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Interview
バイタルサインを武器に、患者の見方を変えよう
日経DI2012年9月号

2012/09/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年9月号 No.179

 医師でありながら薬剤師向けの「バイタルサイン講習会」を開催し、患者のバイタルサインを取ることの意義や実際の測定方法を“熱血指導”している狹間研至氏。薬剤師がバイタルサインを習得することで何が変わるのか、今後の展望を含めて聞いた。  (聞き手は本誌副編集長、北澤 京子)

Kenji Hazama 1995年、大阪大学医学部卒。大阪大学医学部附属病院などで外科医として勤務の後、2004年ファルメディコ株式会社(大阪市北区)代表取締役に就任。09年一般社団法人在宅療養支援薬局研究会(現・日本在宅薬学会)理事長。医学博士。

─「バイタルサイン講習会」を企画したきっかけは。

狹間  きっかけはすごく不純です(笑)。知り合いの医師から、僕が経営する薬局(ハザマ薬局)について、「薬剤師さんに血圧を測らせたら、他の薬局との差別化になっていいんじゃないの」と言われたんです。何気なく「そうですね」と答えたとき、コンセプトがポーンと降りてきて、直感的に「やろう」と決めました。確か2009年の初頭だったと思います。

 僕はその頃、医学(医師)、看護学(看護師)、薬学(薬剤師)の中で、薬学だけが基本的なところで違うと感じていました。例えば医師である僕が、「あの患者さんのことだけど……」と言ったとしましょう。看護師ならすぐに話が通じるのに、薬剤師には通じない。何が違うのか考えてみたら、患者さんの時間軸をリアルタイムで共有できているかどうかだと気が付いた。だったらリアルタイムで何が起こっているのか、薬剤師も分かるようになればいい。そこから、バイタルサインの取り方を薬剤師に教えるということにたどり着きました。

 さっそく社内の勉強会で、血圧計の使い方やその原理など、現在の「バイタルサイン講習会」の基となるような内容を教えました。教えた後にはちゃんと試験をして、修了した薬剤師一人ひとりに聴診器を渡し、各店舗には血中酸素飽和度(SpO2)モニターと血圧計を置きました。

 次はいよいよ実践です。僕が訪問診療をしている患者さんの自宅に、僕とは違うタイミングで薬剤師が薬を届けに行った際に、バイタルサインを取ってもらうようにしたのです。最初は、血圧や脈拍などのモニタリングから入りました。さらに、介護老人福祉施設に薬を届けに行ったときにも同じようにやらせてもらったところ、施設の看護師さんから「人手不足だから助かる」と歓迎されました。

 当時、薬学関係者の間でも、バイタルサインへの関心が高まりつつありました。京都で開かれた「医療薬学フォーラム2009」に呼ばれてバイタルサインの話をした折、堀内龍也先生(前日本病院薬剤師会会長)に話しかけられ、「自分の薬局だけでなく、他の薬局の薬剤師にバイタルサインをどう広めるか、考えておいてほしい」という宿題を出されました。

 そこで、社内勉強会の内容を整理して5時間のプログラムにまとめ、さらに、在宅療養支援薬局研究会(現・日本在宅薬学会)を作って、「バイタルサイン講習会」として始めたのです。それが09年11月です。

─薬局薬剤師にバイタルサインが受け入れられるのか、不安はありませんでしたか。

狹間  それはありました。でも、うちの薬剤師たちが、バイタルサインを取ることができるようになって変わったんです。「患者さんの状態が分かるってすごく面白い」とか「血圧を測らせてもらうと、患者さんが自分のことを話してくれる」などと言い始めた。これまで薬局のカウンターで、患者さんに素っ気なくされていたのが、「血圧を測ってくれて、ありがとう」と言われるようになった。これは絶対にいいことだとすぐに分かりました。

 でもその前に、法的な問題について整理をする必要がありました。薬剤師は患者の身体に触れてはいけないという思い込みがあったからです。でも調べてみたら、別に法律で「触ってはいけない」と決めているわけではなかった。さらに、同じ09年の年末、平井みどり先生(神戸大学医学部附属病院薬剤部長)と対談をした折に、「薬剤師が患者に触ったらいけないというのは都市伝説よ」と言われ、「都市伝説でしたか」と(笑)。

