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Report
ついに1000品目を突破した トクホのおさらい
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

 トクホとは、特定保健用食品の通称で、体の構造や機能に影響を与える成分を含み、「おなかの調子を整える」といった特定の保健の用途を表示することが消費者庁から許可されている食品のこと。そのパッケージには、両手を広げた人と「消費者庁許可」の文字がデザインされたマークが付いている。

 トクホの制度ができたのは、今から約20年前の1991年。以前は厚生省(当時)の管轄だったが、2009年9月に消費者庁に移管された。

 表示できる保健の用途としては、(1)おなかの調子を整える食品、(2)血圧が高めの方の食品、(3)コレステロールが高めの方の食品、(4)血糖値が気になり始めた方の食品、(5)ミネラルの吸収を助ける食品、(6)血中中性脂肪、体脂肪が気になる方の食品、(7)虫歯の原因になりにくい食品、(8)歯を丈夫で健康にする食品、(9)体脂肪がつきにくい食品、(10)骨の健康が気になる方の食品─がある。

 05年に、許可実績が多く科学的根拠が蓄積されている関与成分を含む場合に、有効性に関する試験を省略できる「規格基準型」などができ、現在では4類型がある(表1)。

表1 トクホの類型

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 日本健康・栄養食品協会の調べによると、11年度のトクホの市場規模は5175億円(図1、2)。全体の市場規模は07年をピークに減少傾向にあるが、「血圧」「中性脂肪」など、生活習慣病の予防をターゲットとしたトクホの市場は少しずつ伸びている。今年4月に発売された、「食後の中性脂肪の上昇を抑制する」との表示が許可されているトクホの「キリン メッツ コーラ」は、発売2日目で年間販売目標(100万ケース)の5割を突破した。7月には年間販売目標を当初の6倍の600万ケースに上方修正しており、消費者の関心の高さがうかがえる。

図1 トクホの市場規模の推移

(出展:日本健康・栄養食品協会『トクホごあんない(2012年版)』図2、表1とも)

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図2 2011年度のトクホの保健用途の内訳

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 「中性脂肪の上昇を抑制する」といった表現を聞くと、医薬品との区分が気になるが、薬事法で規制されている医薬品と違って、食品衛生法で規制されるトクホは、れっきとした食品である。「食品には、栄養という一次機能、おいしさという二次機能、健康を維持・調整するという三次機能がある。トクホは三次機能が強化されているものの、あくまで食品であり、医薬品とは明確に区別されるべきものだ」と、城西国際大学薬学部教授で、本誌「トクホの説明書」で講師を務める太田篤胤氏は説明する。

城西国際大学 薬学部教授
太田 篤胤氏

 トクホの位置付けについては図3を見てほしい。一般に、健康の維持や増進を目的とした食品を「健康食品」と呼ぶが、うち健康増進法によって規定されるものに、「特別用途食品」と「保健機能食品」がある。特別用途食品や保健機能食品以外の、世の中に大量に出回っている健康食品の“健康”には、法的な定義はない。

図3 医薬品と食品の区分(太田氏による)

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 特別用途食品は、乳児、幼児、妊産婦、病者などの特定の用途に適することが認められ、表示が許可されている食品だ。

 トクホは「栄養機能食品」とともに、保健機能食品に含まれる。栄養機能食品とは、具体的にはビタミンAやカルシウムなど12種類のビタミンと5種類のミネラルで、消費者庁が指定した栄養成分の各機能を表示できる。

 栄養機能食品は、決められた量の栄養成分を含んでいれば、許可申請や届け出なしに表示することが可能だが、トクホの表示は原則、製品ごとに臨床試験を行い、審査、許可を受ける必要がある。「栄養機能食品と違ってトクホは、製品そのものがどういうものかを審査する個別許可型だ」と国立健康・栄養研究所情報センター長の梅垣敬三氏は説明する。トクホは、製品を個別に国が審査、許可している、いわば国の“お墨付き”の健康食品といえる。

国立健康・栄養研究所情報センター長
梅垣 敬三氏

 トクホって効くの?─患者からそう聞かれることも少なくないだろう。その答えの手がかりとなるのが、国立健康・栄養研究所のウェブサイトにある「特定保健用食品の製品情報」(図4)。流通している主なトクホに関して、申請時のデータの概要などが掲載されている。

図4 「特定保健用食品の製品情報」の一例(国立健康・栄養研究所のウェブサイトより)

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図4 「特定保健用食品の製品情報」の一例(国立健康・栄養研究所のウェブサイトより)

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 トクホの申請には、有効性に関しては、まず動物を用いて関与成分の作用、作用機序、体内動態についての試験を行った上で臨床試験を行い、保健の用途に関する効果と摂取量の確認が必要だ。その際、関与成分を含む食品摂取群とプラセボ食品摂取群との比較試験を行い、統計学的に有意な差が確認されなければならない。つまりトクホは、表示が許可された時点で、保健の用途に関して、それなりの効果があることが検証されている。

 ただし、臨床試験の被験者数にはルールがなく、「統計学的手法によって有意水準の判定が可能な数」で構わない。医薬品の承認時の治験に比べると、被験者数は一般に少ない。

 この点について梅垣氏は、「被験者数を増やせばコストがかかり、商品単価が高くなる。食品であることを考えると、そこまでする意味があるとは思えない」と話す。あくまで食品であるため、「表示されている効果が、全く根拠がないものではないことが明らかにできればよい」(梅垣氏)というわけだ。

 また、トクホの臨床試験は、病人を対象として有効性を確認しているものではないことにも注意したい。患者が「効くの?」と聞いてきたときには、「自分の病気に効くのか?」という意味であることが多いが、その点では「イエス」とは言い難い。トクホの臨床試験では、保健の用途に応じて「健常人から疾病の境界域の者に至るまでの範囲で行われる」からだ。

