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特集:薬局のリーダーになる技術
識者が伝授する必須スキル編
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

 管理薬剤師の仕事は、薬局を滞りなく運営することだ。そのためにはどんな能力が求められるのだろうか。

 370薬局以上を展開する総合メディカル(福岡市中央区)でマネジメント研修をはじめとする研修全般を手掛ける、DtoD薬局本部教育研修部部長の松尾謙師氏は、「管理薬剤師として薬局を運営する上で必要な、薬事関連の法律や保険制度の知識、医薬品管理のための知識、リスクマネジメントの能力などはもちろん、薬局という組織をマネジメントする能力が非常に重要となる」と語る。

方針を自分なりの言葉で伝える

 松尾氏は、組織をマネジメントする能力を「スタッフをまとめて、ある方向へ薬局を動かしていく力」と表現する。多くの場合、管理薬剤師は会社が決めた方針に従って組織を動かす、いわば会社とスタッフの間に立つ存在だ。そこで必要となるのは「会社から与えられた目標を自分なりに咀嚼して、思いを込めてスタッフに伝える力」(松尾氏)だという。

 例えば、会社の重点施策として「後発品の使用率を高める」という目標が掲げられたときに、この目標をどう伝えるかによって、スタッフのやる気は変わってくる。数字だけを示して「30%を目指して頑張ろう」と言っても、やる気を起こさないスタッフもいる。

 なぜ、後発品の使用率を上げることが必要なのか、患者のメリットや社会への貢献度なども考えて、「自分なりの言葉で伝えられるかがポイント。それによって現場のモチベーションが変わってくる」と同課長代理の石原孝氏。「そういうことなら頑張ろう」と思えるように提示できるかがカギだ。

 「どんな施策で実現していくかを決断し、GOサインを出すのもリーダーの務め」(石原氏)だ。具体的な方法論は、必ずしもリーダーが考える必要はないが、スタッフから出てきた案を判断し全員に周知させるのはリーダーの役割だ。

識者
松尾 謙師氏(左)
石原 孝
総合メディカルで、スタッフの研修全般を手掛けている。全国を飛び回り、年間150日を超える研修を行う。

識者
松尾 謙師氏(左)
石原 孝
総合メディカルで、スタッフの研修全般を手掛けている。全国を飛び回り、年間150日を超える研修を行う。

理論を学び実践することが大切

 さらに、率先して取り組んでいく姿勢と行動力を示すことも大切だ。「薬局のリーダーはプレーイングマネジャーであることがほとんど。まず自分が取り組み、一緒に汗を流すことなしにスタッフを引っ張ることはできない」(松尾氏)。

 では、こうした力は、どのようにすれば習得できるのだろうか。松尾氏は「多くの人はリーダーの資質は性格的な部分が大きいと考えているが、マネジメント研修を受けることで、リーダー力を身に付けることができる」と言う。

 総合メディカルのマネジメント研修では、まず理論を教え、リーダーに求められるもの、あるべき姿などを知ってもらうという。その上で、事例を用いて「こういった場合、リーダーとしてどう行動すべきか」といったシミュレーションとディスカッションを重ねる。こうした研修を受けた上で、学んだことを現場で実践してみる。さらに、フォロー研修で事例を用いたシミュレーションを行い、現場での実践を繰り返すという。

 理論を理解し、現場でトレーニングを重ねることで、意識やものの考え方が変わり、意識が変われば行動も変わる。実際、マネジメント研修を受けたスタッフは、考え方や行動が変わってくるという。「よく『リーダーに向いていない』と言う人がいるが、リーダーとしてあるべき姿を意識して行動することによって『向いていない』は克服できる」と松尾氏は話している。

 薬局を運営する上で、スタッフへの指示や指導が必要となる場面は多い。聞き入れてもらえないことも多く、リーダーたちの間では「うまく人が動いてくれない」といった悩みは尽きない。そんなときには「コーチングを意識したコミュニケーションをしてみるのも一手」と、北海道薬科大学准教授でコーチとしても活躍する野呂瀬崇彦氏。

