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Interview
相互作用が分からなければ薬剤師として失格です
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

 1997年に初版が発行された『薬の相互作用としくみ』。薬剤師必携の書となった本書がこのたび内容を大幅に刷新、全面改訂版として小社から出版された。著者の杉山正康氏は、患者や医師から信頼される薬剤師になるためには、薬物相互作用に対する十分な理解が必須と力説する。 (聞き手は本誌編集長、高志 昌宏)

Masayasu Sugiyama 1981年、福岡大学薬学部卒業。久留米大学医学部医化学講座講師、米国テキサス大学留学などを経て、94年から薬局薬剤師に。97年、杉山薬局(福岡県嘉麻市)を開設。現在、福岡県と山口県で保険薬局を経営する。医学博士、薬学博士。

─本書には、「薬剤師かくあるべし」との思いが込められていますね。

杉山 私は1981年に福岡大学薬学部を卒業して以降、久留米大学医学部に所属して基礎研究者として働いてきました。ところが94年に諸般の事情で大学を辞めることになり、薬局に就職して薬剤師の仕事を始めました。

 いざ薬剤師として仕事を始めてみると、自分が抱いていた薬剤師像と現実との違いに驚きました。薬局の窓口では薬を間違いなく渡すことが主で、服薬指導も薬剤師でなければできないといった内容ではありませんでした。これでは患者に、自分の病気の治療には薬剤師が必要だと思ってもらうのは無理でしょう。医師も、薬のことは薬剤師に相談してみようとは考えてくれません。自分が研究者だった頃、薬剤師は医療の世界で一定の地位にあり、患者や医師からも一目置かれていると思っていたので、とてもショックでした。

 もちろん私も薬剤師としては大学の新卒と同じレベルだったので、一から勉強しなければなりませんでした。薬剤師が患者や医師から信頼される薬のスペシャリストになるにはどうすればよいのか、学術講演を聞き、薬学書を読み、色々考えた結論が、「薬剤師たるもの、薬の相互作用を完璧に理解していなければならない」というものでした。

 薬剤師は薬の薬理作用だけでなく副作用も熟知しているはずですが、それだけでは十分ではありません。日常診療では多くの場合、複数の薬が同時に処方されます。そのとき、問題となる薬効の変化や副作用が相互作用によって起こらないか、直ちに判断することが必要です。さらに、これまで処方されていなかった薬が、今回の処方箋で新たに加わったとします。この場合も相互作用による問題が考えられるなら、処方箋を見たときに、「この組み合わせは要注意」と気づかなければ、薬剤師としては失格でしょう。

 とはいえ、現在では1万5000種類もあるとされる薬剤について、併用の可否を暗記することは不可能です。しかも丸暗記では、新薬や添付文書に書いていない相互作用には応用が利きません。相互作用を理解するためには、薬理作用と副作用に加えて、併用しているそれぞれの薬剤の吸収、分布、排泄、代謝といった体内動態をも把握しておく必要があります。それをベースにして、相互作用を発現機序から考えればいいのです。

 しかし当時は、相互作用の発現機序について総合的に解説した専門書などありませんでした。そこで自分でノートを作り、個々の薬剤についてどのような機序で相互作用が発現するのかを調べ、まとめていきました。その結果、幾つかの共通した発現機序にまとめることができ、それを頭にたたき込んでおけば7~8割は理解できそうだと分かったのです。

 薬局薬剤師になって2年半くらいで、ノートに書きためたものがかなりの分量になりました。その時点でも類書はなかったので、薬学系の出版社数社に原稿を送ってみたところ、1社から翌日に出版の返事を頂き、翌年に晴れて日の目を見ることになりました。

─全面改訂版では、初版に比べページ数が3倍以上になっています。

杉山 初版の約170ページが、今回の全面改訂版では約570ページになりました。次々に新薬が登場し、新しい機序による相互作用も増えているためです。当然、われわれ現場の薬剤師は、それらを頭に入れておかなければなりません。それに気づいて勉強してきた人と勉強していない人とでは、本書400ページ分の知識の差があるといえるでしょう。

