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薬歴添削教室
高齢パーキンソン病患者の家族に対する支援
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

 今回は、薬局セントラルファーマシー長嶺に来局した72歳女性、鈴木ヨシ子さん(仮名)の薬歴をオーディットしました。鈴木さんは約8年前からパーキンソン病を患っており、病院の神経内科で多数の薬剤が処方されています。いつも娘さんが処方箋を持って来局しています。

 一包化への対応や処方チェックなどが多い中で、服薬状況や症状変化などについてきめ細かな聞き取りがなされています。薬歴には、薬剤師の視点もきちんと盛り込まれていました。これらをどのように生かして、治療管理や療養指導に結びつけていくかについて、ディスカッションを行いました。

 本文は、会話形式で構成しています。薬歴作成を担当したのが薬剤師A~D、症例検討会での発言者が薬剤師E~Jです。(収録は2012年3月)

講師 早川 達
北海道薬科大学薬物治療学分野教授。POS(Problem Oriented System)に基づく薬歴管理の第一人者。著書に『POS薬歴がすぐ書ける「薬歴スキルアップ」虎の巻』基本疾患篇、慢性疾患篇、専門疾患篇など。

今回の薬局
薬局セントラルファーマシー長嶺(熊本市東区)

 薬局セントラルファーマシー長嶺は、株式会社ハートフェルトが2006年4月に開局した。同社は熊本県内に全8店舗の薬局と1施設の介護付き有料老人ホームを展開している。

 応需している処方箋は月1200~1300枚ほど。主な応需医療機関数は約5施設で、特に内科からの処方箋が多い。同薬局には、常勤・非常勤合わせて8人の薬剤師が勤務している。内訳は、20代3人、30代1人、40代3人、50代1人。

 薬歴は電子薬歴を使用し、SOAP形式で記載している。薬局内には、患者のプライバシーに配慮した大型の投薬ブースを設置し、時間を掛けて服薬指導を行っている。薬歴を記載する際は、服薬指導の際の患者とのやりとりをそのまま残すように心掛けている。

薬歴部分は、PDFでご覧ください。

早川 まず初めにお伝えしたいのは、薬歴が非常に良く書けているということです。患者さんとどのようなやりとりがあったかが読み取れるだけでなく、薬剤師としての視点もきちんと薬歴に記載されています。それを踏まえて、今日のオーディットで、さらに視点を広げてもらえればと思います。

 では、薬歴の表書きから見ていきましょう(薬歴(1))。問診票を使って聞き取った情報がここに転記されているのですね。「車の運転をしない」ことも押さえています。

 続けて経過記録を見ていきましょう。初回の6月6日は娘さんが代理で来局されたのですね。薬歴のS情報には、2003年1月にパーキンソン病の診断が確定したことが書かれています(薬歴(2))。この情報も問診票から得たのですか。

A 娘さんから聞きました。

早川 病名が確定した時期も重要な情報ですね。O情報に「今まで門前薬局で処方してもらっていた」とありますが、薬局を変えた理由は伺っていますか。

A 以前行っていた薬局は待ち時間が長かったため、当薬局に来るようになったそうです。初回はファクスで処方箋を受け付けました。

早川 ここまでで確認しておきたいことはありますか。

E マグミット(一般名酸化マグネシウム)は60日分処方されているのに、一包化から外されています。調節を必要としているのでしょうか。

A 初回来局時に確認した上でこのようにしています。薬歴には反映していないのですが……。

E どこまで一包化すべきか、皆で話し合ったのを覚えています。娘さんの希望が強かったので、初回はその通りにしました。

早川 それがP情報の「分割調剤をお勧め」につながるのですね((薬歴2))。

F 問診票では緑内障の有無を確認できるようになっていますが、マドパー(レボドパ・ベンセラジド塩酸塩)は閉塞隅角緑内障に対して禁忌なので、閉塞性でないことを記録しておくとよいと思います。

