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特集:調剤事故
Part.2 薬剤師会・薬局の過誤発生時対応マニュアル
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

 調剤過誤が発生した場合に備えて、対応マニュアルの整備は欠かせない。ここで紹介する薬剤師会や薬局は、過誤時の連絡や対応の流れを分かりやすく示し、混乱した状況でも薬剤師がすぐ行動できるようにしている。

 埼玉県薬剤師会理事で、ふれあい薬局(埼玉県飯能市)を経営する池田里江子氏は、「2011年8月、ウブレチド事件で前埼玉県薬会長が書類送検されたときは、埼玉県薬剤師会が激震した。薬剤師会の一員として何か対応しなければならないと思い、調剤過誤が起こったときの対応が一目で分かるマニュアルを、県薬の社会保険委員会の委員で作ることにした」と話す。このような事件を繰り返さないためには、過誤が分かって薬剤師が動揺していても適切な対応ができる、分かりやすいマニュアルが必要だと痛感したからだ。

埼玉県薬剤師会の池田里江子氏は、「ウブレチド事件をきっかけに、対応マニュアルを整備した」と話す。

 そうして出来上がったのが、「調剤事故・過誤対応フローチャート」だ。医師会や大学、県薬務課などの有識者から構成される同薬剤師会の薬局医療安全委員会で承認を得て、同薬剤師会のマニュアルとして発行した。池田氏は、「急ピッチで作業を進め、11年9月の作業開始から3カ月後の保険薬局講習会で、完成したマニュアルを会員に配布した。その後も研修会などの機会があるごとに紹介し、マニュアルを会員に周知している」と話す。

服用前後と健康被害有無で大別

 同薬剤師会のフローチャートで画期的なのは、「A:患者から過誤を知らせる第一報の電話があったとき」から始まり、「B:服用後で健康被害がある場合」「C:服用後で健康被害がない場合」「D:服用前で健康被害がない場合」と場合分けをし、対応例を具体的に示したところだ(図2)。

図2 調剤過誤の分類
(埼玉県薬剤師会「調剤事故・過誤対応フローチャート」を一部改変)

 患者から過誤の第一報があったとき(A)は、図3の「初期対応シート」に基づき、トラブルの内容、服薬の有無、体調変化、受診勧告、謝罪などを、チェックボックスにチェックを付けながら漏れなく確認する。患者の安全確保を行い、トラブルの概要を聞き取った後は、事実を精査して処方医に連絡するために折り返し電話すると伝えてから、いったん電話を切る。

図3 過誤を知らせる最初の電話への対応(図2A)
(「調剤事故・過誤対応フローチャート」)

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 次に、(B)~(D)の3パターンの対応マニュアルに移る。迅速かつ適切な対応が必要な「服用後で健康被害がある場合」(B)の対応マニュアルを見てみよう(図4)。薬歴や処方箋などの記録を確認してから処方医の判断を仰ぎ、速やかに患者に電話で返答をする。そして患者宅を訪問して、説明や謝罪を行う。

図4 過誤による薬を服用後で健康被害がある場合(図2B)の対応 (「調剤事故・過誤対応フローチャート」を一部改変)

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 患者への初期対応が終了した段階で、同薬剤師会の薬事情報センターに連絡する。「薬剤師会は、過誤を起こした薬局をフォローする体制を整えているので、調剤過誤の経過と対応後の報告は必ず行ってほしい。情報が正しく伝わるよう、報告書の様式も作り直した」と池田氏。新しく作成した報告書は、「計数の誤り」「秤量・計量の誤り」など、過誤の原因をあらかじめ列挙しており、できるだけ文章を書き込まなくても済むように配慮した。

 またフローチャートでは、(C)(D)に該当する健康被害がない場合でも、日本医療機能評価機構の「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」に報告するよう指示している。同事業では、全国の参加薬局から収集した事例を基に、どのようなケースで過誤が起こりやすいかを分析して同機構のウェブサイトで公表している。池田氏は、「ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業に報告することで、過誤に向き合う姿勢を薬局に身に付けてもらいたい。小さな事例できちんとした対応を重ねることが大切だ」と語る。

