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薬剤誘発性の葉酸欠乏に注意
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

 葉酸は水溶性ビタミンB群の一つであり、その欠乏は、巨赤芽球性貧血や先天性異常(神経管閉鎖障害)、心血管系障害の危険因子である高ホモシステイン血症、メチオニン産生低下による神経障害、免疫機能低下、消化管機能異常などと深く関わっているとされる。このうち発生頻度が高い巨赤芽球性貧血は、葉酸欠乏により骨髄でのDNA合成が阻害され、赤血球がうまく成熟できないことにより起こる。

 食物から摂取した葉酸は、十二指腸や小腸(空腸)で吸収された後、小腸粘膜上皮細胞で還元、メチル化されて5-メチルH4葉酸となり、血液を介して全身の組織に供給される。全身の葉酸の約50%が肝臓に貯蔵され、体内濃度を維持している。成人の1日の葉酸必要量は50~100μgであるのに対して、肝臓に貯蔵されている量は5~10mgであることから、葉酸の摂取不良が起こると1~3カ月程度で欠乏するとの報告がある。

 葉酸欠乏は、野菜や柑橘類の摂取不足や吸収不良(小腸部分切除、アルコール中毒、高齢者など)、需要増大(妊娠・授乳期、乳児期、悪性腫瘍、代謝亢進時)、葉酸の排泄増大(血液透析時)などによって起こる。このほか、薬剤によっても葉酸欠乏になることがある。今回は、薬剤誘発性の葉酸欠乏症について解説する。

薬剤が消化管からの葉酸吸収を阻害

 葉酸は、プテリジンにパラアミノ安息香酸とグルタミン酸が結合した構造を持つ。通常、食物中の葉酸はグルタミン酸が複数結合したポリグルタミン酸型として存在し、消化管内の加水分解酵素でモノグルタミン酸型葉酸に変換されて吸収される(図1)。

図1 ヒトにおける葉酸の体内動態

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 葉酸吸収には小腸粘膜上皮細胞に存在する小腸葉酸トランスポーター(proton-coupled folate transporter:PCFT)が関与している。PCFTは十二指腸に最も多く存在し、消化管の下部に移行するにつれて減少する。

 図1左上に、PCFTを直接阻害して消化管における葉酸の吸収を阻害する薬剤を示した。このうち、メトトレキサート(MTX)は、消化管における葉酸の吸収を強力に阻害することが明らかになっている。また、サラゾスルファピリジン(SASP)は、添付文書の用量の通りに1回500mg投与しても、消化管内濃度がPCFTの阻害定数(Ki値)の数倍となることが示されており、PCFTの活性を強力に阻害すると考えられる。

 一方、PCFTの活性はpHの上昇に伴い顕著に低下することが知られている。そのため、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、H2受容体拮抗薬、制酸剤、抗てんかん薬などにより消化管内のpHが上昇すると、PCFT活性が低下して葉酸の吸収が阻害される。また、抗てんかん薬には、ポリグルタミン酸型葉酸をモノグルタミン酸型に変換する酵素を阻害する作用もあり、これが葉酸欠乏に大きく関与している可能性も指摘されている。

生体組織での葉酸代謝も阻害

 生体内組織において、葉酸は主に酵素反応の補酵素として働いている。例えば、細胞内の5-メチルH4葉酸はメチオニン合成酵素の補酵素である。また、生成されたH4葉酸はグリシン、セリン、ヒスチジン、ギ酸などと反応して、メチレン、メテニル、ホルミル基などを有するH4葉酸となるが、そのうちN5,N10-メチレンH4葉酸はチミジル酸合成酵素の補酵素として働き、DNA合成に必須のチミジル酸(dTMP)を生成している。

 葉酸拮抗薬は主にH2葉酸レダクターゼ(DHFR)を阻害し、H4葉酸、N5,N10-メチレンH4葉酸、5-メチルH4葉酸を枯渇させて葉酸欠乏を引き起こす。特にMTXはDHFRを強力に阻害することから、N5,N10-メチレンH4葉酸の枯渇を介して葉酸欠乏を引き起こす可能性が高い。また、MTXは前述のように、消化管における葉酸吸収を強力に阻害する作用もあるため、MTX投与時には葉酸を補給する必要がある。

