DI Onlineのロゴ画像

薬歴添削教室
在宅酸素療法実施中のCOPD患者へのケア
日経DI2012年11月号

2012/11/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年11月号 No.181

 今回は、友愛薬局勝田台店に来局した74歳男性、花岡二郎さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。花岡さんは慢性閉塞性肺疾患(COPD)のため、薬物治療に加えて、在宅酸素療法を受けています。薬局では病院薬剤部と連携して、患者の吸入手技を確認し、その結果を病院に報告しています。

 COPDは、呼吸器疾患としてのみならず、循環器系、筋骨格系、栄養障害などの併存症も含めて、全身性疾患として管理する必要があります。ケアの視点を広げ、花岡さんに対してどのように包括的な治療管理や療養指導ができるかに着目して、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴を担当したのが薬剤師A~E、症例検討会での発言者が薬剤師F~Iです。(収録は2012年7月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
友愛薬局勝田台店(千葉県八千代市)

 友愛薬局勝田台店は、千葉県を中心に、茨城県、埼玉県、長野県で薬局を展開する株式会社友愛メディカルが、1995年11月に開局した。

 応需している処方箋は、月3500枚程度。八千代市の基幹病院である勝田台病院をはじめ、東京女子医科大学八千代医療センター、東邦大学医療センター佐倉病院など、約30の医療機関からの処方箋を受けている。

 同薬局には、20代1人、30代3人、40代3人、50代2人、計9人の薬剤師が勤務している。

 薬歴は、電子薬歴を導入しており、SOAP形式で記載している。薬剤師としてのアセスメントをした上で、その内容を薬歴のA欄に残すことを心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 表書きから見ていきましょう。患者さんは74歳の男性です。様々な情報が記載されています。表書きの「患者サマリー」は、どのように運用しているのですか(薬歴(1))。

A 薬剤師の間で申し送りをしておきたいことについて、「患者サマリー」の欄に日付を入れて記載するようにしています。

早川 表書きに書いておくと、分かりやすくてよいですね。「伝言情報」との違いは何ですか。

A こちらは、保険事務上の申し送り事項です。

早川 分かりました。患者情報のまとめという本来の意味からすると、「患者サマリー」には、申し送り事項だけではなく、経過中に起こった様々なイベントや、患者をケアしていく上で浮かび上がってきたプロブレムについても書いておくとよいと思います。

 表書きの「現・既往歴」の欄を見ると、初回に現病歴、既往歴がしっかりと聞き取れていることが分かります。前立腺肥大症、COPD、不整脈、高血圧とあります。COPDのため在宅酸素療法を受けているということも、初回の12月14日に聞き取りができたのですね。

A はい、そうです。

早川 この患者さんは、COPDなのに、喫煙の欄は「吸わない」ですね。

A 現在喫煙していないという意味です。かつて喫煙していたのかどうか、もし喫煙していたとすればいつやめたのかについては、聞き取れていません。

早川 分かりました。COPDの患者さんはたいてい喫煙者なので、喫煙していないのなら、何か別の要因があるのかなと思ったので確認しました。

 「患者サマリー」によれば、初回の12月14日に、病院から吸入指導の依頼があったのですね(薬歴(2))。

A はい。病院から「吸入力が少し弱く、操作も少し不安があるので、再確認をお願いします」との依頼を受けました。

早川 では、12月14日の薬歴を見ていきましょう。在宅酸素療法を行っているということは、COPDの病期としては4期と重症です。この日の状況について、説明していただけますか。

サンリズム増量の理由は?

