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薬歴添削教室
高齢者施設の入居者への服薬アセスメント
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

 今回は、ウエルシア薬局足立竹の塚店が調剤を担当する77歳男性、森本義政さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。森本さんは、肺炎で入院した際に人工呼吸器を装着し、複数の合併症を持ちながらも退院できるまでに回復しましたが、独居で自宅療養が困難なため、介護付き有料老人ホームに入居することになりました。

 退院時の「看護サマリー」では、病歴や経過などの基本情報が押さえられています。経過を追っていく中で、きちんと服薬できていない状況も判明しました。薬剤師としてどのように患者をサポートしていくかを考えながら、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A、症例検討会での発言者が薬剤師B~Iです。(収録は2012年8月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
ウエルシア薬局足立竹の塚店(東京都足立区)

 ウエルシアホールディングスグループのウエルシア関東は、関東地方を中心に調剤併設型ドラッグストアを展開している。グループ全体の店舗数は810店舗(2012年9月1日現在)。

 ウエルシア薬局足立竹の塚店は08年4月に開設された。応需している処方箋は月1550枚ほど。高齢者施設への訪問診療を行う内科診療所のほか、耳鼻科、整形外科、皮膚科からの処方箋が多い。同薬局には20代1人、30代4人、計5人の薬剤師が勤務している。

 薬歴は電子薬歴を使用し、SOAP形式で記載している。薬歴を記載する際は、処方変更に特に注意して、薬剤アレルギーや薬物相互作用の有無をチェックするとともに、次回につなげる意識を持って記載するように心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず、「看護サマリー」の情報を確認するところから始めましょう(薬歴(1))。これは入院していた病院から施設に送られたものですね。

A はい。

早川 このサマリーの中で押さえておきたいキーワードは何ですか。

B 疾患名と経過です。

早川 複数の疾患が書かれていますが、特に注目すべき疾患はどれですか。

B 慢性呼吸不全と食道癌。食事やコミュニケーションへの影響が気になります。

A 甲状腺機能低下症。薬物治療が中心となる疾患だからです。

早川 では、疾患名以外ではどこに着目しますか。

C 人工呼吸器を使用している点。

早川 「離脱は困難」とありますね。

D 気管切開部位周辺の皮膚びらん。

E 「日常生活の自立度」の各項目を見ると、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)の著しい低下は見受けられません(薬歴(2))。

A 気管切開術を受けているので発語はありませんが、ジェスチャーや筆談で意思の疎通は可能のようです。

早川 全身状態とコミュニケーションレベルは、私たちが対応していく上で重要な情報です。その他は?

D 深部静脈血栓症と両足の浮腫。排尿困難でバルーンを挿入している。

早川 排尿や移動が「介助」と書かれていることにもつながりますね。これまでに挙がった慢性呼吸不全、深部静脈血栓、浮腫、排尿困難は、アクティブな問題として捉えることができます。その他にも複数の合併症を抱えていますが、それらは大きく動いているわけではなさそうです。

F 「不眠」というのも確認したい。

早川 いい着眼点ですね。

 この患者さんは、53歳の時に食道癌と肺癌の既往があり、その後、65歳で胃癌にもなっています。おそらく転移があって治療したと推測できます。予後については、看護サマリーを読んだ時にどう捉えましたか。

C 予後良好で、現在は再発がないと思いました。

早川 食道癌と胃癌の「術後」とあります。癌種や病期によって異なりますが、一般に癌治療では、どの病期で手術療法が選択されますか。

一同 初期。

早川 そうですね。転移を繰り返したり進行したりするにつれて、化学療法が選択される比率が高まります。つまり、この患者さんは、癌と診断された時点では初期の段階だったと推測できます。