 トクホの申請時の資料は、医学・栄養学などの学術雑誌などに掲載されたものが求められ、ウェブサイトには文献も示されている。「より詳しいデータが得られるので、原著に当たって確認するとよい」(太田氏)。

 では、薬物治療中の患者に「このトクホを取ってもよいか」と聞かれたときは、どう判断すべきだろうか。例えば、高血圧で薬物治療を受けている患者が、血圧が高めの人を対象としたトクホを取っても差し支えないのだろうか。

 川崎幸病院(川崎市幸区)の副院長で糖尿病専門医の沢丞(さわたすく)氏は、「トクホはあくまで食品。それほど大きな影響があるとは思えないので、患者さんが取りたいと言えば、あえて止めない」と言う。患者の多くは何かしらの健康食品を取っているので、「医師としては、訳の分からない健康食品を取られるよりも、含有成分などがはっきりしていて、科学的に安全性と有効性が確認されているトクホの方が安心できる」と付け加える。

川崎幸病院 副院長
沢 丞氏

 とはいえ、トクホの中にはアンジオテンシン変換酵素阻害作用やαグルコシダーゼ阻害作用を有するものがある。同じ作用を持つ薬を服用している患者が、それらのトクホを取ったとき、作用が増強される恐れはないのだろうか。

 その点についても、「薬に影響を与えるほどの効果があるとは思えない」と沢氏。実際、「血糖値が気になる方の食品」を取っている患者で問題が起こったことはないという。

 ただし、注意深く見守ることは大切だ。例えば、αグルコシダーゼ阻害薬で腹部膨満などを経験した患者では、「同様の症状が出る可能性がないとはいえない」(沢氏)。事前に「薬に比べると作用がずっと弱いので大丈夫だと思うが、おなかが張ることなどがあるかもしれない」などと伝えておくという。

 また、糖尿病の患者では糖分やカロリー、高血圧の患者ではナトリウムの含有量は確認したい。トクホには、容器に成分の表示義務があるので確認は容易だ。「医師は、食品のことまで手が回らないことが多い。ぜひ薬剤師さんにお願いしたい」と沢氏は話す。

 広告などの表示に関する規制は、販売者も無関係ではない。消費者庁は、11年6月に「特定保健用食品の表示に関するQ&A」を公表したが、そこでもトクホの広告や表示について、健康増進法は「何人も虚偽・誇大広告をしてはならない」と定めていることに、改めて言及している。

 表示には、チラシやダイレクトメール、陳列物による表示、さらにインターネットも含まれる。薬局やドラッグストアでのPOPやチラシも、規制の対象となるわけだ。

 虚偽・誇大表示に当たる表現として同Q&Aでは、「血圧が高めの方へ」という許可表示の食品で「血圧を下げる」と表示することや、「食後の中性脂肪の上昇を抑える」という許可表示の食品で「中性脂肪の上昇を抑える」とだけ表示することなどを挙げている。さらに、「食事とともに1日1本が目安」と定められた食品について、「朝夕時に1本ずつお試しいただくとより効果的」や「必ず○日間続けて摂取すること」といった表示もNGだ。

 POPなどは、許可された表示を注意深く確認して、逸脱しないように作成する必要がありそうだ。

 「患者さんの8~9割は、何かしら健康食品を取っている。治りたいという気持ちがある限り、そのこと自体は仕方がない」と沢氏。困るのは、健康食品に頼って薬を飲まなくなったり、危険な健康食品を取ること。「日ごろから患者との関係を築き、健康食品に理解を示し、何を摂取しているか話してもらえるようにしておくことが大切」(沢氏)だ。

 トクホについて相談されたときには、関与成分の機序などを確認し、その人の目的に合致しているか、相互作用の問題がないかなどをチェックした上で、「必ず摂取目安量を守るように念を押してほしい」と沢氏。薬を倍量飲む患者はあまりいないが、食品だとなぜか「倍量取ると、倍効く」と思う人が多いのだという。

 さらに、「消費者の極端な期待を是正する指導が必要」と梅垣氏。「トクホさえ取っていれば食生活が乱れていても何とかなる」と、勝手に思い込んでいる消費者は多いという。例えば体に脂肪がつきにくい油のトクホでは、使えば使うほど体脂肪が減ると考える人が少なくない。臨床試験で示されたのは、従来使っていた油をトクホの油に替えたら体脂肪が減ったというもの。油の摂取量が増えれば、当然、体脂肪は増える。

 こうした誤解を招く一因は広告にもある。「黒烏龍茶」の「脂肪にドーン」というテレビCMについて、消費者庁は、食品を使用すれば、バランスのとれた食生活を考慮しなくてもよいかのような表現があるとして、販売元のサントリー食品インターナショナルに改善を求める通知を出したという。

 一方で、企業としては、トクホのメリットを効果的に伝えようとギリギリの表現を工夫するのは当たり前であり、消費者が賢く受け止めるべきという意見もある。この点について梅垣氏は「情報が氾濫するなかで、トクホの情報を正しく消費者に伝えられるのは薬局やドラッグストアの薬剤師。上手に利用できるよう指導してほしい」と話す。

 トクホの許可要件には「食生活の改善が図られ、健康の維持・増進に寄与することが期待できるものであること」という項目がある。食生活を改善するきっかけとしてトクホを利用するよう指導したい。

 例えば、血圧が気になる人向けのトクホを取ろうとしている患者に対しては、「『減塩すれば、もっといいですよ』と一言添えれば、食生活を見直すきっかけになり、トクホを取る意味合いが高まる」と太田氏も話している。

表2 トクホを取る患者に対する指導のポイント

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