消化器内視鏡の分野では、これまでは“観察”が主体でしたが、現在では、生検や出血のリスクが比較的低い処置(バルーン内視鏡、消化管ステント留置など)に加え、ポリープや癌の切除といった出血のリスクが高い処置などの“治療内視鏡”がメーンとなっています。
こうした内視鏡処置を行う際の出血リスクを低減するという観点から、日本消化器内視鏡学会は2005年に「内視鏡治療時の抗凝固薬、抗血小板薬使用に関する指針」を発表しました。同指針では、アスピリンは3日間、チクロピジンは5日間、ワルファリンは3~4日間の休薬期間を提唱しました。
ただ、最近では、一時的な休薬による心血管イベントや血栓塞栓症の発生リスクがむしろ問題視されるようになったほか、内視鏡を行う医師の技術レベルが上がり、出血が起こりにくいという実態も明らかになっています。
そこで、同学会は12年7月に、日本循環器学会や日本糖尿病学会など6学会合同で、これまでの指針の改訂版として、「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」を発表しました(日本消化器内視鏡学会雑誌 2012;54:2074-102.) 。
新しいガイドラインでは、出血のリスクによって、「観察」「生検」「出血低危険度」「出血高危険度」の4段階に分け、抗血栓薬の種類別に、休薬の必要性や再開時期などをまとめています。中でも注目すべきなのは、抗血栓薬を1剤服用している場合、生検や低危険度の処置であれば、休薬せずに施行してもよいとした点です(表1)。ご相談のケースも、ガイドラインに則って、休薬しなかったと考えられます。
ガイドラインでは抗血栓薬を2剤以上服用している場合の対応もまとめていますので、参考にしてください。
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