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副作用症状のメカニズム
第26回 腹痛
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 65歳女性。10年前に糖尿病と診断されて以来、治療を続けている。肥満がなかなか解消できず、3年前にメトホルミン塩酸塩(1日1000mg、分2)の服用を開始した。このところ下腹部に痛みがあり、気持ちが悪いとのことで、腹痛に効くOTC薬を買い求めに来局した。

腹痛が生じるメカニズム
 腹部(心窩部から恥骨上部まで)で自覚される痛みを腹痛という。発生メカニズムから(A)内臓痛、(B)体性痛、(C)関連痛、(D)心因性痛─の4つに大きく分けることができる1)

(A)内臓痛
 消化管壁は、主に平滑筋で構成されている。この平滑筋が収縮したり伸展すると、分布している脊髄無髄神経終末が刺激される。刺激は、交感神経系である内臓知覚神経を経て脊髄に入って脳幹へ伝わり、一定の閾値を超えると痛みとして認識される。

 無髄神経で伝わることから、痛みは鈍痛となる。痛む部分は不明瞭となることが多い。また、多くの内臓神経が両側性の神経支配を受けているため、体の正中付近で両側対称性に痛みを感じることが多い。痛みの発生源が平滑筋の伸縮であることから、間欠的で周期的な痛みとなる。体を動かすことで、痛みが和らぐこともある。痛みの緩和には鎮痙薬が有効である。交感神経系を介するため、交感神経刺激症状である悪心や嘔吐、顔面蒼白、発汗などを併発することが多い。

 内臓痛の原因となる腹部臓器の拡張や伸展は、虫垂炎などの感染・炎症、腸閉塞、胆石・尿管結石などによる閉塞、子宮外妊娠などによる出血、腸間膜の虚血、精巣の捻転などによる虚血、消化管の穿孔などで起こる。

 内臓痛は、機械的な損傷や炎症、虚血などによって生じた水素イオン、カリウムイオン、サブスタンスP、ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミン、プロスタグランジンなどの化学物質による、内臓粘膜などに存在する受容体への刺激によっても起こる。胃潰瘍や十二指腸潰瘍などによって粘膜が傷害された場合は、急速に刺激に対する閾値が下がり、同じ刺激でも痛みを知覚するようになる2)

(B)体性痛
 腹膜や腸管膜、横隔膜は内臓を保護する膜である。これらには脳脊髄性の知覚神経が分布している。知覚神経には知覚受容体が備わっていて、圧迫、伸展、捻転、熱などの物理的な刺激、炎症により放出されたサイトカインなどによって刺激を受ける。

 腹部臓器に強い圧力が加わったり、出血や穿孔によって血液や消化液が漏れ出たりすることで、知覚神経受容体に刺激が伝わる。刺激を受けた部位だけに限局した、刺すような鋭い痛みが持続する3)。体を動かすと増悪することがあり、うずくまって動けないこともある。通常は、悪心や嘔吐などの交感神経刺激症状は伴わない。

 体性痛は、腹腔内の深刻な障害を脳に伝えるための痛みであり、鎮痛薬が有効だが、いわゆる急性腹症として手術の適応となることが多い。

(C)関連痛(放散痛)
 腹部臓器が刺激されると、その周辺の皮膚に痛みを感じる。皮膚の感覚神経の刺激が脊髄に入るときに、同部位の体性知覚神経を刺激し、その神経に支配されている体性組織に痛みを生じるためである。

 例えば、胆嚢に炎症が起こると肩胛骨付近に痛みを生じたり、心筋梗塞で左の肩が痛むなど、臓器と痛みの位置が一致しないことがある。知覚過敏や筋肉の硬直が起こることもある。

(D)心因性痛
 原因が特定できず、痛みは短時間で治まるが反復性がある。悪心や嘔吐、頭痛などを伴う場合もあるが、全くない場合もある。消化管は交感神経と副交感神経の支配を受けており、過剰なストレスによってバランスが崩れると、腸管運動が抑制されたり過剰になり、消化管の伸展や収縮が起こり、腹痛が起こる。

腹痛を起こす疾患
 腹痛を起こす疾患は、主に(1)消化器系、(2)泌尿器系、(3)アナフィラキシー、(4)生殖器系、(5)循環器系、(6)内分泌代謝系─である。

 消化器系疾患は、既に例として挙げた。(2)の泌尿器系では、尿管結石による腹痛が代表的である。脇腹、下腹部、背中などに激しい痛みを生じる。結石によって尿管で尿の流れがせき止められ尿管や腎盂が拡張し、腎臓の被膜が引き伸ばされ、痛みが起こる。膨張した尿管が腹膜を刺激することで、さらに激しい痛みを起こす。腎不全によって浮腫がひどくなると胃腸浮腫が起こり、さらなる腹痛が起こる。

 (3)のアナフィラキシーでは、アレルギー反応によって放出されたヒスタミンやロイコトリエンなどが血管を拡張し、透過性を亢進することで末梢の浮腫を引き起こし、胃腸浮腫が起こり、腹痛が生じる。

 (4)の生殖器系の腹痛は、月経痛が典型的である。月経時にはプロスタグランジンPGFが増えて子宮の収縮を促し経血を排出させるが、PGFの量が多いと子宮の収縮が強くなり、キリキリとした痛みが発生する。

