリムスを組み合わせ、ステロイドの使用量を段階的に減らすようにしている。

 「初診時にステロイドと保湿剤の使用量や使用期間を確認すると、患者の約半数は使用量が少ない。塗り方に問題があって、例えば擦り込み過ぎてむらができ、効果が出ていないというケースも多い」と大矢氏は指摘する。

 吸収率が高い顔面には、体幹や四肢よりも弱めのランクのステロイドを選択する。

 大矢氏は、体幹と四肢にはストロングランクのステロイド、顔にはミディアムランクのステロイドを処方し、まずは1~2週間、1FTUの適量を連日使用させ、皮疹をしっかり治すこと(寛解導入)を徹底している。塗り方は、「薄皮一枚が皮膚表面を覆うように均一に広げて」と指導しているという。

 大矢氏は「さらに重要なのは、寛解導入後の治療。副作用が出ないようにステロイドを使い、皮膚の良好な状態を維持することが求められる」と話す。具体的には、保湿剤だけを塗布する日を設け、ステロイドの使用頻度を徐々に減らしていく方法だ。

 寛解導入後の2週間~1カ月間は「ステロイドと保湿剤を1日置きに使用」し、その後は「1日ステロイドを使ったら2日は保湿剤」のサイクルで1~2カ月塗布する。さらに、「週2日はステロイドで残りの日は保湿剤」と、ステロイドを塗る日を減らしていく(図4)。

図4 ステロイドの減量を念頭に置いた治療スケジュール(国立成育医療研究センター病院アレルギー科の患者向け資料を基に編集部で作成)

画像のタップで拡大表示

 一方、顔面は、ステロイドを数日から1週間程度塗った後、2歳以上ならプロトピック軟膏(一般名タクロリムス)に変えている。ただし、乳児や寛解維持期にステロイドの塗布頻度を早く減らすことが可能(目標は週1回以下の頻度)な患者は、プロトピックに切り替えず、保湿剤のみを塗布する日を増やす。

 このほか、四肢などステロイドの吸収率が低く、改善しにくい部位についても、保湿剤の代わりにプロトピックを塗るよう指示することもある。

 これは、幼児~学童期前半の小児に対する1カ月分の処方箋だ。初診時は、顔面にロコイド軟膏(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)を1日2回、体幹と四肢にはリンデロン-V(ベタメタゾン吉草酸エステル)と保湿剤を混合して連日塗っていた。2週間ほどで改善し、現在ではリンデロン-Vは週2回、顔面はプロトピックを1日2回塗っている。

入浴時は手を使って泡で洗う

 入浴時の指導も重要だ。大矢氏は防腐剤や香料を含まない無添加のせっけんを泡立て、手で洗うように勧めている。耳の後ろや脇の下などは、洗い残しがないようによくすすぐ。

 さらに、大矢氏は寛解導入後のスキンケアについて「軽症であれば、市販の保湿剤である『2e』(発売:マルホ、資生堂)などでも十分に皮膚の良い状態を保てる。クリームや乳液など、患者に合わせて薦めてほしい」と話す。

 成人のアトピー性皮膚炎に対して、江藤隆史氏も、大矢氏と同様に同じランクのステロイドを連日から間欠塗布とし、保湿剤のみの日を増やす方法で治療している。コンプライアンスを上げるための服薬指導はユニークだ。

 「治療の基本は、四肢や体幹にはベリーストロングランクのステロイドと保湿剤を1日2回、しっかり塗ってもらうこと」と強調する江藤氏。

 具体的には、マイザー(ジフルプレドナート)を1週間使用した後、マイザーより弱めのアンテベート(ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル)に切り替える。皮疹がきれいになったら、アンテベートを1日1回とし、朝晩のどちらかは保湿剤のみとする。この後、ステロイドを使用した日の翌日は保湿剤のみとする治療を半年間は続けていくという。

 ただし、皮疹が改善してくると、コンプライアンスが低下してしまい、再びステロイドの連日投与を行わざるを得ないこともしばしばあるという。このようにコンプライアンスの低下した患者に、江藤氏は様々なフレーズで指導する。

 「『掻いちゃだめ』とは言わない。『掻いてもいいけど、いつも薬をポケットに入れておいて、塗りながら掻いて』と話している」(同氏)。また、「右手だけでいいから、次までにしっかり塗ってきて」と話すこともある。次回の診察時に、左手と比べた改善度を一緒に確認して、治療への意欲を高めるのが目的だ。

 このほか、患者に使用後の空のチューブを持ってきてもらい、その空チューブの山を前にして「しっかり薬を塗っているから良くなっていますね」などと褒めるのも効果的だという。

 皮膚の痒みを訴える成人の中でも、高齢者は特に治療に難渋するケースが多い。加齢による皮脂分泌の減少に加え、アトピー性皮膚炎の患者ではステロイドを長年使用し皮膚の萎縮が進んでいることが多いためだ。

