DI Onlineのロゴ画像

Report
結局どうなる!? 調剤ポイント
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

 2012年10月1日から、「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」(薬担規則)に、新たに「経済上の利益の提供による誘引の禁止」が加わる。

 今回の改正が意図しているのは、いわゆる調剤ポイントを規制することだ。保険薬局が患者の一部負担金に対して調剤ポイントを付け、たまったポイントをOTC薬などの購入に使えるようにするサービスは、「経済上の利益の提供による誘引」に当たるとされた。

 具体的には図1の通り。保険薬局の薬局専用カードやポイント専業会社の共通ポイントカードは認められなくなる。その一方で、クレジットカードや一定の汎用性のある電子マネーは、やむを得ないとして認めるとされている。

図1 保険薬局における調剤ポイント(2011年11月2日開催中医協総会資料を編集部で一部改変)

今年10月1日から、保険薬局の薬局専用カードやポイント専業会社の共通ポイントカードは認められなくなる。

画像のタップで拡大表示

 ちなみに、ポイントカードにクレジットカード機能が付いている場合は、「クレジットカードで支払った分のポイントは認めざるを得ないが、ポイントカードに別途ポイントを付けるのは認めない」(11年11月2日、中央社会保険医療協議会[中医協]総会における厚生労働省発言)ことになるらしい。

侮れないポイントの“効果”

 消費者庁はポイントカードについて、自店での次回以降の買い物の支払いの一部にポイントを充てることは、値引きと認められる経済上の利益に該当すると説明している。

 その誘引効果は侮れない。野村総合研究所が10年に実施した「生活者1万人アンケート調査」によれば、「ポイントが付くかどうかで購入する商品・サービスを変えるか」という質問に対して、「あてはまる」または「ややあてはまる」と答えた人が56.0%に上った(有効回答数8236)。さらに、「ポイントが付くならば、多少手間がかかってもその店で購入するか」という質問に、「あてはまる」または「ややあてはまる」と答えた人も、55.1%いた(同8176)。しかもこの割合は、調査を実施するたびに増えているという。

 同研究所ICT・メディア産業コンサルティング部上級コンサルタントの安岡寛道氏は、「どの店を選ぶかに強いこだわりを持たない多くの人にとって、条件が同じなら、選択の際にポイントが背中を押す」と説明する。企業にとっては、ポイントを還元するための費用がかかっても、売り上げが増えるメリットの方が大きい。

「政府のエコポイントなど日本はポイント大国」と話す野村総合研究所の安岡寛道氏。

 だが、調剤ポイントは事情が異なる。わが国の医療は国民皆保険、つまり健康な人を含めて国民全員が出し合う保険料を基盤に成り立っており、調剤報酬は全国一律の公定価格だ。還元するだけの財源が保険薬局にあるのなら、調剤を受けた患者に還元するのではなく、保険料を払った国民全員に還元するのが筋だろう。つまり、調剤ポイントは“筋違い”ということになる。

 にもかかわらず調剤ポイントが広がったのは、筋を通すだけの法的根拠が整備されていなかったからだ(表1)。

表1 調剤ポイントをめぐる主な動き(編集部まとめ)

画像のタップで拡大表示(PDF形式)

2年前の答弁では規定「なし」

 調剤ポイントが目立つようになったのは2年ほど前から。国は10年11月、藤井基之参議院議員の質問に対し、健康保険法などには、調剤ポイントの提供や、支払時のポイントの使用自体を規制する規定は「ない」と回答した。ただし、ポイントの提供または使用が一部負担金の減額に当たる場合は、薬担規則違反になるという解釈を示した(表1-A)。

 さらに、厚生労働省は通知(11年1月19日保医発0119第2号)で、一部負担金の減額に当たるケースを具体的に示した。「付与された『ポイント』を直接に一部負担金の支払いに充てること」および「保険調剤の際の支払いを他の商品の支払いと区別をして高い割合の『ポイント』を提供すること」だ(表1-B)。

 裏を返せば、ポイントを一部負担金ではなく他の商品やサービスの購入に充てる限り、そして、還元率を他の商品並み(100円につき1ポイントなど)にする限りは、一部負担金の減免には当たらないとの解釈も成り立つ。実際、大手ドラッグストア各社は、この形で調剤ポイントを実施している。

 ところが、11年11月2日の中医協総会で調剤ポイントが議題に上り、厚労省は薬担規則の改正を含む“対応策”を提出、中医協もこれを了承した(表1-C)。当初は12年4月から施行されるはずだったが、10月に延びた。

いまだ解決されていない問題

 ところが、これで一件落着とはいきそうにない。日本チェーンドラッグストア協会は調剤ポイントへの規制に反対する署名活動を展開、厚労省に対して納得のいく説明を求めている(下記のインタビュー参照)。厚労省はこうした水面下のやりとりについて、本誌の取材に応じていない。

