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副作用症状のメカニズム
第27回 不眠
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 40歳女性。全身性エリテマトーデス (SLE)で薬物治療を受けている。来局時に疲れた様子だったため薬剤師が話を聞いたところ、1カ月ほど前から眠れないことが多くなり、悩んでいるとのことだった。

眠りのメカニズム

 ヒトが眠るのは、脳を休息させるためである。睡眠恒常性の維持機構によって、疲れたら眠るようになっている(参考文献1)。徹夜明けは睡眠時間が長くなり、深い睡眠であるノンレム睡眠が増加する。睡眠時には、成長や代謝に関与している成長ホルモンが分泌される。

 かぜを引くと眠くなる。これは感染時に白血球などから出るサイトカインに、免疫を活性化し睡眠を誘発する物質が含まれているためである。その物質としてプロスタグランジンD2(PGD2)やグルタチオン、ウリジンなどが明らかになっている(参考文献1)。特にPGD2は、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を促し、ノンレム睡眠を誘発することが分かっている。

 またヒトには、体内時計機構が備わっている(参考文献2)。例えば日中には交感神経が優位となり、体温、血圧、心拍数が上昇し活動しやすくする。夜になると副交感神経が優位となり、末梢血管が拡張し、放熱して体温が低下する。交感神経末端からは、ノルアドレナリン(NA)が放出され、セロトニンからメラトニンが合成される。メラトニンは、末梢血管を拡張させ体温を低下させて、眠りを誘う(参考文献3、4)。

 睡眠の後半の明け方には、覚醒準備のため副腎からコルチゾールが分泌される。不眠が続くと交感神経が刺激され続け、通常、夜間は減少するはずのコルチゾールの分泌が減少せず、血糖値が上昇する(参考文献2)。

 睡眠が不足すると、肥満細胞から分泌され満腹中枢に働いて食欲を抑制するレプチンの濃度が低下する。さらに食欲を刺激するグレリン濃度が高くなる。従って、不眠が続くと食欲が増進して肥満が助長される。

 睡眠は多くの神経が関わっているため未解明な部分も多いが、脳幹の網様体にあるコリン作動性ニューロンが、大脳皮質の活性化に最も大きな働きをしている(参考文献7)。これは、ノンレム睡眠時は活動が停止するが、覚醒およびレム睡眠時には活性化している。

 視床下部の青斑核のNA作動性ニューロンと縫線核のセロトニン作動性ニューロン、結節乳頭体核を起始核とするヒスタミン作動性ニューロンは、覚醒時に活性が高く、ノンレム睡眠時に低下し、レム睡眠時には活動を停止する(参考文献5)。抗ヒスタミン作用や抗セロトニン作用の鎮静の作用発現部位と考えられている(参考文献6)。これらのニューロンは、さらにガンマアミノ酪酸(GABA)作動性の抑制性神経線維や、オレキシン作動性ニューロンの支配を受けている(参考文献7)。オレキシンは、いわゆる「眠り病」のナルコレプシー患者で不足していることが分かっており、睡眠と覚醒に関与していると考えられている(参考文献5、8)。

 また、脳幹の橋にはコリン作動性ニューロンとNA作動性ニューロンからなる神経回路が存在し、ノンレム睡眠とレム睡眠の発現に関与しているとされている。NA作動性ニューロンは、コリン作動性ニューロンに抑制的に働いている。

 睡眠は、記憶を定着させる働きがあることも知られている(参考文献5)。一夜漬けの記憶はすぐに忘れるが、睡眠を挟みながら獲得した記憶は、長期記憶として定着しやすい(参考文献9)。精神的ストレス、強い恐怖や悲しみなどを経験すると、不眠が続くことがあるが、これは記憶が定着してトラウマや心的外傷後ストレス障害(PTSD)の原因となるのを避ける、生体の防衛反応と考えられている(参考文献10)。

不眠が起こる原因

 不眠が起こる原因は、(1)交感神経刺激、(2)セロトニン、ノルアドレナリン、メラトニンの作用不足、(3)コルチゾールの分泌異常、(4)ヒスタミンの感受性亢進、(5)プロゲステロンの分泌変化、(6)痛みやしびれ─などに分けて考えることができる。

