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CaseStudy
望星築地薬局(東京都中央区)
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

 聖路加国際病院の門前に位置する望星築地薬局は、月に約6500枚の処方箋を応需する大型薬局だ。処方箋の64%が同病院からで、その他にも遠方も含めた250以上の医療機関から処方箋を受けている。救急外来の処方箋などに対応するため、年中無休で開局している。

 癌の外来化学療法の増加を受けて、望星築地薬局でも癌患者の処方箋を年間3000枚ほど受けている。そこで、特に力を入れているのが、外来化学療法中の患者に対する電話相談だ(写真1)。

写真1 電話相談の様子と具体例

薬剤師が、調剤室にあるパソコンで、薬歴や文献を確認しながら行う。担当者は決めておらず、手が空いている薬剤師が電話を取る。対応する薬剤師は毎回異なるが、やり取りの内容は薬歴に記録して局内で共有している。
写真:秋元 忍

 同薬局では、患者に薬を渡すときに、服用中や服用後に副作用など気になる症状が現れた場合は、薬局に電話するように指導し、電話番号を書いた紙を渡している。抗癌剤は、他の薬に比べて副作用の発現頻度が格段に高く、重篤化しやすいことから、投薬後の電話対応が重要になってくる。

手が空いている薬剤師が対応

 電話相談の対象は、処方箋を受け付けて調剤した患者。薬剤師が、調剤室にあるパソコンの前で、薬歴や文献などを確認しながら行う。相談を受ける専属のスタッフは決めておらず、手が空いている薬剤師が電話を取るのがルール。対応する薬剤師は毎回異なるが、やり取りの内容を電子薬歴に記録して、局内で共有している。電話対応時に即答できないことがあれば、いったん電話を切って、調べてからかけ直す。

 症例は、実際にあった電話相談だ。乳癌を患う60代の女性から、タキソテール(一般名ドセタキセル水和物)やエンドキサン(シクロホスファミド水和物)などによる治療を初めて受けた翌日の土曜日の朝に、口渇の症状が出ていると電話を受けた。

60代、女性。乳癌。

2011年8月12日、病院で初めて外来化学療法を実施(タキソテール、エンドキサン)。

支持療法薬(デカドロン、アロキシ、マーズレンS、ラキソベロン内用液、シプロキサン、オーグメンチン)

相談を受けた時間 土曜日の朝

相談内容 昨日、化学療法を受けた(タキソテール、エンドキサン、デカドロン、アロキシを使用)。タキソテールはむくむと言われたが、今朝より口の渇きがひどく、既に1.5リットルほど水を飲んでいる。このまま水分を摂取して問題はないか。

 尿は出ていて、今のところむくみはないと思う。吐き気も、昨晩はあったが今はない。常に口の渇きがある。水をどれくらい飲んでいいのか分からず不安。

 病院に電話をかけたが、土曜日なので乳腺外科の医師や看護師は休みだった。救急外来の看護師に相談したところ、デカドロンは3日間飲み続けるようにとのことだったが、詳しいことは受診しないと分からないと言われた。

薬剤師の回答 タキソテールは、副作用としてむくみが出ることがある。現在、むくみが出ておらず、尿も出ているのであれば、水分を取っても問題ないのではないか。ただし、過剰摂取を防ぐためにも、ストローで飲む、氷を含む、ガムをかむなど、取り過ぎないための工夫をするといいと思う。

 添付文書を確認したところ、タキソテールやエンドキサンなどには、口渇や口内乾燥の副作用が記載されていた。薬剤師は、吐き気やむくみ、排尿の有無など、口渇以外に症状がないかを聴取したが、特に問題は見つからなかったことから、現時点ではすぐに受診が必要なほどの緊急性はないと判断。水分補給の工夫などについてアドバイスした。

 このように、同薬局は年中無休で開局しているため、病院が休みの土日祝日に相談があることが多い。また、開局時間以外でも、神奈川県伊勢原市にある本店に電話すれば、24時間対応することができる。

 副薬局長で薬剤師の半沢陽子氏は、「電話相談は、病院の外来が開いていない時間帯に、癌の化学療法に関して不安を感じた患者の受け皿になっているのではないか」と話す。

重篤な副作用疑いの4例を発見

 外来化学療法を受けている患者に対する同薬局の電話相談の実態について、上席指導薬剤師の大塚裕子氏らがまとめ、今年の日本薬剤師会学術大会でポスター発表した。

 それによると、相談件数は、2006年4月1日~11年3月31日の5年間で計109件。相談内容の内訳は、「副作用・体調変化」が40件と最も多く、次いで、「併用(薬の飲み合わせ)」「支持療法(による体調変化)」「服用方法」についての相談が多かった(図1)。

 このうち、薬の副作用の可能性がある、「副作用・体調変化」と「支持療法(による体調変化)」と答えた54件について、症状を調べたところ、「吐き気・嘔吐」が最も多く、次いで「発熱・寒気」「下痢」などだった(図2)。

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 相談の中には、間質性肺炎や重篤な腸炎などの重大な副作用が疑われ、すぐに受診するよう指示したケースが4例あり(表1)、電話相談が早期の副作用の発見に成果を上げていることが分かった。

表1 電話相談で重大な副作用が疑われ、すぐに受診するように指示した4例

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 一方、「副作用・体調変化」の40件に対して、薬剤師がどのような指示を行ったか調べると、受診指示が15件だったのに対し、経過観察は18件と、経過観察を指示したケースも少なくないことが分かった。これまで、経過観察を指示して、後から問題になった例はないという。

 大塚氏は、「副作用の可能性がある患者に受診を指示することで、治療の安全性が確保できる一方で、緊急性が低い患者に経過観察を指示し、不必要な受診を防ぐことで、患者の負担を減らすことができる」と話す。

