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C型肝炎 テラプレビルの登場で治療の選択肢増える
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

 現在、わが国のC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus;HCV)キャリアは150万~200万人と推定されている。HCVに感染すると、約30%は一時的な感染のみで治癒するが、残りの約70%は自覚症状がないままHCV感染が持続し、慢性肝炎に移行するといわれている。HCV感染による炎症が続くと、肝臓は線維化し、肝硬変や肝細胞癌に進展する。

 C型肝炎治療の目標は、HCVを排除し、炎症を抑えることで、肝臓の線維化を抑制し、発癌を予防することである。薬物治療としては、インターフェロン(IFN)の単独療法、IFNとリバビリン(RBV)の併用療法、IFNの週1回の注射薬であるペグインターフェロン(PEG-IFN)の登場という変遷を経て、現在はPEG-IFNとRBVの併用療法(48週間)が広く行われている。しかし、日本人に最も多いゲノタイプ1型・高ウイルス量の症例では、PEG-IFNとRBVの併用療法であっても、持続ウイルス陰性化(SVR)率は約50%と低い。さらに、効果不十分な場合には治療期間が延長されることがあるものの、その有効性に関しては十分なエビデンスが得られていない状況であった。

 こうした中、2011年11月に、抗ウイルス薬テラプレビル(TVR;商品名テラビック)が、ゲノタイプ1型・高ウイルス量の症例などに対して使用できるようになった。TVRは、HCVの複製に必要な酵素であるNS3‐4Aセリンプロテアーゼを選択的に阻害することで、HCVの増殖を抑制する経口薬である。IFNと相加的に抗ウイルス作用を示すことが認められている。

 PEG-IFNとRBVにTVRを加えた3剤併用療法により、ゲノタイプ1型・高ウイルス量の症例におけるSVR率は、初回治療例で約70%と大幅に向上。しかし同時に、貧血や重篤な皮膚病変などの副作用も増加している。

 本稿では、日本肝臓学会が12年5月に発行した『C型肝炎治療ガイドライン(第1版)』から、日本人に多い、難治性のゲノタイプ1型・高ウイルス量の症例におけるTVRの適応と副作用の特徴について紹介する。

難治性症例の治療方針

 HCV感染により炎症が持続すると、線維化が進展するとともに、発癌リスクも上昇する。また、一般に年齢が上がるにつれて発癌リスクは高くなる。ガイドラインでは、発癌リスクを考慮して、難治性のゲノタイプ1型・高ウイルス量の症例を、(1)高齢者(66歳以上)、(2)非高齢者(65歳以下)・線維化進展例、(3)非高齢者(65歳以下)・線維化軽度例─に分けて治療方針を示している。そのうち、初回治療の場合の原則を図1に示す。

図1 C型慢性肝炎ゲノタイプ1型・高ウイルス量症例(初回治療)に対する治療の原則

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 肝臓の炎症の程度を反映するALT値が上昇している症例や、肝臓の線維化の程度を反映する血小板数が減少している症例は、抗ウイルス療法の対象となる。高齢者、線維化進展例など発癌リスクが高いと考えられる場合は、できるだけ早期に治療を開始する。一方、非高齢者で線維化が進展していない例では、発癌リスクや新薬の開発状況なども勘案しながら抗ウイルス療法の適応を決める。

 治療方針の選択については、近年、患者の遺伝子多型(IL28B SNP)やHCVの遺伝子変異(core70番アミノ酸変異)により、薬の効果や肝炎の経過を予測して治療方針を決める方法が極めて有用であることが判明している。本ガイドラインでも、現在は保険適用外であるものの、可能であれば、治療開始前に両者を測定した上で治療方針を決定すべきとし、検査の結果に応じた治療方針を示している。

抗ウイルス療法について

 3剤併用療法(TVR+PEG-IFN+RBV)は、日本における臨床試験において、従来の2剤併用療法(PEG-IFN+RBV)と比較して、治療効果の改善と治療期間の短縮が確認されている。さらに、従来の2剤併用療法で再燃または無効な患者においても、SVR率などにおいて3剤併用療法の有効性が認められている。