(1)交感神経刺激
(1)生命危機回避のためのもの

 レム睡眠中は、横隔膜を除く骨格筋の活動が低下し、低換気となっている。慢性閉塞性肺疾患(COPD)や睡眠時無呼吸症候群の患者では、低酸素血症が悪化し、生命が危機にさらされるため交感神経が緊張し、覚醒反応が起こる。その結果、睡眠が分断されて、睡眠の質が低下する(参考文献11)。

 心不全では重症になるに従って、不眠の訴えが増加する(参考文献12)。心機能を維持するために交感神経が過緊張となるため、不眠が起こる。

(2)甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の異常による交感神経刺激

 過剰な甲状腺ホルモンが交感神経を刺激するため、バセドウ病では不眠を合併することが多い。TSHに制御されているが、甲状腺ホルモンの分泌には日内変動があり、メラトニンの光による調整との関連が研究されている。

(3)尿意による交感神経刺激

 妊娠によって子宮が拡大すると、膀胱が物理的に圧迫される。この刺激が交感神経を刺激し、夜間の覚醒頻度が増す。

 糖尿病患者の夜間頻尿も、交感神経が刺激されることによる。

(4)交感神経を刺激する物質の摂取

 カフェインやニコチンなど交感神経刺激作用を持つ嗜好品の摂取で不眠が起こる。

(2)セロトニン、ノルアドレナリン、メラトニンの作用不足
(1)精神疾患

 うつ病では、セロトニンの分泌量や利用の低下が起こっている。また、NA作動性ニューロンの減少により、神経終末からのNAの放出が減弱する。その結果、メラトニンの分泌も減少し、不眠を引き起こすと考えられている。アルコール依存症、不安神経症、パニック症候群、統合失調症などでも睡眠障害が起こる。

 双極性障害でも不眠が起こるが、その治療薬である炭酸リチウム(商品名リーマス他)やバルプロ酸ナトリウム(デパケン他)は、光によるメラトニンの分泌抑制を減弱することが報告されており、その関連性が研究されている(参考文献4)。

(2)メラトニンの分泌異常

 大陸間を移動するような旅行や夜間勤務、災害時などの劣悪な睡眠環境では、メラトニンの分泌異常が起こり、睡眠が障害される。

(3)コルチゾールの分泌異常
 クッシング症候群では、副腎皮質ホルモンが過剰分泌され、過覚醒や精神運動亢進が起こり不眠になる。

(4)ヒスタミンの感受性亢進
 アトピー性皮膚炎では、皮膚のヒスタミン感受性が夜間に亢進することが知られている(参考文献13)。

(5)プロゲステロンの分泌変化
 月経の黄体期に、プロゲステロンの分泌が増える。プロゲステロンには催眠作用があるが、一方で深部体温を上昇させる1)。深部体温が上昇すると寝付きが悪くなる。閉経後は、ホットフラッシュやのぼせが起こり、中途覚醒が起こることが多い。

(6)痛みやしびれ
 疼痛を伴う疾患には、不眠の合併が多い。癌、線維筋痛症、関節リウマチ、パーキンソン病などでは60%の患者に、不眠が認められるとされる13)。痛みの受容器である侵害受容器からの上行性侵害受容経路は、前述した脳幹にある覚醒系の神経核である縫線核や青斑核にも投射される。これらの神経核は、慢性疼痛の制御に働いているといわれている6)

 糖尿病患者でも、末梢神経障害によるしびれや疼痛によって不眠を訴える。また、逆流性食道炎では、胸やけや胸部不快感、咳などで、入眠困難などの睡眠障害を訴えることが多い。

 高齢者では、むずむず脚症候群による不眠がある。入眠時や就寝中に下肢にむずむず感や虫がはうような異常感覚を感じるため、睡眠が障害される。電解質の異常を来しやすい透析患者や鉄欠乏を起こしやすい妊婦でも、よく起こることが知られている(参考文献1)。

薬が原因で起こる不眠

 薬の副作用で不眠が起こる原因は、以下の通り。

(1)交感神経刺激
(1)交感神経刺激作用を持つ薬物

 テオフィリン(テオドール他)、エフェドリン塩酸塩、β刺激薬で不眠になることがある。また、多動性障害に使用するメチルフェニデート塩酸塩(リタリン、コンサータ他)や食欲抑制薬のマジンドール(サノレックス他)、ニコチンを含む禁煙補助剤でも不眠が起こり得る。