 こうした高齢の患者は、アトピー性皮膚炎や多形慢性痒疹などと診断されており、とにかく痒がるのが特徴だ。

 江藤氏の治療方針は、ストロングランクのステロイドをベースに、前腕部などの萎縮が激しい部分にはプロトピックを塗布するというものだ。

 この処方箋の患者は70歳男性で、マイザーが投与されていたが、痒みが治まらず、皮膚の萎縮も進んでいた。

 そこで、江藤氏はステロイドの副作用を考慮し、プロパデルム(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル)にランクダウンして、顔面と萎縮が進んだ前腕部にプロトピックを投与した。

 外用薬で痒みのコントロールが難しい場合、アレロック(オロパタジン塩酸塩)やゼスラン(メキタジン)といった抗アレルギー薬に加え、ネオーラル(シクロスポリン)を1日量5mg/kgで1日2回、空腹時に処方することもある。

 このほか、皮膚の萎縮が全身にわたる場合には、紫外線(ナローバンドUVB)を週1回照射することもあるが、ネオーラルとの併用は皮膚癌発現のリスクを高める危険性があるため、患者に合わせて選択している。

 にきびの治療はディフェリンが中心となるが、使用開始時などに副作用が出やすいことが難点だ。すぐに使用を中止してしまわずに、肌を慣らしながら同薬を使い続けることがポイントだ。

 尋常性ざ瘡(にきび)は、毛穴(毛包・脂腺系)が皮脂や落屑した角化細胞で閉塞し、皮膚の常在菌であるPropionibacterium acnesによって感染を起こした状態だ。

 毛穴に皮脂が詰まった状態は面皰(めんぽう)と呼ばれ、白い点に見える「白にきび」(閉鎖面皰)と、毛穴の出口が開いて黒く見える「黒にきび(開放面皰)がある(写真7)。皮脂が毛穴に詰まり始めた面皰の前段階を「微小面皰」と呼び、面皰や微小面皰は、非炎症性皮疹に分類される。

写真7 尋常性ざ瘡の一例

頬に膿疱など炎症性皮疹が、フェースラインに面皰が多く認められる。ディフェリンに加えて抗菌薬が処方された。

 一方の炎症性皮疹は、閉鎖面皰(白にきび)が炎症や化膿を起こした状態を指す。

保湿剤を併用するのがポイント

 にきびの薬物治療は現在、重症度にかかわらず、ほぼ外用レチノイド製剤のディフェリン(一般名アダパレン)が中心になっている。

 中等症以上では、外用薬のほか抗菌薬や漢方などの内服薬が併用されることもある。

 ディフェリンは、表皮角化細胞の分化を抑制することで、毛穴の詰まりを改善し、面皰の形成を抑制する。「ディフェリンの登場で、炎症性皮疹に移行する前の段階での治療が可能になった」と乃木田俊辰氏。

 ただし、ディフェリンは乾燥、ひりひり感、痒み、皮膚が剥がれ落ちる、赤みといった副作用が発現しやすい(写真8)。副作用の予防には、十分な保湿が必要であり、乃木田氏は、ヒルドイドソフト軟膏(ヘパリン類似物質)を一緒に処方している。

写真8 ディフェリンによる紅斑

ディフェリンを使用したところ、フェースラインに紅斑が発現した。しばらく使用を控えると紅斑は消失した。
(写真7、8ともに提供:乃木田氏)

 具体的には、患者のにきびが、非炎症性皮疹と炎症性皮疹のどちらが主体かを見極めた上で、非炎症性皮疹には下の処方箋のような処方を行う。

 使い方としては、洗顔後、化粧水や乳液などで保湿した後に、まずヒルドイドを顔全体に塗布し、重ねてディフェリンを塗布する。「目に見えなくても微小面皰があるので、顔全体に塗布することが大切」(乃木田氏)という。塗布量の目安は、いわゆる1FTU(0.5g)だ。

 副作用が発現したら、4~5日、ディフェリンの使用を中止する。薬を休めば自然に治ることがほとんどなので、肌の状態が戻ったら、使用を再開する。 さらに、紫外線が肌の刺激症状を悪化させることがあるため、日焼け止めの使用も勧めているという。

 「副作用は、使用開始から2週間までに発現することがほとんどで、その後は皮膚が慣れて症状は出なくなる。多くの薬は、副作用が出たら使用を中止するが、ディフェリンの場合は肌を休ませながら使い続ける薬であることを理解してもらうように説明をしてほしい」と乃木田氏は強調する。