 しかし、2剤併用療法のときから問題になっていた貧血など重大な副作用が、3剤併用療法ではさらに増えることも明らかになっているため、リスクとベネフィットを考慮して治療薬の組み合わせを選択する。

 また、抗ウイルス療法は、患者の身体的、経済的な負担が大きいため、ガイドラインでは、治療への反応性を指標として治療期間を変更するレスポンスガイドセラピー(response-guided therapy)を推奨している(図2)。抗ウイルス薬によるHCV RNA量の減少率が極めて不良でSVRが期待できないと考えられる患者(Null responder)では、治療中止基準を考慮して抗ウイルス療法を早期に終了させ、現在臨床試験中の抗ウイルス薬の発売を待つ選択肢を示している。

図2 C型慢性肝炎ゲノタイプ1型・高ウイルス量症例(既治療)に対する治療の原則

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3剤併用療法の注意点

・皮膚症状
 3剤併用療法で特に厳重な注意が必要なのが、皮膚症状である。

 ガイドラインによると、3剤併用療法による皮膚症状は85%(226/267例)の患者に発現し、重症度は2剤併用療法よりも高かった。発現時期は投与開始7日目までに56%、28日目までに77%で認めた。5%の症例では体表面積の50%を超えて出現。発熱やリンパ節腫脹などの全身症状を伴う症例が7%に認められ、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や薬剤性過敏症症候群(DIHS)、粘膜症状を伴う多形紅班など、重篤な皮疹が1.5%(4/267例)に出現した。

 そのためガイドラインでは、皮膚症状が発現した際には、軽微なものであっても、肝臓専門医が自ら処置を行うのではなく、必ず皮膚科専門医に診察を依頼し、重症化の可能性や皮膚症状の治療方針について指示を仰ぐべきとしている。

・貧血
 一方、副作用としてもう一つ重要なのが、RBVの副作用である溶血性貧血である。貧血は2剤併用療法でも発生していたが、3剤併用療法では、より重症で、進行も速いことが分かっている。貧血が進行している患者に対してはヘモグロビン値を頻回に測定し、RBVの減量を検討する。

・腎機能障害・肝機能障害
 TVRについては、急性腎不全を含む重篤な腎機能障害や肝機能障害を来した症例が報告されていることに十分な注意が必要である。12年6月5日に添付文書が改訂され、重大な副作用に急性腎不全、重篤な肝機能障害、横紋筋融解症が追加された。

 多くの症例では、投与開始1週間以内に症状が発現していることから、TVRの投与開始時には、腎機能検査や肝機能検査などを、投与開始後1週間以内に少なくとも2度実施し、その後も定期的に検査を実施することが求められている。

・薬物相互作用
 TVRは、肝薬物代謝酵素チトクロームP450(CYP)3A4/5を強力に阻害することから、CYP3A4/5で代謝される薬剤を併用した場合、その薬剤の血中濃度を上昇させる可能性がある。また、CYP3A4によって代謝されるため、CYP3A4を誘導する薬剤と併用するとTVRの血中濃度が低下する可能性がある。併用禁忌・併用注意の薬剤が多いので注意する(表1)。

表1 テラプレビルとの併用禁忌薬と主な商品名

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おわりに

 本ガイドラインにおいて、ゲノタイプ1型・高ウイルス量(初回治療および既治療)に対しては、従来の2剤併用療法か3剤併用療法を行うことが原則となっている。しかし、線維化が進んでいない症例や、遺伝子検査により薬の効果が低いと予想される症例では、現時点での治療を見合わせ、臨床開発中である次世代プロテアーゼ阻害薬が使用できるようになるまで待機するという選択肢も示している。

 現在、国内では、複数のプロテアーゼ阻害薬の臨床試験が進んでおり、いずれも、副作用が少なく、初回治療での高いSVR率を示すことが報告されている。C型肝炎治療のさらなる進化が期待される。

(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部
北村 正樹)

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