 また、SASP、トリメトプリム、トリアムテレン、ペンタミジン、ラモトリギン、ピリメタミンなども同様の機序によって葉酸欠乏を引き起こす可能性がある。

 一方、ジアフェニルスルホン酸、メトホルミンにも葉酸代謝阻害作用がある。また、抗てんかん薬は、核内受容体のプレグナンX受容体(PXR)を活性化させて、葉酸分解酵素や葉酸を補酵素とする代謝酵素を誘導することで、葉酸欠乏を引き起こす可能性が指摘されている。

 そのほか、ビタミン(V)B12の欠乏によっても葉酸欠乏症が発生する。これは、VB12の欠乏によりメチオニン合成酵素の活性が阻害されて、H4葉酸の産生が減るためと考えられている。

相互作用の実際

 葉酸欠乏を引き起こす可能性がある薬剤を表1にまとめた。葉酸欠乏に関係する併用禁忌はないが、下線を引いた薬剤は葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血を誘発する恐れがあるため、特に注意が必要である。

表1 葉酸欠乏を引き起こす可能性がある薬剤

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 抗てんかん薬(ケース1)、MTX、コレスチラミン、メトホルミンを併用している患者や、PPIやH2受容体拮抗薬を長期服用している患者(ケース2)、消化管切除術後の患者、妊婦、血液検査で葉酸値が低い患者は、葉酸欠乏が起こりやすい。

 またケース1のように、アルコールも葉酸欠乏を誘発するため、日常的にアルコールを摂取している患者にも注意が必要である。加えて、高齢者は胃酸分泌低下からVB12欠乏、葉酸欠乏になりやすいことも知っておきたい。

 服薬指導時に気を付けたい症状や患者の訴えとして、貧血では、疲労感、呼吸困難、肌の蒼白・顔色が悪い、頭重感、動悸・息切れ・狭心症様症状、鼻出血などが挙げられる。また、消化器症状としては、食欲不振、口内炎・舌炎、下痢やそれに伴う体重減少、神経過敏、鼻出血などがある。

 当薬局の症例を以下に紹介する。

 Aさんは3種類の睡眠薬を服用中である。また、抗てんかん薬のカルバマゼピン(商品名テグレトール)を数年間服用している。Aさんは日常的に多量のアルコールを摂取しており、薬剤師は飲酒を減らすように何度も話をしたが、改善されなかった。最近、下痢などを訴えて受診し血液検査が実施された結果、貧血が判明。今回、葉酸(フォリアミン)が追加された。

 Aさんの貧血は、カルバマゼピンと日常的なアルコール摂取を原因とした葉酸欠乏によると考えられた。Aさんには抗てんかん薬やアルコール摂取によって葉酸が欠乏しやすくなること、葉酸が欠乏すると下痢や貧血が起こることを説明し、アルコールをできるだけ控えるように指導した。

 その後、Aさんは飲酒を減らすことができ、数カ月後には貧血が改善して葉酸製剤は中止となった。引き続き、葉酸欠乏の症状に注意するよう説明している。

 Bさんは(1)、(2)の薬を数年間服用している。高齢に加えて、ジピリダモール(ペルサンチン)とH2受容体拮抗薬のファモチジン(ガスポート)を服用しており、葉酸欠乏を起こしやすいと考えられた。そのため、服薬指導時に葉酸欠乏の症状の有無を確認していたが、これまで異常は認められなかった。しかし今回、血液検査により葉酸欠乏性貧血と診断され、葉酸製剤が追加処方された。

 その後数カ月で、Bさんの貧血は改善されて葉酸製剤は中止となった。現在も葉酸欠乏による症状に注意しながら投薬を続けているが、高齢者は症状を早く発見するのが難しいため、定期的に血液検査を受けることも必要ではないかと考えている。

(すぎやま薬局〔福岡県久留米市〕後藤道隆、杉山正康)

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