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薬歴添削教室
病院との連携システムを生かした患者ケア
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

 今回は、ホクト薬局に来局した61歳の女性、神田江里子さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。神田さんは透析を受けており、バセドウ病など複数の病気を抱えています。これまで入院していましたが、退院をきっかけに、ホクト薬局に来局しました。

 経過の途中から、旭川赤十字病院(北海道旭川市)が行う「地域連携電子カルテシステム」が開始され、病院の診療情報を薬局でも閲覧できるようになりました。診療情報を活用することにより、患者のアセスメントや、薬局におけるケアの幅がどのように広がるのかに着目して、オーディットを読み進めてほしいと思います。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~D、症例検討会での発言者が薬剤師E~Gです。(収録は2012年6月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
ホクト薬局(北海道旭川市)

 ホクト薬局は、旭川薬剤師会会営旭薬調剤センターが、旭川赤十字病院の門前にあったホクト調剤薬局を譲り受け、07年5月に全面改装し、ホクト薬局として再スタートした。

 応需している処方箋は月3200枚程度。旭川赤十字病院の処方箋が90%以上を占めるものの、旭川地区は医薬分業率が高いことから、約100の医療機関から処方箋を受けている。

 同薬局には、20代1人、30代3人、50代1人の薬剤師が常勤している。電子薬歴を使用しており、SOAP形式で記載している。現在の機種になった11年4月から、C(チェック)欄を加えた。

 旭川赤十字病院が行っている「地域連携電子カルテシステム」に登録しており、医療連携の強化を心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず、薬歴の表書きを確認しましょう(薬歴(1))。患者メモの欄に、「透析(+)」と書かれています。さらに、6月30日に「日赤地域連携電子カルテシステム登録済」とあります。このシステムはどのようなものなのか、簡単に説明していただけますか。

A はい。旭川赤十字病院は以前から、病診連携の一環として、診療所向けに診療情報の開示を行っています。さらに昨年6月から、同病院との間で「診療協力薬剤師契約」を結んだ調剤薬局とも診療情報を共有するようになりました。同意を得られた患者さんに対して、薬局でも病院の診療情報(医師が書くカルテ情報)を閲覧できる仕組みになっています。看護記録や薬剤部の記録は閲覧できません。現在、うちも含めて8施設くらいの薬局が同病院と契約をしています。

早川 病院での患者の診療情報を閲覧することにより、薬局の薬剤師がどのような判断を下せるようになり、ケアの幅がどう広がるのか、期待して見ていくことにしましょう。

 表書きに戻って、サマリ欄には、初回来局日である4月14日に、副作用歴やアレルギー歴がないこと、さらに、病歴としてバセドウ病、脂質異常症、高血圧があることが書かれています(薬歴(1))。これらは初回アンケートで得られた情報ですか。

A はい、そうです。

早川 サマリ欄には、6月30日、9月8日、さらに12月22日にも情報が追加されていますね。

A その日の担当薬剤師が、得られた情報のうち重要だと思ったことを、表書きにも反映させるようにしています。

早川 重要な情報を表書きに反映させるのは、非常に良いと思います(薬歴(1))。

多剤併用の処方意図を考える

早川 4月14日の薬歴を見ましょう。結構複雑な処方ですね。S情報として「入院していた。薬はがらっと変わった。今は体調大丈夫」とあります。この処方箋と、表書きのサマリ欄に4月14日に書かれた内容から、担当した薬剤師の方は、患者の病態について、どう推測しましたか(薬歴(2))。

A プラビックス(一般名クロピドグレル硫酸塩)が出ていることから、経皮的冠動脈形成術(PCI)施行の心筋梗塞や狭心症が考えられます。もともと狭心症があって、病院でPCIを行った後に、プラビックスが出ているということではないかと考えました。あと、テノーミン(アテノロール)とワーファリン(ワルファリンカリウム)も出ているので、おそらく頻脈性の不整脈があるのだろうと思います。

