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適用外処方のエビデンス
子宮内膜症による 頑固な痛みを モンテルカストが改善
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

疾患概念・病態

 子宮内膜は、月経時に剥がれて子宮から腟へと排出される。その際に、子宮内膜の一部が月経血とともに子宮から逆流し、卵巣、卵管、腹腔あるいは直腸表面の腹膜など、子宮以外の臓器に付着することがある。これが排除されずに生着すると、その場で増殖し、子宮内膜症に至ると考えられている(参考文献1、2)。

 子宮内膜症の症状は、月経痛、慢性骨盤痛、月経時以外の下腹部痛、腰痛、性交痛、不妊、月経過多、排便痛などである(参考文献2、3)。特に、急性の疼痛が長く続くと、心理的要素が加わって慢性痛に移行し、痛みが複雑化して、治療が困難になる場合がある(参考文献3)。

 発症に至るメカニズムは、次のように考えられている。まず、局所で炎症が起こると、細胞膜のホスホリパーゼA2が活性化され、アラキドン酸が遊離する。シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用により、アラキドン酸から様々なプロスタグランジン(PG)やロイコトリエン(LT)が合成され、疼痛を引き起こし、子宮平滑筋が収縮する。さらに、線維芽細胞や膠原線維が増加し、線維化や癒着形成による 組織間の牽引、組織や神経の損傷・圧迫、局所の出血による内圧上昇が起こる(参考文献3~5)。

 炎症の中心部である子宮内膜腺周囲の間質は、増生して肥厚、線維化し、血管が新生する。それとともに、平滑筋や神経も新生する。線維化や血管新生が活発な間質部分には、LTなどの産生源である肥満細胞が増加し、アレルギー性病変特有の、脱顆粒した活性型の肥満細胞も認められる。これらは病変の増悪・進展に深く関わり、痛みの悪循環を形成すると考えられている(参考文献4~6)。

 子宮内膜症は、慢性炎症性疾患である自己免疫疾患(全身性エリトマトーデス、シェーグレン症候群、関節リウマチ)、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、慢性疲労症候群、線維筋痛症などを合併することが多いとの報告もある(参考文献7~8)。

治療の現状

 子宮内膜症の疼痛には、アラキドン酸カスケードにおけるPGの産生増加による子宮平滑筋収縮が大きく関与すると考えられてきた(参考文献1、3)。そのため、PG産生に関わるCOXのうち、COX2を阻害するNSAIDsが投与されることが一般的である。

 しかし、月経困難症患者の10~30%ではNSAIDsが無効であるとの報告がある (参考文献9~10)。これらの患者では、月経血中のPGE2、PGF濃度が、正常者と比較して高値ではないことが明らかにされている(参考文献8、11)。

 一方で、システイニルロイコトリエン(CysLT:LTC4、LTD4、LTE4)は、子宮平滑筋や子宮内膜にも存在することが明らかにされている(参考文献8)。月経痛が強い患者の子宮内膜中にはLTが増加しており(参考文献10、12~13)、月経痛のある患者の尿中ではLTE4が上昇していることが確認されている(参考文献8、14)。

 また、子宮内膜症の病変部には、前述のようにLTの産生源である肥満細胞が豊富に認められる。脱顆粒した肥満細胞は、子宮内膜症組織中、特に線維芽細胞の増生やコラーゲン層が肥厚した間質部分に多く認められている(参考文献5)。

 従って、子宮および子宮内膜症の病変部にはLTとLT受容体が局在しており、これらが子宮平滑筋収縮や慢性炎症に関与し、疼痛の原因の一つとなっている(参考文献6)。これらから、子宮内膜症でNSAIDsの効果が不十分あるいは効果がない患者では、PGよりもLTが強く関与していると考えられる。

 そこで、気管支喘息やアレルギー性鼻炎に用いられるLT受容体拮抗薬のモンテルカストナトリウム(商品名シングレア、キプレス)が、適応外使用されることがある(表1)。

表1 子宮内膜症患者へのモンテルカストの処方箋例

モンテルカストの有効性

 子宮内膜症および月経困難症患者55例を対象に、35例にはモンテルカスト10mg/日、20例にはプランルカスト水和物(オノン他)450mg/日の内服を、試験開始後発来する初回月経5日目より開始し、2周期連続で経口投与した。その間の月経痛を、ビジュアル・アナログ・スケール(VAS)を用いて10段階で自己評価し、VASの値が半分以下に低下した場合を著効、VASが低下した場合を有効、それ以外を無効とした。

