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副作用症状のメカニズム
第25回 嚥下困難
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 70歳男性。アレルギー性鼻炎と診断され、点鼻薬が処方されていた。薬局で薬を渡す際に話を聞いたところ、最近、喉のつかえを感じ、飲み込みにくいのが気になっているとのことだった。

嚥下障害が生じるメカニズム

 「喉がつかえて飲み込みにくい」と表現される症状は、医学用語では「嚥下困難」や「嚥下障害」といわれる。

 食事をする際に、食物を口に運び、かんで飲み込み、胃へと送り込むまでの摂食・嚥下は、口に運ぶまでは意識的に行うが、かんで飲み込むのは一部は無意識に行っている。

 その過程は、(1)認知期、(2)準備期、(3)口腔期、(4)咽頭期、(5)食道期──の5期に分けて考えると、仕組みが理解しやすい(参考文献1)。

(1)認知期
 食物を視覚や嗅覚、触覚で認知し、口腔内に取り込むまでをいう。

 認知された情報が大脳に送られると、唾液や胃液の分泌が盛んになり、食べる準備を整える。これは、視床下部の摂食中枢や満腹中枢の活動に大きく影響を受けている。

(2)準備期
 食物をかんで咀嚼し、唾液と混ぜ合わせて食塊を作り、飲み込むまでをいう。口から物がこぼれないように口唇をしっかり閉じられること、混ぜ合わせて食塊を作るための十分な唾液が分泌されること、かむための顎の力としっかりした歯があることが必要となる。

(3)口腔期
 舌と口蓋によって、食物が口腔から咽頭へ送り込まれるまでをいう。舌と口蓋を動かしているのは、口輪筋や咀嚼筋、舌筋であるが、これらが連携してスムーズに動くよう、脳神経や顔面神経、三叉神経、舌神経などがコントロールしている。

(4)咽頭期
 嚥下反射によって、食塊を咽頭から食道へ送るまでをいう。咽頭は、口腔と鼻腔の後方にあり、食物は口腔から咽頭を通り食道へ入る。一方、鼻から入った空気は、鼻腔から咽頭を通り気管へ入る。

 咽頭で空気の通り道と食物の通り道が交差するが、食物を飲み込むときは、軟口蓋が動いて食道の入り口を確保して、鼻腔側への逆流を防ぐ。同時に喉頭蓋が気道を塞ぎ、気管への誤嚥を防ぐ。

 食物を嚥下する際は、脳神経と迷走神経が働き、気管に食物が入らないようにしている。嚥下がうまくいかないと、気道に食物や唾液が入りやすくなり、誤嚥が生じる。

 食物が口腔から咽頭に入ってくると嚥下反射が起こり、食物は咽頭から食道括約筋を越えて食道に送られる。1秒もかからない不随意反射であるが、舌咽神経や迷走神経が複雑に関与し、咽頭筋群のパターン化された運動が起こる。

 大脳基底核の線条体からは、ドパミンが分泌される。ドパミンは、舌咽神経や迷走神経で分泌されるサブスタンスPの調節を行っており、サブスタンスPは、嚥下反射を誘発する。ドパミンとサブスタンスPの産出によって、嚥下反射の制御が行われている(参考文献2)。

(5)食道期
 食道の蠕動運動と重力により、食物が食道から胃に送られるまでをいう。食道には、食道入口部と胃入口部に括約筋があり、胃からの内容物が逆流しないようになっている。

 また、食べ物が胸でつかえないのは、脳神経や迷走神経が支配している食道蠕動運動のおかげである(参考文献3)。この括約筋がうまく機能しないと、胃食道逆流症が起こる(本連載2012年8月号「胸やけ」を参照)。

   以上、これらの5期のいずれかに問題があると、嚥下障害が発生する。例えば、(1)の認知期では、疾患や加齢に伴って意識レベルや認知レベルが低下すると、食物を認知する能力が低下し、嚥下障害が起こる(参考文献1)。

 (2)の準備期では、例えば錐体外路障害、特に口唇ジスキネジアなどによって口唇や舌の不随意運動が起こると、口腔内に食物を保持することができず、嚥下が障害される。口唇ジスキネジアは、高齢者に多い。

 高齢者では、さらに唾液分泌の低下、歯の欠損や義歯の不具合などによっても、準備期の障害による嚥下障害が起こる。

 (3)の口腔期や(4)の咽頭期は、加齢の影響を受けやすい。加齢に伴い、舌筋、咀嚼筋、顔面筋などの嚥下に関する筋肉の収縮力が低下すると、嚥下時に舌や喉頭がうまく動かず喉頭の閉鎖が不完全となり、食物が気道に流れ込み、むせることがある(参考文献4)。

 飲み込んだ直後にむせる場合は、気道への誤嚥による咳反射が起こっていると考えられ、(4)の咽頭期に異常があることが多い。

 脳血管障害やパーキンソン病などによって線条体からのドパミンの分泌が低下すると、サブスタンスPが減少するため、嚥下機能が障害される。嚥下障害は、誤嚥性肺炎を誘発するため注意が必要である。

 アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、サブスタンスPを増加させることが知られており、誤嚥防止目的で投与される。

 また、姿勢の異常、例えば過度に頭部が前屈したり、猫背になったり、後屈することによっても喉頭の運動が抑制され、嚥下が障害される。これらは、錐体外路障害や脳血管障害、重症筋無力症やミオパチー、さらには末梢神経疾患のギラン・バレー症候群などで見られる症状であり、嚥下障害を起こしやすい。

