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特集:薬剤師を変えるバイタルサイン
実践!こんなに役立つ 薬剤師のバイタルサイン
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

 バイタルサインの“威力”を実感するのは、どんなときなのだろうか。日常業務でフィジカルアセスメントに取り組み、副作用を発見したり減薬につなげたりと、確かな手応えを感じている先駆者に聞いた。

 「腸音や呼吸音の一部は、正常音と異常音の区別が付けやすい。実際に副作用を見つけることができ、積極的に聴診器を使用するようになった」

 長崎大学病院の松永典子氏が、聴診の有効性を感じたのは、腎細胞癌で入院した70代男性の副作用を発見したときだった。

写真5 腸蠕動音の聴取で副作用の便秘を発見

「心音や呼吸音よりも、聴音は異常音が分かりやすい」と長崎大学病院の松永氏は話す。(提供:松永典子氏)

 この患者には、ハイペン(一般名エトドラク)、マグラックス(酸化マグネシウム)、アフィニトール(エベロリムス)、オキシコンチン(オキシコドン塩酸塩水和物)などが処方されていた。

 これらのうち、分子標的薬のエベロリムス、オピオイドのオキシコドン塩酸塩水和物は、重篤な副作用が報告されていることから、松永氏はこの2剤の副作用発見に重点を置いてフィジカルアセスメントを行った(表3)。

表3 腎細胞癌患者に行ったフィジカルアセスメントのポイント(松永氏による)

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 聴診で腸蠕動音が減弱していることを確認、オキシコドン塩酸塩水和物の副作用による便秘と考え、大腸刺激性下剤のセンノシドの処方追加を医師に提案した。「患者さんの『便が出ない』という訴えだけでなく、腸蠕動音が減弱していることが確認できれば、処方の提案もしやすい」と松永氏は話す。

 同時に口内炎も発見。エベロリムスの副作用と考え、デキサルチン(デキサメタゾン)と含嗽薬の処方も提案した。

検脈で徐脈傾向を確認、ジギタリス中毒を早期発見

 触診(検脈)で副作用を発見した経験もある。

 子宮頸癌の治療のために入院した70代女性は、慢性心不全と心房細動があり、入院前よりラニラピッド(メチルジゴキシン)、アーチスト(カルベジロール)、ミコンビ配合錠(テルミサルタン/ヒドロクロロチアジド配合錠)、ヘルベッサー(ジルチアゼム塩酸塩)、ワーファリン(ワルファリンカリウム)などを服用していた。

 入院時に行った検査で、腎機能が低下していることが示されたが、動悸やジギタリス中毒症状などが特になかったため、用量変更の必要性が出てくる可能性を医師に伝えた上で、経過観察をしていた。

 ある日、患者が「目がチカチカする」と訴えたため、検脈したところ、脈が遅いことが判明した。過去の脈拍数の推移を確認したところ、徐々に徐脈傾向が進んでいることが分かったため、ジギタリス中毒の可能性があると医師に報告した。

 ジギタリス中毒の初期症状としては食欲不振や下痢といった症状が見られるが、患者は放射線治療を受けており、さらに下剤も服用していたため、これらの症状からジギタリス中毒に気づくことは難しい。そこで薬物血中濃度測定を提案して測定した結果、1.92ng/mLと高めだった。

 患者は循環器内科に紹介となり、メチルジゴキシンが中止された結果、目の症状や徐脈が改善した。

 「病棟でバイタルサインを採るようになって、患者の身体的な変化について医師と協議することが多くなったと感じる。医師や看護師からの情報提供も増え、以前より細かな副作用モニタリングができるようになった」と、松永氏はバイタルサインの効用を実感している。

 「在宅療養している患者さんの処方内容に疑問を感じたとき、バイタルサインの情報に基づいて疑義照会や処方提案をすれば、検討してもらいやすい」。 別ページのルポで紹介した、さかい薬局グループの坂井美千子氏は、90代女性のAさんへの介入で、バイタルサインを採る意義を実感したという。

 当時Aさんは独居で、数年前からほぼ寝たきりの状態だった。11年末ごろから食欲が落ちて体重も減少、せん妄の症状が悪化していたという。半年ぐらい前からは本人の受診が困難になり、薬は家族が受け取っていた。