識者
野呂瀬 崇彦
北海道薬科大学准教授。薬学部卒業後、米国コロラド大学経営大学院にてMBA(経営学修士)取得。薬局やコンサルティング会社などを経てビジネスコーチとして独立。2006年より大学教員に、08年より現職。

 コーチングとは「相手が自ら考え行動するのを、対話を通じて支援する方法」(野呂瀬氏)だ。期待される役割を担ってもらい、本人の成長を促すといった場面で活用できるコミュニケーション法だ。

問い掛けることで気づいてもらう

 実際に困ったケースとして調査で寄せられた「自らスキルアップしようという心構えが感じられない。注意すると、そのときは変わるが、しばらくたつと元に戻る」を例に考えてみよう。コーチングを意識したコミュニケーションでは、まずスキルアップしようという心構えが感じられない結果、何が起こっているのかを本人に伝え、どう認識しているかを聞く。「以前に伝えたことができていないことがよくあるように思うが、その点についてあなたはどう考えているか」という具合だ。

 その上で「どうしていけばいいと思う?」と問い掛け、「少しでも変えられることがあるとしたら、何ができる?」「そのために、こちらが手伝えることは?」と話を進めて本人に考えてもらい、行動変容を促す。

指示は会話を重ねた後に

 問題点については、「モチベーションが低い」や「責任感がない」といった、その人の考え方や性格ではなく、「行動と、それが組織やその人の成長にどう影響を与えているかに焦点を当てることが大切」(野呂瀬氏)だ。前述のケースでいうと、「しばらくたつと元に戻る」という行動に焦点を当てる。そうすることで原因が明確になり、解決に結び付けやすいからだ。

 また、期待する成果や能力、技術をはっきりさせておく必要がある。例えば、「入社3年目なんだから、これでは困る」といった漠然とした話し方はNG。どうなるのが良いかというゴールについて、リーダーと本人との間で認識がずれないように具体的に話すことが重要だ。

 これらの大前提となるのは、「『やる気がない人は、いない』というコーチングの基本的な考え方」(野呂瀬氏)だ。やる気がないわけではなく、やる気がないように見えるだけであり、その原因がどこにあるのかを掘り下げて、やる気を引き出すための会話を重ねることが大切だ。

 中には、人生の中で仕事より大切なことがあり、結果としてリーダーが期待する成果を上げていないスタッフもいるだろう。その場合には、仕事として最低限求めるラインや現実とのギャップを明確に示し、「ここまではやってほしい」と指示する必要がある。結果として指示することになるが、「コーチングのステップを踏まずに『こうしろ』と指示するのと、会話を重ねた後に指示するのでは相手の受け入れ方が違ってくる」と野呂瀬氏。本人に考えさせるというプロセスが大切だ。

 「男性と女性では、考え方や気になるところ、やりがいの源泉や行動のプロセスなどに違いがある。女性特有の考え方や行動を知れば、コミュニケーションが円滑に図れるようになる」と、女性のキャリアカウンセリングや研修などを手掛けるキャリエーラ(東京都港区)代表取締役の藤井佐和子氏。

識者
藤井 佐和子
キャリエーラ代表取締役。これまでに、述べ1万3000人以上の女性のキャリアカウンセリングに携わる。企業や大学での研修、講演などを行う。著書に『女性社員に支持されるできる上司の働き方』(WAVE出版)がある。

 もちろん個人の性格による差も大きいので、性差で全てが語れるわけではない。しかし、男女差を認識し、女性特有の思考や行動のパターンに合わせた対応をしていくことは、女性が多く働く薬局をマネジメントしていく上では大切なことだといえよう。

個人の自己実現に関心あり

 女性ならではの考え方として、まず知っておきたいのは「女性は、チームの目標達成の前に、個人の自己実現、やりがいなどを重視する傾向にある」(藤井氏)という点だ。女性の場合、数字を目標に掲げて「チーム一丸となって頑張ろう」と言っても、すぐにはやる気に結び付けにくい。その目標に取り組むことでその人がどう成長できるかをまず具体的に示した方が、モチベーションを上げることができる。