 大手ドラッグストアのグローウェルホールディングスは12年3月、傘下のウエルシア関東および寺島薬局で、共通ポイントカードである「Tポイント」を導入した。現在、474店舗で調剤ポイントが使える。同社執行役員でグループ営業企画副本部長の小関聡氏は、「電気料金の値上げなど生活費の負担が増える中で、今まで付けられた調剤ポイントが付けられなくなるというのは、消費者の不利益になる」と訴える。

「調剤ポイントは続けられれば続けたい」と話すグローウェルホールディングスの小関聡氏。

 ポイントカードがダメなのに、クレジットカードは認めるというのも分かりにくい。クレジットカードに関して国は、患者サービスの向上や医業未収金の縮減に役立つとして、導入をむしろ推進する立場だ。総務省行政評価局は12年2月10日、導入が遅れている労災病院(独立行政法人労働者健康福祉機構)などに対して、クレジットカードによる医療費の支払い方式を拡大するよう行政指導(あっせん)を行った。

 折しも、OTC薬のインターネット販売をめぐる裁判の控訴審判決(12年4月26日)では国が逆転敗訴。改正薬事法はネット販売を一律に禁じることまでは委任しておらず、法の委任によらずにネット販売を禁じる省令は違法であると判示された(国は上告)。薬担規則も省令なので、今回の改正が健康保険法に委任されているといえるか、論点となり得るだろう。

保険薬局の存在意義とは何か

 保険薬局におけるポイントは、改正薬担規則が施行される10月以降も存続し続ける可能性がある。例えば、一部負担金の額ではなく来局に対してポイントを付け、たまったポイントは、商品の購入ではなく待ち時間の短縮など薬局でのサービスに使うなど、「経済上の利益の提供による誘引」に当たるかどうか、微妙なポイントが出てくるかもしれない。

 別の業界に目を転じてみよう。生命保険や損害保険の場合、保険料の割引など特別な利益を提供して勧誘することは、保険業法(第300条)で禁止されている。だが各社は、保険料に調節的には関係のない契約の更新や紹介などの行為に対して付ける仕組みにして、ポイントを導入している。ポイントは、顧客を囲い込み、競争相手と差別化するために、「誰もが思いつく方法」(安岡氏)なのだ。

 そもそも保険薬局は、公定価格での販売ができるという、国の規制を有利に生かせるビジネス。株式会社による経営が認められている以上、保険調剤の患者を増やして利益を上げようと知恵を絞るのは、ある意味当然だ。その手段として、門前薬局は医療機関からの距離の近さを、調剤ポイントを実施しているドラッグストアはポイントを利用している。そして、得られた利益は、保険料を払った国民ではなく、配当の形で株主に還元される。

 これは、株式会社による医療機関の経営が、何度も議論の俎上に上りながら全面解禁されないのとは対照的だ。調剤ポイントをめぐる混乱を招いた責任の一端は、保険薬局の位置付けをはっきり決められない厚労省自身にもあるのではないか。

 保険薬局にも課題はある。NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長の山口育子氏は患者の立場から、「消費者心理としてはポイントが付くのはうれしいが、保険調剤はやはり別。保険薬局が調剤ポイントを脅威に感じるとすれば、かかりつけ薬局という本来の役割で差別化できていないからではないか」と指摘する。

「かかりつけ薬局の意義をもっとアピールすべき」と話す、ささえあい医療人権センターCOMLの山口育子氏。

 東京医科歯科大学大学院教授で医療経済学が専門の川渕孝一氏は、国の行政刷新会議で、調剤ポイントを理由に、調剤基本料の引き下げについて問題提起をした。川渕氏は、「医療保険財政が厳しい中で、保険薬局は、自らの存在意義を自覚してほしい」と話している。

「医薬分業そのものが問われている」と話す東京医科歯科大学の川渕孝一氏。

調剤ポイント NO!

ポイント付与は“過剰”な行為

三浦 洋嗣氏(日本薬剤師会副会長、中央社会保険医療協議会委員)

─調剤ポイント制度についての日本薬剤師会の考え方は?

三浦 日本薬剤師会では2010年11月に、児玉孝会長名で見解を発表しました。この見解は、現在も変わっていません。

 保険薬局のあるべき業務の姿を考えた場合、ポイント付与を前面に出しての患者誘導は過剰な行為であり、健康保険法で禁じている、一部負担金の不当な減免に当たるのではないかと考えています。

 保険薬局は患者に対して、一部負担金を過剰に請求してはいけないのは当然ですが、逆に、過小に請求してもいけないのです。薬局のポイントカードは、たまったポイントを一部負担金に使う、つまり直接的に減免するわけではなくても、調剤以外の商品やサービスには使えるわけですから、私たちは間接的な値引きに当たると考えています。これは健康保険法が禁じていることです。

 保険薬局は本来、ポイントの有無で競うのではなく、薬剤師による服薬指導や薬の相互作用のチェックといった業務で競うべきであると、私たちは一貫して主張しています。

─改正薬担規則の施行が、当初4月とされていたのが10月に延びたのはなぜ?

