DI Onlineのロゴ画像

適応外処方のエビデンス
大腸憩室炎による腹痛などの症状がメサラジンで改善
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

講師:藤原 豊博
2000年から「月刊薬事」(じほう)で適応外処方に関する連載を開始、同連載をまとめた3分冊の『疾患・医薬品から引ける適応外使用論文検索ガイド』(じほう)が刊行されている。病院薬剤師を経て、現在は大阪府内で管理薬剤師として業務に携わる。

疾患概念・病態

 憩室とは、腸管壁の一部が外側に飛び出して袋状になった状態のことを指す。腸管壁そのものが飛び出す真性憩室と、腸管壁の筋層の隙間から腸粘膜が飛び出す仮性憩室の2種類があり、大腸憩室の大部分は仮性憩室である(参考文献1,2)。

 憩室が起こる原因として、食生活の西洋化に伴う食物繊維の摂取量の減少が考えられている。食物繊維が少なく、牛肉など脂肪分の多い食事をしていると、便は粘着し、便の膨らみが少なくなり、結腸の分節運動が促進され、腸管内の圧力が高くなる。その状態が長期間に及ぶと、圧力のため腸管壁が外側に押され、ついには粘膜が血管を伴って腸管壁外に脱出し、憩室ができると考えられている(参考文献1,2)。

 欧米では80~90%の憩室が左側大腸のS状結腸に、日本を含めたアジア諸国では70%が上行結腸までの右側結腸にできるといわれている(参考文献1)。憩室を1つ以上認め、臨床症状を有するものを憩室症といい、憩室に炎症を伴えば憩室炎と呼ばれる。

 憩室症の70~80%は無症状で、原則として治療の必要はない(参考文献1,3)。食物繊維の多い食事を取り、便通異常を起こさないよう日常生活の指導を行う。だが、便が詰まって憩室に炎症を起こすと、腹痛などの症状が生じ、治療が必要となる(参考文献3)。

治療の現状

 憩室炎の症状は、腹痛と発熱を伴うことが多く、悪心、嘔吐、腹部圧痛、下痢、腹部腫瘤触知などを認め、腹膜炎症状を示すこともある。憩室炎は、憩室内壁の粘膜の炎症というよりは、憩室周囲組織の炎症が本体であり、憩室炎から膿瘍形成、穿孔、瘻孔形成、狭窄を引き起こすことがある(参考文献1)。

 治療は食事を含む生活指導に加えて、整腸薬、緩下薬、鎮痙薬、大腸に存在する嫌気性菌および好気性菌をカバーする抗菌薬の経口投与が行われる(参考文献3)。症状が進行している場合にはさらに、絶食、補液、抗菌薬の点滴が行われる(参考文献3)。憩室出血は、腹痛・発熱などの憩室炎に伴う症状を示すことは少なく、無症状でかつ突然の血便により発症することが多い(参考文献1)。高齢であることや、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗血小板薬、抗凝固薬の内服は、憩室出血のリスクファクターである(参考文献1)。

 メサラジン(商品名ペンタサ、アサコール他)は、潰瘍性大腸炎やクローン病の治療に使用されており、大腸粘膜で局所的に炎症を抑制する。大腸憩室に伴う症状が慢性炎症によるものとの考えに基づき、適応外使用されている(表1)。

表1 腸憩室炎患者へのメサラジンの処方箋例

メサラジンの有効性

 メサラジンが大腸憩室炎の治療期間を短縮し、再発予防効果もあることを示す臨床試験が行われている(参考文献3)。

 憩室炎の再発を繰り返す109例を対象に、リファキシミン(非吸収性経口抗菌薬で、過敏性腸症候群・クローン病・潰瘍性大腸炎の治療に海外で使用されている:国内未発売)400mg/回を1日2回およびメサラジン800mg/回を1日3回、それぞれ7日間併用投与し、引き続き、リファキシミン400mg/回とメサラジン800mg/回を1日2回、1カ月につき7日間投与した(併用群)。別の109例には、リファキシミン400mg/回を1日2回、7日間経口投与後、リファキシミン400mg/回を1日2回、1カ月につき7日間投与した(単独群)。治療3、6および12カ月後に、大腸内視鏡で大腸の症状を検討した。追跡調査期間中、併用群では1例が脳卒中で死亡し、1例は追跡調査できなかった。また、単独群では1例が心筋梗塞のため死亡し、3例は追跡調査できなかった。

 その結果、併用群では単独群に比べて、症状の重症度が有意に改善した。症状消失率は、3カ月後:併用群40.36%(44例)、単独群17.43%(19例)、6カ月後:併用群62.96%(68例)、単独群29.80%(31例)、12カ月後:併用群85.57%(89例)、単独群49.43%(44例)で、いずれも併用群で有意に良好だった。