 また、「結果よりもプロセスを重視する人が多いのも女性の特徴」と藤井氏。評価する際には、結果だけではなくその過程で何が良かったのかなどを具体的に褒めることが大切だ。常に、スタッフの良い面や得意なこと、やり方などを丁寧に見ておくことが求められる。

相手に合わせて言葉を使い分ける

 「男性は、不安をバネにできる人が多いが、女性は不安があると余裕がなくなり、パフォーマンスを発揮できないことが多い」(藤井氏)のも男女の違いだ。不安の原因となるのは、やはり個人の自己実現に関することが多く、「薬剤師として成長できないのではないか」「このままで私の人生は大丈夫だろうかか」といったものが多い。問題なのは、不安を抱えたままでは仕事に身が入らないこと。「スタッフのモチベーションが低い」と嘆く管理薬剤師は多いが、不安があるが故にモチベーションが上がらない状態であることも考えられる。

 そんな場合、「『ここでこう頑張れば、こうなれる』という具体的なモデルを示すとよい」と藤井氏。薬剤師としての知識や技能、キャリアパスなど、その人が気になっている点を中心に示すのがポイントだ。

 また、普段から「最近、調子はどう?」「気になることはない?」とこまめに声を掛けて、不安の芽を小さいうちに摘んでおくようにすることも大切だ。その際、何か相談されたら、きちんとアクションを起こすことを忘れてはならない。話を聞くだけでは、相談をしてくれなくなる。「解決できなくても構わないので、とにかく何かアクションを起こすことが重要。それが信頼の鍵となる」(藤井氏)。

 さらに、日々の会話の中で「その人が大事にしていることをキャッチして、こちらから発する言葉に織り交ぜることで、相手に響くコミュニケーションとなる」と藤井氏。例えば「自分らしさ」という言葉をよく使う人には、「自分らしさを実現するには、仕事の上でもこうした方がいいんじゃない?」といったアドバイスが効く。逆に、「責任感」を多用する人に「適当にやっておいて」という言葉を使っては、信頼を失いかねない。

 そのために藤井氏がリーダーに勧めるのは「会話でよく使う言葉をスタッフごとにメモしておく」ことだ。リーダーが、一人ひとりの視点に合わせたコミュニケーションを取るだけで、スタッフのやる気や行動は随分変わってくる。ぜひ取り入れたい。

 リーダーには、組織を動かす責務がある。そのためには、ルールを守らなかったりミスを犯したスタッフを叱ることが必要となる場面も出てくる。「叱る」は、人を動かすコミュニケーション手段の一つだ。他に「褒める」「諭す」といった手段があるが、早く行動を変化させたいときには叱るのが効果的であり、リーダーが組織を動かす上で必要な手段といえる。

 そこで、『絶妙な「叱り方」の技術』の著者である日本コミュニケーション能力認定協会会長の藤崎雄三氏に、上手な叱り方を指南してもらった。

識者
藤崎 雄三
日本コミュニケーション能力認定協会会長。日本興業銀行を経て2010年、ビジネスコーチとして独立。企業のコミュニケーション研修や職場活性化研修などで活躍。著書に『絶妙な「叱り方」の技術』(アスカビジネス)がある。

怒りの感情は抑えず最初に伝える

 まず、藤崎氏が勧めるのは「叱る前に自分の感情を冷静に伝える」ことだ。感情に任せて叱りつけるのは良い叱り方とはいえない。しかし、感情を抑えながら叱るのは至難の業だ。叱る側が伝えたいのは「感情」と「内容」だが、感情を抑えることに意識が集中してしまうと、何がいけなかったかの内容を伝えることがおろそかになりがちだ。また、途中で怒りの感情が爆発してしまうことにもなりかねない。それを防ぐには、まず一言「今、私はあなたに対して怒っています」と宣言する。そうすることで冷静に話ができる状態になる上に、相手も聞く体制に入ることができるという。

 2つ目のポイントは「何が悪いかを簡潔に伝えた上で、どうすればよいか解決策が分かるような叱り方をすること」(藤崎氏)だ。叱るのは手段であり、目的はあくまで行動を改めてもらうことだ。どうすればよいかを本人が認識できなければ意味がない。