G 薬の管理は誰がやっていたのかを知りたいです。

H 副作用の多い薬が処方されているので、これまで飲んでいて副作用がなかったかどうかを確認したい。

早川 色々な視点が出ました。ところで、8年前にパーキンソン病の病名が確定し、5年前から悪くなり始め、2年前からさらに進んだとのことですが、この患者さんの病状は現在、どのくらいのレベルと考えられるでしょうか。

I マドパーが1日4回投与となっているので、増量した時点でwearing offがあったと考えられます(薬歴(2))。

J いつごろからL-ドパを服用しているのかも知りたい。

E 振戦に対してリボトリール(クロナゼパム)が追加されたのかなと思いました。

早川 そうですね。はっきりとは分かっていませんが、L-ドパは5年ほど前から服用しており、wearing off現象も現れていると推測できます。もう一歩踏み込んで、L-ドパやドパミンアゴニストの服用をいつから開始したかを確認できれば、治療管理に生かせるでしょう。

 さらに、治療の次のステップを念頭に置いた場合、ジスキネジアの有無に注目したいところです。マドパーの服用時点が起床直後となっていますが、これはどう思いますか。

F 早朝のジストニア。

早川 そう考えると、「足に負担が掛かるみたいで、痛みを訴えます」という娘さんの発言ともつながります。ちなみに、次のステップではどのような薬剤が用いられますか。

F エフピー(セレギリン塩酸塩)、シンメトレル(アマンタジン塩酸塩)などです。

早川 処方内容と娘さんから得た情報で、様々なことが評価できると分かりました。

 あと、「入院中にむくみがあったので利尿薬を併用していた」とありますが、このむくみは何に起因すると考えられますか。

一同 ……。

早川 ドパミンアゴニストの中では、ビ・シフロール(プラミペキソール塩酸塩)はむくみの発現率が高いといわれています。このビ・シフロールの投与量についてはどうでしょうか(薬歴(3))。

A 少なめです。

早川 なぜ少ないのでしょうか。

B 腎機能低下?

F 過去にビ・シフロールを服用して副作用が現れた可能性もあります。

早川 良い視点です。この処方箋を受け付けた時に、「投与量が少なめだが腎機能はどうか」というところまで意識できればさらに良いですね。ビ・シフロールの服用時点が朝・昼食後というのは、一般的でしょうか。

F 眠気の副作用があるので、本来は夜に服用させた方がいいのではないでしょうか。

I 朝から昼にかけて状態が悪くなるのでは。

早川 それは先ほど挙がった早朝ジストニアと関係ありそうですね。

一同 確かに。

早川 そうすると、「いつ具合が悪いのですか?」と一言聞くだけで、私たちにできる対応はもっと広がるのではないでしょうか。初回の薬歴から多くのことが分かりました。

「日中の眠気」へのアプローチ

早川 続いて、2回目の8月8日の薬歴です。処方間隔は問題ありません。ここでは、パーキンソン病の問題症状を把握して、治療薬の維持量が適切かどうかを評価しましょう。この患者さんには、具体的にどのような症状が見られますか。

B 動作緩慢。振戦。

C すり足が認められるので、歩行障害もあるといえます。

早川 すくみ足についてはこの時点では聞き取れていないようです。他にはどのような点に着目しますか。

E 表情。体のバランス。

早川 姿勢反射障害ですね。これらの症状を娘さんに確認できれば、維持量が適切かどうか判断できると思います。実際、ここで「症状も少し落ち着きました」と聞き取っています(薬歴(4))。「コンプライアンス良好」と、しっかりアセスメントしています。

 パーキンソン病の治療目標は、患者の日常生活をできる限り維持することです。その点も押さえておきましょう。

 続いて、9月5日には分割調剤が実施されました(薬歴(5))。8月8日に処方された60日分のうち、残りの30日分を娘さんに渡しています。ここでは新たなやりとりはありませんので、前回までに確認してきたことを踏まえて、治療薬を評価してみましょう。どんな観点がありますか。