早川 プラビックスがキードラッグであるという見方ですね。

A はい。プラビックスの適応症は、虚血性脳血管障害後の再発抑制か、PCIが適用される急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇心筋梗塞)、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞です。この患者は循環器科を受診していますので、脳血管障害は除外してよいと思います。そのため、虚血性心疾患によるPCIを考えました。

早川 テノーミンとワーファリンについてはどう考えましたか。

A ワーファリンが出ているということは、おそらく心房細動などの不整脈があるということだと思います。また、テノーミンの適応症は、高血圧、狭心症、頻脈性不整脈です。さらに、抗不整脈薬のアスペノン(アプリンジン塩酸塩)も出ていることから、頻脈性不整脈ではないかと考えました。

早川 そして、担当薬剤師は、これだけ抗血栓薬が出ているので、出血に対する指導を行った、ということですね。皆さんは、この処方箋を見て、どのように考えましたか。

E ワーファリンやプラビックスが出ているので、何か血管に対する処置をして、血栓予防のために薬が出ているのだろうというところまでしか見ていませんでした。

早川 皆さんから出てきたことは、薬の適応症から見た一つの推測にすぎません。ただ、推測をしておくのは大事です。初回にそういう推測ができれば、2回目以降にこういうことを聞いていこう、という流れができると思います。

 担当薬剤師は出血に関する指導をし、次回は出血の有無を確認しようという意味で、チェック欄に「経過観察」と書いたのだと思います。皆さんは他に、どういうことを聞きたいですか。

F プレタール(シロスタゾール)の適応症は、脳梗塞と慢性動脈閉塞症なので、脳梗塞でないとしたら、動脈閉塞症の何らかの症状が出ていないか、例えば冷えとか痛みなどがないかを聞きたいです。

G 薬ががらっと変わったということなので、入院中も同じ薬を飲んでいたかどうかが分からないのですが、不整脈の自覚症状がなかったかを聞きたい。

早川 確かに、いつからどの薬が出ていたのかは、確認したいところですね。どの薬が変わったのか、一部は前から飲んでいたのかを知りたいですね。

E ワーファリンが出ているので、食べ物についてどこかで確認したい。食べ合わせも含めて、患者さんがどの程度認識しているのか。

G 表書きのサマリ欄には脂質異常症とあるのですが、処方上はそのための薬が出ていないようなので、治療が終わったのかどうか確認したい。あと、喫煙についても聞きたい。

D 透析について何も触れられていませんが、透析の種類や、医師から指示されている食事療法の内容についても、具体的に確認したい。

早川 色々出てきました。担当薬剤師の方に確認したいのですが、どの薬が変わったのか、情報はありますか。

A 入院中は一包化されていたので、どれがどれだか分からない状態でした。

早川 分かりました。5月12日に進みましょう。S情報として「心臓の血管を広げるために入院していました」などとあります(薬歴(3))。どのような状況でこの言葉が出てきたのですか。

B 前回の処方箋が9日分だったので、本来なら4月中に来局のはずが5月になっていたので、そのことについて聞いたら、入院していたことやワーファリンの増量のことを話してくれました。

早川 この日はリピトール(アトルバスタチンカルシウム水和物)が追加されていますね。

B はい。ただ、以前から飲んでいたかどうかの確認はできていません。

A この人はバセドウ病があるので、バセドウ病が頻脈に影響を与えているのではないでしょうか。4月の段階ではバセドウ病が活発で、そのため脂質異常症の薬は出なかったが、落ち着いてきたためにコレステロールが上昇し、リピトールが出たのではないか、と。

早川 バセドウ病という基礎疾患が心臓に悪影響を与え、入院につながった。よくなってきたのでメルカゾール(チアマゾール)が減量され、今度は脂質異常症の薬が必要になった。理論的にはつじつまが合いますね(薬歴(3))。

