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薬歴添削教室
静脈血栓リスクの高い多剤併用患者へのケア
日経DI2012年12月号

2012/12/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年12月号 No.182

 今回は、かむい中央薬局に来局した71歳男性、竹中雄治さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。竹中さんは総合病院の3つの診療科(糖尿病内科、膠原病内科、循環器内科)にかかっており、合わせて10種類以上の薬を処方されています。転居をきっかけに、自宅近くのかむい中央薬局に来局しました。いつも奥様が薬を取りに来られ、今回検討した経過の中では、患者本人は一度も来局していません。

 長い治療経過がある上に、ハイリスク薬を含む多剤を併用している患者に対して、どのようにアプローチすればケアの幅を広げていけるのかに着目して、オーディットを読み進めてください。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師AとB、症例検討会での発言者が薬剤師C~Jです。(収録は2012年6月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
かむい中央薬局(北海道旭川市)

 かむい中央薬局は、北海道旭川市で11店舗の保険薬局を展開する株式会社中央薬局が1985年10月に開設した。応需している処方箋は月1000枚ほど。応需医療機関数は30施設ほどで、内科からの処方箋が最も多い。

 同薬局には、20代1人と50代1人の薬剤師が勤務している。薬歴は手書きで記載している。

 薬歴には、少なくとも法令で定められている項目は記載するようにしている。また、効果や副作用の発現状況、服薬コンプライアンス、他科受診といった患者の薬物療法の状況のほか、調剤上の注意点、治療に対する希望や不満・不安などの患者の考え方についても情報収集を行い、薬歴に記載することで、患者の全体像をつかむように心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まずは薬歴の表書きを見ていきましょう。副作用歴やアレルギー歴は「ない」ことを確認しています。特記事項の欄には、経過の中で起こったことが転記されています。その他は空欄ですが、未確認ということですか(薬歴(1))。

A はい。実は初回もそれ以降も、奥様から話を聞いています。

早川 一般に、表書きには患者の基本情報を記載します。未確認の場合はその旨を明記しておいた方がよいでしょう。また、症例によっては、嗜好品の摂取状況や病歴などが重要になるので、きちんと記載しておくようにしてください。

 では、初回の2011年12月7日の薬歴を見ていきましょう。どのような経緯で来局されたのですか。

A 最近、こちらの地域に転居して、自宅近くのかむい中央薬局に来局したとのことです。表書きには書いていませんが、お薬手帳は初回に確認しました。

早川 表書きの特記事項に、吸湿性について確認して了解を得た上で、グルコバイOD錠(一般名アカルボース口腔内崩壊錠)とアマリール(グリメピリド)を含めて一包化すると記載されています(薬歴(2))。薬学的に見て、グルコバイの吸湿性の影響はどの程度であると考えられますか。

H 飲み忘れなく、きちんと飲めていれば、吸湿性があっても大きな問題はないと考えられます。ただ、グルコバイOD錠は錠剤の表面がざらついていて、吸湿すると崩れるのではないかと心配だったので、初回はヒートでお渡ししました。その後、薬剤師が患者さんの自宅に行く機会があったので、以前の薬局で一包化されていたものを見せてもらい、薬局に戻って一包化しました。

早川 剤形を考慮しながら、個別の症例において影響度を検討することは重要です。その他に気になることはありますか。

C ロキソニンテープ(ロキソプロフェンナトリウム水和物)とメチコバール(メコバラミン)の処方意図が分かりません。

早川 皆さんはどう思いましたか。

A 糖尿病神経障害。心不全か不整脈があるので、メキシレチン塩酸塩は使えなかったのだと思います。

早川 ロキソニンテープも、しびれがあることの関連で処方されたとも考えられますね。

C ただ、しびれに対してはサイズが大き過ぎるようにも思います。

糖尿病、高血圧、心不全などが浮上

早川 ここで、初回の処方内容から推測される疾患をリストアップしてみましょう(薬歴(3))。患者の家族からは、疾患に関する情報は得られていません。まず、糖尿病はあると考えられます。他にはどのような疾患が挙げられますか。

