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Report
腎機能に注目する薬剤師になる
日経DI2012年7月号

2012/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年7月号 No.177

 「お薬手帳に貼られたCKDシールを見たら、薬剤選択が正しいか、投与量は問題ないかを、薬局でもう一度チェックしてほしい」。こう話すのは、滋賀医科大学医学部附属病院腎臓内科科長の宇津貴氏。

 今年春、滋賀県内の腎臓内科医で構成される滋賀腎・透析研究会と滋賀CKDネットワーク研究会では、推算糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2未満である患者のお薬手帳の表紙に、腎臓と薬を組み合わせたイラストのシール(CKDシール)を貼る取り組みを始めた(CASE1)。

CASE 1
医師がお薬手帳の表紙にCKDシールを貼付

(滋賀腎・透析研究会、滋賀CKDネットワーク研究会)

eGFRが60mL/分/m2未満の外来患者のお薬手帳に、県内の腎臓内科医がCKDシールを貼っている。

「お薬手帳にこのシールが貼られていれば、腎機能の検査値が分からなくても、調剤時に注意を促せる」と話す、滋賀医科大学医学部附属病院薬剤部の寺田智祐氏。

「将来的には腎臓内科以外の医師もCKDシールを貼っていただけるように働きかけていきたい」と話す、滋賀医科大学医学部附属病院腎臓内科の宇津貴氏。

 「CKDシールをきっかけに、薬局薬剤師の方々が患者の検査値を確認したり、疑義照会が積極的に行われることを期待している」と、この取り組みを考案した、滋賀医科大学医学部附属病院薬剤部長の寺田智祐氏は話す。

 運用を始めてまだ数カ月だが、効果は見られた。例えば滋賀医大病院の近隣にある、滋賀県薬剤師会会営薬局(滋賀県草津市)では、お薬手帳にCKDシールが貼られていた患者に対し、同病院消化器内科からガスターDが20mg/日で処方されているのに気づき、疑義照会の結果、10mg/日に減量となった。

 同薬局管理薬剤師の十亀(そがめ)裕子氏は「CKDシールが貼られた患者で来局したのは10人ほどだが、調剤をより注意するようになった」と話す。

 現在、お薬手帳にシールを貼っているのは、県内9施設の医療機関にとどまる。だが宇津氏は、運用の状況を見つつ、今後は他科の医師にも広めていく方針だという。

高齢者の増加でより注意が必要に

 「滋賀県の例のように、薬局でも患者の腎機能を把握し、的確な薬剤が投与されているか確認してほしいと期待する声が、医師の間で高まっている」と、日本腎臓学会理事で、名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学特任教授の今井圓裕氏は話す。

 背景にあるのが、CKD患者の増加だ。推計患者数は約1330万人、成人の8人に1人にも上ると指摘されている。多くは糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎といった基礎疾患のある患者だが、加齢に伴って腎機能が徐々に低下してCKDとなる患者も少なくない。

 「高齢者は複数の医療機関から薬を処方されていることが多いが、処方医が全てを確認するのには限界がある。これを把握できるのはかかりつけ薬局であり、その機能を発揮することが期待されている」と今井氏は説明する。

 CKDの患者に腎排泄型の薬剤が投与されると、薬剤の排泄が遅れ血中濃度が高まることで、その副作用が出やすくなる。

 2011年、抗凝固薬のダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩(商品名プラザキサ)を投与された15人が出血を来して死亡する事態となったが、その後の調査で、禁忌を含む腎機能障害例に投与されていたことが明らかになった。

 循環器内科医で心臓血管研究所(東京都港区)所長・付属病院長の山下武志氏は、「ダビガトランの教訓から、医師の間で腎機能の指標であるクレアチニンクリアランス(Ccr)を重要視する傾向が強まった」と話す。

 また、現在承認申請中の抗凝固薬であるアピキサバンや、心房細動を対象に臨床試験中のエドキサバントシル酸塩水和物(リクシアナ)でも、腎機能低下者に対して半量投与の試験が実施されており、製薬会社も腎機能に関して敏感になっていることがうかがえるという。

 こうした状況からも「医療機関と薬局が、患者の腎機能の情報を共有することは望ましく、今後は情報共有が当たり前の時代になっていくのではないか」と山下氏は期待する。

病院全体で処方箋に検査値を記載

 東京都健康長寿医療センター(東京都板橋区)では、ダビガトランの発売時から、同薬を処方する患者の処方箋に血清クレアチニン値を記載するよう取り決めた(CASE2)。

CASE 2
医師が処方箋にクレアチニン値を記載

(東京都健康長寿医療センター)

プラザキサ(一般名ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)を処方する際、医師が処方箋にクレアチニンやeGFRを記載している(1)。

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「腎排泄型薬剤を処方する際には、患者の腎機能を、処方医と薬局がダブルチェックすることが不可欠」と話す、東京都健康長寿医療センターの桑島巖氏。

