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Interview
本杉 健氏 (株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)
日経DI2012年8月号

2012/08/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年8月号 No.178

 薬局という小さな組織のリーダーとして様々な管理業務を担う管理薬剤師の多くが、スタッフの育成やモチベーションアップに関し、管理職としての悩みを抱えている。多くの企業を対象に、部下育成に関する調査を実施したリクルートマネジメントソリューションズの本杉健氏に、管理薬剤師の不満や悩みを解決するためのソリューションを聞いた。  (聞き手は本誌副編集長、佐原 加奈子)

Takeshi Motosugi 2003年入社。従業員意識調査、360度フィードバック、企業バリュー浸透策、マネジメント研修の企画を経て、2011年4月より現職。現在は、次世代リーダーの選抜・育成、グローバル人材開発に関する調査・研究に携わる。著書に『部下育成の教科書』(共著、ダイヤモンド社)。

─著書『部下育成の教科書』(ダイヤモンド社)の中で、「部下育成は、業界や職種を越えた共通性がある」と述べられていますが、薬局、薬剤師にも当てはまるとお考えですか。

本杉 今回、御社が実施した管理薬剤師に関する調査の結果では、収入に対する不満と同率で、「スタッフのモチベーションを高めるのが難しい」がトップでした。

 実は、『部下育成の教科書』をまとめるにあたり、様々な業界で働く100人のビジネスパーソンに、仕事上の不満や悩みをインタビューしました。すると、業界に関係なく、管理職からは責任の重さと収入・評価がつり合わない、業務量が多いといった不満や、スタッフのモチベーションに関する悩みが異口同音に語られました。つまり、管理薬剤師が抱える不満や悩みは、日本の企業で管理職のポストに就いている人に共通したものであるといえます。

 私が所属するリクルートマネジメントソリューションズは、人材育成を事業の柱の一つに据えています。自動車、電機、製薬などの製造業のほか、金融、商社、インフラ、小売りなど様々な業種から年間1900社、約13.3万人に人材育成のトレーニングプログラムを提供していますが、人材育成の観点においても、業種や職種を越えて普遍性があることが分かっています。もちろん、薬局や薬剤師に当てはまると思います。

─業種や職種を越えた普遍性とは、具体的にどのようなことでしょうか。

本杉 米国などでは、職務記述書というものがあって、「あなたの職務はAとB、必要なスキルはこれ、職務を遂行するための権限はここまで」と全て定義されています。記述書にない仕事はやらない、やってはいけないのです。

 一方、日本企業はおしなべて仕事の範囲が非常に曖昧です。空気を読んで、お互いにサポートし合う。一人ひとりの職務は何か、どのように遂行すればよいのか、明確になっていない。

 よく、「彼は入社○年目なのに、仕事の基本がなってない」という言葉を耳にしますが、そこには、暗黙の中に管理職が期待している水準がある。この暗黙の水準を明確にしようと調査研究を試みた結果、日本の企業が社員一人ひとりに期待する水準は、10の段階に分けられることが分かりました。

 一般社員層に4段階、部下を持つ管理職層に4段階、スペシャリストとして部下を持たない管理職層に2段階の計10段階です。これを『部下育成の教科書』の中では「10個のものさし」と表現しています。そして、それぞれの段階に合わせた育成方法が見えてきたのです。

─では、「10個のものさし」を薬局に当てはめると、どうなりますか。

本杉 「10個のものさし」は、業種や職種を問わず普遍性があります。ただし、業種や職種によって、1つの段階を上がる時間は大きく異なります。例えば、プラントなどのインフラ事業を手掛ける業種では、20年あるいは25年かけて管理職に上がっていく。一方、小売り・外食などでは、入社3年目に店舗の店長を任される事例もあります。薬局は、店舗ごとに組織がありますから、小売り・外食に近いといえるでしょう。