C オルメテック(オルメサルタンメドキソミル)は、高血圧にしか適応がないのでは。

D アムロジン(アムロジピンベシル酸塩)も、この用量なら高血圧に対してではないでしょうか。チラーヂン(レボチロキシンナトリウム)が膠原病内科から出ているので、川崎病が考えられますが、男性では川崎病は少ないはずです。

C ノイファン(アロプリノール)が出ているので高尿酸血症が考えられます。

D 心不全。利尿薬を長期に飲み続けていると尿酸値が上がりやすいので、アロプリノールが処方されている可能性もある。

A アンカロン(アミオダロン塩酸塩)、アーチスト(カルベジロール)、ラシックス(フロセミド)が処方されているので、不整脈が考えられます。服用期間にもよりますが、アンカロンの長期服用に伴う甲状腺機能障害に対して、チラーヂンが出されている可能性もあります。あと、ワーファリン(ワルファリンカリウム)が何に対して処方されているかが最重要です。

早川 薬の影響と内分泌疾患のいずれの可能性も考えられるということですね。ワーファリンについては後ほど整理しましょう。この患者さんは、いつから薬を服用しているのでしょうか。

A お薬手帳を確認した限りでは、1年以上は飲んでいるようでした。

早川 経過記録の「効能を指示、以前より飲んできているので分かっていた」というのは、担当薬剤師のアセスメントですね(薬歴(4))。

A 「不整脈など実感出ていない」というのは、奥様の言葉です。

早川 そうすると、「安定している様子」というのも、薬剤師のアセスメントですね。どこまでが患者さんが話した情報で、どこからが薬剤師の考えたことかを明確にしておくようにしましょう。

ワーファリンの適切性は?

早川 続いて2012年1月18日の経過記録を見ていきましょう。受診間隔は特に問題ないようですね。ワーファリンの用量に変化はありません。ウレパール(尿素)とリンデロン-VG(ベタメタゾン吉草酸エステル/ゲンタマイシン硫酸塩)が新たに処方されています(薬歴(5))。外用薬の用法として「痒いところ」とありますが、何に対して処方されたと思いますか。

D 老人性の乾燥肌。

C 肝機能低下。そこまで悪化しているかどうかは不明ですが……。

早川 起こり得ることを挙げる姿勢は大事です。そのような視点を持てば、例えば顔色を見て肝機能をある程度評価するなど、対応につながります。

E ロキソニンテープによるかぶれ。

F 糖尿病と高血圧があり、ラシックスも出ているので、腎機能が低下したことによって皮膚が乾燥してきたのではないでしょうか。

C リンデロン-VGにはゲンタマイシンが配合されている点が気になります。皮膚をかき過ぎて傷つけてしまったのかもしれません。

早川 担当した方はどう思いましたか。

A 正直なところ、内服薬を一包化することによる弊害ばかりに目が行っていて、そこまで検討していませんでした。

早川 では、ハイリスク薬について見ていきましょう。ハイリスク薬管理シートには「ワーファリンも一包化のため出血(消化管・皮膚・鼻血など)には注意」とあり、きちんと指導されたことが分かります。ワーファリンの一包化についてはいかがでしょうか(薬歴(6))。

A 改めて考えてみると、重要性を説明して、別包にすべきだったかもしれません。

G ただ、先ほど推測した現病歴からすると、生活習慣の乱れが影響していると考えられるので、一包化しなければ服薬コンプライアンスが低下する可能性が高いと思います。

早川 ワーファリン投与の適切性についてはいかがでしょうか。初回に心不全や不整脈があると推測しましたが、一般にワーファリンはどのような病態に用いられますか。

D 弁置換術など心臓外科手術後。

B 血栓、心房細動。重篤な不整脈。

A 脳梗塞、心筋梗塞。

早川 そのほか、狭心症の段階であっても、虚血性心疾患の二次予防のために経皮的冠動脈形成術(PCI)や冠動脈バイパス手術(CABG)などの処置を行った場合に使われることがあります。少なくともこれらの疾患や経過については、できればこの2回目辺りの早い時期に確認しておきたいところです。ちなみにアーチストは、心不全と高血圧のどちらに使われていると思いますか。