 このとき、ホワイトボードやメモ用紙などを用意して、書きながら話すと冷静に話ができる。また、叱られる側が問題解決のための対策を練ることに気持ちを切り替えられるため、心理的に追い込まれずに済むことから、話の内容を受け止めやすくなるという効果もある。

 解決策は、こちらから「こうした方がよい」と改善案を提示する場合と、「どうすればいいと思う?」と問い掛けて本人に考えさせる方法がある。そのときの状況や本人の経験、緊急度などによって使い分けよう。

3つのボタンのどれかを押す

 さらに、「動こう」という気持ちにさせるための話し方も大事だ。藤崎氏は、「人が動くきっかけをつくるには、『やりたいボタン』『やれそうボタン』『やらねばボタン』─のどれかを押す必要がある」と話す。「やりたいボタンは、やるべきことが魅力的に見えるように話すことで押させることができる。やったことによってこんなに良いことがあると、できるだけ具体的に想像させられるような話し方が必要だ。

 困難な課題は、やりたくないという気持ちになりがちだが、「やれそう」と思えれば積極的になれる。このボタンを押すには、例えば段階を踏ませる方法がある。初めから10点満点を目指すのではなく、「今、何点ぐらい?」と尋ねて、あと1点上げるには何が必要かを考えさせるといった具合だ。

 「やらねばボタン」は、やらなかったときのデメリットを示して危機感をあおる作戦だ。いわば脅しだが、相手を早く動かす力となる。

 もっとも、「叱る」は、人を動かすコミュニケーションの一つにすぎない。「なぜ叱る必要があるのか、また叱る目的は何か、自分は組織をどう動かしたいのかなどを、叱る前にもう一度考えて、その上で必要に応じてきちんと叱ることが大切」と藤崎氏は話している。

 近隣の医療機関の医師との交渉や打ち合わせは、管理薬剤師に求められる業務の一つだ。忙しい医師に、処方内容や処方箋への記載方法などの要望を伝えなければならない場面も多く、負担に感じる管理薬剤師は少なくない。こちらの話に耳を傾けてもらい、要望を快く受けてもらうためには、どのようなコミュニケーションが必要だろうか。

 まず、「用件を切り出す前に、相手に感謝の意を伝えてアイスブレイクすることから始めるとよい」とビジネスコミュニケーションのエキスパートであるグローバリンク(東京都渋谷区)代表取締役の大串亜由美氏は話す。

識者
大串 亜由美
グローバリンク代表取締役。日本HP、コンサルティング会社勤務を経て、グローバリンクを設立。ビジネスコミュニケーション研修、コンサルティング業務を手掛ける。著書に『アサーティブーー自己主張の技術』(PHP)などがある。

 アイスブレイクとは、話し合いなどの冒頭で、場が和むような雰囲気をつくること。例えば「昨日は、あの患者さんの件、ありがとうございました」「先日の勉強会、とても参考になりました。ありがとうございました」といった感謝の意を具体的に伝えることで、相手の耳をこちらに向けることができるという。「お世話になっています」で済まさないことがポイントだが、ここで長々と話しては逆効果。簡潔で気の利いた一言を用意しておきたい。

共通の目的を念頭に話をまとめる

 相手との距離が縮まったところで本題を切り出す。伝えたい内容は、あらかじめ整理しておく。基本は「事実をできるだけ論理的に伝える」だが、大串氏は「薬剤師と医師は、患者さんに適切で安全な医療を提供するという共通の目的がある。それを軸に内容をまとめるとよい」とアドバイスする。「患者さんのためにも、こうしたいのですが」など、患者への思いを言葉に盛り込むことで、相手の心に響きやすくなる。

 協力する気持ちになってもらうには、こちらの要望を伝えるだけでなく、「相手がこの依頼を受けたときに、どのようなメリットがあるか、または受けなかったときにどんなデメリットがあるかを伝えることも大切」(大串氏)だ。例えば「こうしていただけると、先生への問い合わせも少なくなると思います」「小さなことですが、積み重なると事故につながりかねませんので」といった言葉だ。また要望を伝えるときには、「なるべく早く」など曖昧な表現は避けるのもポイント。「遅くとも来週中に」と具体的に要望を出す。さらに一通り要望を伝えた後に、「何か、こちらが改善できることはありますか」といった言葉で相手からのリクエストを聞きたい。

