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医師が処方を決めるまで
緑内障
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

講師
吉川 啓司
(吉川眼科クリニック院長)

講師から一言
 吉川眼科クリニック(東京都町田市)院長の吉川氏は、緑内障診療に最も興味を持ち、きめ細かい処方を中心とした診療の傍ら、全国各地で医療従事者向けの講演を行っている。「緑内障は『超』が付くほどの慢性疾患であり、放置すれば確実に悪化します。しかし自覚症状は乏しく、通院や点眼治療が不規則になりがちです。そこで薬剤師の方々には、治療の継続性に配慮した対応を心掛けていただきたいと思います」。

 緑内障の治療の方法は、病型や重症度によって大きく異なるが、治療の目標は視野障害の進行を防止し、個人にとって十分な見え方(quality of vision:QOV)を確保することである。

 わが国における緑内障臨床は、この10年間で大きく変わった。緑内障疫学調査(多治見スタディー)で、緑内障の大半が、正常眼圧緑内障(NTG)であることが明らかになり、治療対象が眼圧の高い緑内障だった以前とは、様相が異なってきたからである。

 一方、緑内障治療の大枠は最近10年間で大きく変わっておらず、「眼圧を下げること」に尽きる。視神経を直接的に救済できる手段がまだ確立されていないからである。

 緑内障の眼圧を下げる際、まず視野障害の重症度などを勘案し、目標とする眼圧レンジ(目標眼圧)を設定する。その考え方については10年以上前から提案されていた。しかし、わが国で標準的方法としての位置を確立したのは、2003年に発表された『緑内障診療ガイドライン』がきっかけとなった。

 さらに、最近では「より低い眼圧」を目標に設定することが多くなった。NTGが治療対象の大半を占めることに加え、高齢化社会の中で長期的なQOVの維持が求められており、視野障害が悪化するリスクを最小化するには、より低い眼圧を目指すことが求められるからである。

 より低い眼圧は、一時的に達成されればいいわけではない。慢性疾患である緑内障では、治療の中断が失明の大きな要因で、低い眼圧の維持が重要である。しかし、これには患者側が治療に積極的に向き合うこと(アドヒアランス)も求められ、治療における利便性への配慮や緑内障に関する諸情報の提供など、医療者側からのアプローチも欠かせない。

 眼圧を下げる際に使用する点眼薬は、約10年前に1日1回の点眼で、しかも、優れた眼圧下降効果を有するプロスタグランジン関連薬(PG)が発売されたのを契機に種々の薬剤が開発され、緑内障治療に貢献している(表1)。

表1 緑内障治療に用いられる主な点眼薬

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 本稿では、最近10年間における緑内障診療の特徴を踏まえた上で、日常診療でよく遭遇するケースを紹介しながら、薬剤選択について解説する。

正常眼圧ではまずベースラインから 20%減を目標眼圧とする

 最初に紹介するのは、NTGの48歳男性の症例である。

 緑内障は自覚症状に乏しく、検診やドックなどで緑内障を疑われて、眼科を受診する症例が多い。以前は緑内障を疑われる理由の大半が、眼圧の高さであったが、日本の緑内障の大半がNTGであることが明らかになり、「視神経乳頭(乳頭)変化」により、緑内障を疑われることが急増している。

 本症例も会社検診で、眼圧値でなく乳頭変化から緑内障を疑われ、当院を受診した。検査により明らかな陥凹拡大などの乳頭障害と、これに相応した視野障害も認めた(図1)一方、眼圧は14~16mmHgと正常範囲で、NTGと診断した。

図1 症例1の視野計測結果

 ガイドラインにも記載されているが、緑内障の病態の本態は視神経の病的変化であり、リスク要因としての眼圧を、その高低にかかわらず、下げることが治療の本質である。そこで、眼圧が正常範囲であるNTGでも、さらに眼圧の下降が求められる。

 目標眼圧の設定方法は様々だが、代表的なのは無治療時の眼圧を数回測定し(これをベースライン眼圧とする)、これから20%下げる方法である。本例では治療前に3回測定したところ、15~16mmHgであったので、その20%減である12mmHgを目標眼圧と設定した。

