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特集:薬剤師を変えるバイタルサイン
「バイタルチェックは 在宅業務に欠かせません」
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

保険薬局の薬剤師がバイタルサインを活用したら、何がどう変わるのか─。日常的なバイタルサインのチェックを在宅業務に取り入れた、さかい薬局グループ(福岡県田川市)の2日間に密着取材した。

 「Aさん、こんにちは。さかい薬局の坂井です。顔色もいいし、元気そうやね」。サービス付き高齢者向け住宅に入居している90代女性のAさんを訪問した、さかい薬局グループ専務取締役で薬剤師の坂井美千子氏は、ベッドに横になっているAさんに話し掛ける。

「薬剤師の仕事を再認識した」と話すさかい薬局グループの坂井美千子氏。

 「外は暑いけど、ここはエアコンが効いちょっていいねえ。寒過ぎん?」。こう話しながら体温、血中酸素飽和度(SpO2)を測定し、脚の浮腫をチェック。「熱もないし、SpO2も脈拍もいつもと変わらんかったよ。血圧も測らせてね」。血圧計のマンシェットをAさんの腕に巻き、聴診器を当てる(写真1)。

写真1 サービス付き高齢者向け住宅に入居している90代女性を訪問

a 血圧計のマンシェットを腕に巻き、聴診器を当てる。
b 口腔内と嚥下の状態を確認。
c ケアマネージャーの片野あずさ氏(左)との打ち合わせ。
写真:林田 大輔

「先週より下がっちょうよ。血圧のお薬を減らせるかもしれんき、先生に伝えとくきね。トイレはどう?」。するとAさんは「しばらく便が出とらん。少し苦しい」という。「腸の音、聞かせてもらっていいかね」と聴診器を下腹部に当てる。「もうすぐ便が出そうな音しちょんやけど…。水分も取っちょってね。喉、渇いちょう?」と話し、テーブルからお茶の瓶を取り、Aさんに渡す。

 続いて睡眠の状態を確認すると、Aさんは夜中に目が覚めると訴えた。最近、利尿薬が処方されたため、以前よりも尿量が増えて睡眠に影響している可能性があった。そこで坂井氏は、ケアマネージャーに吸収能の高いオムツへの変更を提案していた。「お薬で、ちょっとの間、おしっこの量が増えることがあるきね。オムツを新しいのにしたら、夜中ぐっすり寝られると思うき」。

 食事について尋ねると、「形のあるものが食べたい」とAさん。ミキサーにかけて滑らかにした食事が出されているが、本人はかんで食べたいようだ。口腔内と嚥下の状態を確認する。「飲み込むのも上手やき、そしたら食事のことも先生にお話ししちょくね」。

 最後に、棚の上に置かれたノートに、バイタルサインの数値、医師に伝える内容、便秘薬の増量提案、オムツ購入、食事の希望を、箇条書きで記す。このノートを介して、Aさんの娘、ヘルパー、ケアマネージャーと情報を共有する。

 「じゃあ、Aさん、また来るき。明後日は先生が来てくれるき、楽しみにしちょっきね」と挨拶をして部屋を出た。

□ □ □

 Aさんを訪問する1時間ほど前、坂井氏と同社統括本部長の田崎恵玲奈氏は、ケアプランサービスひかり(福岡県川崎町)管理者でケアマネージャーの片野あずさ氏と、施設近くのレストランで打ち合わせをしていた。

 坂井氏が居宅療養管理指導を始めたのは、今年2月、片野氏からAさんについて相談されたのがきっかけだ。薬剤を見直した結果、寝たきりの状態だったAさんが、自ら起き上がりトイレで排便できるまでにADLが改善した。「Aさんの状態は薬が原因だったことに驚きました。薬剤師の介入によって、ケアの質を向上させられると実感しました」(片野氏)。

 「おはようございます。さかい薬局の田崎です」。玄関の呼び鈴を押して声を掛けると、「わざわざ、どうも、どうも。さ、上がってください」と、70代の夫婦が家の奥から笑顔で迎え出た。

