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Report/薬学教育
人気にあぐらをかいてちゃダメ! 正念場の6年制薬学部
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

 河合塾教育情報部長の近藤治氏は、「薬学部の不人気は2010年が底で、徐々に回復している。11年、12年と志願者数が増え、入試の倍率も上昇してきた」と話す。

河合塾の近藤治氏は、「薬学部をはじめ、資格が取れる学部は総じて受験生に人気」と話す。

 その理由は2つある。1つは、薬剤師の資格が取れる薬学部は6年制であることが周知され、移行直後の割高感が薄れてきたこと、もう1つは、受験生の資格志向がかつてないほど高まっていることだ。

 背景にあるのは、言わずと知れた就職難だ。大卒の就職率が61.6%(11年度学校基本調査)にとどまる中、「薬学部に対しては、薬剤師の資格が取れれば就職できるという期待がある」(近藤氏)。実際、6年制1期生が卒業した今春の就職戦線は、過去2年間新卒が出なかったこともあり、空前の売り手市場だった(本誌12年5月号Report「6年制時代の就活&国試」参照)。

 ある私立大学薬学部教員は、「薬学部卒業者は就職の際に有利という評判が広まり、学費を借金してでも子どもを薬学部に入れたがっている親もいると聞く」と明かす。

6年制薬学部の“2極化”が進行

 ただし、これはあくまで6年制薬学部を全体として見たときの話。実際に起こっているのは“2極化”だ。一部の6年制薬学部は定員割れが続き、入試偏差値も相変わらず低い。

 12年度の入試では、充足率(入学者数÷入学定員)が60%以下と、大幅に定員割れした薬学部が6校あり、うち5校は08~12年度の平均充足率も60%以下だった。充足率が低い薬学部は、東北、中国・四国など地方に偏っており、03年以降に薬学部を開設した新設校に多かった。

 河合塾が算出した私立大学6年制薬学部の入試偏差値も、充足率の傾向を反映している。10年から12年にかけて偏差値が5.0ポイント以上改善したのは、北海道薬科大学、国際医療福祉大学、金城学院大学の3校だけだ。

 6年制に移行する直前の05年に比べれば、ほとんどの大学が偏差値を下げており、新設校に限ると28校中20校が偏差値40以下だった。4年制の頃より下がったとはいえ、偏差値50台をキープしている老舗校との差が目立つ(図1)。

図1 2005年および2012年における私立大学薬学部の入試偏差値の分布(河合塾による)

・05年は4年制薬学部の最終年、12年は6年制薬学部のデータ。棒グラフの横の数字は校数。
・05年(計45校)、12年(計57校)ともに、03年以降に設置された薬学部を新設校、それ以前からある薬学部を老舗校とした。
・12年は05年に比べて入試偏差値が全体的に下落しており、中でも新設校では偏差値の低い大学が多い。

 実は、同じ医療系でも、医学部ではこうした傾向は全く見られない。医師不足を背景に、医学部は08年より毎年、入学定員を増やしており、12年度は07年度に比べて1000人以上も増えた。だが、それ以上に志願者が増えているため、入試の難易度はむしろ上がっている。「80年代は、偏差値が40台でも入れる私立大学医学部があったが、今はまずない。最低でも62.5、確実に合格するには70は必要」(近藤氏)になっているのだ。

文科省が23校を“呼び出し”

 6年制薬学部のこうした現状を受けて、文部科学省も、「質の高い入学者の確保」に向けて動かざるを得なくなってきた。

 同省の薬学系人材養成の在り方に関する検討会(座長は自治医科大学学長の永井良三氏)のワーキンググループは今年度、(1)08~11年度の充足率の平均が60%以下、(2)08~11年度の入試倍率の平均が1.2倍以下(平均は1.2倍を超えていても年々下がっている大学を含む)、(3)10年度および11年度の5年次進級率の平均が60%以下、(4)10年度の実務実習修了率(実務実習修了学生数/入学者数)が60%以下─の23校に“フォローアップ”と称する書面調査を実施(表1の○と◎)。うち、卒業率が60%以下の9校については、ヒアリング調査に踏み切った(表1の◎)。対象となった23校は全て私立大学で、新設校かつ低偏差値校が多い。