 点眼薬はPGの1つであるキサラタン(一般名ラタノプロスト)を処方した。約10年前に登場したPGは、現在、使用可能な緑内障点眼薬の中で眼圧下降作用が良好であり、点眼治療の第一選択と位置付けられているからである。

定期的に点眼できない症例には1日1回の製剤を薦める

 次に紹介する症例も、検診で乳頭陥凹を指摘され近医を受診し、乳頭出血を認め、緑内障と診断された43歳の女性である。

 その後、当院に紹介受診となったが、左眼の緑内障性乳頭陥凹拡大と下方の視野障害(図2)を認めた。ベースライン眼圧を把握するため、数回の間、無治療で経過観察とした結果、眼圧は15~16mmHgだった。

図2 症例2の視野計測結果

 治療開始に当たり、まず、PGを第一選択と考えて薦めた。しかし、PGの副作用である眼瞼色素沈着や眼瞼周囲の多毛化の副作用を説明したところ、美容上の観点から同意が得られなかった。そこで、β遮断薬のチモプトール(チモロールマレイン酸塩)を処方した。

 処方後約6カ月までは、眼圧は13mmHg前後に下降しており、眼圧目標値を達成したと考えた。

 しかし、その後、2カ月おきに眼圧を測定したところ、13~16mmHgで大きく変動していた。そこで、点眼状況を確認したところ、点眼時刻がまちまちであることが判明した。

 日常生活が多忙であれば、点眼薬を規則的に使用しにくい。そこで、初診から10カ月後には1日1回型のチモプトールXEに変更し、点眼時刻も夜に比べ規則性が維持されやすい朝に固定することとした。

 処方の変更以降、眼圧は12~13mmHgに安定した。

 緑内障性視野障害は自覚症状に乏しいため、点眼が1日2回必要となる点眼薬では、2回目の点眼を失念してしまうことが散見される。1回型の点眼はアドヒアランスの確保の点から有用と考えられる。

投与回数の多い患者には配合剤でアドヒアランスを維持

 緑内障治療において、単剤でコントロールが難しい症例では、機序の異なる薬剤を組み合わせ処方する。次に紹介する54歳の女性もそうした一例である。

 仕事中に右眼で見るとパソコン画面の一部が欠けて見えることに気づき、当院を受診、右の乳頭陥凹拡大があり、乳頭出血も認めた。視野検査では鼻側および固視点付近の視野欠損があり(図3)、このため仕事中に「見にくさ」を自覚したものと推測した。

図3 症例3の視野計測結果と眼底写真

 眼圧は18~20mmHgだった。固視点付近の視野障害があるため、目標眼圧は13mmHg以下とし、第一選択としてPGを薦めたところ、「病気の治療が一番なので、副作用は気にしない」と納得されたため、処方した。

 点眼を開始して半年後、眼圧は14~15mmHgに下降したが、当初設定した目標眼圧には至らなかった。そこで、初診から8カ月後に更なる眼圧下降を期待し、β遮断薬を追加したところ、眼圧は12~13mmHgに下降し、眼圧目標を達成できた。

 しかし、点眼回数が増加したことが気になっていたので、患者にその点を尋ねたところ、「頑張って、なるべく時間通りに点眼するよう努力しているんですが…」とのことだった。真面目な方で治療にも前向きに取り組んでいるが、多忙で点眼に負担があるようだった。

 そこで、点眼回数の負担の軽減のため、初診から10カ月後にPGとβ遮断薬の配合剤に処方変更した。

 配合剤は1日1回の点眼で済むという利便性があり、治療の継続性(アドヒアランス)の確保に裨益することが期待される。本例でも「2回目の点眼時間を気にせずに済むので、とても楽になった」と予想以上に歓迎された。

 ただし配合剤が、点眼の継続性の悪さを抜本的に改善するものではない。むしろ配合剤は、きちんと点眼する習慣のある患者に対し「より利便性を高める」ことが期待されている。

局所や全身への副作用きめ細かく確認して薬剤を変更

 点眼薬による治療で、注意を払うべき副作用に、防腐剤による角膜障害がある。

 患者は73歳の男性で、電車内で見にくさを自覚したことから、病院の眼科を受診し、緑内障と診断された。眼圧は当初21~24mmHgだったという。そこで、キサラタンとチモプトールを処方され、眼圧は下降したが、眼の異物感が常に生じるようになり、心配になって当院を受診した。

