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特集:癌の処方箋
知らないでは済まされません! 今どきの「癌治療」とは
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

 滋賀医科大学教授で医学部附属病院薬剤部長の寺田智祐氏に、目次ページのクイズについて解説してもらった。

 かつては、癌は「不治の病」というイメージが強かったかもしれない。だが、そのイメージは急速に変わりつつある。

「薬局の薬剤師にも、癌の治療法について、もっと知ってもらいたい」と話す滋賀医科大学医学部附属病院の寺田智祐氏。

 画像診断技術の発達などにより、癌がより早期の段階で発見できるようになったこと、さらには新しい抗癌剤の開発など治療法が進歩したことにより、癌患者の生存率は、着実に上がってきている。

 図1は、1999~2003年に診断された癌患者を対象に、主な部位別の5年相対生存率を示したものだ。女性の乳癌や男性の前立腺癌では、5年相対生存率が各病期の合計で約90%に達している。早期癌に限れば、この数値はさらに高くなる。

図1 主な癌の5年相対生存率(%)

対象は全国がん(成人病)センター協議会加盟施設における1999~2003年診断例。相対生存率とは、癌患者について計測した実測生存率を、対象者と同じ性・年齢分布を持つ日本人の期待生存率で割ったもの。(出典:がん研究振興財団「がんの統計」2011年版)

 生存率が高いということは、癌と診断されてから生きる期間が、それだけ長いということだ。癌という病気と上手に付き合いながら、いかに生活の質(QOL)を損なわずに生活を続けていくかが、治療の目標となりつつある。生存率の高い癌に関しては、糖尿病や高血圧と同じ“慢性疾患”と捉えることができるかもしれない。

 ただし、肝臓癌や肺癌のように、予後の悪い癌がまだあるのも確かだ。

 癌の告知もずいぶん変わってきた。以前は確かに、「患者がショックを受けるから」という理由で、告知に消極的な医師が多かった。当時は有効な治療法が少なく、告知に積極的な意味が見いだせなかったことも背景にあるだろう。

 だが現在では、癌であることをきちんと告知するのが一般的だ。

 厚生労働省の研究班が06年に全国の一般病院を対象に行った調査(n=1499)によれば、癌患者本人に病名を告知するという回答は65.9%だった。この値は、当時の世論調査が示す、一般国民が癌告知を希望する割合よりも低かった。

 今では、癌を告知されている患者の割合は高まっている。がん診療連携拠点病院をはじめ、癌患者を数多く診療しているような病院では、病名告知はほぼ100%行われていると考えてよいだろう。

 インフォームドコンセントの考え方が普及し、今や、治療の内容についてあらかじめ医師が患者に説明し、同意を得るというプロセスが欠かせない。癌患者でもそれは全く同じ。手術、薬物治療、放射線治療のいずれであっても、患者自身が癌であることを知っていなければ、そもそも治療が成り立たない。

 病名を告知することには、抗癌剤の副作用など、治療に伴うリスクを患者自身に正しく認識してもらうという側面もあるだろう。

 ただし、患者が癌の病名告知を受けているかどうか、薬局の薬剤師が正確に知ることは、癌の専門病院の門前薬局でもない限り難しい。後述するように、処方箋に書かれている薬の種類からだけでは、癌であるかどうかを正確に判別できないこともある。また、十分なプライバシーを保ちにくい薬局の店舗内で、「癌」という言葉を使って患者から詳しく話を聞くことには、限界もあると思われる。

 そのような場合は、癌とは言わずに、「病院で点滴を受けましたか」などと聞くのも一つの方法だろう。もし答えがイエスなら、病院で癌の化学療法を受けていると類推できる。

 今から10年前、2002年の診療報酬改定で「外来化学療法加算」が新設されて以後、癌治療の“外来シフト”が進んだ。今や「外来でできるものは外来で」というのが、癌の化学療法の大きな流れになっている。

 その理由として最も大きいのは、患者の利便性が向上することだろう。日常生活を送りながら抗癌剤治療を受けられることは、仕事との両立などを含め、患者にとってメリットがある。米国では、夜間や休日も含め、患者の都合に合わせて外来化学療法を行えるようになっている施設もある。