 翌年から、講習は5時間、定員は10人という形で、本格的に「バイタルサイン講習会」を始めました。以後、毎回の講習会は、ほぼ満員です。

─「バイタルサイン講習会」のインストラクター養成も行っていますね。

狹間  「バイタルサイン講習会」の受講者の中に「また行っていいですか」という人が出始めたのです。僕自身のキャパシティーにも限界があるから、「来てもいいけど、それなら手伝ってよ」ということにしました。

 現在は、「バイタルサイン講習会」を受けた人向けの「インストラクター講習会」や、さらに上の「ディレクター講習会」も行っています。ディレクターになると、自らバイタルサイン講習会を開催することができます。この仕組みを始めてから1年くらいで、ディレクターまで行った人が2人出ました。インストラクターやディレクターが育ってくると、普及のスピードがもっと速くなるのでは、という期待があります。

 僕は講義の中で必ず、「薬剤師さんはなぜ、閉塞感を感じているのでしょうか」という問いかけをします。そして、これまでお話ししてきたような、コンセプトが降りてきた話や都市伝説の話をする。そうすると参加されている多くの薬剤師さんが、「本当にその通りです。目からウロコが落ちました」と言ってくれる。中には泣く人も出てくる。80歳くらいの方に号泣されたこともありました。そこまで熱狂的になってくれる人がいるということに、手応えを感じています。講習会に参加した人は、1100人を超えました。

─薬剤師がバイタルサインを取るようになると、業務はどう変わりますか。

狹間  受講者のうち、日常業務で実際にバイタルサインを取っている人は2~3割だと思います。医師が処方を変更するに至ったケースを経験したことのある人は、まだ10人くらいでしょう。

 僕は今、疑義照会したケースをモニターしようと呼びかけているんです。薬剤師が疑義照会するということは、何かおかしいと感じているわけですよね。でも多くの場合は医師に「処方箋通りに出しておいて」と言われる。でもそこでやめずに、患者さんのモニタリングを続ける。例えば脈拍の測定を続けて、頻脈であると分かった段階で、そのデータを持って改めてドクターに言ってみよう、と。医師にモノを言う場合、データがあると話は違ってきますから。

 僕が「バイタルサイン講習会」で薬剤師さんに聴診器を持たせるのは、まさにそのためです。バイタルサインを測るにはツールがいる。そしてそのツールを、日常業務とリンクさせていってほしいんです。

 患者のバイタルサインが分かるようになると、薬剤師の仕事は変わります。薬歴の「O」欄も充実してきます。単に書くことが増えるというのではなく、薬歴にストーリーができてくると思います。バイタルサインを取れるようになることが目的ではなくて、患者さんを経過の流れに沿って見ることができるようになることが目的なんです。

 そうなるといずれは、いわゆる薬学診断学が立ち上がってくると思います。医師、看護師、薬剤師がそれぞれの見方でアセスメントを行って、情報を持ち寄った上で、総合的に判断するというところまで来ると、ずいぶん変わってくると思いますね。

 さらには、医師と薬剤師が組んで患者を治療する、「共同薬物治療管理」という概念が広がってくるはずです。そこに至るには、医師に対して、薬剤師と組むことで治療成績が上がるという、具体的なメリットを示せるようになることが重要だと思います。

インタビューを終えて

 薬剤師にとってのバイタルサインとは、それ自体が目的なのではなく、チーム医療の各プレーヤーが共通言語で話せるようになることで、治療成績が上がることが目的でしょう。

 先行しているのは看護師です。「看護師特定能力認証制度」を創設した上で、医師の指示の下、高度な知識・判断を要する「特定行為」ができるようにしようとしています。試行事業では、介護老人保健施設にそうした看護師がいることで、患者の状態の変化に対応でき、緊急入院を減らせたというデータが出ているそうです。(北澤)

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