「化学療法で体力が落ちている患者にとって受診は大きな負担。トリアージにより不必要な受診を防ぐことで、患者の負担が減らせる」と話す、望星築地薬局の大塚裕子氏(左)と半沢陽子氏(右)。

85%の薬剤師が対応に不安

 電話相談の成果が上がっている一方で、電話を受けている薬剤師は、対応に不安を感じつつ相談に応じていることも分かってきた。

 集計結果を受けて大塚氏は、2011年7月に、株式会社望星薬局で、電話相談を行ったことがある薬剤師33人に、「化学療法を受けている患者から副作用や支持療法などについて相談されたとき、対処について判断に苦しむことがあったか」と尋ねたところ、85%に当たる28人が「はい」と回答した。

 また、「癌の化学療法中の患者から電話相談があったときに、何を確認しているか」を、発熱、吐き気・嘔吐、下痢の3つの症状別に尋ねたところ、いずれの症状においても、確認した項目は薬剤師によって異なっていた。

 図3は、患者が下痢を訴えたときの薬剤師の確認事項を示したものだ。「回数・期間」について尋ねた薬剤師は23人、「発現時期」は20人、「食事・水分の摂取状況」は12人だった。33人全員が尋ねた項目はなく、項目数も薬剤師によって異なっていた。

図3 電話相談での確認事項と、それを確認した薬剤師数(下痢に対して、複数回答)

患者から電話相談があったときに何を確認しているか、下痢の症状が出た場合について尋ねたところ、確認した項目は薬剤師によって異なっていた。調査対象は、株式会社望星薬局で電話相談を行ったことがある薬剤師33人(経験年数2~3年が9人、4~5年が7人、6~10年が6人、11年以上が11人)。

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 実は、調査を行った大塚氏も、電話対応に不安を感じていた一人。きっかけは、09年に、発売後間もないタイケルブ(ラパチニブトシル酸塩水和物)が初めて処方された乳癌の患者の処方箋を受けたことだった。発売前に医薬情報担当者から副作用について説明を受けていたものの、大塚氏が薬を出した翌日に、患者から、下痢が止まらないと電話があり、「抗癌剤とはこんなにすぐに副作用が出るものなのかと、本当に驚いた」(大塚氏)という。

 当時は、外来化学療法が普及しつつあった時期。この症例を経験して大塚氏は、抗癌剤は、これまでよく扱っていた生活習慣病関連の薬とは、全く異なることを実感した。さらに今後、癌の外来化学療法を受けている患者の処方箋を受け取る機会が増えるのであれば、薬剤師は抗癌剤についてもっと勉強しなければならないと痛感した。

トリアージのチェックシートを作成

 今回の調査結果を受けて大塚氏は、確認事項を明確化して、症状から副作用の重症度や緊急性に応じて受診が必要か判断できるチェックリストがあれば、電話対応の質を担保することができる上、薬剤師も安心して電話対応できるのではないかと考えた。

 大塚氏が注目したのは、東京慈恵会医科大学附属病院が外来化学療法を実施中の癌患者に対して行っている電話によるトリアージだ。

 トリアージとは、救急の現場や混雑する外来などで、医師や看護師が、患者の緊急性のレベルを判断し、緊急性の高い人を優先する方法。電話トリアージの場合は、受診の必要性を判断する。

 大塚氏は、癌の化学療法についての書籍や、米国立癌研究所の用語集の日本語版である「有害事象共通用語規準v4.0日本語訳JCOG版」、さらに、救急外来のトリアージのマニュアルなど何冊かを参考に、患者の訴えとして多い発熱、吐き気・嘔吐、下痢の3つの症状について、独自にトリアージチェックシートを作成した(図4)。

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 救急のトリアージは4段階で示されていることが多いが、薬局では救急の対象となる患者に比べて軽症の患者が対象なので、「今すぐ受診」「早めの受診を促す」「自宅で経過観察」の3段階にした。

 使い方は、まず、患者が訴える症状を具体的に尋ね、腹痛や嘔吐などの随伴症状の有無を確認する(図4-(1))。さらに、水分の摂取状況や、症状が出た場合に処方医からどんな指示があったかなどを確認する。

 患者の症状が下痢であれば、下痢が始まった時期や、1日当たりの回数、主治医から下痢止めを処方されているかなど、シートに沿って聞いていくと、患者の状態が一通り把握できる。

 その上で、トリアージを行う。赤で囲んだのが、最も重症の場合に当てはまる項目だ。5つの項目がいずれか1つでも当てはまれば、「今すぐ受診」するよう指示する。同様に、黄色で囲んだ4つの項目のいずれかが当てはまる場合は、今すぐでなくてもいいが、「早めの受診を促す」。

 赤と黄色で囲んだ項目に当てはまるものがなく、緑で囲んだ3つの項目が全て当てはまる場合は、「自宅で経過観察」するよう指示する。こうして、シートの確認項目を上から順に尋ねていくと、患者の重症度が3段階でトリアージできるというわけだ(図4-(2))。さらに、指導のポイントも分かりやすく表記した(図4-(3))。

 大塚氏は、「シートに沿って電話対応を行うことで、どの薬剤師が対応しても確認すべき点を落とさず聞くことができ、受診が必要かどうか、同じ基準で判断できる。これで薬剤師の不安も解消されるのではないか」と話す。

 癌の外来化学療法を受けている患者からの電話相談は、頻繁にあるわけではないため、このシートを使った例はまだない。大塚氏は、「対象となるような患者から電話があれば、ぜひこのシートを使って対応していきたい」と話している。(富田 文)

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