B はい。この日、患者さんは病院での診察で、かなり疲れた様子でした。前立腺肥大があるとのことなので、薬の影響について病院の医師に確認しました。この確認にかなり時間がかかってしまったこともあって、必要最低限のことしか聞けませんでした。

早川 どの薬の確認ですか。

B スピリーバ(一般名チオトロピウム臭化物水和物)です。スピリーバは抗コリン性気管支拡張薬ですので、前立腺肥大のある患者さんに使用してもよいかを医師に確認しました。薬歴には書いていませんが、緑内障ではないことは、ご本人に確認しました。

早川 皆さんは、何か気になることはありますか。

F 薬歴にも書いてありますが、サンリズム(ピルシカイニド塩酸塩水和物)が引っ掛かります。前の病院では50mg分2だったのに、倍になっていますよね。

B その点は私も医師に確認したのですが、病院で採用しているのが50mgカプセルだけで、25mgがなかったので、50mgでいいということだったのです。それ以上のことは聞けませんでした。

早川 サンリズムが50mg/日だったのが100mg/日に増えていることについては、「本当にこれで間違いないのか」という見方もできるでしょうし、「何らかの病状の変化があったのではないか」という見方もできるかもしれませんね。

G COPDが悪化して、心臓が悪くなったということでしょうか。

H でも、ホクナリンテープ(ツロブテロール)は中止になってますよね。

早川 患者さん自身は、どのように認識しているのですか。

B 患者さんは“先生第一主義”で、先生がよいとおっしゃるならよい、という感じでした。薬の量が変わったことで不安を感じているようには見受けられませんでした。そこで、副作用のチェックについてC欄に書きました(薬歴(3))。

早川 薬が変更された場合は、そのポイントを薬歴に記録しておくと、他の薬剤師もうまく対応できると思います。ディオバン(バルサルタン)がブロプレス(カンデサルタンシレキセチル)に変更されている点はいかがですか。

A この病院ではアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)として、ディオバンではなくブロプレスを採用しているということだと思います。

早川 特に違いはないと考えてよいですか。薬物動態の面から考える必要はありませんか。

B 確認はしていませんが、患者さんは、肝臓や腎臓のお薬は飲んでいらっしゃらないので、特に心配しなくてもよいと思いました。

早川 薬の面からは類推できますが、腎機能低下や肝機能低下があったらどうか、ということについても考えておかないといけないかもしれませんね。他にはいかがですか。

H セレベント(サルメテロールキシナホ酸塩)は1日2回、1回1吸入、スピリーバは1日1回、1回2吸入というのは、非常に間違えやすいと思います。患者さんが正しく吸入できるのかが気になります。

早川 私たち薬剤師が確認する必要がありそうですね。ところで、この医師の専門は何ですか。

B 呼吸器内科です。

早川 ということは、専門外の分野については、薬剤師がしっかりフォローする役割がありますね。薬剤師が着目すべき点が色々出てきました(薬歴(3))。

 12月21日は、新たにメプチン(プロカテロール塩酸塩水和物)が処方されました。患者からは「呼吸が苦しいときの薬をもらった」と聞き取りました。続いて1月4日の薬歴に進みましょう。

吸入力、理解力、操作手技を評価

C 患者さんから「呼吸が苦しいのでほとんど外出しない」という情報を得ました。メプチンは、処方された12月21日からこの日までに計10回程度使用したということだったので、ほとんど使っていません(薬歴(4))。

 この日は、病院に対して吸入指導の報告書を出さないといけない日だったので、患者さんに確認しました。その場で吸ってもらうわけにもいかないので、お聞きしたところ、吸入力が多少不足しているという印象は受けましたが、手技はきっちりできていると判断しました。セレベント、スピリーバと、メプチンとの使い分けもできていると判断しました。メプチンの吸入回数についても理解されていました(薬歴(5))。この日は、こうした吸入薬の確認に、時間を費やしてしまいました。