 薬局の人事は年功序列ではなく、管理薬剤師は、ベテラン薬剤師、6年制卒の新人薬剤師、パート勤務で働く薬剤師など、年齢も能力も労働形態も異なる人材をマネジメントしなければならないと聞きました。このような組織では、マネジメントする側も大変ですが、部下にとっても自分に期待されている役割が何なのか、分かりにくい。だからこそ、ものさしを使って一人ひとりがどの段階にあるかをきちんと捉えて、それを部下と合意する必要があります。

 一般社員層には、(1)スターター(基本を身に付け、組織の一員となる)、(2)プレーヤー(任された仕事をこなし、力を高める)、(3)メーンプレーヤー(創意工夫を凝らしながら目標を達成する)、(4)リーディングプレーヤー(業績とメンバーを牽引する)という4段階がありますので、ご自身の職場のスタッフを当てはめてみてください。そして、それぞれの段階に合わせた仕事の任せ方、経験の積ませ方、仕事のプロセスでの関わり方を考えることが大切です。

 たとえ部下に早く成長してほしいと願っても、段階を飛び越えて成長することはありません。なぜなら、仕事の捉え方、仕事への構えといった“仕事観”というものは、一朝一夕に変わるものではなく、段階を経て変わっていくものだからです。無理に段階を飛ばすと、どこかで破綻してしまうのです。

 ご自身にものさしを当てはめて、どのように段階を上ってきたのか振り返ると分かりやすいと思います。

─管理薬剤師は、管理業務に追われてスキルアップの時間を捻出できないという悩みを抱えています。

本杉 特に、専門家としてのキャリア志向が強い職種や業界、例えばメーカーの研究所などでは、管理職であっても自分を磨きたいという願望を持った人が少なくありません。

 自分自身のスキルアップと部下の育成が天秤に掛かっていて、どちらかに力を入れるとバランスが取れず、無理にバランスを取ろうとすると、いずれも中途半端になってしまう、というジレンマを抱えています。

 このような悩みを解決する方法として、スキルアップと人材育成を分けずに一緒に考えることをお勧めします。具体的には、自分が外部の勉強会で学んできたら、職場でミニ勉強会を開いてスタッフに教えるようなケースです。当初の動機は、自分自身の薬剤師としてのスキルアップであっても、そこに意図的に職場のナレッジレベルの向上を組み込むのです。

 同様に、いわゆる管理業務も「仕事の管理」と「人の管理」に分けて考えがちですが、これも一緒に考えたらどうでしょうか。ある仕事を割り振るときに、仕事の管理の側面だけ考えていると、できる部下に仕事を集中させてしまい、成長途上の部下は暇を持て余すことになりがちです。

 ここに人の管理の側面も含めて考えると、成長途上の部下を育てるために挑戦的にこの仕事を割り振ってみよう、という発想が生まれます。すると、指示を出すときにも「これをやっておいて」ではなく、「難しい仕事だけれど、ぜひ君に挑戦してほしい」という言葉が自然に出てくるでしょう。

 ビジネスパーソンが歩む道は、会社の戦略や人材ニーズによって左右されますが、だからといって会社の状況に流されてばかりいると、成り行き任せのキャリアになってしまいます。「自分は将来、こんなことを実現したい」という思いや価値観を明確にしておくことが大切です。例えば、将来、自分の薬局を持ちたい、それも1店舗とは言わず複数の店舗を経営できるような人材になりたいという目標があれば、現在の部下を育てるという業務も、プロフェッショナリティーを磨くチャンスとして前向きに捉えることができるのではないでしょうか。

 「理想の自分像」を明確にして、自身の成長に向けて努力する管理薬剤師の姿勢は、必ずスタッフに伝わり、よい刺激を与えるものです。

インタビューを終えて

 今回、編集部で調査を実施するにあたり、管理薬剤師からの回答が少なかったらどうしよう、と心配したのですが、ふたを開けてみれば全体の6割超が管理薬剤師からの回答でした。具体的な事例の書き込みも多く、悩める管理薬剤師の姿が浮き彫りになりました。そんな結果を本杉さんにお伝えしたところ、「管理薬剤師だけの悩みではなく、日本の企業で管理職のポストに就いている人に共通している」とのこと。悩みを解決するためのソリューションは、身近なところにありそうです。(佐原)

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