表1 私立大学6年制薬学部1期生(06年入学)の修学状況(資料:文部科学省)と第97回薬剤師国家試験合格率(資料:厚生労働省)

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 5年次進級率や実務実習修了率が重視されるのは、薬剤師の資格を取るために必須だからだ。4年次に実施される薬学共用試験(CBTおよびOSCE)で所定の成績を修めなければ、5年次に実務実習に出られず、実務実習を修了しなければ卒業できない。90%以上進級している薬学部がある一方で、06年度入学生、07年度入学生の2年連続で60%以下の薬学部が4校あった。

 留年しても、いずれは進級、卒業して、薬剤師の国家資格を得られればいいが、そうならなかった場合の進路は不透明だ。特に単科大学、中でも6年制課程しかない薬学部の場合、入学後に進路を変更するのは難しい。定員割れの大学に学力不足の学生が入学したものの、勉強についていけずに留年を重ね、薬剤師の資格取得に至らない─というのでは、明らかに悪循環だ。同ワーキンググループによれば、入試倍率が低いと卒業率も低いという、相関関係が見られた。

 その一方で、充足率が低い、つまり学生数が少なければ、その分、一人ひとりにきめ細かな教育ができるというメリットもあり、実際に卒業率が高い薬学部もある。将来その地域で働く薬剤師を輩出するという意味からも、単純に「低倍率→低偏差値→低学力」と、地方の6年制薬学部を切り捨てることは難しい。

 城西国際大学薬学部教授の懸川友人氏は、「入学時点の学力は高くなくても、卒業して薬剤師となり、ドラッグストアに就職したところ、顧客から慕われて短期間で店長に抜擢された卒業生もいる」と話す。医療現場で活躍する薬剤師養成を主眼とする6年制薬学部に求められているのは、受験テクニックに長けた秀才だけとは限らないのも確かだ。

第三者評価、コアカリ改訂に着手

 6年制薬学部における教育の質とは何なのか。その指標となるのが、来年度から本格的に始まる第三者評価だ。初年度となる13年度は、岡山大学、日本薬科大学、福山大学の3校が評価を受ける(表2)。

表2 薬学教育評価機構への評価申請大学

 第三者評価は、6年制の導入に当たって、04年の中央教育審議会答申で実施が求められていた。実施するのは薬学教育評価機構(理事長:帝京大学副学長の井上圭三氏)だ。

 同機構による評価は、2年がかりで行われる。まず1年目は、同機構が設定した評価基準に沿って、各校が自己点検・評価書を作成し、機構に提出する。2年目は、自己点検・評価書の書面調査をした上で、6年制薬学部教員に実務薬剤師も加わった評価チームが訪問調査を行う。総合判定の結果は、「適合」または「不適合」で示され、一部に問題があった場合は判定を保留して評価を継続する。評価結果は同機構のウェブサイトに公表される。

 薬学教育モデル・コアカリキュラム(以下、コアカリ)の改訂も急務だ。そもそもこのコアカリは、6年制薬学部が導入される前の02年に日本薬学会が作成したもの。全校参加の下で幅広い内容が盛り込まれており、この内容を履修するには4年間では到底足りないという意見が、6年制導入を推進する理由の一つになった。

 だが、6年制に移行し、実際にコアカリを使ってみたところ、問題解決型教育など新しい手法が持ち込まれたこともあって、教員の負担が過大になってしまった。文科省が実施したアンケートによれば、コアカリについて「内容が過密である」と回答した薬学部が74学部中64学部に上った。

 文科省のコアカリ改訂に関する専門研究委員会の座長を務める、武庫川女子大学薬学部長の市川厚氏は、改訂の方向性について、「今のコアカリの細かすぎる点、多すぎる点を見直す一方で、薬剤師が主体的に行うべき医薬品の安全性については学習項目を強化するなど、メリハリを付けてスリム化する」と説明する。同委員会は、6年間の薬学教育修了時に身に付けておくべき、「薬剤師として求められる基本的資質」の案をまとめた(表3)。