 日本メディカルシステム(東京都中央区)の笹嶋氏は、「いくら過誤防止策を講じてもヒューマンエラーをゼロにすることは不可能。それならばと、患者が誤った薬を飲んだときの連絡フローを5年前に整備した」と語る。整備に際しては、(1)情報伝達ルートを明らかにする、(2)根拠ある情報を迅速に提供する、(3)1次対応者の行動を明確にする─を重視した。

日本メディカルシステムの笹嶋勝氏は、「薬剤師は、患者が誤った薬を服用したときにもきちんと対応すべき」と話す。

 具体的には図5のように、患者から「誤った薬を服用した」と連絡があれば、最初に話を聞いた1次対応薬剤師が同社の「中毒対応専門薬剤師」に情報を集約。この中毒対応専門薬剤師は、笹嶋氏が担っている。

図5 患者が用法や用量、薬を誤って服用したときの対応フロー(日本メディカルシステム)

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 中毒対応専門薬剤師はリスクと対処法を調べて判断し、1次対応薬剤師にフィードバック。それから1次対応薬剤師が患者への回答や対応を行い、医師に経過も報告する。

 笹嶋氏は常に携帯電話とノートパソコンを持ち歩き、24時間365日、いつ電話が掛かってきてもすぐにパソコンで医薬品情報を検索できるようにしている。携帯電話には、薬局や社員の電話番号のみならず、全薬局について周辺の医療機関、医師、地域の救急相談窓口などの電話番号を登録。緊急時にすぐ連絡を取れるようにしている。

 この連絡フローは、薬局が間違えたか、患者が間違えたかにかかわらず、患者が誤った薬を服用した場合や、用法・用量を誤って服用した場合を対象にしている。そのため、「過誤の結果、患者が誤った薬を服用したという連絡はほとんどないが、患者自身が薬の用量や用法を誤って服用したという連絡は、多いと1日5件もかかってくる」と笹嶋氏。「この取り組みを5年続けてきて、社員が自ら中毒や副作用などのリスクを判断できるようになってきた。今夏からは、緊急の場合は電話で連絡してもらうが、それ以外はメールでの対応結果の報告でもよいこととした」と笹嶋氏は続ける。

報告に「ペナルティーなし」を約束

 同社では、誤った薬を患者が服用していなくても、過誤事例やヒヤリ・ハット事例は、医療安全担当者である笹嶋氏にメールで報告するよう社員に義務付けている。笹嶋氏は、「過誤やヒヤリ・ハットを報告した社員に、ペナルティーは科さないと約束している。過誤やヒヤリ・ハットを起こした社員は、少なからず傷ついている。にもかかわらずきちんと報告してきたこと自体は褒めるべき」と強調する。この約束があるからこそ、社員から報告が上がるのだ。

 実際には、「ピッキングの間違いを鑑査で発見した」「薬袋の表記間違いを投薬時に発見した」など、日々様々な事例が薬局から報告されるという。これらを笹嶋氏がリスクの大きさによって小、中、大、極大、超極大の5段階に分類。加えて、「もし間違えた薬を患者が服用していたらどうなるか」「調剤手順をどう改善すべきか」などを解説したコメントを付けて、週1回各店舗に分析結果をメール配信している。なお、この分析結果は、薬剤師だけでなく事務員も読むこととされている。事務員の薬袋への入力ミスも過誤事例の一つとして起こり得るからだ。

 笹嶋氏の分析結果は、ただメールで送るだけなら、読みもしない薬剤師が出てきてもおかしくない。これを防止するため同社は、毎月1回実施している“10分テスト”の問題に、大、極大、超極大の事例から幾つかを盛り込んでいる(表5)。しかも、「毎月のテストの成績で、上位と下位は、ボーナスの額に反映させている」(笹嶋氏)。ここまで徹底されていれば、誰しも過誤・ヒヤリ・ハット事例の分析結果を一生懸命読まざるを得ないだろう。

表5 月1回の“10分テスト”の例(日本メディカルシステム)

10分テストは、医療安全管理指針などで閲覧が指示されている内容を、確実に薬剤師に読んでもらい、理解してもらうために実施している。

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 「毎週のメールでは、過誤やヒヤリ・ハット事例の分析結果ばかりではなく、しっかり業務に取り組み、鑑査で間違いを止めたなどの“GOOD JOB”事例も載せている。社員の心情に配慮しつつ、一人ひとりに医療安全の意識やスキルが浸透するよう徹底的に取り組んでいる」と笹嶋氏は話す。