I 家族と同居しているか、ADLはどの程度保たれているかが気になります。

G 主薬のマドパーの投与量が変わっていないので、症状は維持できていると見ることができます。

E ロブ(ロキソプロフェンナトリウム水和物)が追加されなかったので、足の痛みは落ち着いてきたのかもしれません。日中の眠気を訴えており、ビ・シフロールの副作用が考えられます。

早川 パーキンソン病の治療では、L-ドパで運動機能改善を図りつつ、ドパミンアゴニストなどを併用して可能な範囲でL-ドパ投与量を抑えることが基本となります。運動合併症の発生に影響する因子の一つは、年齢です。

B 若年例に対しては通常、ドパミンアゴニストで治療が開始されます。

早川 そうですね。本症例は63歳くらいで発症しているので、ガイドラインに照らし合わせれば、L-ドパから始めることも可能と考えられます。一方で、ビ・シフロールの副作用が出ていることを考えると、どのような対応をすべきでしょうか。

E 眠気が日常生活にどれくらい影響を及ぼしているかを把握します。

早川 まさにその視点です。睡眠のパターンをもう少し詳しく聞けば、治療の評価にも踏み込むことができます(薬歴(5))。ちなみに、初回に話題に上ったリボトリールですが、何に対して用いられているのでしょうか。

E 痛み、震え。

A レム睡眠行動障害。

早川 適応外処方も含めると、痛み、震え、下肢の静止不能、周期性の四肢運動性障害、レム睡眠行動障害などに使用されます。「夜暴れたりしませんか」と聞くことで、薬剤の作用・副作用の両面からアプローチできるのではないでしょうか。

薬剤が変更された理由に注目

早川 続いて、11月14日の薬歴を見ていきましょう。

A 受診間隔が空いたことと、ビ・シフロールからレキップ(ロピニロール塩酸塩)に処方が変わったことから、一包化する前に娘さんに確認したところ、転倒による入院のエピソードが判明しました(薬歴(6))。

早川 「レキップ1mgを4錠まで増量したところ、幻覚が出た」ということを、薬歴の表書きにも日付と共に転記している点は素晴らしいと思います。娘さんは「最近動きが悪くなり、固まることが多くなった」と話しています。すり足も悪化し、手の振戦もひどくはありませんがあるようです。この場面では、どんなことを確認したいですか。

G 処方変更と症状の変化は、時系列ではどちらが先でしたか。

A 「処方が変わったことによって、その後の具合はいかがですか」という意味で娘さんに聞きました。

早川 症状のコントロールという観点からすれば、やむを得ず減量されたとみることができますね。

J 遡って考えると、転倒の原因がビ・シフロールにある可能性もうかがえます。

早川 ビ・シフロールの服用がどのように転倒に結び付くと考えますか。

J 眠気に伴うふらつきや、突発的な傾眠。

F 私は逆だと思います。ビ・シフロールの効果が弱いためにすくみ足を起こして転倒したのではないでしょうか。より高い効果を期待して、レキップに変更したと考えられます。

早川 両方の側面から考えることができますね。いずれにしても、なるべく早い段階で、すくみ足の有無を確認しておく必要性が分かったと思います。

 その他はどうでしょうか。

C レキップの投与量がやや少なめです(薬歴(6))。

早川 これも副作用を想定してのことでしょうか。レキップは、同じ系統の薬の中では、どんな特徴がありますか。

B 軽度の腎機能障害がある人でも使える。

早川 有効性の観点からは。

C オフ時間の短縮。

早川 振戦や、進行期パーキンソン病にも有効といわれています。これらは、今後のモニタリングポイントとして押さえておきましょう。

E あと、服用時点が朝・昼から朝・夕に変わっています。

早川 なぜだと思いますか。

E 症状の出方が変化したため。

F 日中の眠気との関連で変更されたとも考えられます。

早川 そうすると、転倒した時間帯を把握する必要もありそうです。

 次に行きましょう。11月21日に薬局に電話が掛かってきたのですね(薬歴(7))。

C はい。娘さんが施設の方から、「バップフォー(プロピベリン塩酸塩)が以前は2粒だったのが1粒になっている」と連絡を受けたそうです。10mgから20mgに規格を変更したことを説明したところ、納得されました。患者さんが介護施設に入所しているのか、デイサービスを受けているのかは分かりません。