 医学上の理由もある。抗癌剤の副作用対策が進んだために、外来でもより安全に化学療法ができるようになってきた。さらに、急性期病院で診断群分類別包括払い制度(DPC/PDPS)が広まったことも、外来シフトを促している。

 外来化学療法の場合、病院の外来で点滴を終えた患者は帰宅するため、副作用が起きたときの対処法や、緊急受診の判断について、患者にきちんと伝えておく必要がある。主治医や、外来化学療法室の看護師や薬剤師から説明を受けていたとしても、患者が十分に理解しているとは限らない。薬局の薬剤師も服薬支援に関与することにより、患者の安心につながることが期待される。

 癌の化学療法が“外来シフト”すれば、当然、癌患者の薬が院外処方されるケースも増える。気を付けたいのは、癌患者に対する処方箋には、様々なパターンがあるということだ(表1)。

表1 癌患者に対する院外処方箋のパターン

 処方箋に経口抗癌剤が含まれていれば、患者が癌であることは分かりやすい。例えばゲフィチニブ(商品名イレッサ)が処方されていれば、非小細胞肺癌の患者であると分かる。だが、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン)は複数の適応症があるので、それだけではどの癌かが分からない。カペシタビン(ゼローダ)も複数の適応症があり、癌の種類によって用法が異なる。

 さらに、処方箋に経口抗癌剤が含まれていなくても、患者が癌の治療を行っている可能性がある。抗癌剤の副作用対策として、ステロイドや抗菌薬などだけが処方されている場合だ。処方箋だけでは、癌であるかどうかが分からない。

 また、癌の化学療法は、複数の薬を組み合わせるのが一般的だ。その薬剤や量、期間、手順などを時系列で示した計画書のことをレジメンと呼ぶ。基本的なレジメンについては、薬局の薬剤師も押さえておきたい。

 ちなみにレジメンの名称は、そのレジメンで使用される薬の名前の頭文字を組み合わせることが多い。例えば、大腸癌のレジメンの一つであるFOLFOXは、葉酸(ロイコボリン、FOL)、フルオロウラシル(5-FU、F)、オキサリプラチン(エルプラット、OX)の3剤を組み合わせたものだ。

 滋賀医科大学医学部附属病院の化学療法部では、院内で作成したレジメン集を県下の全ての薬局に配布したり、化学療法部に通院中の患者に対して、レジメンの内容をシールに打ち出してお薬手帳に貼るなどして、外来化学療法の情報を薬局と共有している(本誌2012年2月号Case Study参照)。

 抗癌剤は「ハイリスク薬」であり、副作用に対する十分な注意が必要なのは言うまでもない。抗癌剤が処方されている患者に対する副作用のモニタリングは、薬局薬剤師の大きな役割だ。

 ハイリスク薬には多数のチェック項目があるが、それぞれの抗癌剤に特徴的な副作用があるので、それを重点的にチェックすることが大切だ。例えばカペシタビンを服用すると、副作用として、手や足の皮膚にひび割れが生じたり、しびれや痛みを感じたりする手足症候群が起こりやすい。他にも口内炎や下痢など、患者にとっては不快な症状が多い。

 副作用症状が重篤化すると、抗癌剤の減量や中止が必要になり、治療の継続が難しくなるので、軽症の段階で発見して対応する必要がある。

 医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトに公開されている「重篤副作用疾患別対応マニュアル」には、副作用症状や対応方法について詳しい情報が載っている(写真1)。医療関係者向けと一般向けがあり、一般向けは患者にも分かりやすい表現で書かれているので、活用してほしい。

写真1 抗癌剤に関係する「重篤副作用疾患別対応マニュアル(一般向け)」

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 癌の治療について病院に問い合わせることに対して、二の足を踏む薬局薬剤師は少なくないだろう。病院の薬剤部と薬局とが連携、協力して、互いに知識を深め、情報を共有することが、癌の治療には絶対に必要だ。

 滋賀医科大学病院では県内の薬局薬剤師を対象に、「地域のがん薬物療法を支える薬剤師養成コース」を開催している(写真2)。各地で様々な薬薬連携が進み、薬局の薬剤師が癌患者のケアに関わることを期待している。 (談)

写真2 滋賀医科大学病院での薬剤師養成コース(提供:寺田氏)

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