(2)二次的に交感神経を刺激する薬物

 甲状腺ホルモン薬の服用により、脈拍の増加が起こり、それに伴って不眠が起こる。

(2)セロトニン、NA分泌への影響
(1)向精神薬

 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、覚醒時間を長引かせて総睡眠時間を減少させる。SSRIは、薬の種類にかかわらず不眠が5~20%に発現し、そのため日中の眠気、鎮静が増加する(参考文献2)。また、むずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群を悪化させることが知られており、それに伴う不眠も起こり得る(参考文献14)。

 精神神経用薬で、催眠や鎮静作用のある薬の長期使用や離脱時には、不随意運動や異常感覚が出現し、不眠の原因となることもある。さらに、急にこれらの薬物を中止すると、反跳性不眠が起こることがある。

(2)その他

 抗パーキンソン病薬は、種々の神経伝達物質に影響し、総睡眠時間を減少させる。レボドパ・カルビドパ水和物(メネシット他)で75%に不眠が発現するとも報告されている6)。アマンタジン塩酸塩(シンメトリル)も同様である。

 インターフェロンは、不眠やうつ病を惹起することが多い。また、β遮断薬でも不眠が起こる。特に、脂溶性の高いβ遮断薬は、中枢に移行してNA作動性ニューロンの活動を抑制する。これは、橋でのコリン作動性ニューロンの脱抑制を起こし、ノンレム睡眠からレム睡眠への移行が誘発されやすくなり、夢を見やすくなるからと考えられているが、詳細は分かっていない。

 α2受容体作動薬の塩酸クロニジン(カタプレス他)やメチルドパ(アルドメット)は、30~75%に不眠が起こる(参考文献15)。

(3)メラトニンの分泌低下
 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はプロスタグランジンの合成阻害作用があるため、PGD2の合成も低下する。これがメラトニン分泌の低下につながり、不眠を誘発する。かぜなどの感染症に伴いPGD2が分泌されるが、不用意にNSAIDsを服用すると眠れず、回復が遅れることにもなる。

(4)コルチゾールの日概リズム変化
 副腎皮質ステロイドの服用では、覚醒時間が増加し、浅い眠りの時間が増え、ノンレム睡眠が減少することが知られている。

(5)その他
 日本では使われていないがロバスタチンでは、ポリグラフ上で覚醒時間を増加させることが分かっている。メカニズムは不明だが、他のスタチン系薬でも同様のことが起こると考えられる。

 利尿薬や輸液などは、尿量が増加するため、尿意によって睡眠が妨げられ不眠が起こり得る。また、原因ははっきりしていないがキノロン系の合成抗菌薬でも不眠が見られることがある。

図 薬で不眠が起こるメカニズム

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* * *

 最初の症例では、患者はSLEでプレドニゾロン(プレドニン他)を服用しており、1カ月前にプレドニゾロンが増量されていた。増量後は、1日3回毎食後、1回10mgが処方されていた。通常はコルチゾールの分泌が減少する夕食後の時間帯にプレドニゾロンを服用していたことで、体内リズムが変化し不眠を起こしていたと考えられた。

参考文献
1)内山真、環境と健康2008;21:404-14.
2)山仲勇二郎ら、ねむりと医療 2010;3:65-71.
3) Miyamoto H,J Neurosci. 2012;32:14794-803.
4)海老沢尚、臨床精神医学 2010;39:543-6.
5)桜井武、実験医学 2008;26:1946-53.
6)服部孝道監訳、一目で分かるニューロサイエンス第3版 2009、メディカルサイエンスインターナショナル
7)福田悟ら、麻酔 2007;56:19-29.
8)三島和夫、薬局 2011;62:3271-7.
9) 栗山健一、Cognition and Dementia 2007;6:114-22.
10)栗山健一、日本生物学的精神医学会誌 2011;22:151-6.
11)古川智一ら、臨床と研究 2012;86:791-5.
12)Principe-Rodriguez K,Sleep Breath. 2005;9:127-33.
13)中村真樹、眠りと医療 2010;328-33.
14)田ヶ谷浩邦ら、薬局 2011;62:3307-12.

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