苦手な相手ほどコミュニケーションを

 こちらの要望が受け入れられなかったとしても、「話を終えるときには、お礼の言葉など必ずポジティブな言葉で締めくくる」(大串氏)のも大切なポイントだ。「分かりました。すみませんでした」と言ってしまいがちだが、「分かりました。お時間ありがとうございました。直接お話しできてよかったです」といった言葉で終わりたい。断った方にも少なからず気まずさが残るものだが、その場でそのわだかまりを解消しておくことが、その後の人間関係を維持していく上でも大切だからだ。

 以上が一連の流れだが、事前にこれらを頭の中で整理して、できれば練習をしてから話をするようにしたい。

 もし、相手が苦手なタイプであれば「逆に積極的にコミュニケーションを取るのがいい」と大串氏。コミュニケーション不足が苦手意識につながっていることが少なくないからだ。相手をよく知ることがコミュニケーションの第一歩だ。

 管理薬剤師が、気難しい患者からのクレームを一手に引き受けるケースは少なくない。

 クレーム研修の経験が豊富なキューブルーツ(東京都渋谷区)代表取締役の津田卓也氏は、「近年やっかいなクレームがものすごい勢いで増えている。これからは個人の対応能力を上げるだけでなく、組織全体で対応策を講じる必要がある」と強調する。そもそもクレームは「一般的なクレーム」と「悪質なクレーム」に分かれ、それぞれで対応が全く異なることは知っておきたい。

識者
津田 卓也
研修や人事コンサルティングを手掛けるキューブルーツ(東京都渋谷区)代表取締役。ブックオフコーポレーション(神奈川県相模原市)でエリアマネジャーなどを経験後、独立。津田氏のクレーム研修は特に好評を博す。

クレームは改善点を指摘してくれる

 一般的なクレームは、「思ったより待たされた」「思ったより値段が高い」など、提供したサービスが顧客の期待値を下回ったときに生まれる顧客の声といえる。「一般的なクレームは、人々の期待と、提供したサービスとのギャップに気づかせてくれるもの。クレーム対応をきっかけに、業務改善に結び付くケースが多い」と津田氏は語る。このため一般的なクレームは、我々の改善点を指摘してくれる、ありがたいものと考えて真摯に対応したい。

 対応の流れは、まず部分謝罪をする。不愉快な思いをさせた、お手数を掛けた、といった“一部分”について「大変申し訳ありません」ときちんと詫びるのだ。これで相手は随分とクールダウンする。その上で、相手の言い分を3~5分はしっかり聞く。相手がどんなに困ったか、状況をよく把握しないと、相手の状況や気持ちを理解することができない。そして相手の立場を踏まえつつ、今後こちらがどう対処すべきか考える。これが一般的なクレームへの誠実な対応の流れだ。

悪質な場合は必ず記録を取る

 一方、悪質なクレームには次のような種類がある。一つは、団塊世代の大量引退で激増している「教育的粘質クレーム」。元医師、元企業の重役など、かつて社会的に高い地位にあった人々が引退して時間を持て余し、自分の主張を聞いてもらうために繰り返し苦情を言う。苦情は企業のあるべき姿や地球環境問題など、現場が対応できる事柄ではない。もう一つは、ささいなミスに付け込んだ、いわゆる“プロ”による金銭目的のクレーム。執拗で、「誠意を見せろ」と暗に金品を要求する。そのほか、精神的な疾患が背景にある「病的クレーム」もある。被害妄想から苦情を申し立て、筋の通った話が通じない。

 津田氏は、「悪質なクレームに遭遇したら、現場の担当者が1人で対応するのは無理。組織で対応しなければならない」と話す。教育的粘質クレームには業務妨害の可能性を伝える、病的クレームは話の通じる家族などに相談する、金銭目的のクレームは弁護士や警察に相談する、といった対応をせざるを得ないケースもあり、個人での対応限度を超えている。