早川 今言われたように、施設の利用状況は分かりませんが、少なくとも患者本人は薬の管理をしていないことが推察されます。8月8日に規格変更についてきちんと説明されていますが、娘さんには伝わっていなかったと考えられます。説明した後に認識を評価することは重要です。

頻尿と便秘にどう対処する

早川 続いて、12月26日の薬歴を見ていきます。ここでもしっかりとS情報を得ています。気になることはありますか。

D 一包化してあるはずのバップフォーを、「試しに夕食後に飲ませてみた」とのことから、患者本人はもちろん、家族も頻尿を気にしていたと考えられます(薬歴(8))。

F 先ほどの転倒と頻尿が関係しているのではないでしょうか。

早川 そうですね。今、このように検討していることを早い段階でチェックできれば、イベントや事故を未然に防げるかもしれません。

 頻尿や尿失禁は、パーキンソン病患者のQOLを悪化させる要因の一つですが、他にはありませんか。

C 便秘。

F 食事の摂取。

B うつ病などの精神症状。

早川 特にうつ病は、パーキンソン病患者のQOLに大きな影響をもたらすとされています。認知症の合併によってもQOLが急激に低下するので、注意しておきたいですね。

E 夜間の不眠の有無も確認したい。

B 胸やけも気になります。

早川 胸やけに対してタケプロン(ランソプラゾール)が処方されています(薬歴(9))。この胸やけの原因は何でしょうか。

B レキップ。

D ロブの副作用。

G 姿勢の保持が困難になった。

早川 その可能性もありますね。これまで全く触れていませんでしたが、フォサマック(アレンドロン酸ナトリウム水和物)を横になったまま服用しているかもしれません。

一同 なるほど。

早川 最後に、この患者さんへの療養指導や予後に関することで、注意しておきたいことを挙げてみましょう。

F 服薬状況。患者さん自身は来局されていないので分かりませんが、実際は寝たきりに近いかもしれない。

G 介護の手間が相当掛かっているのではないでしょうか。

E 頻尿と便秘の両方があるので、水分摂取量をどうアドバイスすればいいのか……。

早川 翌年の2月16日の来局時には、浣腸剤が追加されています(薬歴(10))。私たちも介護の状況を把握しながら、支援策を考えていかなければなりません。

すみれ調剤薬局でのオーディットの様子。

参加者の感想

笹原 美佳氏

 日ごろは処方箋だけを見て自己流の考え方をしていたと実感しました。病状や症状、薬剤だけでなく、様々な視点から患者さんや家族に深く切り込んでいき、薬歴に反映させていきたいと思います。

世良田 真理氏

 do処方の処方箋を見ると、病状が落ち着いているというスタンスで投薬に入りがちですが、一つひとつの薬を見直して、未確認の情報を聞き出すことで、プロブレムに対する解決策をうまく引き出せるのではないかと感じました。

全体を通して

早川 達氏

 薬局セントラルファーマシー長嶺では日ごろから、患者に着座してもらい、比較的ゆっくりと対応しているそうです。そのためS情報は多く得られており、1対1でしっかり対応していることが薬歴から分かりました。その前提で、「さらに視点を広げて包括的に考えると何ができるか」について考えました。

 まず、基本的な病態と一般的な治療の枠組みで考えたとき、押さえた方がよい症状や生活上の情報がたくさん挙がりました。それを把握・評価することで、様々なアプローチが可能になることが分かったと思います。私たちが、ガイドラインなどで示されている基本的な枠組みを意識して初期から対応すれば、隠れた問題点をモニターして、予期される悪いイベントを予防できます。患者が困っていることに対していかに支援していけるかも、薬剤師の大切な役割です。経過を追っていく中で、最後はQOLという観点で深くディスカッションができました。私たちが主体的に関わることによって、良い対応ができるという“気づき”が得られたのではないでしょうか。

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