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医師が処方を決めるまで
てんかん
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

講師
渡辺 雅子
市川 暁、斉藤 郁夫

(国立精神・神経医療研究センター病院精神科、薬剤部)

講師から一言
 国立精神・神経医療研究センター病院は、てんかん診療において小児科・脳神経外科に加え、精神科の病棟も持つ全国有数の専門医療機関である。渡辺氏はてんかん専門医で、日本てんかん学会の理事も務める。「多彩な症状を呈することで知られるてんかんは、最も治療効果のある神経疾患でもあります。発作が止まり、全く普通の生活をしている方を拝見すると、正しい診断と適切な治療の大切さを実感します」。

 てんかんは、大脳の神経細胞が過剰に興奮し、脳の症状(発作)が反復性に(2回以上)起こる慢性の脳疾患である。わが国では人口の0.8%にあたる100万人が罹患しているとされる。

 てんかんの分類には、表1に示した「てんかん症候群分類」と、表2の「発作分類」がある。症候群分類は、てんかんを局在関連性(部分)てんかんと全般てんかんの2つに分け、さらに特発性と症候性・潜因性に区分するものである。

表1 てんかん症候群および発作性関連疾患の分類(参考文献1、2)

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表2 てんかん患者に見られる発作の分類と選択薬(『てんかん治療ガイドライン2010』を基に作成)

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 てんかんの薬物療法の目的は発作の抑制であり、継続した服薬が必要である。特に痙攣重積(てんかんの発作が30分以上続いた状態)を起こすと高率で死に至るため、服薬による発作のコントロールが重要となる。抗てんかん薬は表2の発作分類に従って選択する。

 てんかんの診断は、発作のパターンや頻度などの問診に加え、神経学的診察、血液検査、脳波検査、頭部CTおよびMRI検査に基づいて行う。

 抗てんかん薬の導入を外来で行うことも可能だが、難治てんかんの場合、入院の上、検査および投与量の調整を行うケースが多い。本稿では、入院中の処方例を中心に紹介する。

過労と睡眠不足で発作が頻発、バルプロ酸からゾニサミドに変更

 最初に紹介する患者は、20歳の男性である。13歳時に初めて発作が見られた。当時、在住していた中国で、睡眠中に右半身が引っ張られる感じが数分間続き、家族が異変に気づいて救急搬送された。

 てんかんと診断されて1週間の入院となり、抗てんかん薬(薬剤名は不明)を単剤で処方されたが、発作が十分に抑制できず、バルプロ酸ナトリウム(商品名セレニカR、デパケン、デパケンR他、以下VPA)に変更された。3年前の帰国以降も、VPAを服用している。

 この間、年に2~3回は同様の発作が見られたが、おおむねコントロールは良好だったという。

 だが、今回登山中に不眠が続き、一晩に7回発作があったため、翌日に下山してかかりつけの診療所を受診した。そこで、手術適応の判定と薬剤調整を目的として当院に紹介入院となった。

 入院初日より、発作時の脳波を記録するため、1日1200mg服用していたVPAを2日ごとに200mgずつ減量した。

 検査結果より、左頭頂部付近の裂脳症を原因とする症候性部分てんかんと診断。VPAを中止し、エクセグラン(一般名ゾニサミド、ZNS)を200mg/日で開始した。

 部分発作に対する第一選択薬は、カルバマゼピン(商品名テグレトール他、CBZ)である。しかしこの患者が、中国で初発時に使用して発作抑制効果が十分でなかった抗てんかん薬がCBZである可能性を考え、中国では販売されていないZNSを選択した。

 ZNSは血中濃度が定常状態に到達するまで10~14日ほどかかることから、セルシン(一般名ジアゼパム、DZP)を最初の5日間のみ併用した。最終的にZNSを300mg/日まで増量した。

 DZPは、部分発作から全般発作まで幅広い作用スペクトルを有しており、1時間程度で最高血中濃度に到達する。しかし、発作抑制効果は弱く、長期連用で耐性を生じることから、定期服用は薬剤の切り替え時のみにとどめ、以後は発作が起こりそうな時の頓服とした。