早川 ここで、それぞれの吸入薬の特徴を押さえておきましょう。まず、吸入力についてはどうでしょうか。

A この3種類の中では、吸入力がいちばん必要なのはセレベントだと思います。

早川 逆に、吸入力が必要ないのは。

H スピリーバ。

F でも、スピリーバは使い方が難しいと思います。理解力が必要です。メプチンは押すだけなので使いやすいです。

早川 同調が必要なのは。

H メプチンです。

A 場合によっては吸入補助具(スペーサー)を使いますが、この患者さんは不要です。

早川 吸入力についてはまずまず大丈夫。理解力もある。操作手技、押す力についてはいかがですか。

C そこまでは確認していません。

早川 患者さんの見かけからはどうですか。

B 私がお会いした時はまだ体力があり、問題ないと思います。

早川 今のようなアセスメントを行った上で、病院との間で情報を共有するのは重要なことです。他に確認しておくべきことはありますか。

G メプチンの効果は出ているのでしょうか。

A 薬の効果については、酸素飽和度を見れば評価できると思います。

早川 まさにそういうプランが立てられますね。また、今後、患者の吸入力や吸入操作をするための身体機能が低下したら、どう対応すればよいですか。

H 内服の薬を追加する。

G ネブライザーを使用する。

早川 次回以降、確認したい項目がたくさん挙がりました。病院に報告書を提出することが、患者を評価するきっかけになっています。できる範囲できっちり報告した上で、課題は課題として、薬歴に残すようにするとよいですね。

 2月1日に進みたいと思います。この日は患者本人ではなく、家族が来局されたのですね。

A はい。ご自宅にハンディータイプの酸素飽和度を測定する機械があるらしく、「80%台になることもしばしばある」などと聞き取ることができました(薬歴(6))。

H 患者さんは相当苦しそうですね。

早川 話の流れの中で、酸素飽和度の値を聞き取ることができたのは良かったですね。吸入手技についても、ご家族に確認したのですね。

A はい。メプチンをうまく使って、息苦しさを回避できているかどうかを確認しました。セレベントをきちんと吸えていれば状態を良くしておけるので、2回に分けて吸ってもよいことを伝えました。

早川 継続的に確認する姿勢は素晴らしいと思います。ここで血圧値についても聞き取っていますが、皆さんはこの値についてどう評価しますか。

H ブロプレスとノルバスク(アムロジピンベシル酸塩)を飲んでこの値なので、もし薬を飲まなかったら、明らかに高血圧だと思います。ただし、COPDの薬の影響で、血圧が上がっている可能性もあると思います。

早川 COPDが進行すると肺高血圧症の合併を招きますので、その意味からも、血圧値のチェックは重要です。

 次の3月1日には、処方の変更はなかったのですね。

H はい。この日は患者さんがとても体調がよく、酸素飽和度は94%で安定しているということでした。吸入もきちんとできているというお話でした。

早川 では3月29日にいきましょう。薬が追加されていますね(薬歴(7))。

アスピリンの処方意図を推測する

D この日はご本人が来局されたのですが、酸素を吸入しながら普通に話ができる状況でした。追加された薬について詳しくは聞けませんでしたが、COPDの急性増悪があり、酸素飽和度が低いから出たということでした。推測ですが、酸素飽和度が低いため、血流が悪くなると酸素の供給が余計に落ちてしまうので、バイアスピリンが出ているのかなと思いました。患者さんは納得していた様子でしたので、お薬をそのまま渡しました。

早川 推測することは悪いことではありません。様々な可能性を考えた上で、どの可能性が高いのかを推測する、逆に、これは違うという鑑別をするためには何を調べればよいのかを考える、これらを常に行っていく必要があります。医師の処方意図について、皆さんはどう考えますか。

A 患者さんにめまいがあったら、一過性脳虚血発作(TIA)を考え、バイアスピリンを出すことはあると思います。

早川 めまいのエピソードがあったかどうか、患者に聞くことはできますね。

H 狭心症の発作が起きたということはないでしょうか。

早川 それについては、胸の痛みがあったかどうかを切り口にできます。

I この患者さんは、血圧ではなく心房細動のためにサンリズムを飲んでいるのではないでしょうか。前の病院でアルマイラー(アテノロール)が処方されていたことからも、頻脈性不整脈の可能性があると推測できます。頻脈性不整脈、心房細動、血栓症という流れです。

早川 アルマイラーはβ遮断薬で、レートコントロールに使われる薬ですね。サンリズムもレートコントロールに使われます。状況証拠としては合致します。

 COPDの併存症の一つに心血管疾患があります。この日の処方追加の前に、酸素飽和度が大きく下がったという経過もあるわけですよね。呼吸機能の低下は、心房細動を誘発する因子になり得ます。