 追跡調査期間中の急性憩室炎の再発率は、単独群17.98%(16例)に対して併用群2.75%(3例)で、併用群で有意(P<0.01)に低かった。副作用は、併用群で1例に一過性の蕁麻疹が、単独群では9例に上腹部痛が見られた(参考文献4)。

 左側に結腸憩室があり、憩室による症状が見られる66例に、リファキシミン200mg/回を1日2回(R1群)、69例にリファキシミン400mg/回を1日2回(R2群)、66例にメサラジン400mg/回を1日2回(M1群)、67例にメサラジン800mg/回を1日2回(M2群)、いずれも1カ月につき10日間投与して、12カ月間追跡調査した。臨床症状は、グローバル症状スコア(global symptomatic score[GSS]:上腹部痛/不快感、下腹部痛/不快感、膨満感、しぶり腹、下痢、腹部圧痛、発熱、全般的症状、吐き気、嘔吐、排尿障害、出血の12種類の症状の程度について0~3で評価し、症状が重いほど高い点になる、最高は36点)で評価した。試験期間中、リファキシミン群14例、メサラジン群10例が、副作用あるいは合併症などで脱落した。

 治療12カ月後のGSSのベースラインからの変化は、R1群:8.67±4.20から8.18±4.43へ(P=NS)、R2群:9.46±4.69から5.64±3.31へ(P<0.0001)、M1群:10.18±5.05から3.67±1.91へ(P<0.0001)、M2群:9.48±4.58から2.44±1.63へ(P<0.0001)と、R2群、M1群、M2群で有意に減少し、中でもM2群の有効性が高かった(参考文献5)。

 再発を繰り返す結腸憩室炎患者40例を対象に、リファキシミン800mg/日およびメサラジン2400mg/日を10日間併用投与し、引き続きメサラジン1600mg/日を8週間投与した。この治療が終了した1カ月後(憩室炎の最後の症状発現後3カ月)、20例にはメサラジン1600mg/日を連日(A群)、別の20例にはメサラジン1600mg/日を1カ月につき10日間(B群)投与して、再発予防効果を検討した。

 24カ月間にわたり再発を認めなかった割合は、B群45%に対してA群70%で、A群で有意(P<0.05)に高かった。メサラジンは周期的な投与より連日投与の方が再発予防に有効であった(参考文献6)。

作用機序

 潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の活動期には、その大腸粘膜に好中球などの貪食細胞が集積し、多量の活性酸素・フリーラジカルを持続的に産生する。大腸粘膜の炎症が慢性的に持続する場合、この活性酸素・フリーラジカルの産生が、大腸粘膜の組織傷害を惹起すると考えられている。

 また、潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患の大腸粘膜では、白血球の走化作用および活性化作用を有する炎症性メディエーターであるロイコトリエン(LT)B4の産生が亢進していることから、LTB4 は炎症性腸疾患における重要なメディエーターと考えられている。そのため、大腸憩室炎でも同様に、活性酸素・フリーラジカル、LTB4が大腸粘膜の炎症の進展に寄与しているとされる。

 メサラジンは、炎症性細胞から放出される活性酸素を消去し、炎症の進展と組織の傷害を抑制する。また、好中球でのLTB4生合成を抑制し、炎症性細胞の組織への浸潤を抑制する。この他に、血小板活性化因子の放出抑制、インターロイキン1βの産生抑制、肥満細胞からのヒスタミン遊離抑制などの寄与も考えられている。これらの作用が総合的に働いて、大腸憩室炎の治療に効果を発揮しているものと考えられる(参考文献7)。

適応外使用を見抜くポイント

 一見すると潰瘍性大腸炎に対する処方のようであるが、潰瘍性大腸炎で使用されるステロイドや免疫抑制剤がなく、抗菌薬のシプロフロキサシン(シプロキサン他)が処方されているのが、大腸憩室炎に対する処方と見抜くポイントである。シプロフロキサシンの代わりに、メトロニダゾール(フラジール他)、あるいはこの両方が併用されることもある。

 医師は大腸憩室炎の治療薬について説明が十分でないことが多いので、患者指導では薬の説明書の記載内容を含め、潰瘍性大腸炎との誤解を招かないよう注意が必要である。

参考文献
1)Medical Practice.2010;27:1331-4.
2)綜合臨牀 2008;57:2731-2.
3)日本大腸肛門病会誌 2008;61:1021-5.
4)Digest Liver Dis.2002;34:510-5.
5)Dig Dis Sci.2007;52:2934-41.
6)Dig Dis Sci.2006;52:671-4.
7)薬理と治療 2010;38:787-804.

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