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適応外のエビデンス
薬の副作用による口腔内乾燥症をニザチジンが改善
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

疾患概念・病態

 近年、急速な高齢化を反映して過活動膀胱の患者が増加しており、その治療目的で抗コリン薬の処方が増えている。抗コリン薬は、副交感神経終末から放出されたアセチルコリンと競合して、排尿筋のムスカリン受容体のサブタイプであるM3受容体に結合し、その不随意収縮(排尿筋過活動)を抑制することにより、蓄尿症状を改善すると考えられている(参考文献1)。

 一方でM3受容体は、唾液腺腺房細胞の基底側膜にも存在し、水・電解質の分泌に重要な役割を果たす(参考文献2)。そのため、抗コリン薬の代表的な副作用の一つとして口腔内乾燥症が発現することがあり、患者の生活の質(QOL)を損なう要因となっている。

 また、C型肝炎に対するペグインターフェロン(PEG-IFN)とリバビリンの併用療法時には、口腔内乾燥症をはじめ、味覚異常、口内炎・口角炎・口唇炎、食物摂取困難感を患者が訴えることが多い。中でも口内炎・口角炎・口唇炎は、唾液の減少により口腔内や歯面の清掃作用、潤滑作用が減弱し、細菌の繁殖が増加するため発症すると考えられている(参考文献3)。C型肝炎ウイルスに感染すると唾液腺障害が生じるとの報告(参考文献4)や、C型肝炎患者では扁平苔癬や口腔内癌の発生頻度が高いこと(参考文献5)も明らかになっている(参考文献3)。

治療の現状

 口腔内乾燥症の治療目的で、去痰薬であるブロムヘキシン塩酸塩(商品名ビソルボン他)やアンブロキソール塩酸塩(ムコソルバン他)、シェーグレン症候群に伴う唾液分泌促進薬であるアネトールトリチオン(アテネントール)が、適応外で用いられることがある。

 サリベートエアゾールは、口腔内にエアゾール状の人工唾液を噴霧して一過性に口腔内を潤す補助的治療薬である。効果の持続時間が30分程度と短く、特有な味とにおいがあるため、人前では使用しづらい。

 唾液腺のM3受容体に作用するセビメリン塩酸塩水和物(エボザック、サリグレン)やピロカルピン塩酸塩(サラジェン)も、やはり適応外で用いられることがあるが、多汗、嘔気、下痢などの副作用の発現が多い。その上、過活動膀胱に適応のある抗コリン薬とは相反する作用のため、そもそも併用が懸念される。

 ニザチジン(アシノン他)は、H2受容体拮抗作用による酸分泌抑制に加え、コリンエステラーゼ阻害作用によってアセチルコリンを増加させ、コリン作動性の副交感神経を刺激して、消化管運動を促進する作用を併せ持つ。このコリンエステラーゼ阻害作用を応用し、唾液分泌を促進させて口腔内乾燥症を改善する目的で、ニザチジンが適応外処方されている(表1、2)。

表1 過活動膀胱患者へのニザチジンの処方箋例

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表2 C型肝炎でPEG-IFN/リバビリンの併用療法中の患者へのニザチジンの処方箋例

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 ニザチジンのコリンエステラーゼ阻害作用と、過活動膀胱に対する抗コリン薬の作用は、相反すると考えられる。しかし、両者の併用による問題点は特に報告されておらず、経過は良好である。

ニザチジンの有効性
【過活動膀胱に対する抗コリン薬に起因する口腔内乾燥症】

 抗コリン薬により口腔内乾燥を強く訴えた過活動膀胱患者30例(男性8例、女性22例、平均年齢71.5歳)を対象に、ニザチジン150mgを1回1錠、1日2回(朝夕食後)、8週間投与した。使用中の抗コリン薬は、4例がプロピベリン塩酸塩(バップフォー他)20mg/日、3例がコハク酸ソリフェナシン(ベシケア)5mg/日、13例が同10mg/日、4例が酒石酸トルテロジン(デトルシトール)4mg/日、6例がイミダフェナシン(ウリトス、ステーブラ)0.2mg/日だった。