 悪質なクレームに遭遇したとき、現場で必須なのは、録音や記録を取ることだ。名前、住所、内容だけでなく、応対開始と終了の時刻を書き留めておくとよい。応対に掛かった時間や人件費を損害として主張する際に役立つ。

 中堅チェーン薬局の日本メディカルシステム(東京都中央区)で経営計画の立案に長年携わる大和久尚氏は、「薬局を健全に運営し、経営者の意図をきちんと理解するために、管理薬剤師も薬局の経営管理を学んでおくべきだ」と強調する。

識者
大和久 尚
日本メディカルシステム(東京都中央区)調剤事業部部長。製薬会社の勤務を経て同社へ。現場で管理薬剤師を務めた後、ここ10年ほどは経営計画の立案や薬剤師の研修などに従事している。

 ここでは、管理薬剤師のよくある悩み、「人員追加の余地があるか」「売り上げをどう増やすか」を経営管理の視点で考えてみよう。

 表1のA薬局で、薬剤師を増やす余地はあるだろうか。人件費は、粗利益に見合った適切な範囲に収めるのが基本。その指標を、労働分配率といい、一般に粗利益の3分の1(33%)が適正とされる(表2)。大和久氏は、「労働分配率が25%なら明らかに人員追加の余地があるし、50%なら人を追加する余裕はほぼない」と解説する。A薬局の労働分配率は30.8%(人件費〔3850〕÷粗利益〔12500〕×100)で、若干人を増やせる環境にある。

表1 大学病院門前のA薬局における月間収支(単位:千円)

表2 人件費の判断指標

 もう一つ、人件費の判断指標として知っておきたいのが、接客生産性だ(表2)。例えば1時間に10人の患者が来客し、3人の薬剤師が対応した場合、1時間当たりの接客生産性は3.3だ。1日でも時間帯別、1週間でも曜日別に接客生産性を調べると、人員の過不足が客観的に分かる。大和久氏は、「当社では接客生産性は3以上を目標にしている。4は明らかに無理だし、1~2だとスタッフが過剰だ」と語る。

売り上げは客単価と客数で考える

 売り上げを増やすための戦略はどう考えたらよいだろう。売り上げは、客単価と客数の積で表せる。このうち客単価は処方内容で変わる部分が大きい。とはいえ、後発医薬品調剤体制加算や特定薬剤管理指導加算など、技術料を高める方法で客単価を上げることができる。そのほか、「花粉症シーズンのマスクなど、季節商品を置くと『ついで買い』を誘って客単価を上乗せできる」と大和久氏は話す。

 客数は、一般的には広告宣伝が大きく影響するが、薬局の場合、チラシを撒いても効果は限定的。大和久氏は、「1回来局した患者さんに満足してもらい、いかにリピーターになってもらうかが重要だ」と指摘する。結局、患者のニーズを捉え、かかりつけ薬局になることが、薬局の売り上げアップにつながる。

調剤報酬で粗利益率を推定

 最後に“薬局の数字”の基本、表1の損益表の見方を説明しておこう。粗利益は文字通り大まかに出した利益で、「売上高ー売上原価」で算出する。売上原価は、売り上げを生み出すための主要な経費で、薬局では医薬品の仕入価を指すことが多い。販売管理費は、人件費や一般管理費、固定費などを指し、売り上げを生み出すために要した経費のうち売上原価に算入しない額をいう。そして「粗利益ー販売管理費」を営業利益という。

 このうち粗利益は算出方法が少し複雑だ。というのも売上原価の正式な算出式は表1の注1に示した通り、棚卸し後でないと売上原価が確定しないからだ。そのため通常、月々の粗利益を出す際は、粗利益率の推定値を使う。調剤主体の薬局の多くは、売り上げの95~98%を保険収入が占める。このため表1の注2のように、月間の調剤報酬総額や薬剤料から粗利益率を推定し、過去の同じ月の実績を加味して推定値を出す。そして「売上高×粗利益率の推定値」で粗利益を推定する。

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