 当院初診時の眼圧は12~14mmHgだったが、両眼に上方を中心とした視野障害があり、固視点付近まで迫っていた(図4)。そこで12mmHg以下を目標としたが、眼圧に変動性があった。

図4 症例4の視野計測結果

 一方、明らかな角膜障害(SPK)を認め、点眼状況を確認したところ、異物感への恐怖感から点眼をしないことが少なくないと訴えた。

 そこで、使用中のPGとβ遮断薬の両点眼薬に含有されている防腐剤(ベンザルコニウム塩化物:BAC)が影響していると考え、BACを含有していない点眼薬に変更した。

 その結果、1カ月後にはSPKは寛解、異物感は劇的に改善した。これに伴い、眼圧は10~11mmHgに維持できるようになった。

 目は鋭敏な感覚を持つため、異物感は患者にとって非常につらく、アドヒアランスの阻害要因となる。アドヒアランスの維持のためには、局所の副作用への目配りも必要である。

 一方で、点眼薬が全身への副作用を来す例も、経験している。

 この症例は62歳の男性で、5年前に眼科で緑内障を指摘され、点眼治療を開始した。PGとβ遮断薬を使用して、眼圧は12~13mmHgで安定していたが、転居により当院を受診した。

 治療を行う前に無治療時の眼圧を確認するため、点眼薬を一時中止したところ、眼圧は16mmHg前後まで上昇した。そこで、点眼薬を再開した。

 β遮断薬は、喘息や徐脈、不整脈がある場合は禁忌となる。そこで患者に確認したところ、「最近、歩行時に息切れがある」との返答を得たため、β遮断薬の再開はせず、内科に紹介した。その結果、喘息と診断されたため、β遮断薬は再開せず、炭酸脱水素酵素阻害薬(CAI)に変更した。

 緑内障点眼薬は全身に作用が及ぶと捉えるべきであり、その処方時には全身疾患の有無の注意深い聴取が必要である。しかも、年月を経過すると、開始時には認めなかった全身異常が出現することもまれでない。こうした副作用などの把握には、医療機関と薬局の緊密な連携が必要である。

後発品への変更は添加剤の情報不足などから行わず

 最後に、後発医薬品への変更を希望した54歳男性の症例について紹介する。眼圧は14~16mmHgのNTGで、PGで眼圧コントロールは良好であり、経過は視野障害の明らかな悪化も認めなかった。診療や治療のアドヒアランスも良好であり、経過は順調であると評価していた。

 ある日、勤務先の健康保険組合から「後発品に変更できないか?」と言われたため、診察時にそのメリットについて尋ねてきた。

 後発品は、「先発品と成分、効き目が同じである」とされ、コストについても先発品に比べやや安価といわれている。しかし、後発品の効果は薬剤投与後の薬剤の血中濃度の推移で評価されている(生物学的同等性試験)ものの、点眼薬では血中濃度が測定できないため、十分な評価ができていない。

 さらに、点眼薬の大半は様々な目的で添加剤が加えられている。

 添加剤は点眼薬を病原菌などの汚染から防ぎ、またその効果を発揮するために大きな役割を果たしているが、わが国では後発品の添加剤は先発品と同じであることが求められておらず、その情報提供もされていない。後発品ではその効果や副作用に関する情報が不十分である。こうしたことから、後発品には変更しない旨を患者に説明したところ、納得が得られた。

すぐに治療を開始しないケースも

 以上、当院で経験する代表的な症例を5例紹介した。いずれも眼圧や視野障害の程度だけに着目せず、年齢やアドヒアランス、生活スタイル、副作用などを加味して、治療薬を選択している。

 一方で、緑内障と診断しても、すぐに治療を行わない場合もある。その代表的な2例を表2に挙げた。

表2 すぐに治療を開始しなかった2例

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 特に1例目のような若年者のNTGでは、「早期発見、できるだけ無治療」を念頭に置く。ただし、眼圧レベルや視神経乳頭出血の有無は定期的に確認し、視野障害の悪化を認めれば治療の開始はためらわない方針である。

 薬剤師のみなさんには、こうした診察と治療の継続性への全面的なサポートをしていただけるよう期待している。

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