 第21病日には若干の食欲不振が見られたが、これはZNSの服用初期に表れる副作用で、じきに消失するものと判断した。その他の副作用である、いらいらや異常行動などの精神症状も見られていないことから退院とした。

 本例では、登山による過労と不眠から発作が頻発したものと思われる。

 発作の閾値は、服薬、規則正しい生活、適度な運動などにより高めることができる。しかし、生活リズムが乱れると、発作の閾値が下がり、そこに発作誘発因子が蓄積すると、発作が出現してくる。

 発作の誘発因子には、睡眠不足や過労のほか、強い情動的な負荷、飲酒、食事、月経、光刺激などがある。特に睡眠不足は発作誘発因子として影響が最も大きいため、てんかん患者に服薬指導を行うときは、十分な睡眠を取るよう指導してほしい。

妊娠希望者には、バルプロ酸減量+レベチラセタム

 次に紹介するのは、VPAを服用中で妊娠を希望する30歳の女性である。

 この患者は、1歳3カ月の時に発熱し、解熱後に10分間続く四肢の強直があって以来、フェニトイン(商品名アレビアチン他、PHT)を服用、6歳で中止された。9歳時よりVPAによる治療を開始して、現在も服用している。

 ここ2~3年、月に1回程度、仕事中に相手の言っていることが分からなくなったり、電車に乗るとどこにいるのか分からなくなるという症状が生じている。こうした時も簡単な相づちを打てるので、仕事中に注意されることはなかったが、忙しくなると症状がよく出るようになった。

 てんかんの患者が妊娠中に強直間代性発作を起こすと、胎児が低酸素状態になったり、切迫流産や早産を起こしやすくなる。発作による流産は1%程度あると見積もられているため、妊娠を希望する女性患者における薬剤調整は非常に重要である。

 また、抗てんかん薬は、胎児に対して二分脊椎をはじめとする神経管閉鎖障害や知能指数低下を起こすことが知られている。こうした障害の発生率は、用量と血中濃度に依存している。

 胎児の脳神経、脊髄、心臓は妊娠第一期の初期に形成されるので、妊娠を希望する女性てんかん患者の薬物調整は妊娠以前から行う必要がある。また、神経管閉鎖障害を予防するためには妊娠以前から1日0.4mgの葉酸を摂取することが望ましいとされている。この患者にも葉酸製剤(フォリアミン)が処方されていた。

 当院では、この女性を入院させて抗てんかん薬を減薬し、発作時の脳波などの記録を行った。入院第7病日までは、VPA400mg/日に減量、それ以降は中止し、脳波を記録した。

 その結果、特に脳波の記録に異常はなかったが、脳磁図の結果から、両側性の側頭葉てんかんの可能性が示唆されたので、第15病日からイーケプラ(一般名レベチラセタム、LEV)の初期用量(1000mg/日)の投与を開始し、第17病日に退院となった。なお、LEVは単独での投与が保険上認められていないため、VPAの最小量(200mg/日)と併用した。

 表3は、妊娠を希望する患者に対する使用で、注意喚起がなされている抗てんかん薬である。

表3 妊娠希望者に対する使用で注意喚起がなされている抗てんかん薬(『てんかん治療ガイドライン2010』を基に作成)

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 今回処方したイーケプラは腎排泄型薬剤であり、酵素誘導や代謝阻害を行わないため、催奇形性の原因とされるVPAの代謝物の生成を促進しないと考えられる。

 同薬の部分発作に対する有効性は、新規抗てんかん薬の中ではラモトリギン(商品名ラミクタール、LTG)に次いで2番目であり、第一選択薬のCBZとほぼ同等とされている。

 なお、米食品医薬品局(FDA)は、LTGの単剤処方が比較的安全と推奨している。

 しかし、LTGは用量依存的に催奇形性が高まることが指摘されている。また、VPAと併用すると、半減期が35.0時間から75.3時間まで延長するため、想定以上に血中濃度が上昇する可能性があることに加え、維持量への増量に時間がかかるというデメリットがある。そこで本症例では、LTGを選択しなかった。

 抗てんかん薬は児に奇形を生じるというリスクはあるが、流産防止のベネフィットとのバランスを熟慮した上での処方は可能である。規則正しく服薬するように、薬剤師からも指導していただきたい。