 その結果、全体では著効36%(20/55例)、有効31%(17/55例)、無効33%(18/55例)で、著効と有効を合計すると67%だった。薬剤別では、モンテルカスト群では著効43%(15/35例)、有効26%(9/35例)、無効31%(11/35例)、プランルカスト群では著効25%(5/20例)、有効40%(8/20例)、無効35%(7/20例)だった。

 これらの結果から、LT受容体拮抗薬は有効であり、中でもモンテルカストの効果がより高いと考えられた(参考文献5、8、15)。

 続いて、著効率が高かったモンテルカストの有効性が、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)で検証された。NSAIDsのみでは無効あるいは効果不十分な月経困難症51例を対象に、24例にはモンテルカスト10mg/日、27例にはプラセボを、月経周期5日目より2周期連続経口投与した。この間、NSAIDsの使用は許容した。

 モンテルカスト(またはプラセボ)使用後2周期における月経痛(VASで評価した最高値の平均、またはVAS総数[日数×VAS値]の平均)が、使用前の2分の1以下になった場合、あるいはNSAIDs服用量の平均が使用前の2分の1以下になった場合に、有効と判定した。

 その結果、有効率は、プラセボ群22%(6/27例)に対してモンテルカスト群は50%(12/24例)で、モンテルカスト群で有意(P=0.038)に有効率が高かった。モンテルカスト群のVASは、使用前の6.7から使用後は4.8へと有意(P<0.05)に減少した。副作用で試験を中止した患者はいなかった(参考文献5、16)。

 これらの結果から、モンテルカストは、NSAIDsの効果が見られない、あるいは不十分な症例に対して、その代替または併用治療薬としての有効性が示唆された。

作用機序

 LT受容体拮抗薬は、アレルギー反応の引き金であり病変進展に大きく関与する肥満細胞の浸潤および脱顆粒を有意に減少させる。それにより、肥満細胞内の炎症性メディエーターの放出が抑制され、子宮内膜症における種々の症状を軽減する。

 LT受容体拮抗薬はまた、間質増生および癒着病変の線維芽細胞のアポトーシスを誘導することから、膠原線維を産生する線維芽細胞が減少し、新たな膠原線維の増加が抑制され、増殖病変部本体も縮小する。さらに、既に強固な癒着を形成している膠原線維が細く疎になれば、癒着が剥がれやすくなり、癒着が原因で引き起こされている疼痛も軽減する。

 すなわち、LT受容体拮抗薬は、間質増生および癒着病変の進展を抑えるだけでなく、既存の病変を縮小・消失させる可能性がある。

 特に、間質増生病変と癒着の本体である線維芽細胞に対するアポトーシスの誘導は、生体の細胞数を恒常的にコントロールするために生理的に誘導される重要な細胞死である。アポトーシスが誘導された細胞は、収縮・断片化し、最終的にマクロファージなどの貪食細胞によって処理され、ネクローシスのような周囲の組織や生体に対する影響はない。

 LT受容体拮抗薬が、過剰に増殖した線維芽細胞を、ネクローシスではなくアポトーシスで減少させることができるということは、生体に対する影響が少ないことを意味する。そのため、LT受容体拮抗薬の副作用は少ないのではないかと推察されている(参考文献4)。

適応外使用を見抜くポイント

 婦人科から、LT受容体拮抗薬であるモンテルカストが、単独あるいは鎮痛薬と併用で処方されるので見抜きやすい。だが、気管支喘息など本来の適応で、便宜的に婦人科から処方されることもあるので、患者へのインタビューを通じた確認が重要である。

参考文献
1)金澤康徳他編「Annual Review 糖尿病・代謝・内分泌.IV.生殖医学B.臨床分野での進歩」(中外医学社、2008)
2)産婦人科治療.2008;96:278-82.
3)Prog Med.2009;29:1767-75.
4)Medical ASAHI.2003;32:80-3.
5)産科と婦人科.2008;75:21-5.
6)産科と婦人科.2007;74:558-65.
7)Hum Reprod.2002;17:2715-24.
8)産婦人科の世界.2006;58:629-35.
9)Gynecol Endocrinol.1989;3:71-94.
10)Eicosanoids.1991;4:137-41.
11)Br J Obstet Gynaecol.1984;91:673-80.
12)Br J Obstet Gynaecol.1990;97:588-94.
13)Prostaglandins.1993;45:413-26.
14)J Adolesc Health.2000;27:151-4.
15)Fam Med2004;36:8-9.
16)日産婦関東連会報.2007;44:260.

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