 事前の打ち合わせでは、薬剤管理は近隣に住んでいる実娘が行っており、きちんと飲ませているとのことだったが、ケアマネージャーと共に坂井氏が訪問したところ、「残薬が、畳の半畳分もあった」(坂井氏)。そのときAさんには、マグミット(酸化マグネシウム)、セロクラール(イフェンプロジル酒石酸塩)、プロテカジン(ラフチジン)、苓桂朮甘湯など内服薬9種類と、プロスタンディン(アルプロスタジルアルファデクス)軟膏など外用薬4種類、計13種類もの薬剤が処方されていた。

 「食欲不振やせん妄などの症状は、薬剤の副作用の可能性がある。医師はこの状況を把握できていないのではないか」。こう考えながら、フィジカルアセスメントを行ったところ、血圧が高く、心雑音が聴取された。下腿は左右で太さが異なっており、左脚の浮腫を確認。足背動脈は触れなかった。全身の皮膚の乾燥も確認した。

 これらの結果と服薬状況から坂井氏は、血圧上昇は酸化マグネシウム、浮腫は苓桂朮甘湯によるものではないかと疑った。また外用薬も、医師の処方時点から症状が変化していることが予想され、適切ではない可能性があると考えた。

 医師の診察を受ける必要があるが、それまでAさんが受診していた病院は訪問診療をしていない。そこで坂井氏は、訪問診療を行ってくれる医師を探し、バイタルサインを含めた報告書を提出。この医師の診察により、酸化マグネシウムや苓桂朮甘湯など約半数の薬剤が中止され、下腿浮腫とせん妄が消失した。3カ月後、Aさんは自ら起き上がり、トイレで排便できるまでADLが改善した。

 「学んだスキルを現場で使わないと意味がないと考えていたところに、Aさんのケアに関わる機会を得た。実際に、在宅でバイタルサインを活用してみると、これまで行っていた患者や家族の主訴に頼ったアセスメントは薬学的アセスメントとは言い切れないのでは、と感じるようになった」と話す。

 同薬局のある地区は、医師不足の上、高齢化が著しく、介護できる家族もいないケースが少なくないという。このような環境では、寝たきりの高齢者が頻繁に医療機関にかかることは難しい。「例えば、月に2回受診している患者に薬剤師が関わることで、月1回にできると思う。もちろん、バイタルサインに変化があった場合はすぐに医師に連絡して受診勧奨し、併せて処方変更や検査の提案もする。結果的に効率的なケアができるようになる」と坂井氏は訴える。

写真6 在宅業務でバイタルチェックの有用性を実感

寝たきりの状態だったAさん(左)だが、薬剤の見直しにより、車椅子に座って過ごすことができるようになった。
写真:林田 大輔

 ファーマシィやかげ薬局(岡山県矢掛町)では、定期的に心電図の記録を行い、副作用の防止に役立てている。

 取り組みを始めたのは、ファーマシィ薬局企画本部学術課長の尾上洋氏。10年ほど前に一念発起して、独学で心電図の勉強を開始したという。「薬の添付文書には『QT延長』『I度房室ブロック』といった心電図や循環器疾患に関する専門用語が頻出するのに、十分に理解していないのではないか」と、危機感を覚えたことがきっかけだ。尾上氏は、「当初は趣味として勉強していた向きもあったが、社内勉強会で『薬剤師も患者の身体に触れることができる』という話を聞き、心電図を実務で生かそうと考えた」と話す。

「副作用に気づくためには、薬剤だけでなく疾患についても十分な知識が必要」と話すファーマシィの尾上洋氏。

 近隣のグループホームで月1回の心電図のモニタリングを始めたのは、11年11月ごろからだ。現在は主に、尾上氏の指導を受けた同薬局の薬剤師である中田和枝氏が、14人の入所者に対し、了解を得て心電図波形の記録と血圧測定を実施。薬局に戻ってから心電図を紙に印刷し、それを尾上氏が読む体制で行っている。「異常が疑われれば、すぐに医師に連絡するようにしている」(尾上氏)という。

写真7 携帯心電計を用いた心電図のモニタリング

原則として月1回、グループホームを訪問し、心電図のモニタリングを行っている。必要に応じて、モニタリングの頻度を増やすこともあるという。

尾上氏が使用している携帯心電計。寝たきりで心電計を操作できない高齢患者が多いため、外部電極を取り付けて使用している。

記録した心電図は、紙に印刷して尾上氏が読む。訪問診療に同行した時の聞き取りを参考にしながら、わずかな所見の変化も見逃さない。計測結果や、QT延長を起こす可能性がある薬剤の有無は、オリジナルのチェックリストに記録する。

