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Report 1/吸入指導
COPD、喘息、インフルエンザ この冬注目の吸入薬
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

 2011年9月に発売され、この10月に長期処方が可能になった長時間作用型β2刺激薬(LABA)のオンブレス(一般名インダカテロールマレイン酸塩)に続き、今年9月には同じLABAに分類されるオーキシス(ホルモテロールフマル酸塩水和物)が発売となった。

 このほか今年8月、喘息治療薬として10年1月に発売されたシムビコート(ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物) が慢性閉塞性肺疾患(COPD)の適応を取得。さらに長時間作用型抗コリン薬(LAMA)のシーブリ(グリコピロニウム臭化物)が今年9月に製造販売承認を得て、年内にも発売される見通しだ。このグリコピロニウム臭化物とインダカテロールマレイン酸塩との合剤も近く製造承認申請される見込みのほか、様々な薬剤の臨床試験が行われている。

 なぜ続々とCOPD治療薬が登場しているのか。千葉大学呼吸器内科学教授の巽浩一郎氏は「COPDに対する考え方が、ここ10年ほどで『治らない、コントロールできない病気』から『治療によって患者のQOLを改善できる病気』へと大きく変化したことで、治療薬に対するニーズが高まっている」と説明する。また、喫煙率の高い団塊世代の高齢化によりCOPD治療薬の市場拡大が見込めることも、製薬企業の開発意欲を高めている要因だ。

「COPDに対する考え方が大きく変化している」と話す千葉大学呼吸器内科の巽浩一郎氏。

 COPDの治療薬として、1970~80年代からサルタノール(サルブタモール硫酸塩)など短時間作用型の気管支拡張薬が使われてきたが、02年にLABAのセレベント(サルメテロールキシナホ酸塩)、04年にLAMAのスピリーバ(チオトロピウム臭化物水和物)が発売され、長時間作用型の吸入薬が広く使われるようになってきた(図1)。09年に発表された日本呼吸器学会の『COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第3版』では、安定期のCOPDに対する第一選択薬としてLAMAが推奨されている。

図1 安定期COPDの管理法と使用される主な吸入薬(商品名[分類、一般名、発売年])

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 オンブレスはLABAであるものの、24時間気管支拡張効果が持続するのに加えて、投与後約5分で有意な呼吸機能改善効果も示す。「効果発現が速やかで気管支拡張作用が強いので、患者が効果をすぐに実感できる。専用の吸入器(ブリーズヘラー)には高齢者でも使いやすい工夫がなされている」と松岡内科クリニック(東京都小平市)院長の松岡緑郎氏はオンブレスを評価する。また「COPD患者の多くは高齢で、前立腺肥大や緑内障を併存していて抗コリン薬を使えない患者も多い。前立腺肥大の診断を受けていない患者であっても尿閉が起こることもある。この点からもLABAは使いやすい」と松岡氏は指摘している。

「高齢のCOPD患者ではLABAを使うことも多い」と語る松岡内科クリニックの松岡緑郎氏。

 今年6月、シムビコート(ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物)に、新しい用法・用量が承認された。シムビコートを、定期吸入に加えて頓用吸入する治療法(SMART:Symbicort maintenance and reliever therapy)だ。ホルモテロールフマル酸塩水和物はLABAに分類されるが、短時間作用型β2刺激薬(SABA)と同等に速やかに効果が発現し、用量反応性が高いため、定期吸入と頓用吸入の両方に対する有効性が認められた。

 気管支喘息の治療は、気道の炎症を抑える吸入ステロイドを中心とした長期管理薬を定期的に吸入する維持療法と、発作が出たときに頓用でSABAを吸入する発作治療の2本立てが基本だ。しかし「吸入ステロイドをきちんと吸入していれば、それほど発作は起きないため、SABAを使う機会が少なくなる。その結果、患者が使い方を忘れたり、使い終わる前に使用期限が過ぎてしまうこともある。維持療法と発作治療を1種類の薬剤で行うことができれば、患者にとってメリットが大きい」。近畿大学医学部呼吸器・アレルギー内科地域医療連携学総合講座教授の久米裕昭氏はこう話す。

