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特集:薬剤師を変えるバイタルサイン
なぜ薬剤師が バイタルサインを採るべきか
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

 バイタルサインやフィジカルアセスメントをテーマにした講習会が全国各地で開催されるようになった。まずは、何のために薬剤師がバイタルサインを学ぶべきかを理解することが大切だ。

 「聴診器は、イヤーピースの向きに注意して耳に入れてください」「血圧計のマンシェットは、きつく巻き過ぎないように。指が2本入る程度ですよ」「ゴム球のねじは親指と人さし指で操作します」─講師の手元を見つめる薬剤師たちの目は真剣そのもの。会場は、参加者の熱気に包まれている。

「患者に触れてはダメ」ではない

 最近、薬剤師を対象とした「バイタルサイン講習会」「フィジカルアセスメント研修会」といった名称の勉強会が全国各地で開催されている(写真4)。取材したどの会も、開催を告知した直後に申し込みが殺到、あっという間に募集枠が埋まるほどの人気だったという。

写真4 全国各地で開催された薬剤師対象の勉強会

a 7月15~16日に大阪市で開催された在宅療養支援薬局研究会(現・日本在宅薬学会)第5回シンポジウムでは、バイタルサインのワークショップが行われた。
b 千葉県薬剤師会が主催するフィジカルアセスメント研修。6月17日の第1回を皮切りに、来年2月までに計6回のプログラムが組まれている。
c 6月30日~7月1日に長野市で開催された第16回日本地域薬局薬学会年会では、バイタルサイン取得の実技講習とともにシミュレーターを使ったフィジカルアセスメントの体験コーナーが設けられた。

 バイタルサインとは、脈拍、呼吸、血圧、体温の4つ(または意識レベルを追加して5つ)のこと。フィジカルアセスメントとは、バイタルサインのほか、聴診や触診、視診といった手技によって、その患者の症状や状態を把握することをいう。いずれも患者の身体に直接触れて情報を得る。

 「薬剤師は、患者の身体に触れてはいけないのではないか」と懸念する人は少なくない。しかし、「薬剤師が、薬学的管理を目的として、侵襲のない範囲で患者の身体に触れることを禁じる法的な根拠はない」と、厚生労働省医薬食品局総務課課長補佐の中井清人氏は話す(別掲記事参照)。

常に目的を明確に

 「法的な観点から問題がなかったとしても、ただバイタルサインを採るだけでは意味がない。かえってトラブルのもとになる。何のために採るのか、常に目的を明確にしなければならない」とファルメディコ(大阪市北区)代表取締役で日本在宅薬学会理事長の狹間研至氏は訴える。同学会は、2009年11月からバイタルサイン講習会を主催しているが、まず最初に講義するのはバイタルサインを採る目的についてだという。

 何のためにバイタルサインを採るのか。第1の目的は、投薬後の患者のわずかな体調変化をキャッチして、薬の副作用を回避、または重篤化を防ぐことにある。同時に薬の効果がきちんと得られているかを確認して、個々の患者に最適な薬物療法を提案することだ(表1)。

表1 薬剤師がバイタルサインを採る目的(取材を基に編集部で作成)

 この目的のために薬剤師にとって有用な情報には、血圧、SpO2、脈拍、体温のほか、聴診による腸蠕動音や呼吸音、触診による浮腫の状態、視診による皮膚や口腔内の状態などがある。

 こういった情報が、医師や看護師などのスタッフ間で共有されている病棟などでは、必ずしも薬剤師が採る必要はないだろう。しかし、情報が得られない薬局や在宅では、薬剤師が自ら必要な情報を集めるしかない。

 現在、多くの薬剤師は、患者や家族の言葉や薬歴などを参考に、投薬後の経過観察や薬効評価をしているが、ここに最新の客観的なデータが加われば、より的確に評価することが可能になるだろう。

 医療・介護従事者の“共通言語”であるバイタルサインは、薬剤師のチーム医療への参画を後押しする。「病棟でフィジカルアセスメントを始めてから、医師や看護師などのスタッフと、患者の身体的な変化について協議することが多くなった」と長崎大学病院薬剤部の松永典子氏は語る。

薬局にとっての“武器”に

 在宅患者の管理においても「医師や訪問看護師、ケアマネージャーなどの介護職と情報を共有しながら、必要に応じ処方提案につなげるためには、バイタルサインが必須だと実感している」と、さかい薬局グループの坂井美千子氏は話す。

 「バイタルサインは、薬剤師が在宅業務に関わっていくための“武器”になる」と話すのは、エムワン(三重県松阪市)代表取締役で薬剤師の村井俊之氏だ。これまでは玄関先で薬を渡すだけだった薬剤師が、聴診器やパルスオキシメーターを持参して「よろしければ測りましょうか」と声を掛けると、部屋の中に入れてもらえるようになる。患者宅に上がれば、残薬や日常生活の状況もきちんと把握でき、より適切な服薬指導ができるというわけだ。

 センター薬局グループ(札幌市中央区)執行役員で薬剤師の山本千尋氏は、「薬局でOTC薬を販売する際のトリアージにも、バイタルサインは有用」と語る。処方箋を持たない人も、気軽に立ち寄ってバイタルサインをチェックするようになれば、セルフメディケーションの推進にもつながるだろう。

 6年制薬学部の一部では既に、カリキュラムの一部にバイタルサインとフィジカルアセスメントを盛り込み始めている。現役薬剤師も、もはや避けては通れなくなりそうだ。

 では、実際にどんなバイタルサインが何に役立つのか、次から見てみよう。

「薬剤師はチーム医療でもっと存在感を示すべき」

厚生労働省医薬食品局総務課課長補佐(薬学博士)
中井 清人氏

 薬物療法は高度化・多様化しており、薬剤師に求められる役割も大きく変化している。患者も社会も、薬剤師が調剤室に閉じこもっていることを求めているわけではない。

 2010年3月19日に厚労省が公表した報告書『チーム医療の推進について』には、「病棟において、医師や看護師が副作用のチェックその他薬剤の管理業務を担っている場面も少なくない」「在宅医療をはじめとする地域医療においても、看護師などが居宅患者の薬剤管理を担っている場面も少なくない」と、薬剤師が十分に活用されていない現状が書かれている。

 厳しい指摘だが、見方を変えれば、薬剤師に病棟や在宅医療で医療者として活躍してほしい、もっと存在感を示してほしいと、社会が期待しているということだ。

 同報告書には、現行制度の下で薬剤師が担うべき具体的な業務として、副作用の発現状況や有効性の確認などが明記された(表2)。これらの業務を遂行するために必要な知識やスキルは、継続的な自己研鑚を通じて習得すべきだろう。

 最近、様々なところで先駆的に薬剤師が活躍している事例が報告されている。ぜひ、その成果をエビデンスとして蓄積し、社会に向けて情報発信していってほしい。(談)

表2 現行制度の下で薬剤師が担うべき業務の例

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出典:厚生労働省『チーム医療の推進について』
(チーム医療の推進に関する検討会 報告書)2010 年3月19日より一部抜粋、改変

表2 現行制度の下で薬剤師が担うべき業務の例

出典:厚生労働省『チーム医療の推進について』
(チーム医療の推進に関する検討会 報告書)2010 年3月19日より一部抜粋、改変

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