生活全般の情報も重要な鍵

 同薬局ではまた、週1回行われる医師の訪問診療に薬剤師が同行し、調剤・配薬を行いながら、医師や看護師、介護スタッフから患者の様子を聞いたり、カルテを見せてもらったりしているという。「それらの情報も、心電図を読み解く際の重要な鍵となる」と尾上氏は話す。

 実際、同氏はこんな症例を経験した。

 患者は、カルシウム拮抗薬をはじめ複数の薬剤を服用していた80代の寝たきりの女性。浮腫が出現し、心不全と診断されたため、利尿薬のフロセミドを追加することになった。投与開始の前後では、心電図波形に変化は見られなかったが、数カ月後のモニタリングの際、QT時間が60ミリ秒ほど延長していることが判明。尾上氏は電解質異常を疑い、医師に血液検査の実施を提案した。検査の結果、血清カリウム値が低下していることが分かり、グルコン酸カリウム製剤が処方された。約1カ月後の心電図では、患者のQT時間は正常範囲に戻っていた。

 実はこの患者は、QT延長を来す1カ月ほど前から、体位変換の際にしばしば嘔吐することがあり、介護者が経腸栄養剤の量を減らしていたのだった。「カリウムの摂取量が極端に少ない状況で、フロセミドによる脱水も重なって、低カリウム血症を来したのではないか。放置すると致死性不整脈を起こす恐れもあったため、薬剤師が介入してよかったと感じた」と尾上氏は振り返る。

 尾上氏は、心電図の仕組みや読影方法だけでなく、副作用の発現メカニズムや疾患の標準治療法などについても豊富な知識を身に付けるため、現在も研鑚を積んでいる。「今後は薬剤師による介入の有用性を、きちんとデータで示していきたい」と同氏は意気込んでいる。

 ウエルシアホールディングスグループのウエルシア関東(本社:さいたま市見沼区)は今秋から、介護老人福祉施設への歯科医師の訪問診療に薬剤師が同行し、頸部聴診によって嚥下音を聴取する取り組みを始める。

 「高齢者の中には、誤嚥してもむせない不顕性誤嚥があるために、肺炎による入退院を繰り返す人も少なくない。薬剤師は、患者が薬を飲めたらその時点でフォローを中止するのではなく、薬を飲んだ後にも誤嚥を起こしていないかどうか注意して観察したり、嚥下機能が低下した人を早期に見つけ、適切な剤形選択を行ったりすべきではないか」。嚥下に詳しい歯科医師で同社調剤介護四部の大西孝宣氏は、狙いをこう説明する。

ウエルシア関東の大西孝宣氏は、「薬剤師にとって嚥下機能の評価は重要」と話す。

 一般に、嚥下機能を評価する方法には、内視鏡検査やビデオレントゲン造影検査があるが、これらは高い技術と専用の医療機器が必要で、在宅や高齢者施設では行いにくい。一方で簡便な方法として用いられているのが、「水飲みテスト」や「反復唾液嚥下テスト」「頸部聴診法」だ。

 例えば、反復唾液嚥下テストとは、肌の上から患者の喉頭(のどぼとけ)に指を当て、唾液を繰り返し飲み込んでもらうというもの。30秒間にのどぼとけが上下した回数が3回未満であれば、嚥下機能の低下を疑う。「特別な器具がなくても、嚥下機能が低下している患者を簡便に見つけることができる」(大西氏)という。

写真8 薬剤師による嚥下音の聴取

唾液を飲み込むのが難しい場合は、食事や服薬に合わせて嚥下音を聴取する。薬剤師が「きれいな音が聞こえます」と話すと、患者は安心した様子に。

のどぼとけに片方の手の指先を当て、嚥下を確認しながら、もう一方で咽頭部の嚥下音と呼吸音を聴取する。

 不顕性誤嚥の発見にも役立つのが頸部聴診法だ。患者ののどぼとけに指を当て、もう片方の手で気管側方部に聴診器を当てる。唾液や食事を飲み込んでもらい、のどぼとけが上下するのを確認しながら、嚥下前後の呼吸音を聴取する。