 癌患者のケアに関わる際には、各癌種の生存率などを基に、生命予後をある程度予測しておくことが重要です。この患者さんは、12年後に胃癌を再発していることを考えると、現在は表在化していないけれども転移が潜在し、数年後に急速な転帰をたどる可能性も否定はできません。私たちはそのような感覚を持ちながら、慢性呼吸不全や排尿困難などのアクティブな問題に対応していく必要があります。実際はどうでしたか。

A 予後は良好のようです。癌のことは全く話題に上りませんでした。

早川 次に「往診内容」の記録を確認していきます。これは薬局で作成した様式ですか。

A はい。医師の訪問診療に同行した際に、診療所の医師と看護師、施設に常駐する看護師、介護者らのやり取りを薬剤師が記録したものです。

早川 分かりました。初回の訪問は5月30日です。「経口摂取可能」という記載が目に留まりました(薬歴(3))。担当された方は、この段階で嚥下機能について確認しましたか。

A いいえ。食事ができることくらいしか認識していませんでした。

早川 本来であれば最初に確認しておきたいポイントです。本症例のような食道癌患者では、多くの場合、嚥下機能が低下することが知られています。看護サマリーと往診内容から得られた情報を照らし合わせて、疾患名と身体機能を結びつけてアセスメントしていきましょう。その他に押さえておくべき点はありますか。

E 鉄欠乏性貧血とありますが、原因が不明です。ワーファリン(一般名ワルファリンカリウム)による出血や、胃癌手術の影響で鉄の吸収が低下している可能性があります。

早川 一つ確認したいのですが、この段階で、これまでの処方内容について情報を得ていたのですか。

A いいえ。施設入所の際の薬の準備などは、施設の看護師が行っているので、初回の訪問時にそれをチェックして分かりました。

早川 処方歴と持参薬は、判明した時点で必ず薬歴のどこかに記録しておいた方がいいですね。

ワルファリンの適切性を評価する

早川 それでは、6月6日の薬歴を見ていきましょう(薬歴(4))。往診内容によると、持参薬と異なるのは、6月3日に処方されたガスモチン(モサプリドクエン酸塩)の継続、ワーファリンの用量変更、メチコバール(メコバラミン製剤)の中止です。「痰に血液が混じっていたので、弾性ストッキングが届き次第ワーファリンを中止する」そうです。深部静脈血栓症に対してワーファリンが処方されていますが、これは適切でしょうか。

G 弾性ストッキングがワーファリンの代わりになるのか疑問です。

早川 ワーファリンは深部静脈血栓症の他にどんな病態に使われますか。

A 心房細動による脳塞栓予防。

早川 そうですね。往診内容によると、この患者さんは、不完全右脚ブロックとI度房室ブロックがあるとのことですが、これらの不整脈はワーファリンの適応症ですか。

C いいえ。

早川 このように、まずはワーファリンを中止しても問題ないかどうかを評価した上で、弾性ストッキングの使用の妥当性を考えていくといいでしょう。深部静脈血栓症は、肺血栓塞栓症の大きな要因です。この患者さんはPT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)値が1.69ですが、コントロール状態はどうですか。

C ワーファリンを服用している場合、2~3くらいが目標値だったような……。

早川 「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン」では、急性深部静脈血栓症治療におけるワルファリンコントロールの目標PT-INR値は1.5~2.5とされており、4以上では出血の合併症が増加するといわれています。エビデンスレベルはクラスIIb(有効性がそれほど確立されていない)です。

 一方で弾性ストッキングは、浮腫や痛みの改善、血栓症の再発予防などの目的に用いられます。エビデンスレベルはクラスI(有効性が確立されている)と高い。ただし肺塞栓の予防を考慮すると、患者のリスクレベルによってはワルファリンの位置付けは高くなります。

 続いて、6月13日の薬歴を見ていきます。S情報に、「夜はアタラックス-P(ヒドロキシジンパモ酸塩)で入眠しない」とあり、マイスリー(ゾルピデム酒石酸塩)へと処方が変更されました(薬歴(5))。ここで改めて不眠についてアセスメントしましょう。まず、不眠の原因は何だと思いますか。