 ニザチジン投与前、投与4週後、投与8週後の唾液発現量を、サクソンテストで測定したところ、ソリフェナシン群(16例)では1.8g→2.6g→2.9gと有意(P<0.01)な改善を認めた。プロピベリン群(4例)では2.1g→3.2g→3.9gへ漸増(症例不足にて有意差なし)、トルテロジン群(4例)では2.4g→2.7g→2.8g、イミダフェナシン群(6例)では2.4g→3.3g→3.2gだった。全例を合計すると、2.0±1.4g→2.8±1.5g→3.1±1.4gへと有意(P<0.01)に改善した。臨床的には、著効2例、有効8例、やや有効11例、無効9例で、有効率(やや有効以上)は70%だった。

 さらに、ニザチジン投与前、投与4週後、投与8週後の自覚症状を、12項目から成る問診票(症状なし:0点、時々・少し:1点、あり:2点、最高24点)で検討したところ、ソリフェナシン群8.3点→7.6点→7.4点、プロピベリン群10.2点→7点→5点、トルテロジン群6点→7点→6.3点、イミダフェナシン群8.8点→6.8点→6.7点で、いずれも有意差は認められなかった。だが、全例を合計すると、8.4±4.0点→7.2±4.0点→6.8±3.8点へと有意(P<0.05)な改善を示した。臨床的には、著効8例、有効3例、やや有効6例、無効13例で、有効率(やや有効以上)は56.7%だった。

 総合すると、著効1例、有効10例、やや有効6例、無効13例だった(参考文献6)。

【PEG-IFNとリバビリンの併用療法時の口腔内乾燥症】

 PEG-IFNとリバビリンの併用療法を受けたC型肝炎患者で、何らかの口腔内症状を訴えた16例(男性7例、女性9例、平均年齢60.3歳)を対象に、ニザチジン150mgを1回1錠、1日2回(朝食後、夕食後または就寝前)、24週間投与した。

 PEG-IFNとリバビリンの併用療法の経験は、初回8例、再治療8例で、うち2例は3回目だった。自覚症状は、最も強かったのが口腔内乾燥感で75%(12/16例)、次いで口腔内粘稠感、味覚異常、口内炎・口角炎・口唇炎がそれぞれ37.5%(6/16例)、食物摂取困難感が18.8%(3/16例)だった。

 投与前、投与4週後、投与24週後の自覚症状を、0(なし)から10(最重度)までのvisual analog scale(VAS)で測定したところ、口腔内乾燥感は5.44→2.81→1.44、食物摂取困難感は2.06→0.75→0.50、口腔内粘稠感は3.81→1.50→0.75、味覚異常は3.50→1.69→0.75、口内炎・口角炎・口唇炎は3.94→1.50→1.13と、いずれも有意(P<0.01~0.05)に改善した。ニザチジン投与により3ポイント以上の改善を示した割合は、口腔内乾燥感73.3%、食物摂取困難感44.4%、口腔内粘稠感61.5%、味覚異常66.7%、口内炎・口角炎・口唇炎90.0%だった。

 ニザチジン投与開始までのPEG-IFNとリバビリンの併用療法の期間は、平均で13.8週(範囲3~34週)だった。ニザチジン投与後、PEG-IFNおよびリバビリンの用量を変更せずに完遂できたのは13例、いずれかを減量して完遂できたのは3例だった。減量の理由はいずれも貧血と全身倦怠感であり、口腔内症状によるものではなかった。

 ニザチジンによると思われる副作用は認められなかった(参考文献3)。

適応外使用を見抜くポイント

 抗コリン薬またはPEG-IFNとリバビリンの併用療法時に処方されるので、見抜きやすい。

 ただし、これらの治療と前後して、本来の消化器症状の治療目的で、ニザチジンが用いられていることもある。また、抗コリン薬やPEG-IFNとリバビリンの併用療法以外の治療薬によって口腔内乾燥症を発現する場合もあり、その対策としてニザチジンが併用される場合もある。口腔内乾燥症の症状の有無を患者に確認することが重要である。

参考文献
1)日薬理誌2007;129:368-73.
2)日薬理誌2006;127:447-53.
3)Prog Med.2007;27:1001-5.
4)菊池浩吉他編『Annual Review免疫1999』(中外医学社、1998)
5)大和証券ヘルス財団の助成による研究業績集2006;29:155-60.
6)泌尿器外科2010;23:1741-7.

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