抗菌薬はスポットで使う

 炎症性皮疹が多い場合は、ダラシンT(クリンダマイシンリン酸エステル)といった外用の抗菌薬を加える。

 炎症性皮疹で抗菌外用薬が併用されている場合は、ディフェリンと抗菌薬の使い方の違いをしっかり伝えることが大切だ。

 併用時には、保湿剤、ディフェリン、抗菌薬の順に塗布するが、ディフェリンと違って、抗菌薬は化膿部分だけにスポットで使用する点に注意させる。

 また、ディフェリンは就寝前のみの使用だが、抗菌外用薬は1日2回、朝晩洗顔後に塗布するといった違いも、しっかり説明しよう。

 治療効果が発現するまで、最低でも3カ月程度はディフェリンを塗布し続けることもポイント。軽快後も、維持療法としてディフェリンを使い続ける場合もあるという。

 脂漏性皮膚炎の治療は、発症原因と考えられるマラセチア(真菌)を外用の抗真菌薬でコントロールすることが中心だ。加えて、洗浄によって皮膚の清潔を保つことが重要となる。

 脂漏性皮膚炎は、頭部や顔面などにフケ様の付着物を伴う湿疹である。乳児と高齢者に多発する。乳児の有病率は70%程度との報告があるほどポピュラーな疾患だが、乳児の場合、年齢とともに治癒する傾向が強い。

 成人の有病率は3~4%程度とされているが、「十分な清潔を保たないと誰でも起こり得る」と菊地克子氏。自身も、東日本大震災時に2週間、入浴ができなかったときに、髪の生え際部分に脂漏性皮膚炎を発症したという。「水のいらないシャンプーなどを使用していたが、十分な水を使って洗浄しないと清潔が保てず、発症の原因となると実感した」と菊地氏は話す。

 脂漏性皮膚炎は、皮脂中に含まれるトリグリセリドが、真菌であるMalassezia Paghydermetis(マラセチア)によって分解され、遊離した脂肪酸が皮膚を刺激することで接触皮膚炎を生じるのが主な原因と考えられている。

 マラセチアは、皮膚に常在する真菌であり、皮脂分泌が多い部位で増殖する。従って、脂漏性皮膚炎は顔面、頭部、耳、腋下、陰部など皮脂腺が発達した部位に好発する。主な症状は痒み、炎症、紅斑、角質が剥がれ落ちる鱗屑などだ(写真9)。

写真9 脂漏性皮膚炎の一例(提供:菊地氏)

額の部分に発症した脂漏性皮膚炎。肌が白く乾燥したようになり、フケ様の落屑が見られる。

 治療は、マラセチア菌を抑えるニゾラール(一般名ケトコナゾール)の外用薬が中心となる。顔や耳にはクリームか軟膏、頭皮にはローションというように、使いやすさによって部位ごとに剤形を使い分ける。

 炎症が強い場合には下の処方箋のようにロコイドクリーム(ヒドロコルチゾン酪酸エステル)などのミディアムランクのステロイドを併用する。

 さらに炎症が強い場合には、デルモベートスカルプローション(クロベタゾールプロピオン酸エステル)などストロンゲストランクを使用することもある。ただし、「脂漏性皮膚炎では、強力なステロイドを長期連用する必要はない。2週間をめどに使用し、それ以上の連用は避けたい」と菊地氏は注意を促す。

1日1回の洗浄が何より大切

 薬物治療とともに、脂漏性皮膚炎の治療においては、皮膚を清潔に保つことが大切となる。菊地氏は、抗真菌成分のミコナゾールが配合されたシャンプーやせっけんの使用を推奨するが、抗真菌成分が入っていなくても、きちんとせっけんで洗うことでコントロールは可能という。抗真菌成分が配合された洗浄剤として、コラージュフルフルシリーズがある。

 洗髪の際には、シャンプーの原液が皮膚に付着しないように湯で予洗いし、シャンプーを手に取って希釈して泡立てた上で、髪に付ける。皮膚を傷付けないように、爪を立てずに指の腹でなでるように頭皮を洗う。すすぎは十分に行う。リンスなどを使用する際は、頭皮には付けずに、毛先だけに付けるようにするのがポイントだ。

 洗顔は、1日1~2回でよいが、1回は必ずせっけんで洗うようにしたい。洗顔も、洗髪と同様に皮膚を刺激しないことが大切だ。せっけんをしっかり泡立てて、泡をクッションにして、摩擦の刺激を減らすようにして洗う。

 薬は、頭皮や皮膚を洗浄して清潔にした後に、皮疹がある部分を中心に塗布する。「髪の上からローションを振り掛けてしまう患者がいる。髪を分けて病変部の地肌に浸み込ませるように付け、なじませるよう指導する」(菊地氏)。

 皮膚のコンディションを良くするには、保湿ケアも重要だ。保湿剤は、特別なものを使う必要はなく、「普段使っている化粧水や乳液で十分」と菊地氏は説明する。

 脂漏性皮膚炎は、ケトコナゾールを朝夕、1~2週間塗布すれば良くなることがほとんどだが、再発することが多く、季節や体調などによって繰り返す患者も多い。「完全治癒は難しく、長期にわたってコントロールしていく疾患であることを本人に認識してもらい、スキンケアと薬物治療を続けてもらうことが大切」と菊地氏は話している。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