C 環境変化によるストレス。

B アタラックス-Pの処方意図として、皮膚潰瘍のかゆみも含まれていたかもしれません。マイスリーに変更されたことで、今後その症状に影響する可能性があります。

早川 「入眠しない」というのは、寝付きが悪いということですか。

A はい。

早川 とすれば、この段階では夜中に皮膚がかゆくて目が覚めるとは訴えていないわけですね。

D 夜間に痰や咳が出て寝付きにくいことも考えられます。

H 人工呼吸器の使用も要因ではないでしょうか。

早川 そうですね。そのほか、一般に深部静脈血栓症は痛みを伴うこともあるので、可能性としては挙げておきたいところです。今回は入眠障害としてマイスリーに変更されましたが、入眠障害だけでなく熟眠障害や中途覚醒などを含めて、様々な要因を押さえることで、今後着眼すべきポイントが浮かび上がってくることが分かったと思います。

服薬機能の評価は薬剤師の任務

早川 続いて、6月20日は往診内容のみです。「嚥下状態が改善している」とは、どういうことですか(薬歴(6))。

A 医師が栄養状態をこまめにチェックしており、食事について看護師に尋ねていた際にそう聞き取れました。

早川 嚥下機能は、食道癌患者への基本的なアセスメントの一つとして挙がっていました。まさにこのタイミングで服薬機能を評価してみましょう。要因や今後注意すべきこととして、どんなことが考えられますか。

C 「改善している」ということは、もともと悪かったのでは。

A 私が確認したのは食事量のみでした。カニューレを付けているので、うまく飲み込めているのかなとは気になっていましたが……。

I 食物を誤嚥すると痰になって排泄されることがあるので、食べる量が増えたからといって嚥下障害が改善したとはいえないと思います。

C 6月13日の薬歴にも、人工呼吸器の使用で肺炎になりやすいという話があったので、誤嚥性肺炎にも注意する必要があります。

早川 そうですね。嚥下に影響を及ぼす要因や、嚥下機能の低下が他に及ぼす影響として、食事、栄養、痰、誤嚥など、他の職種のケアの視点も含めて多数挙がりました。ですが、私たち薬剤師としては……?

A 薬を飲めるかどうかが最も重要です。

早川 そうですね。嚥下機能が話題に上ったタイミングで、果たしてこの患者さんはきちんと薬を服用できているのか、剤形に問題はないかなど、服薬機能を評価すべきでしょう。実際、6月27日の往診内容には、「服薬確認ができない。そばにいると怒る」と書かれています。同日の薬歴には、「グルコンサンK(グルコン酸カリウム)を飲んでいないことが最近分かり本人ともめました」とあります(薬歴(7))。

A それで介護者が医師に、薬の整理を依頼しました。相談してもらえなかったのは、薬剤師として悔しいです。

早川 本来であれば、ここは薬剤師の出番ですよね。嚥下機能が一つのキーポイントであると分かった時点で、それを薬剤師がチェックしようという姿勢を持っていれば、主体的に関わることができたはずです。残念ながら今回はかないませんでしたが、医師によって薬が整理されたので、改めて処方の適切性を評価してみましょう。例えばグルコンサンKは細粒ですが、剤形は適切でしょうか。