 客間に通され、夫のBさんからバイタルチェックを開始(写真2)。Bさんは慢性閉塞性肺疾患(COPD)で在宅酸素療法を受けているほか、心房細動、糖尿病、脂質異常症、前立腺肥大症、足爪白癬の治療で通院中だ。

写真2 70代夫婦の自宅を訪問。バイタルサインを採りながら、患者から多くの情報を得る

a SpO2と脈拍を測定。肌の張りから脱水していないことを確かめる。
b 「吐いて~、吸って~」と声を掛けながら聴診器で呼吸音を確認。
c 体重を測りながら、食事内容を確認。「おかずを届けてくれるサービスもあるからね」と提案。
d 自社で作成した「訪問時体調チェック表」のほか、お薬手帳にもバイタルサインの数値を記録する。

 体温を測定した後、パルスオキシメーターを指にはめ、SpO2と脈拍を測定する。脚に触れたところ、左脚にむくみが見られた。「先週から左脚がむくんどるね。糖尿病のお薬の影響かもしれんから、両脚の写真を撮って、先生に送っておくけん」。こう田崎氏が説明したところ、「糖尿病の薬? あ、今朝、糖尿病の薬を飲み忘れてしまったわ」とBさんが打ち明ける。「ご飯の前に飲むようになっとるから、忘れやすいんやね。先生に頼んで、食後にしてもらおうかね」。

 痰について聞くと、「痰かつばかよく分からんが、粘っこいのが出た」とBさん。「胸の音を聞かせてね」と聴診器を胸に当てる。田崎氏の「吐いて~、吸って~」という声掛けに合わせて、Bさんが深呼吸した。「痰がからんだ音はしてないね。おなかの音も聞かせてね」と、腹部の聴診をする。「トイレは何回ぐらい行っとお?」「そうやねえ…。便は1回、いつもと同じやな。おしっこは昼間に3回、夜に2回ぐらいやったか。朝のおしっこが、ちょっと茶色かった」。

 「しばらく腎臓の検査をしてないから、次に泌尿器科を受診したときに、検査してもらいましょうか」と検査を勧めた。するとBさんは「そうそう、検査の結果を病院で聞いたが、忘れてしまった」と、引き出しから肝機能検査結果の紙を取り出し、「この数字は何ね?」と田崎氏に差し出した。田崎氏の説明に「ほお、そうか」と納得した様子だ。

 続いて、妻のCさんのバイタルチェックも終え、測定結果をお薬手帳に書き込む。「再来週はお盆休みで病院も休みやけん、来週、受診して処方箋を出してもらわんといかんのよ。いつなら病院に行ける?」。カレンダーを見ながら次の受診日と薬を届ける日を決めた。

 Bさんに、薬剤師がバイタルサインを採ることをどう思うか尋ねてみた。「家で色々測ってもらって、安心やね。まず、薬の飲み忘れが少なくなったわ。ついでに分からんことも教えてもらって、ありがたいと思っとります」。

 行橋地区広域病院の薬薬連携の打ち合わせのため、小波瀬病院(福岡県苅田町)薬剤部部長の川崎美紀氏を訪問(写真3a)。

写真3 地域に根差した薬局を目指して

a 小波瀬病院の川崎美紀氏(左)を訪問。
b 薬局内で血圧を測定しながら健康相談。
c Aさんの主治医の重藤史行氏(左)に報告書を持参。

 「お薬手帳を介して病院から入院時の情報を提供する一方、退院後の経過を客観的なデータで薬局からフィードバックしてもらえたら、相互にメリットがある。薬局薬剤師も、バイタルサインを採ってほしい」と川崎氏は話す。

 さかい薬局グループの薬師調剤センター薬局にて、近隣に住む60代女性Dさんの健康相談を受ける。「血圧計はあるけど、どこにいっちゃったか…。ここで測ってもらえるなら、ちょくちょく寄らせてもらうわ」とDさん(写真3b)。

 Aさんの主治医である重藤内科医院(福岡県田川市)院長の重藤史行氏に報告書を持参。「特に高齢者では、一見元気そうでも、バイタルサインの変化で異常が見つかることがある。バイタルサインは時系列で見ることが大切。薬剤師のバイタルチェックはよいことだが、介護者を含めて情報を共有することが重要だ」と重藤氏(写真3c)。

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