 物を飲み込んで数秒後に「つかえ」を感じる場合は、(5)の食道期の異常、つまり食道に何らかの異常がある可能性がある。つかえが固体を飲み込んだときだけであれば、物理的な狭窄や粘膜の障害による機械的な閉塞であることが多い。液体でも起こる場合は、神経や筋肉の障害が考えられる(参考文献5)。

 影響する疾患としては、食道癌や食道炎、アカラシアや強皮症、食道カンジダ症などで、腫瘍や粘膜の炎症による機械的な閉塞が多い。食道カンジダ症は、免疫力が低下する高齢者、糖尿病や慢性腎不全の患者などに多く、常在菌であるカンジダが食道で繁殖するために起こる。

 また、重度の鉄欠乏性貧血でも嚥下障害が起こることがある。粘膜細胞の再生に微量元素としての鉄が必要であり、これが極度に不足することによって、食道上部の粘膜障害が起こり、嚥下障害が起こる。

 また、経鼻栄養チューブなども大きな異物として、注意しておかなければならない。 

副作用で起こる嚥下障害とは

 薬の副作用による嚥下障害も同様に、上記の(1)~(5)の各期が影響を受けることによって起こる。

 (1)の食物を認知する段階に影響を与えて嚥下障害を起こすものとして、抗精神病薬や抗てんかん薬、抗不安薬、抗うつ薬などがある。

 (2)の準備期に影響して嚥下障害を起こす薬剤としては、錐体外路障害の副作用を起こす薬剤、チアプリド塩酸塩(商品名グラマリール他)、ハロペリドール(セレネース他)やビペリデン塩酸塩(アキネトン他)、リスペリドン(リスパダール他)などの抗精神病薬、三環系抗うつ薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、メトクロプラミド(プリンペラン他)、スルピリド(ドグマチール他)などが挙げられる。

 また、唾液分泌の低下や口腔乾燥を起こす抗コリン薬、利尿薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、抗ヒスタミン薬なども、準備期に影響を与える。高齢者で食物が飲み込みづらいという場合、抗コリン作用のある薬剤が複数投与されていて唾液の分泌が低下しているケースが多い。

 (3)の口腔期や(4)の咽頭期に影響しやすい薬剤としては、嚥下に関わる筋肉や神経に影響を及ぼす筋弛緩薬、抗てんかん薬、向精神薬がある。

 嚥下障害は、薬剤性の錐体外路障害の初期症状としても重要である。前述の錐体外路障害を起こしやすい薬剤がその原因として挙げられる。抗精神病薬によって起こる悪性症候群の初期症状としても重要である。

 抗ドパミン作用を持つ抗精神病薬では、サブスタンスPを介する嚥下反射の制御が障害されることによる機序も加わり、嚥下障害が起こりやすくなると考えられる。また、ステロイド薬の投与によってミオパチーが起こった場合にも、嚥下障害が起こり得る。

 他に、ジストニアの治療や美容目的のしわ取りに使われるボツリヌス毒素の顔面への注射でも、末梢の神経筋接合部における神経伝達が阻害されることで、嚥下障害や声質の変化などが起こることが報告されている(参考文献6)。

図 副作用で嚥下障害を起こしやすい薬とチェックポイント

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 ブシラミン(リマチル他)やペニシラミン(メタルカプターゼ他)などでは、多発性筋炎が起こり、嚥下障害を起こすことも知られている(参考文献7)。

 (5)の食道期への薬による影響としては、ステロイド薬の投与による食道カンジダ症の誘発がある。特に、吸入ステロイド薬や点鼻のステロイド薬を長期に使用している場合は要注意である。

 抗癌剤の投与で白血球減少症などが起きた場合、最初に咽頭炎などの感染症が起こり、喉が腫れて飲み込みにくいという症状が起こり得る。

 食道に錠剤やカプセルが停滞し、内容薬物が溶け出し食道が直接傷害されると、炎症によって胸やけや嚥下障害が起こる。ドキシサイクリン塩酸塩水和物(ビブラマイシン他)、クリンダマイシン塩酸塩(ダラシン他)、テトラサイクリン塩酸塩(アクロマイシン他)、ミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン他)などの抗菌薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、カリウム製剤、ビスホスホネート製剤、ジギタリス製剤、鉄剤などで起こる。

 また、PTP包装の誤飲など、薬の包装による物理的な傷害も多数報告されている。

* * *

 最初の症例を考えてみよう。

 この患者は、アレルギー性鼻炎でベクロメタゾンプロピオン酸エステル(アルデシンAQネーザル他)の点鼻薬が処方されていた。いつも睡眠中に鼻が詰まって苦しい思いをするので、寝る前に点鼻薬を使用したところ調子が良かったので、長期間継続して就寝前に使用していたという。

 胸のつかえ感について詳しく聞くと、固形の物を食べると、しばらくしてつかえを感じるとのことだった。

 そのことから、薬剤師は食道の物理的な障害があると考え、就寝前に点鼻したステロイド薬が、寝ている間に咽頭から食道に誤入し、食道カンジダ症が発症したのではないかと考え、主治医に報告した。

 点鼻薬は中止となり、その後、症状は軽快したとのことであった。

参考文献
1)土岐めぐみ、北海道作業療法 2012;28(3):123-30.
2)卜部貴夫、Geriatric Medicine 2010;48(12):1625-8.
3)北野英基ら、日本臨床内科医会会誌 2005;19(5):424.
4)山田律子、おはよう21 2010;21(7):54-7.
5)西崎祐史、DOCTOR’S MAGAZINE 2011;145:18-21.
6)水野樹、痛みと臨床 2006;6(1):116-23.
7)武田貴裕、臨床神経学 2005;45(1):45-8.

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