B 錠剤よりは飲みやすいのでは。グルコンサンKの錠剤は大き過ぎて服用できないと思います。

早川 一方で、薬歴に書かれているように、患者本人は飲んでいなかった。飲みたくない、あるいは飲めない理由は何でしょうか。

G 細粒なので、水で流し込んでもむせてしまう。

E 味が苦いのかもしれません。

H 1回服用量が多い。

A 例えばマイスリーは、服用によって寝付きが良くなるという実感がありますが、カリウムの補給は効果を実感しにくいのでやめてしまったのでは。

早川 カリウム補給の必要性を患者が認識していなかったという観点ですね。では私たちもカリウム補給の必要性について評価してみましょう。

E 検査結果では、血清カリウム値は2.5mEq/Lと明らかに低値です。

早川 これ以上低下すると危険な水準ですね。場合によっては経口薬以外の手段も考えなければなりません。

C フロセミドからアポラスノン(スピロノラクトン)に変更されたのは、カリウムを保持するためではないでしょうか。

早川 なるほど。ちなみに、6月27日の往診内容には、「BNPに問題ないのでフロセミド中止」と書かれていますが、心不全があったのですか。

A 主治医は日ごろから利尿薬の選択や浮腫の診察の指標としてBNPを使っているので、病態として心不全があったわけではないと思います。

早川 分かりました。グルコンサンKについてのみ検討してきましたが、その他の薬剤についても同様に、服用の可否とその理由を評価し、それを積み重ねていくことで、今後、処方が追加されたり変更されたりすることになったときにも、適切に対処できるようになると思います。

B アローゼンは顆粒ですし、サワテン錠(カルボシステイン)、フェロチーム錠(クエン酸第一鉄ナトリウム)はサイズが大きいので、本当に服用できているのでしょうか……。

早川 実はほとんど服用していない可能性もありますね。サワテン、フェロチームはそれぞれ去痰、鉄欠乏性貧血に対して処方されていると考えられるので、服用していなければ問題です。

レボチロキシン減量でイライラ改善

早川 7月4日には、レボチロキシンNa錠(レボチロキシンナトリウム)が減量されています(薬歴(8))。鉄剤は経静脈的に投与することになりました。経口薬も継続するのですね。

A はい。いずれも検査値を見て医師が判断しました。

早川 治療効果を正確に評価するためにも、服薬状況を把握しておきたいところです。

 7月11日の薬歴には、A情報として「レボチロキシン減量でイライラ改善あり」と記載されています(薬歴(9))。

A イライラが改善したというのは看護師から聞いたのですが、それがレボチロキシン減量によるというのは私のアセスメントです。

早川 良いアセスメントです。続いて7月25日には、血液検査で鉄欠乏貧血の改善を認め、フェロチームを中止することになりました(薬歴(10))。注射薬が奏効したのかもしれませんね。

A 結局、経口鉄剤を服用していたかどうかは分かりませんでした。

早川 今日のディスカッションで、剤形を含めて服用の可否やその要因を検討しておくことの重要性が分かったと思います。ぜひ明日からの業務に生かしていってください。

ウエルシア薬局足立竹の塚店のオーディットの様子。

参加者の感想

岡本 直樹氏

 患者さんや看護師さんの何気ない一言には、大きなバックグラウンドがあり、そこを掘り下げていくことで、次回行うべきアセスメントが見えてくることが分かりました。

栗原 淳氏

 外来の患者さんとは薬剤師が直接やり取りを行うので、処方が変更された理由について自分でも考えるのですが、施設に入所している方の場合、看護師や介護スタッフの方々から情報が入ってくるので、あまり考えずに対応してしまいがちだと反省しました。きちんと考え、見極めていくようにしていきたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 本日のディスカッションでは、服薬アセスメントの重要性が改めて明らかとなりました。患者の施設入所の際に、薬剤師があらかじめ持参薬を確認し、アセスメントをしておくことで、医師による初回の処方設計に関われるようになります。薬局では通常、処方箋の発行後に業務が発生するため、受け身の姿勢になりがちですが、このように全く異なる形で業務を行うことも可能になります。さらに、患者の服薬機能をしっかりと評価しておけば、薬剤の選択においても、薬剤師が主体となって役割を果たすことができます。今回は、この辺りが一番の収穫だったのではないでしょうか。

 また、施設入所患者では、病態の把握とともに、睡眠、排泄、嚥下、栄養などの基本的な生活機能へのアセスメントも重要です。今日得られた気づきを、ぜひ実践に生かしていただきたいと思います。

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