 PGFは血管も収縮させるため、腰痛やだるさ、冷えがひどくなり胃腸の動きが影響を受けることもある。

 (5)の循環器系では、狭心症や心筋梗塞などで心窩部痛や左の脇腹が痛くなることがある。これは関連痛である。

 (6)の内分泌代謝系では、糖尿病性ケトアシドーシスなどが挙げられる。高血糖とアシドーシスによって麻痺性イレウスが起こり、腸管拡張が引き起こされるという説や、肝臓における糖新生やグリコーゲンの分解、脂肪分解などで、肝臓の容量が増し肝被膜が伸展するといった説もある4)

 アルコール性アシドーシスや乳酸アシドーシスでも腹痛が起こる。吐き気や嘔吐、下痢などが随伴する。また、水・電解質異常の低カリウム血症、低ナトリウム血症、高カルシウム血症、尿毒症などでも腹痛が起こる。電解質の異常が、腸管の異常収縮や麻痺・痙攣を起こすためと考えられている。

副作用による腹痛のメカニズム
 副作用による腹痛は、基本的には前述の(1)~(6)の原因と同様である。

(1)消化器系
 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や抗癌剤などの服用によって、胃腸粘膜が障害されると、粘膜の知覚閾値が下がり、痛みを感じやすくなる。随伴症状には、胸やけ、食欲不振、膨満感などがある。NSAIDsや抗菌薬などで起こる腸障害では、下痢、吐き気、嘔吐などを伴う。

 抗精神病薬や中枢性の鎮痛薬、鎮咳薬など抗コリン作用を持つ薬は、腸管の運動を抑制し、便秘を起こす。腸管内に内容物が停滞し閉塞してイレウスが起こると、腸壁が引っ張られて強い痛みが起こる。

 αグルコシダーゼ阻害薬を服用中にガスを我慢し続けると、イレウス状態になることがある。カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬でも麻痺性イレウスが起こり得る。もともと腸管の運動能が低下している便秘傾向にある人や高齢者は要注意である。

 脂質異常症治療薬や抗癌剤で膵炎が起こることがある。みぞおち辺りの突然の激しい腹痛から始まることが多く、吐き気や嘔吐を伴い発熱する。

(2)泌尿器系
 アシクロビル(商品名ゾビラックス他)やメトトレキサート(メソトレキセート他)などは、尿のpHの変化で尿細管に析出して尿細管閉塞を起こし、腹痛を引き起こすことがある。無尿や血尿を伴う。

(3)アナフィラキシー
 全ての薬剤で起こり得る。随伴症状として、かゆみ、口唇や手先のぴりぴり感、蕁麻疹、潮紅、吐き気、嘔吐、下痢、呼吸困難などがある。

(4)生殖器系
 エストロゲン製剤による不正性器出血や、同剤の長期使用で子宮内膜の過剰増殖が起こり腹痛を来すことがある。タモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス他)やクロミフェンクエン酸塩(クロミッド他)などの抗エストロゲン剤、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)やヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)などによる不妊治療が長期にわたる場合、卵巣過剰刺激症候群が起こり、卵巣腫大、腹部の腫れ、骨盤痛、吐き気、嘔吐などが起こる。

(5)循環器系
 薬の服用で狭心症や心筋梗塞が起こることがある。

(6)内分泌代謝系
 糖尿病治療薬やインスリンのコンプライアンス不良による高血糖性ケトアシドーシスが挙げられる。メトホルミン塩酸塩(メトグルコ他)の服用では、乳酸アシドーシスが起こることがある。特に腎機能が悪い場合に起こりやすい。

 低カリウム血症は、特にカンゾウに含まれるグリチルリチンによる偽アルドステロン症、下剤や利尿薬の過剰使用などで起こりやすい。吐き気、嘔吐、脱力、口渇、多尿などを伴う。低ナトリウム血症としては、 抗精神病薬、抗うつ薬、カルバマゼピン(テグレトール他)、抗癌剤などによる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)がある。倦怠感や食欲低下が随伴する。

 高カルシウム血症は、カルシウム製剤や活性型ビタミンDの過剰摂取、ビタミンA誘導体などが原因となる。吐き気、嘔吐、便秘、倦怠感などを伴う。

(7)その他
 ジスチグミン臭化物(ウブレチド)やイリノテカン塩酸塩水和物(トポテシン他)などのコリンエステラーゼ阻害作用によるコリン作動性クリーゼの症状の一つとして、腹痛がある。下痢や嘔吐、意識障害、縮瞳、流涎、流涙などの副交感神経亢進症状を伴う。

図 薬で腹痛が起こるメカニズムとチェックポイント

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* * *

 最初の症例を考えてみよう。患者は糖尿病で、メトホルミンを服用中であった。患者によると、畑仕事で腰痛を起こし、OTC薬のロキソプロフェン(ロキソニン)を何回か飲んだ上、畑仕事で汗をかいたにもかかわらず、水分はあまり取っていなかったとのこと。薬剤師は、ロキソプロフェンの過剰服用でメトホルミンの腎排泄が悪くなり、さらに脱水が加わって乳酸アシドーシスが起こっているのではないかと考え、すぐに受診を勧めた。患者は、受診後すぐに入院となり、治療が開始された。

引用文献
1)水野樹、月刊ナーシング 2009;29(2):66-72.
2)上野文昭、治療 2008;90(9):2443-6.
3)山形幸徳ら、Medical Technology 2011;39(7):650-8.
4)森下由香、臨床研修プラクティス 2008;5(1):48-52.

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