三浦 昨年、中医協でポイントカードについて議論した際に、支払側だけでなく診療側の委員からも、疑問視する意見が出ました。その中で支払側からは、たまったポイントに応じて還元するだけの余裕があるなら国民や保険者に戻すべき、という厳しい指摘もありました。中医協として、健康保険法の趣旨を踏まえ、薬担規則を一部改正し、値引きなど経済上の利益の提供により患者を誘導することを禁じる旨を加えることを了承しました。

 改正省令の施行が10月に延びたのは、改正に当たってパブリック・コメントを募集したところ、現場に趣旨がまだ十分に理解されていないと見受けられたため、半年間、施行を遅らせただけです。つまり、この半年間は周知期間であり、改正自体は既に決まっていることです。保険薬局としての指定を受けている薬局は、改正された薬担規則を守らなければなりません。

─クレジットカードがよくて、ポイントカードがダメというのが分かりにくいのでは?

三浦 この点は国が判断したことですが、保険医療機関や保険薬局で支払う一部負担金がかなりの額に上るケースもあり、それを現金で払わなければならないというのは、今の時代としてどうなのか、ということだと思います。クレジットカードは既にかなり普及していますし。

 クレジットカードにも使用額に応じたポイントが付きますが、それはクレジットカード会社が利用者に対して付与しているのであって、保険薬局が付与するものではありません。広く日本全国で使える常識的な範囲の還元と薬局のポイントカードでの還元は、まったく異なるものであるといえるでしょう。

 薬担規則では、ポイントが付くことがダメだと言っているのではなく、保険薬局自らがポイントを付与して患者を誘引することがダメだと言っているのです。クレジットカードが患者を誘引しているとは思えません。
(2012年7月11日)

調剤ポイント YES!

厚労省は納得のいく説明を

宗像 守氏(日本チェーンドラッグストア協会事務総長)

─調剤ポイントは健康保険法に抵触するのでは?

宗像 私たちが2010年の秋に厚労省に確認したところ、ポイントを自己負担分の支払いに充ててはいけないが、他の商材に使うのはいっこうに差し支えないという説明を受けました。藤井基之参院議員の質問主意書に対する菅直人総理大臣(当時)名の答弁(10年11月30日)も同じ内容でした。ポイントカードは法的に問題ないという見解が、明確に示されたのです。それを受けて各社がポイントカードを始めた経緯があります。

 現在、会員企業の7~8割がポイントカードを導入しています。店舗数でいうと9割くらいになります。ただ、そのうち調剤もやっている店舗はそれほど多くありません。

 そもそも省令は、法律で委任された範囲でないといけません。つまり、法律で禁止されていないものを省令(薬担規則)で禁止することはできないのです。この点は、医薬品のネット販売をめぐる裁判の高裁判決(12年4月26日)と同じです。

─10月以降、国に対して裁判を起こすのか?

宗像 弁護士は、国を相手に裁判を起こしたら勝てると言いますが、私たちは争いごとを望んでいるわけではありません。

 ネット販売をめぐる高裁判決の後、厚労省に対して、ポイントカードについて納得できる説明をしてほしいと申し入れました。薬担規則の改正の施行が4月から10月に延びたのは、混乱を起こさないための周知期間とのことですが、混乱するのは、国がOKと言ったからポイントカードの導入に踏み切った私たちです。だったら厚労省は私たちに対して、ポイントカードがなぜダメになったのか、説明する責任があるのではないでしょうか。

 クレジットカードや電子マネーが使えて、ポイントカードが使えないというのも分からない。「やむを得ない」と言われても困ります。

 会員企業の多くは、調剤時の自己負担金へのポイントの付与を、これまで通り続けさせてほしいという意見です。調剤の部分にまでポイントの使用を可能にさせてほしいと言っているわけではありませんし、ポイントの還元率を自由に決めさせてほしいと言っているわけでもありません。ポイントカードが患者さんを誘引する手段として使われないようにするということについては、おおむね理解しています。

 しかし今のところ、厚労省は私たちとの話し合いに応じてはいません。これだけ説明を求めているのに、誠意ある対応をしなければ、こちらとしてもやむを得ず、過激な方向に進まざるを得なくなる。厚労省にもそう伝えています。

─どのように決着するのが望ましいと考えるのか?

宗像 厚労省は、ポイントカードが患者の誘引になってはいけないという点は守りたい、ドラッグストアは、調剤の一部負担金にポイントを付与することの継続は守りたい、そして患者さんは、たまったポイントでささやかな楽しみを得ることは守りたい。

 これらを総合して考えると、私は、落ち着くべきところに落ち着くのではないかと思うのですが。
(2012年6月20日)

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