C 判断は難しい。心不全に対して段階的に用量を上げた結果、10mgになっている可能性はありますが、その場合、病状はかなり悪いと思います。

早川 その点まで確認できれば、患者さんの重症度を判断できますね。聞き方は様々ですが、いつから飲んでいるのかは一つのキーポイントになります。

A これまでのお薬手帳を全部見せてもらうとよかったですね。

早川 他に気になることはありますか。

I 循環器内科でウルソ(ウルソデオキシコール酸)が処方されています。胆道系疾患があるのか、検査で肝機能低下が認められたから処方されたのか。肝臓に負担が掛かる薬も出ていますし、糖尿病もあるので気になります。

C お酒を飲み過ぎているということはないでしょうか。

早川 単に嗜好品の摂取状況を形式的に確認するのではなく、必要性が出てきたから確認・評価するという流れは良いと思います。他にありませんか。

F 食事・運動療法の状況が不明です。納豆の摂取状況はもちろん、糖尿病の療養指導の観点から、食事指導を受けているのかも分かりません。運動についても、散歩もできないほど体力が低下しているのでしょうか。

早川 心不全の程度によっては、運動が制限されます。一方で、糖尿病の観点からは運動は推奨されます。非常に良い視点です。

血糖降下薬の用量や処方日数に変化

早川 続いて2月15日には、アマリールが増量されました(薬歴(7))。ここで、糖尿病がアクティブなプロブレムとして浮かび上がってきました。先ほど、糖尿病に対する一つのアプローチとして、心不全との兼ね合いを見ながら食事・運動指導を行っていくという方法が挙がりましたが、その他に糖尿病管理について考察できることはありますか。

D 糖尿病手帳を持っているかどうかを尋ね、HbA1c値を確認します。

A 低血糖への注意喚起。ブドウ糖の備蓄状況や品質を確認します。

早川 糖尿病が悪化すると他への影響も出てきますが、注意すべき合併症には何がありますか。

A 末梢神経障害。

F 網膜症、腎症。長期的には動脈硬化。

A 血栓、塞栓。

早川 それらが最も危険な合併症ですね。大血管障害も含めた予後について、患者さんや奥様はどのように認識しているのでしょうか。

A 対応した際の印象では、奥様は私たちの話には一生懸命耳を傾けてくれました。

J 患者さんは具合が悪くて来られないのでしょうか。病院には行っているが、疲れてしまって薬局までは来られないとか、奥様に任せ切りになっているとか、色々な背景が考えられます。

早川 ご夫婦の生活スタイルを把握することで、どのようなアプローチをしていくかにつながりますね。

G 一度自宅に伺って、患者本人にお会いした方がいいかもしれません。

F 処方日数が42日、28日、21日と徐々に短縮されているのが気になります(薬歴(8))。医師が経過を心配しているのかなと思いました。

早川 処方内容に変更があったのは糖尿病内科のみですが、3科の間でどのように処方日数を調整しているのでしょうか。

C 一度に受診しないといけないほど病状が良くないのかもしれません。

A 前回一包化にしているので、そろえたのでしょうか。

早川 色々な可能性が考えられますね。ここまでを整理すると、アクティブな問題として糖尿病が浮かび上がりました。また、病態の管理がままならないかもしれないという推測も出ました。そこから考えると、ワーファリンが関わる心不全や心房細動についても、アクティブなプロブレムである可能性があります。そのようなことについて次回以降、継続的に注意していくために、できれば薬歴に記載しておくといいでしょう。

一歩踏み込んだ入院経過の把握を

早川 続いて3月21日の薬歴を見ていきましょう。処方日数からすると約2週間遅れています。

A 薬が切れているはずなので、「どうしていたのですか」と聞いたところ、「入院していました」と奥様が話してくれました(薬歴(9))。「なぜ入院していたのですか」と尋ねたら、「ちょっと肝臓が……」とおっしゃっていました。肝臓以外の要因があったかどうかは分かりません。