高齢者では腎機能と相互作用を考慮して薬剤を選択

 以上の2例で紹介したように、てんかんは小児期が初発であることが多いが、近年、高齢で発症するてんかんが注目されている。

 高齢者のてんかんの原因には諸説あるが、加齢に伴う様々な中枢神経疾患が、主要な原因と考えられている。

 本稿で紹介するのは71歳の女性患者である。70歳時にめまいとふらつきを主訴として近所の内科を受診し、自律神経失調症と診断され、抗めまい薬による治療でめまいやふらつきは改善していた。

 だが、その後、両目が勝手に動き、瞬きが多くなることが30分から1時間続くといったエピソードが2回あったという。また、考えがまとまらなくなり、断続的に動作が止まり着替えに時間がかかるようになった。数カ月前にめまいに引き続いて突然転倒して意識が消失、家族の呼び掛けにも反応せず、救急搬送されるといったことが数回あり、てんかんの疑いで当院に入院となった。

 入院時の脳波所見より、特発性全般てんかん、もしくは、症候性局在関連性てんかんと推測された。

 だが、一般に特発性てんかんの発症年齢は若齢であり、高齢での初発の可能性が極めて低いこと、高齢発症のてんかんは、ほとんどが症候性局在関連性てんかんであることから、症候性局在関連性てんかんと診断した。

 この患者は、脂質異常症でリピトール(一般名アトルバスタチンカルシウム)を服用している。このように、内科的合併症のある場合、薬物間相互作用の点などから、第一選択薬は腎排泄型薬剤のLEVとされている。

 LEVは、推定クレアチニンクリアランス(推定Ccr)に基づいて最大投与量が制限されている。患者の推定Ccrは72.9mL/分だったので、1日最大投与量は2000mg(Ccr≧80mL/分では3000mg)となる。腎機能を考慮し、通常の初期投与量(1000mg)よりも少量の500mg/日から投与を開始することとした。

 ふらつきは寛解して半年以上経過していたことから、アデホスコーワ(アデノシン三リン酸水和物)は、持参薬を飲み切って中止とした。

 アトルバスタチンも、コレステロール値が良好にコントロールされていたことから、一時中止とすることとした。

 その後、LEVを漸増したが脳波異常は改善せず、まばたきが多くなる発作は見られたため、再度問診を行った。

 その結果、小児期より目を白黒させているとからかわれていた、目をパチパチするのは小さい頃からの癖だったといったエピソードが聴取できたため、再度脳波検査を実施。特発性全般てんかんの一型であるEyelid myoclonia with absence(まぶたのミオクロニー発作[突然ビクリと起こる短時間の筋収縮]を主体とする全般てんかん)との診断に至った。

 全般てんかんにおける第一選択薬はVPAであり、ミオクロニー発作ではVPAのみが有効であることが多いので、LEVからVPAに薬を切り替えた。

 VPAは当初、400mg/日で投与を開始したが、血中濃度は39.1μg/mLと治療域下限より低かった。600mg/日に増量したところ、血中濃度が治療域の65.3μg/mLまで上昇し、発作も観察されなかった。そこで、600mg/日を維持量とし、退院とした。

 退院2カ月後の外来受診時までに、一度だけ転倒を伴わないミオクロニー発作があったため、発作が起きそうな時の頓用にDZPを処方した。

 退院から6カ月後の現在、特に発作もなく、良好にコントロールできている。

正しい診断と適切な薬剤選択が発作のコントロールに不可欠

 以上、てんかんの薬物療法の3例を紹介した。ここ数年で新規の抗てんかん薬が登場し、薬物療法は飛躍的に改善されつつある。

 薬剤師の皆さんには、発作のコントロールという観点から、服薬指導時には服薬コンプライアンスを必ず確認してほしい。また、患者との会話の中で、気になるエピソードや副作用と思われる症状があれば、遠慮なく処方医に連絡していただきたい。

参考文献
1) Epilepsia. 1989;30:389-99.
2)「てんかん診療 第3版」(メディカル・サイエンス・インターナショナル、1996)

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