近畿大学呼吸器・アレルギー内科の久米裕昭氏は、「海外で実績のあるSMART療法が日本でも可能になった。治療の選択肢が増えた」と語る。

 患者にとって使い勝手が良くなるだけではない。「発作時には気道炎症が起こっていることから、早い段階からステロイドの吸入量を増やし抗炎症効果を強めることは、発作強度を下げるのにも有効だ」と久米氏。

 定期吸入と頓用吸入の両方に使用できるとはいえ、吸入回数には上限がある(通常1日8吸入まで。医師の指示がある場合は、一時的に1日12吸入まで可能。図2)。そのため、1回3~4吸入で1日2回の定期吸入を行っている患者はSMART療法の対象外だ。また、シムビコートには小児適応がないことにも留意したい。

図2 SMART療法の吸入方法

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小児でオルベスコの処方増

 一方、小児の喘息に対しては、「オルベスコ(シクレソニド)を処方する機会が増えている」と西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニック(滋賀県守山市)院長の西藤成雄氏は話す。

「オルベスコでは喉頭炎などが起きにくいと感じている」と話す、西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニックの西藤成雄氏。

 わが国で小児適応のある吸入ステロイドは、従来のフルタイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)、キュバール(ベクロメタゾンプロピオン酸エステル)に、10年7月にパルミコート(ブデソニド)、11年1月にオルベスコが加わり、4種類になった。

 オルベスコは、肺内で加水分解酵素エステラーゼにより活性代謝物に変換される局所活性化型薬剤で、嗄声や喉頭炎の発現が少ないとされている。加えて1日1回投与で、夜に吸入するのが望ましいとされており、「朝は忙しくて吸入を忘れがち、という患児やその保護者のアドヒアランスを向上させることができる」と西藤氏は話す。

 なお、吸入ステロイドは薬剤によって用量が異なることから、11年10月に改訂された日本小児アレルギー学会の『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2012』では、吸入ステロイドの用量を「低用量」「中用量」「高用量」の3段階に変更し、各薬剤の対比表を付けている。また、改訂前は患児の年齢によって吸入ステロイドの用量が異なっていたが、基本的に患児の年齢に関係なく同量となった。

 このほか改訂では、長期管理におけるコントロール状態の評価基準が具体的に示された。「コントロールが比較的良好、つまり患者が『まあまあ』『そこそこ』と答える状態が3カ月続く場合は治療が不十分であり、ステップアップを検討せよ、という方針になった」(西藤氏)。喘息治療は症状の完全コントロールを目指す方向に変化している。

薬局でpMDIの重量を測定し実行率を算出

客観的な数値で服薬状況を把握

 西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニックでは、加圧定量噴霧式吸入器(pMDI)の吸入ステロイドを処方した患者の保護者に対して、次回の受診時にpMDIを持参するように指導している。

 薬局で本体の重さを量り、残量を確認して吸入指示回数に対する実行率を算出するためだ。「pMDIの残量は外観で分からないので、エアーが出ているうちは使用できるという誤った認識の患児・保護者が少なくない」と同院薬剤師の西藤由美子氏は指摘する。

 製品によって重さに差があるため、1回の噴霧でどれだけ重さが変化するか検量線をあらかじめ作成しておき、患者が受診時に持参したpMDIの重さから服薬状況を把握する。

 減り方が大きかったため患者に確認すると、使い始めに1回だけ空打ちすべきところを、毎朝、吸入前に空打ちしていたことが判明。反対に、減り方が少なかった3歳児のケースでは、保護者がすべき操作を患児にさせており、患児がしっかり押せていなかった。「いずれも患者は『毎日きちんと吸入している』と話しており、重さを測定しなければ手技の誤りに気づかなかっただろう。こういった事例は少なくない」と西藤由美子氏は話す。