 近年、薬物代謝や細胞内の情報伝達のメカニズムが、分子レベルで解明されてきています。当初は、相互作用といえば薬物代謝酵素であるチトクロームP450を介したものが中心でした。ところが7~8年前から、細胞膜上にあって薬物を細胞内に取り込んだり、また細胞外にくみ出す「トランスポーター」と呼ばれる蛋白質が注目され始めました。現在では、これを介した相互作用についての研究も進み、多くの新しい知見が得られています。そこで今回はトランスポーターについて、新たな章を設けて解説しました。

 さらに、転写因子も注目されています。例えば、代表的な分子標的薬であるイマチニブやゲフィチニブはチロシンキナーゼの活性を阻害します。この酵素の活性化は、最終的に転写因子の活性化を介して、標的遺伝子の発現を制御しています。

 このように研究はどんどん進み、相互作用の発現機序として勉強すべき事項も急増しています。薬剤師としてはこれらの変化にキャッチアップしていかなければならないのですが、ここに大きな問題があります。新しく発展してきた領域だけに、当然、私も学生の時には習っていません。そこで薬局の中で勉強会を作り、注目される新着論文を探して読んでいく中で、皆とともに、学んでいます。

 ところが薬局薬剤師は多忙で日常業務に追われており、新しい情報を学ぶ時間が限られているのが実情です。こうした制約を抱えながら現場に立っている薬剤師に、相互作用に関する最新の情報を分かりやすく提供したい。そう考えて、本書の編集を続けてきました。

─相互作用に関連する基礎的な知識を、服薬指導などの日常業務にどう生かすことができますか。

杉山 薬学部の教員は基礎研究ではエキスパートですが、薬局の日常業務に精通している人はまだ少ないので、最新の知見を日常業務にどう生かせばよいかを教えることは難しいかもしれません。もちろん、薬局での患者指導にも定石といったものはないので、現場の薬剤師がそれぞれ工夫して実践するしかありません。

 そのためには、まず本書を繰り返し読んで、相互作用が起こる仕組みを理解してください。その上で、問題となりそうな薬剤を併用する患者に対しては、副作用症状が出現していないかなど、薬剤師から積極的に質問してチェックしてください。私の薬局で調べたデータでは、副作用や相互作用で問題が発生するリスクは、服用開始から数週間が最も高くなっていました。ですから、服用開始時点から注意が欠かせません。

 また、自分が飲んでいる薬のことを詳しく知りたいという患者も増えています。そのような方には、相互作用のことを話してみてください。相互作用について、薬剤師が自分の言葉で説明できるようになることが大切です。これらの一助になればと、今回の改訂では、私たちが実際に経験した多くの症例をケースとして紹介しています。

 相互作用に限った話ではないですが、患者から「こんな話は初めて聞きました。ありがとうございます」と言われるような指導をしたいですよね。相互作用を含めた副作用のチェックが薬剤師の責務であることは論を待ちません。その発生を防ぎ、万一発生しても早期に的確なアドバイスを行うことができると胸を張って言えるようになるために、本書が少しでも役に立つことを願っています。

インタビューを終えて

 薬学部が6年制となり、薬局と病院を合わせ半年間の実習が行われるようになりました。学生にはおおむね好評ですが、杉山氏は厳しい評価でした。期間が短いこともあり、薬局にとって学生は、結局は“お客様”になってしまうからとのこと。卒後教育の重要性は変わっておらず、そのためにも十分な知識を持った先輩薬剤師が不可欠です。小社発行の『薬の相互作用としくみ 全面改訂版』、既に医学薬学書を扱う書店に並んでいます。ぜひ、お手にとってご覧ください(情報パック参照)。(高志)

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