病院での検査値情報を読む

早川 6月2日は、テノーミンがアーチスト(カルベジロール)に変更され、ノルバスクは中止になりました(薬歴(4))。

C 患者さんに「血圧の薬がなくなっていますね」と問いかけたら「めまいがするので1種類減った」と話してくれました。血圧も下がったと言っていました。

早川 血圧について考えてみましょう。この患者の場合、血圧コントロールはどのあたりを目標にすべきでしょうか。

A カルタン(沈降炭酸カルシウム)を飲んでいる慢性腎臓病(CKD)のステージ5の患者であることから考えると、目標血圧は130/80mmHgかな。

早川 この時点で血圧が下がり過ぎているという状態があったわけですから、普段の血圧がどの程度だったかも知りたいですね。最初に出ていたカルシウム拮抗薬(アムロジン)やβ遮断薬(テノーミン)がアーチストに変わりましたが、一般的に、腎不全患者における血圧管理のための薬物治療の方針はどうでしょうか。

A アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、利尿薬を使うのでしょうが、この患者さんには、腎排泄のテノーミンより肝臓で代謝されるアーチストの方がよいのでは。

C アーチスト錠2.5mgには高血圧の適応はないので、レートコントロールが目的ではないでしょうか。

早川 アーチスト錠2.5mgは、心不全に対して処方されることが多いですね。では逆に、ACE阻害薬、ARB、利尿薬では、この患者に対して何か不都合があるのでしょうか。

A 狭心症を優先して、カルシウム拮抗薬を使ったのではないでしょうか。

早川 一般論だとACE阻害薬が第一選択となりますが、患者の病態をあらかじめ推測しておくことで、今のような考察ができますね。

 では、6月30日に進みましょう。いよいよ連携システムの運用が始まりました(薬歴(5))。このデータを取り出した理由は何ですか。

A 6月2日にめまいがあるとのことだったので、貧血の可能性を考えました。赤血球がやや低めで、ヘマトクリットが低く、MCV(平均赤血球容積)が高いということで、大球性貧血があるのではないかとアセスメントしました。でも、この時点では治療が行われていないので、ドクターは貧血によるめまいではなく、透析によるものと考えているのかもしれません。また、心不全の指標であるBNPがちょっと高めなのが気になりました。患者さんには「あまり無理しないで」と伝えました。

B 腎疾患の場合、LDLコレステロールの管理目標は「可能なら100mg/dL以下」なので、うまくいっているのかな。

早川 甲状腺との関係はどうですか。

A 甲状腺については検査値が分かりませんでした。バセドウ病の症状を確認する必要があると思います。

早川 先ほど出ていた、めまいの原因が貧血によるものではないかというのは、重要な視点ですね。

A 今考えると、おそらく腎性貧血だったのだろうと思います。MCHの値からヘモグロビンを計算すると11.23g/dLになったので、まだ治療をする段階ではないのかな。

早川 計算してみたのですね。

A はい。血液透析患者の腎性貧血に対してエリスロポエチンを投与するタイミングは、確か10くらいだったので。

早川 この患者は腎臓が悪いわけですから、腎性貧血は容易に想像できますね。それは当然、腎臓のエリスロポエチンの産生が低下しているということなので、ひどくなるなら補充しないといけませんが、この段階はすぐどうこうするレベルではない、と。ただ、めまいとかふらつきがあるから血圧を見ていく、という観点が出ました。

 確かにBNP(194.8pg/mL)は高いですよね。この値をどう見ますか。

A 100以上だと心不全の疑いあり、とのことなのですが、この方は既に心不全なので、100を超えるのは当たり前だと思います。ある本で、こういう患者さんの場合、BNPは200以下くらいにすべきと出ていたのですが、患者さんと話していると、おそらくドクターは経験上、150くらいまでならまあよいと考えていると思います。

早川 A欄に「冠動脈疾患の既往(+)」とあるのはどういう意味ですか。

A 私自身が、狭心症だと思っていたので書きました。

早川 分かりました。このタイミングで冠動脈疾患のイベントがあったのか、と誤解していました。具体的なデータが得られた段階で、担当薬剤師が改めてアセスメントしたという意味ですね。

A はい。プラビックスが出ていて、心臓の血管を広げる治療をしている(5月12日S情報)とのことで、PCIは間違いないと思います。そして、血圧やLDLコレステロールはコントロールされている、腎性貧血はまだ確定していない。脈は落ち着いている……。

