DI Onlineのロゴ画像

Interview
癌の外来治療では薬局薬剤師の参画が不可欠です
日経DI2012年10月号

2012/10/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年10月号 No.180

 癌の薬物療法が、入院から外来に急速にシフトしている。それに伴い、外来治療中の癌患者が地域の薬局に処方箋を持ち込む機会も増えている。だが薬局での受け入れ体制は、まだ十分ではない。癌治療に精通した薬剤師の養成に力を入れる明治薬科大学教授の遠藤一司氏は、病院薬剤師と薬局薬剤師の連携の大切さを強調する。  (聞き手は本誌編集長、高志 昌宏)

Kazushi Endo 1973年、明治薬科大学卒業。国立病院機構北海道がんセンター薬剤科長、国立がんセンター東病院(現・国立がん研究センター東病院)薬剤部長などを経て、2010年から現職。12年、日本臨床腫瘍薬学会理事長。

─入院から外来治療に、癌の薬物療法が急速に変わっています。

遠藤  特にここ数年は、急ピッチで外来治療へと移行しています。外来でも行えるようになった要因としては、制吐薬などの支持療法が進歩し、抗癌剤の副作用をかなり制御できるようになったことがまず挙げられます。さらに分子標的薬に代表される新しい機序の抗癌剤が多く開発されましたが、分子標的薬は経口剤が多いことも追い風になりました。

 こうして外来での癌の薬物療法が普及し始めたのですが、薬局にとってはやや困ったことになりました。例えば病院外来で癌の治療を続けている患者の場合、支持療法として制吐薬のみだとか、皮膚症状に対するステロイドや保湿剤のみといった処方箋が出ることもあります。処方箋を見ただけでは、その人が癌の薬物療法を受けている患者であるとは、薬局ではなかなか判断できません。また、経口抗癌剤だけが処方箋として出されることもあります。この場合は癌であることは分かりますが、処方箋だけでは得られる情報が乏しく、具体的にどう服薬指導すべきなのか判断が難しいでしょう。

 病院外来で抗癌剤の点滴も受けていれば、その場で薬の副作用などについて説明を受ける機会があります。ですが経口抗癌剤だけの治療という場合、病院薬剤師が関わって薬について詳しく説明しているという施設は、まだ少ないのです。そのため副作用への対応などをきちんと教わる機会がないまま、患者は処方箋を持って病院を出てしまうことになりがちです。

 例えば高血圧の患者であれば、降圧薬の副作用は頻度も低い上に選択肢が多いので、副作用が出ても別の降圧薬に替えれば済みます。ですが癌患者では、話はそう簡単ではありません。癌は多様であり、一人ひとりの患者に適する治療法は限られます。今使っている抗癌剤は、効いているのであればできるだけ使い続けたい。副作用が出ても対応可能であれば、継続したいのです。そのためには、薬剤師の関わりが非常に重要になります。

 外来で癌の薬物療法を行っている医師は、癌治療への関与を薬局薬剤師にも求めていると思います。癌の薬物療法に関した処方箋が出るのであれば、チーム医療は院内の専門職だけでは完結しません。薬局薬剤師の参画が必要なのです。

 ですが薬局薬剤師にとって、一朝一夕にできることではないのも事実でしょう。「抗癌剤の処方箋を持った患者が来たら、どう対応していいのか分からない」といった話を、よく聞きます。

─それで「詳しくは先生に聞いてください」となってしまう。

遠藤  ええ。でも、病院で癌治療を担当している医師は、「自分の病院で薬剤師が行っているような指導は、薬局でもできている」と思っていることが意外に多いのです。先日も、「実はそうでもないらしいけど、どうすればいいか」という相談を受けました。これは、薬剤師にとっては看過できないことで、早急に何とかしなくてはなりません。

 もっとも、処方箋だけでは満足な指導ができないことも明らかです。患者から話を聞こうにも、全ての患者が自分の治療内容を正しく把握しているわけではありません。そこで、病院薬剤師と薬局薬剤師が上手に連携して患者の情報を共有しながら、的確な指導や対応ができる仕組みをつくるべきです。