早川 肝臓で何かイベントがあったのでしょうか。

D 肝臓のイベントだったら、ウルソが6錠になるのでは。

I 教育入院でしょうか。

A 退院してきたとのことだったので、「医師からの指示はありますか」と聞いたのですが、外来で治療を受ける上での注意点は「特になし」とのことでした。切り口を変えたり、もう少し踏み込めば詳しく話を聞けたかもしれません。

C グルコバイが中止になってエクア(ビルダグリプチン)が出ていることに関しては、肝機能と糖代謝の関係で血糖コントロールが乱れた可能性も考えられます。

D 入院中は肝庇護薬で落ち着いていたのかもしれません。

早川 グルコバイからエクアへの切り替えは、血糖コントロールの観点からは強化されたと見ますか。

D はい。

早川 そうすると、当然それに対する指導・対応が必要になってきますね。具体的には、どのようなことに注意して対応しますか。

A アマリールが一包化から外されたので、きちんと服用しているかどうか確認する必要があります。

早川 では、続いて4月18日です。服薬コンプライアンスについては確認しています。表書きを見ると、これとは別に4月19日に患者さんから質問があったようですが、どのような状況でしたか(薬歴(10))。

B 18日の来局時に、奥様が「この前からサプリを飲んでいるけど、名前が分からないので今度袋を持ってきます」とおっしゃって、次の日に再度来局されました。服用していたのはアホエンというサプリメントです。調べてみたところ、抗血栓作用があるようなので、ワーファリン服用中は飲まない方がいいことが分かり、そのように説明しました。

G 入院中に病院薬剤師にも相談しながら、もう一度薬局で聞いてくれたということは、だいぶ信頼関係が築けているのではないでしょうか。

D 一方で、病院で「飲まない方がいい」と言われたにもかかわらず、薬局で再び尋ねるということは、患者はそのサプリに強い思い入れがあるのかもしれません。

早川 信頼関係ができ、検査値などについても聞き出せる段階に来ているといえそうです。薬剤師としてどのような情報があればどのような対応ができるのか、常にアウトプットを考えて対応することが求められると思います。

かむい中央薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

江尻 八敏氏

 薬歴の情報源が奥様であることを明記しておくべきだったと思いました。また、内服薬ばかりに目がいってしまい、外用薬まで気が回らなかったことに気づきました。長期にわたって服薬している患者さんは多いので、服用年数や、現在の処方に至った経緯などについても情報収集して、薬歴に記録していきたいと思います。

堀籠 大之氏

 今回オーディットに参加して、普段はその場限りの対応しかできていなかったことを痛感しました。薬剤師の意思決定のプロセスが少し分かるようになってきましたが、トレーニングを重ねなければ真の意味では難しいのかもしれないと思っています。

全体を通して

早川 達氏

 今回の症例は、患者本人が来局しない状況でした。そのため、まず行ったのは「推論」でした。今日のディスカッションでは、限られた患者情報と処方箋から推論した病態を念頭に置いて、次回からの処方の展開や奥様との会話から得られた情報を合わせて考えることで、さらに確認した方がよいことが明確になっていったり、始めは推論だったものが確かめられていったりできるということを理解していただけたと思います。私たちがこのような臨床推論の思考の流れと必要な知識を身に付け、その時々に応じた対応をすることによって、一歩一歩患者さんに近づいていくことが可能となります。また、具体的に介入したりケアの糸口を作っていく技術も、プロとして必要なことです。

 一方、それだけでは限界があるということも理解していただけたと思います。最終的には、相手(患者本人)が見える状態に持っていくことが大切です。そのためには、そのような状態をこちらから積極的に作っていったり、普段から信頼関係を築く対応を心掛けることが欠かせません。今日のディスカッションで確認した流れは、どのような患者の対応にも応用できますので、今後の薬歴管理業務に生かしていってください。

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