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DIクイズ1(A)
DIクイズ1(A) 心房細動にPPIが追加された理由
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

出題と解答 : 松本 弘行
(岡本薬局みなみ店[千葉県市原市])

A2

Sさんの発作性心房細動は、逆流性食道炎による炎症が、食道に近接する左心房や肺静脈へ波及することに起因している可能性があるため。

 心房細動(AF)はよく見られる不整脈であり、その有病率は加齢とともに増加する。AFは、動悸や心機能低下に伴う生活の質(QOL)低下をもたらすだけでなく、心不全や心原性脳塞栓の原因にもなる。

 AF患者は、糖尿病や高血圧を含む他の心血管系疾患や、甲状腺機能亢進症などの基礎疾患を有していることが多いといわれているが、その他の危険因子として、肥満やアルコール摂取、胃食道逆流症(GERD)などが指摘されている。特に、基礎疾患を有していない孤立性の発作性心房細動(PAF)は、迷走神経の緊張状態で発生する場合があり、60歳以下の男性に多く、睡眠中や安静時、食後に起きやすいことが知られている。

 近年、国内外において、PAFとGERDの関連性を示唆する症例や観察研究の結果が相次いで報告されている。例えば、GERD合併のAF患者を対象としたある研究では、AF発生時における食道内の低pH時間が有意に長かったほか、AF症状の頻度とGERD症状の頻度が正の相関を示していた。GERD患者への聞き取りを基に、症状の発現頻度や強さをスコア化して解析した別の研究では、GERD症状は性別、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患との関連性はなく、唯一AFとの有意な関連性が認められた。また、GERDを合併したAF患者にプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与したところ、GERD症状の改善とともにAFの発生頻度が著明に減少し、抗不整脈薬の中止に至ったとする症例報告もある。

 GERDによるAFの発症機序としては、(1)局所の炎症が食道壁を通過して、近接する迷走神経を刺激する、(2)局所の炎症が自律神経反射を誘導し、二次的に迷走神経を刺激する、(3)局所の炎症が食道壁を伝わって心膜や心房筋の炎症を引き起こす、(4)GERDが炎症性メディエーターの遊離を招き、心房筋や心伝導系に影響を与える、(5)GERDが自己免疫反応を誘発し、それがPAFの一因となる─といった様々な仮説が提唱されている。明確な結論は得られていないものの、胃酸の逆流による慢性的な食道粘膜の炎症が、食道に近接する左心房や肺静脈などのAFの発生源に影響を及ぼすことで、AFが誘発されると考えられている。そのためGERDとの関連性が疑われるAFに対しては、PPIを用いたGERD治療を行うことで、AFの発生頻度の抑制やPAFの完全消失が期待できるほか、持続性AFへの進展を予防する可能性も示唆されている。

 今回、Sさんの動悸発作が夕食後や横になった時に見られることや、上部消化管内視鏡検査でGERDの所見が認められたことから、医師は、SさんのPAFがGERDによって引き起こされている可能性が高いと判断し、PPIのランソプラゾール(タケプロン他)を処方したと考えられる。

 一般にPPIは、投与から約2時間後に最高血中濃度に達し、最大限の胃酸分泌抑制効果が得られるため、GERD治療では食前投与が有効とされる。投薬時には、「食べた後すぐに横にならない」「腹八分目を心掛ける」といった食生活上の注意点を伝えるようにしたい。

参考文献
1)South Med J.2003;96:1128-32.
2)Clin Cardiol.2012;35:180-6.

こんな服薬指導を

イラスト:加賀 たえこ

 胸やけは、胃酸が食道に逆流して食道が炎症を起こす、逆流性食道炎の症状の一つです。

 Sさんが以前から治療されている心房細動は、もともと高血圧や糖尿病がある人、飲酒する人に多いといわれていたのですが、実は最近の研究で、逆流性食道炎の患者さんも心房細動を起こしやすいことが分かってきています。そのような患者さんの多くは、逆流性食道炎を治療すると胸やけが治まるだけでなく、動悸の発作の頻度が減ったり、起こらなくなったりするようです。そのため先生は、「これで動悸も良くなるでしょう」とご説明されたのだと思います。

 胸やけの薬は、効果を最大限に引き出すために、夕食の前に服用してください。胃酸の逆流を防ぐためには、早食いや食べ過ぎも禁物です。夕食の後、すぐに横にならないように注意してくださいね。

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