 ことの大小にかかわらず、即座に本部の過誤対策室に報告する─。調剤薬局チェーン最大手のアインファーマシーズ(札幌市東区)の過誤発生時のルールだ(表6)。

表6 同社の調剤過誤の定義と対応の原則

 同社では、例えばお薬手帳シールの処方医名が一字違うといったささいな間違いであっても、本部へ報告するよう義務付けている。「患者の手に渡ったものについては、どんなに小さなミスでも『過誤』と定義している」と同社医薬事業部副事業部長で安全対策室室長の三上弘氏は説明する。

「調剤過誤に対する意識をどれだけ高められるかが、過誤防止の鍵」と語るアインファーマシーズの三上弘氏。

 対策室では第一報が入った時点で、過誤の程度によって、(1)薬局で対応する、(2)対策室が対応する、(3)プロジェクトチームを立ち上げて対応する─の判断を行い、指示を出す。

 薬局で対応する場合は、必ず薬局長が患者に連絡する。過誤への対応では、ちょっとした言葉遣いでもトラブルになりかねないからだ。「患者の怒りや不安、体調変化などの訴えを親身になって聞くことが大事。それには経験とコミュニケーション力が問われる」(三上氏)といった理由もある。

 同社経営企画室経営企画課主任の石井僚氏は、以前、薬局長として過誤対応を行った経験から、「患者に連絡を入れる際は、ごまかしたり言い訳したりせず、事実をきちんと説明するのが基本」と話す。「混み合っていたので……」といった言い訳は、決して口にしてはいけない。

「薬局では、毎朝、他店の過誤を紹介し、気持ちを引き締めていた」と語るアインファーマシーズの石井僚氏。

 患者に不安を与えないことも大切だ。そのためには、他剤や規格違いの薬が患者に渡った場合には、即座に処方医にも連絡を取り、患者が服用してしまったときの対処法などを相談しておく。そして患者に「先生にもご報告してありますが、『大丈夫だと思うが、万一、こういう症状が出たらすぐに連絡するように』とおっしゃっていました」といった説明をする。「主治医が把握していると分かると、患者は安心する。過誤発生時には、処方医との連携も非常に大事」と三上氏は言う。

過誤に対する意識を高める

 同社では、独自に構築した調剤過誤管理システム「PREM-S」を使っており、薬局で薬剤師が項目に従って入力することで報告書を作成、送付できるようになっている。提出すべき報告書は、過誤が発覚した当日の送付が義務付けられている報告書(図6)と、1週間以内に送る詳細な報告書の2種類だ。

図6 調剤報告書(速報版)(アインファーマシーズ)

過誤が発覚したその日のうちに、速報版の調剤過誤報告書を提出するよう義務付けられている。

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 報告書は本部対策室で集約され、翌朝までにどこの店舗でどんな過誤があったかがメールで全店舗に伝えられる。同社は、524薬局(2012年10月末現在)を運営しているが、軽微なものを含めていることもあって、過誤報告は、ほぼ毎日あるという。

 各店舗では、それを朝礼で全スタッフに伝える。「他の店舗でのミスを、自分にも起こり得ることと感じて、気を引き締めてもらうことが狙い」(三上氏)だ。1週間以内の提出が義務付けられている詳細な報告書では、過誤が起こった事例に対して、受け付けや調製、鑑査、投薬などで関わった全てのスタッフが、過誤が起こった原因を分析する。それを受けて、ミスを繰り返す店舗には、エリアを統括する支店長が視察、指導に行くよう対策室から指示が入る。「ミスを起こした本人だけでなく、多くの目で過誤の原因や背後要因を分析したり、普段はその薬局にいない者が客観的に見て問題点を洗い出すことが重要」と三上氏。

 同社では、過誤が起こったときの対応を記した名刺大のカード(図7)を、全員がネームホルダーに入れて携帯している。「過誤に対する意識を高めることが過誤防止につながる」と三上氏は語っている。

図7 調剤過誤への対応の流れ(アインファーマシーズ)

過誤の程度によって薬局対応、本部対応、プロジェクトチームによる対応かが決められる。

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 仙台市を中心に11店舗を運営するメディカルコスモ(仙台市青葉区)では、1日の業務終了時に、その日調剤した薬について棚卸しを行い、数量間違いなどの調剤ミスをその日中に発見するようにしている。レセコンのデータを用いて品目ごとに、前日からの繰り越し数量からその日に使用したはずの数量を引き、あるべき在庫数(理論在庫数)を計算。実際の在庫数(実在庫数)と合致しているかを確認する(写真1)。