「コアカリの改訂では内容をスリム化する」と話す、武庫川女子大学の市川厚氏。

表3 6年制薬学部で教育すべき 「薬剤師として求められる基本的資質」(案)

 現場の薬剤師が多く関わる実務実習は、薬局実習と病院実習の内容を一本化した上で、コアカリの中に取り込むことにしている。13年度に新しいコアカリを完成させ、14年度または15年度の入学者から実施される予定だ。

研究は大打撃、だが…

 6年制薬学部の教員にとっては、教育面の負担増に加え、研究面への影響も悩みの種。東京薬科大学薬学部教授の竹谷孝一氏は、「世界と肩を並べられるくらいの設備を整えて研究を行ってきたのに、ダメージが大きい」と訴える。

東京薬科大学の竹谷孝一氏は、「研究が手薄になると、これまでの蓄積が次世代に伝わらない」と訴える。

 その理由の1つは、研究に従事する薬学部大学院修士課程の学生が激減したことだ。同大学では、修士課程の学生をティーチングアシスタント(TA)として雇う仕組みがある。TAの人数は、09年度には153人いたが、6年制の1期生が5年次になった10年度は87人に半減、11年度は13人にまで減った。同大学には現在も修士課程があるが、学部は6年制だけで4年制がないため、他大学からの進学者に頼らざるを得ず、今後も修士課程学生が増える見込みは乏しい。

 大学である以上、研究が阻害されるとしたら確かに問題だ。だが、あえて厳しい見方をするなら、薬学部に6年制を導入した時点で、従来強かった創薬研究は4年制が担うという“棲み分け”が了解されていたはず。実際、国公立大学薬学部は全校で6年制と4年制が並立しているのに対し、全部で57校ある私立大学薬学部のうち、4年制を併設しているのは、東京理科大学など13校のみ。新設校に限れば、28校中3校にとどまる。4年制時代と同じ研究を継続するのであれば、“4(学部)+2(修士)+3(博士)“を維持・強化するのが筋だろう。

 前述の文科省の検討会で副座長を務める帝京大学の井上圭三氏は、「6年制への移行は、既存の体制を少し改めればできるというようなものではなく、文字通りの大改革。薬学部関係者は、その覚悟を持ってほしい」と力を込める。

チーム医療の真の担い手めざせ

 6年制薬学部関係者にとって参考になりそうなのが、看護学部だ。どちらも、チーム医療の担い手である医療専門職を養成するという役割がある。

 従来、看護師の養成は、主として3年課程の養成所で行われてきた。看護界は基礎教育の大学化を進めており、看護系大学数は208校に上る(12年度)。新卒の看護師国家試験合格者に占める大卒の割合も、2000年に6.1%だったのが、12年は27.4%に増えた。

 保健師助産師看護師法の改正により、10年度からは、看護師資格の取得後に1年間の臨床研修を受けることが努力義務となった。新卒看護職の約80%が臨床研修を受けている。既に資格を取っているので、6年制薬学部の実務実習より実践的だ。

 看護師特定能力認証制度への取り組みも進む。日本看護協会は今年11月、同制度の早期法制化を求める要望書を国に提出した。現在、厚労省の試行事業として、大分県立看護科学大学大学院など7カ所の大学院で、特定能力を養成するための教育が行われている(表4)。

表4 看護師特定能力養成調査試行事業を行っている看護系大学院(日本看護協会による)

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 ここでの教育内容は、従来の看護領域の大学院教育とは異なり、医師による講義や演習・実習を多く含むのが特徴。同協会常任理事の洪(こう)愛子氏は、「この修士課程を修了して認証を受けた看護師が、従来の枠を超えた特定行為を含む看護業務に従事できるようにしていきたい」と意気込む。

「看護師特定能力認証制度の法制化を進めたい」と話す、日本看護協会の洪愛子氏。

 6年制薬学部を卒業した薬剤師は、4年制とはひと味もふた味も違っていなければ、2年増やした意味がない。チーム医療の真の担い手を育てるための6年制薬学教育はどうあるべきか。関係者は今こそ知恵を絞ってほしい。

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