A 最近になって分かったのですが、患者さんはヘモグロビンが20g/dLと高く、医師から多血症と言われたそうです。

早川 クラリシッドとプレドニンについてはいかがですか。

D COPDの急性増悪で説明がつくのではないでしょうか。

早川 この患者さんは、呼吸が苦しいだけなのでしょうか。それとも、普段から咳とか痰も出るのですか。

D 痰があるのなら、痰をなめらかにする薬が出ると思いますが……。

早川 肺気腫型なのか気管支炎型なのかで予後も違ってきます。病型を押さえておくことも大切です。

 次の4月26日は、クラリシッドとプレドニンは出ませんでした。5月24日に進みましょう。

栄養状態や運動機能にも着目

E 患者さんから、在宅酸素の量を増やすよう医師から言われたことを聞き取りました。メプチンもあまり使用していないし、効果を実感できていないのかもしれません(薬歴(8))。

早川 ところで、この患者さんはどんな体形ですか。

E 身長、体重から体格指数(BMI)を計算すると18.8です。痩せ形です。

H 栄養状態を改善した方がいいかもしれません。

早川 それはなぜですか。

H 栄養状態が悪いと、COPDの増悪を繰り返し、感染症も起こしやすくなるからです。

早川 放っておけないですね。

E 食事が一度に取れないようなら、回数を増やすとよいかもしれません。栄養補助食品を使うこともできます。

早川 この日も家族が来局していますね。患者の活動の程度はどうですか。

E 入浴時に、以前は自分で体を洗っていたけれど、今は家族に洗ってもらっているとのことです。

早川 まさにそういう情報も含めて、この患者に今後どう対応していくかを考えていきたいですね(薬歴(8))。呼吸機能が少しずつ低下していくのは仕方がないとしても、薬の面からだけでなく、栄養や運動についても患者をサポートしていくことが、吸入手技の点からも生命予後の点からも大切だと思います。

友愛薬局勝田台店でのオーディットの様子。

参加者の感想

人見 美和氏

 継続して1人の患者を担当するわけではないので、今までは「点」としてしか捉えられていませんでしたが、薬歴を時系列につなげると、患者のストーリーが見えてきて、勉強になりました。このような形でアセスメントをした上で、服薬指導をしたいです。

平野 亜紀子氏

 実は先日、この患者さんと似た病態の呼吸器疾患の患者さんが来局され、薬も似ていたので、余裕を持って説明することができました。今後は栄養や日常生活の改善についても指導していければよいと思いました。

竹田 祥氏

 薬歴を改めて見直してみると、患者さんとのやり取りの中で、病態を把握するための重要なヒントが隠れていることが分かりました。それらを集めて可能性のある選択肢を考えていき、最終的に全てがつながっていくところに感激しました。今後もこのような見方をしていきたいです。

尾崎 秀子氏

 薬歴から、この患者さんは薬に対してあまり不安に思っていないように見受けられました。薬について自分なりに納得しているようです。薬剤師や医師を信頼しているからこそ、ずっと同じ薬局に通い続け、苦しいことも含めて隠さずお話しされているのだろうと思いました。

全体を通して

早川 達氏

 薬歴全体を通して、意識してアセスメントを書いていこうという薬剤師の姿勢がよく表れています。患者の状態を薬剤師がアセスメントすることは最も重要です。特に、吸入手技のアセスメントを、病院と連携してやり取りしているのはとても良いことです。さらに、自分たちが患者の吸入指導を通して得た感覚(これもアセスメントです)も含めて報告ができれば、より良いケアにつながると思いました。患者が手技をできるかどうか、しっかりチェックしていることには感心しました。

 今回のオーディットでは、処方の情報、記録に残された情報から、患者像を類推していきました。全てが明らかになったわけではありませんが、継続的に見ていくべきポイントが明らかになりました。また、併存症も同時に確認していくことが、予後の改善のために大きな役割を果たすことも分かりました。この患者に対してどうしていくのが適切か、結論は出ませんでしたが、私たちがサポートできる幅を広げる入り口までは行けたと思います。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