早川 患者の病態がある程度把握できましたね。次は8月11日です。ここではワーファリンのコントロールについて評価してみましょう(薬歴(6))。

D A欄に「PT-INR(プロトロンビン時間国際標準比)は過去のカルテより1.5~2でコントロール中」とあるので、2.31はちょっと高めかな。

早川 一般的に、このような患者のPT-INRのレベルはどのくらいですか。

D 抗血小板薬と併用する場合は2未満です。

早川 では、治療目標としては適切としていいですね。PCIを行った場合、抗血小板薬とワーファリンを併用するのは一般的ですか。

A 通常はバイアスピリンとプラビックスの併用です。心房細動があるのでワーファリンが使われているのだと思いますが、よく分かりません。

早川 心房細動がある場合が考えられますね。他に、何らかの外科手術を受けた場合も頭に浮かびます。続けて10月6日を見ていきましょう。

C 冠動脈造影(CAG)を予約しています(薬歴(7))。ただ、出血傾向や体調の変化はなかったので、一応入院して検査する、ということかと考えていました。

早川 その次は12月22日。来局間隔があいていますが、入院していたのですね。ここで新たに、下肢の閉塞性動脈硬化症(ASO)があったことが分かりました(薬歴(7))。

改めて長期の経過を振り返る

早川 最後に、カルテ検索によって得られた入院時の情報を報告してもらいましょう。この情報はどのような経緯で得たのですか。

A 日常業務では、その日の検査値を追うので精いっぱいなので、たまには以前からの経過を掘り下げて考えてみたいと考え、カルテから情報を得たのがこれです(薬歴(8))。

早川 患者にはもともと労作狭心症があって、検査入院したところ、うっ血性心不全を起こしてCCUに入室、その後にPCIが施行されたという経緯が確認できました。

A ワーファリンが使われていたのは、ASOがあったからですね。自覚症状がそれほどない割には重症の患者さんであることが分かりました。

早川 カルテ情報から治療経過を把握することにより、医師の処方意図を正しく理解できたか、薬剤師として適切な対応ができたかを、振り返って見ることが重要だと思います。ただ、カルテを確認する際も、処方箋などから得た情報から私たち自身が類推することが大事です。カルテ情報をただ書き写すだけでは意味がありません。

ホクト薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

堀 仁氏

 カルテから色々な情報が得られますが、それを生かし切れていないと常々感じていました。得られた情報から類推するだけでなく、情報が得られないうちから類推する力をもっと付けて、それを生かしてアセスメントをしていきたいと思います。

池田 奈那子氏

 患者さんの病態をアセスメントする際に、どういう切り口で考えていけばよいのか悩んでいましたが、今回は色々勉強になりました。自分が担当した過去の薬歴を改めて振り返ると、検査データなど、もう少し優先的に書くべきことがあったのかなと思いました。

赤間 辰徳氏

 薬歴を改めて見直してみると、ワーファリンの量が増えているのに患者さんに何も聞いていないなど、検査値や診療ガイドラインなどをあまり生かせていないことに気づきました。ゆっくり薬歴を書く余裕はなかなかありませんが、考えながら書かないといけないと思いました。

石坂 みどり氏

 連携システムという、他にはないシステムを私たちは持っており、既に60人くらいの患者さんに適用しています。これを利用することで、私たち薬剤師も検査値に強くなっていけるんじゃないかと思いました。積極的に活用していきたいと思います。

全体を通して

早川 達氏

 処方および患者基本情報を手掛かりにして、綿密に論理的に推論を組み立てることによって、かなりの精度で患者の病態を把握できることが分かりました。タイミングよく患者から自覚症状や治療の経過を把握することによっても、同様の把握ができます。医療機関との連携システムがない薬局においても、今回のようなオーディットの流れは参考にしていただけると思います。

 現在は過渡期と思われますが、患者の診療情報を把握した上で、どれだけ患者に合わせた指導・対応を行っていけるかが、今後の私たちの課題と考えられます。その時に、今回たどったような「処方解析→病態の推論→必要な情報の確認→患者状態の確定→適切な対応」というプロセスは、薬剤師にとって必要なスキルになるに違いありません。

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