 もちろん、病院薬剤師であっても癌の薬物療法に対する意識に差はあります。ですが癌治療に取り組む病院の薬剤師であれば、地域の薬局薬剤師とのコミュニケーションの重要性を認識しているはずです。

 私が以前所属していた国立がん研究センター東病院では、抗癌剤を使っている外来患者には適宜、癌治療の内容を記した情報提供書を渡し、処方箋と一緒に薬局に出してもらっていました。このような取り組みが全国的に広がればいいと思っています。

─薬局薬剤師も癌に関する知識を増やさなければなりませんが、どうアクションを起こせばよいのですか。

遠藤  最初の敷居は高いかもしれませんが、癌に関連した処方箋が来たとき、発行した病院の薬剤部に声を掛けてみてください。先にも話したように、経口抗癌剤だけの治療を受けている患者の場合は、病院薬剤師が十分に関わることができません。薬局薬剤師が一部でもその役割を担うことができれば、異論はないはずです。他の薬局や地域の薬剤師会にも声を掛けて、情報交換会や勉強会を始めようといった話も、進むのではないでしょうか。

 薬局薬剤師からは、「病院薬剤師の勉強会はレベルが高過ぎる」とよく言われます。でも病院薬剤師も、最初は何も分からなかったはずです。病棟に出ていっても癌患者の前はスルーしていたかもしれない。それではいけないと、専門薬剤師制度なども作って、癌を勉強する仲間を増やしてきました。

─薬学教育が6年制になって、癌に関する教育は変わりましたか。

遠藤  私の大学では3年生から癌の薬物療法について教えています。5年生では実習先の病院で実際に癌患者に接することもあるので、癌治療に対する学生の関心はかなり高くなりました。実習後に「がん専門薬剤師になりたい」と話す学生もいますし、数人で症例検討のゼミを開くと、1人は癌の症例を提示するほどです。

 癌の薬物療法は、まず標準治療があり、副作用が出たらどうするか、患者にどう説明するかなど、薬剤師が考えることが多いですよね。その結果、癌の知識だけでなく、薬剤師がどうやって患者に関わるかも勉強できる。若い時に学べば癌に対する心理的障壁も低くなるでしょうし、彼らが現場に出ることで、薬剤師全体の意識改革も期待できます。

─新たに日本臨床腫瘍薬学会を立ち上げましたね。

遠藤  これまで研究会として活動してきましたが、今年3月に日本臨床腫瘍薬学会に改組しました。癌治療に関して、薬局薬剤師と病院薬剤師の間には、まだ十分な交流の場がありません。本学会では、初学者を対象としたスタートアップセミナーを企画したり、薬薬連携に取り組む施設の見学会といった、薬剤師の研修や交流の場の提供に努めていきます。また現在のところ、がん薬物療法認定薬剤師などの専門資格は、事実上病院薬剤師でなければ取得できません。でも、癌治療に関して薬局薬剤師に求められる役割も大きいので、薬局薬剤師も取れるような認定制度の創設を検討しています。

 薬局では在宅業務が注目されていますが、そこでは癌の緩和医療が大きなウエートを占めます。つまり薬剤師が癌に関わるには、薬物療法と緩和医療の2つをマスターする必要があるのです。そこで緩和医療についても、関係学会と連携して薬剤師への普及に努めようと考えています。

 学会になったからには、薬剤師が関わることで癌の治療がどれだけ向上したか、そのエビデンスを作っていく必要もあるでしょう。色々やることがありますね。

インタビューを終えて

 本号の特集で取り上げた癌の薬物療法と9月号特集で取り上げたフィジカルアセスメント─。薬剤師にとってこの2つの領域は、関与する程度は差があるとしても、今後、全く「われ関せず」では済まされない分野になることは確かでしょう。ただ、癌の薬物療法の外来シフトにしても薬剤師によるフィジカルアセスメントにしても、大局的な医療環境の変化に薬剤師として対応を迫られているという側面もあります。どちらも一時期の流行と捉えず、アウトカムを明確にした議論が必要と感じました。(高志)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