投薬前に測定した重量を、識別番号とともにシールに書いて本体に貼っている。

 抗インフルエンザ薬は、内服ならタミフル(オセルタミビルリン酸塩)、吸入ならリレンザ(ザナミビル水和物)かイナビル(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)、点滴静注ならラピアクタ(ペラミビル水和物)というように、投与経路や投与回数を考慮しながら使い分ける時代になってきた。

 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班の調査によると、2011/12シーズンにおける年齢層別の抗インフルエンザ薬の使用割合は、昨シーズンから大きく変化は見られず、タミフル、リレンザが多く使われていた(図3)。異常行動への懸念から10代には原則としてタミフルを使わないこととされているため、リレンザ、イナビルが使用されている。20~59歳では、タミフル、イナビルの順だった。また、投与後の平均解熱時間はA型で27~28時間前後、B型で32~38時間前後だった(表1)。「平均解熱時間から判定した有効性は、4剤間で大きな差は見られなかった。ただしB型に対してはリレンザがやや有効性が高い傾向を示した」と、同研究班班長を務める河合内科医院(岐阜県岐阜市)院長の河合直樹氏は説明する。

図3 年齢層別に見た抗インフルエンザ薬の使用割合

表1 抗インフルエンザ薬投与後の解熱時間

(図3および表1の出典:日本臨床内科会『インフルエンザ診療マニュアル2012-13 年版』)

確実に吸えるのは7歳以上

 使用が増えるイナビルは単回吸入の製剤だ。「1度の吸入で済むというのは大きなメリットではあるが、その半面、失敗するリスクも大きい。処方に際しては、吸えるかどうかの見極めが重要だ」。外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)院長の黒木春郎氏は、こう強調する。

外房こどもクリニックの黒木春郎氏は、「イナビルを処方する際は、吸えるかどうかをきちんと見極める必要がある」と強調する。

 同クリニックでは、2010年10月から11年6月30日の期間でイナビルを319人の患者に処方したという。このうち、吸入に失敗したのは7歳の男児と8歳の女児の2人で、吸入時にむせてしまった、吸入直後に吐いてしまったのが原因だった。

 黒木氏は、4歳から9歳の患者232人の協力を得て、メーカーが配布している吸入確認用笛で音が出るかどうかを指標に、年齢別の吸入力を調べた。患者を発熱や呼吸器症状のない群と、インフルエンザ患者群に分けたところ、症状なし群では6歳以上はほぼ全員、音が出たが、インフルエンザ患者群では6歳で約8割、7歳で約9割で、8歳以上は全員が音を出すことができた(『臨床と研究』2012年11月号、印刷中)。そして、笛の音が鳴ったインフルエンザ患者124人のうち、実際にイナビルを吸入できたのは123人だった。失敗の1例は、吸入の際に吹いてしまったという。

 これらの結果から黒木氏は、「笛の音を出せるかどうかを含め、子どもの状態から総合的に判断することになるが、吸うということを確実に意識できるのは7歳以上だろう」と話す。

イナビルは薬剤師の目の前で吸入

 「医師の前で吸入確認用の笛が鳴らせても、薬局ではできない子がいる。そのときは医師に連絡を取り、処方変更を含め相談するようにしている」。こう語るのは、外房こどもクリニックの門前にある、かしの木薬局(千葉県いすみ市)開設者の樫崎透氏だ。

 樫崎氏はイナビルの服薬指導の際、息を吹く、少ししか吸わないなど、「やってはいけないことを実際にやってみせながら、説明するようにしている」という。また、吸うタイミングがうまく取れない患児には、「はい、吸って~、吐いて~」と声を掛けながら、十分に息を吐いた瞬間に、薬剤師が吸入器を持って患児にくわえさせるようにするなど、患児に合わせて吸入させている。

 「自ら吸うことに慣れていない患児が多い。また、吸入薬に慣れていない保護者は不安に感じるようだ。口頭説明して薬を渡すのではなく、服薬指導しながら目の前で吸入してもらうべき」と樫崎氏は訴える。

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