写真1 日次棚卸しの様子(メディカルコスモ)

その日に処方があった薬について理論在庫が書かれたリストを見ながら、実際の在庫数と突き合わせてチェックする。

 この日次棚卸しを行うようになったきっかけは、月に1回行っていた棚卸しで、理論在庫数と実在庫数が合わないことに疑問を感じたことだった。「銀行では1円たりとも間違ってはいけないのと同じで、薬局も1錠まで合わないといけないはず。にもかかわらず、レセコンで計算させた在庫数と、実際の在庫数が合わないことがしばしばあった」と日次棚卸しに取り組んできた同社業務課課長の丸山進氏は振り返る。

 そこで毎日、業務終了後に棚卸しを行い、チェックするようにしたわけだが、やってみると「それまでは気づかなかった数量間違いなどの過誤が、思った以上に多いことが分かった」と丸山氏。以来、過誤が起こっていることを早期に発見するために、日次棚卸しを全店舗で取り入れるようにした。

 日次棚卸しをした結果、在庫数が合わなかった品目については、レセコンからその薬を投与した患者の一覧を出力し、患者に連絡する。「早く気づけば、間違った薬を渡してしまったときにも、服用前に止められる。万一、服用してしまっていたとしても、継続的な服用を防ぐことができる」(丸山氏)。

 重大な調剤事故は、患者が間違った薬を飲み続けることで起こっていることが多いが、日次棚卸しはそれを防ぐ非常に有効な手段といえる。

 さらに丸山氏は、「患者から指摘されるのではなく、こちらから連絡することで、感謝されたり信頼を得られることも多い」と、過誤発生時のトラブル防止にも効果的だと話す。

薬の写真で患者を特定

 毎日の棚卸しは手間が掛かると思われがちだが、同社リフレ薬局塩釜店(宮城県塩竈市)薬局長の古沢淳氏は、「1日200枚程度の処方箋を応需しており、動く薬は1日200品目程度。スタッフ全員で手分けすれば10~15分程度で終わる」と説明する。

「写真によって患者がすぐに特定できるようになり、対応がスムーズになった」と話す、リフレ薬局塩釜店の古沢淳氏。

 ただ、この方法には数量の不一致が見つかった場合に、どの患者に間違った薬を渡したかが特定できないという問題点があった。該当する薬が処方された患者に、片っ端から電話をかけていくしかなかったのだ。「正しく調剤した患者にも電話をすることになり、余計な不安を与えることにもなりかねなかった」(古沢氏)。

 そこで、同薬局では昨年の10月から全ての患者の薬を、投与する前にデジタルカメラで撮影(写真2)。日次棚卸しで数量不一致があった場合は、レセコンでその薬が処方されている患者の一覧を出力し、処方箋とともに写真を突き合わせて、間違った薬が渡った患者を特定するようにした。写真を撮る作業は、「慣れればほとんど手間と感じない」と古沢氏。薬袋を一緒に撮影して患者名が分かるようにすることと、錠剤のヒートはずらして枚数が分かるようにするのがコツだ。

写真2 投薬前の薬剤の撮影(メディカルコスモ)

薬を患者一人分ずつデジタルカメラで撮影。日次棚卸しで数量の不一致が見られた際には、写真を確認して、間違った薬が渡った患者を特定する。

 導入後、同薬局でクラリシッド(一般名クラリスロマイシン)を20錠投与すべきところ10錠だけ投与されていた過誤が発生したが、該当患者が47人いたにもかかわらず、わずか5分程度で患者を特定することができた。また、六君子湯を調剤すべきところ当帰芍薬散を調剤してしまったケースでは、その日に当帰芍薬散が誰にも処方されておらず、同薬の棚卸しがなされなかったため薬剤を特定できなかったが、写真によって当帰芍薬散を渡していたことが発見できた。

 「どういうミスをしたかをこちらがきちんと把握していることで、患者の受け止め方がずいぶん違ってくる」と古沢氏。毎日の棚卸しと写真撮影といった地道な工夫が、過誤後の迅速かつ的確な対応を可能にしている。

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