 正常な場合は、「ファー」という濁りのない呼吸音の後、「ゴクッ」という嚥下音が続き、再び呼吸音が聞こえる。一方、誤嚥が起きている場合は、分泌物を含んだ痰がからんだり、異物が咽頭に残っていたりするため、呼吸音が途切れたり、泡立ち音や喘鳴などの雑音が混じったりするという。「パルスオキシメーターによるSpO2測定を併せて行うことで、誤嚥の有無をより正確に判断できる」(大西氏)。

 大西氏は、「薬の効果が思うように得られないときには、まず薬を飲んでいるかどうかを確かめることが、薬剤師の重要な役割。服薬のタイミングに合わせて嚥下音の聴取を行えば、誤嚥の有無を調べることはもちろん、患者が実際に薬を飲んでいることを、その場で薬剤師が確認することもできる」と話す。

 同社は今後、連携している首都圏の数カ所の高齢者施設や在宅業務においても、社内研修を受けた薬剤師による嚥下音の聴取を導入していく予定だ。「在宅医療や介護に関わる初めの一歩として、多くの薬剤師に嚥下機能に興味を持ってもらいたい」と大西氏は話している。

 「心臓がドキドキするわけではないけれど、先生に脈が速いと言われた。ひょっとして甲状腺の病気かもしれないからと採血された」。こう話しながら、70代後半の女性が処方箋を持ってセンター薬局上川店(北海道上川町)を訪れた。処方箋には、バイアスピリン(アスピリン)、パリエット(ラベプラゾールナトリウム)、プレタール(シロスタゾール)、アイトロール(一硝酸イソソルビド)などの薬剤名が並んでいた。

 患者から処方箋を受け取った薬局長の庵原伸也氏は、「医師は甲状腺疾患を疑っているようだが、頻脈はプレタールが原因かもしれない」と考えた。患者の了解を得て脈を測ると、100拍/分だった。

 そこで、服薬情報提供書に「薬局では脈拍100」と記載した上で、プレタールの添付文書から、脈拍数増加に関する部分を抜粋して付け加え、「以上、気になりましたのでご報告させていただきました」と締めくくった。すると医師から「情報ありがとうございます。次回の診療の参考にさせていただきます」との返信があり、4週間後に患者が持参した処方箋ではシロスタゾールが半量に減量されていた。

 減量から2週間後、その患者は別の診療科を受診して再び来局した。脈拍を測定したところ、76拍/分に下がっていた。そこで服薬情報提供書に「患者様に確認したところ、『脈は落ち着いた』とのことでした(脈拍76)。まずは脈拍が正常に戻ったことについて、ご報告させていただきます」と記載した。すると後日、医師から「プレタールの副作用だとは思い付かなかった。助かりました」との言葉を受け取った。

 「自分でバイタルサインを採ることができると、患者の言葉から拾った情報のみで判断するよりも、自信を持って医師に情報提供できる」と、センター薬局グループ(札幌市中央区)執行役員の山本千尋氏は話す。

「家庭医との連携にはバイタルサインが必要になる」と話すセンター薬局グループの山本千尋氏。

OTC頭痛薬を求める患者の高血圧を発見、受診勧奨に

 薬局でのバイタルサイン活用は、処方薬だけにとどまらない。

 「頭痛がするから、ロキソニンSが欲しい」と、商品名を挙げてOTC薬を買いに来た70代男性がいた。少し顔が赤く、話を聞くと、ふらつくこともあるという。高血圧を疑った山本氏は、患者の了解を得て血圧を測定。すると収縮期血圧が200mmHgを超えていた。

 高血圧の治療は全く受けていないという患者に、今すぐ受診するよう指導。すると数時間後、患者はアムロジン(アムロジピンベシル酸塩)の処方箋を持って薬局に戻ってきた。

 「バイタルサインの講習会に行っていなければ、OTC薬を買いに来た患者の血圧を測るという発想にならなかったと思う。プライマリケアの最前線で、薬剤師が客観的なデータを得る意義は非常に大きいと実感した」と山本氏は力を込める。

写真9 投薬カウンターでの脈拍測定

薬局のカウンターで投薬時にバイタルサインを採取するセンター薬局上川店の庵原伸也氏。「患者によっては、バイタルチェックが負担になることもあるので、必要性を感じた患者のみに行っている」。

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