竹内調剤薬局板橋店の高見優子氏(左)、青木理香氏(右)、同薬局取締役の新井悟氏。クレアチニンが書かれた処方箋を応需するようになり、数値の意味を改めて学ぶきっかけになったという。

 同センター顧問で循環器内科医の桑島巖氏は、「当院は高齢の患者がほとんどで、加齢のために腎機能が低下していることから、投与する際は慎重を期すべきと考えていた。そこで、処方箋に書いたクレアチニン値を処方医と薬局薬剤師がダブルチェックできるようにした」と話す。

 クレアチニン値の記載を励行するため、地元の板橋区薬剤師会には、「検査値が記載されていなかった場合には調剤せず、疑義照会してほしい」と、同センターから要請したほどだ。

 東京都健康長寿医療センターの門前にある、竹内調剤薬局板橋店(東京都板橋区)薬局長の高見優子氏は「腎機能の数値が書かれた処方箋を応需するに当たって、クレアチニンクリアランスは何を意味しているのか、eGFRへの換算式はどのようなものかといった基本的な知識を薬局全体で確認し、とても勉強になった」と話す。

 また、処方箋の数値を見ながら、「今日も数値に異常はありませんでしたね」と患者に確認し、自然な流れで「よろしければ、病院の検査値が書かれた紙も見せていただけませんか」などと声を掛けやすくなったという。

病院薬剤師がお薬手帳に記録

 医療機関から薬局に腎機能を伝える過程で、病院薬剤師が積極的に関わっている事例もある。

 腎臓病や透析患者を多く診療する白鷺病院(大阪市東住吉区)では、薬剤師が外来患者のお薬手帳に、血清クレアチニンやeGFRのほか、処方に関連するカリウム値やヘモグロビン値といった検査値を、手書きで記載している(CASE3)。

CASE 3
病院薬剤師がお薬手帳に検査値を記載

(白鷺病院薬剤科)

お薬手帳の記載例。病院薬剤師が、外来患者のお薬手帳の空白部分に、クレアチニンやeGFRなどの検査値を記載し、薬局に情報提供している(2)。

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「お薬手帳に書いた検査値を見て、薬剤の投与量が適切かどうかを確認してほしい」と話す白鷺病院薬剤科の和泉智氏。

 以前からCKD診療の病診連携に力を入れてきた同院だが、1年半ほど前から医師による診察のほかに、薬剤師や看護師、管理栄養士それぞれが患者の療養をサポートする「腎疾患専門外来」を開設し、その中で検査値の記載に取り組むようになった。

 同院薬剤科長の和泉智氏は、「例えば糖尿病の患者では、腎機能が低下してくると、SU薬など一部の血糖降下薬の排泄が遅延し、血糖降下作用が持続するため、低血糖に注意が必要になる。薬局薬剤師の方には、こうした点も、検査値を薬歴に記録しながらチェックしてもらいたい」と話す。

検査値を聞くことから始めよう

 CASE1~3で紹介したように、医療機関が薬局に対して、検査値やCKDであることを情報提供するのは理想だが、うまく進まないのも事実。そんな場合はどうすればいいのか─。

 「お薬手帳に貼り込む検査値記入用のシールを薬局で用意し、患者に聞いて記載してはどうか」と三島共立病院薬剤科(静岡県三島市)の濱口祥子氏は話す。

 同院薬剤科は、6年ほど前から、門前にある静岡健康企画ことぶき薬局など県内の4薬局と、患者の腎機能を考慮した調剤業務に取り組んできた。

 「腎機能が急速に低下し始める70歳以上の高齢者や、腎排泄型の薬剤が処方されている患者では、特に注意が必要になる。『お薬が安全に効いているか確認したいので、よろしければ検査値をお薬手帳に記録させていただけませんか』と提案してみると、ほとんどは快く応じてくれる」(濱口氏)。患者にとっては、検査結果の表を毎回自分で保管するよりも、お薬手帳にまとめて管理できるというメリットもある。

 さらに、CKD患者で注意すべき薬剤について、Ccrに合わせた投与量や注意事項が書かれたカードを調剤棚に入れておき、注意しながらピッキングしている(CASE4)。カードの記載内容は、添付文書や白鷺病院がウェブサイトで公表している腎機能低下患者への薬物投与量などを参考に、濱口氏らがまとめたものだ。

CASE 4
検査値の記載に加え、調剤時にも用量をチェック

(三島共立病院薬剤科、静岡健康企画ことぶき薬局)

静岡県薬剤師会が、医師会や歯科医師会と作成したお薬手帳には、CKDであることを医師がチェックする項目(3)がある。

薬局独自の取り組みとして、薬剤師が検査値を患者から聞いて書き込むための手帳用シールも活用している。

腎機能の程度により用量調節が必要だったり、禁忌となる薬剤は、その棚に注意事項を書いた札(写真下)を入れている。

三島共立病院薬剤科の林昭文氏(左)と濱口祥子氏。「薬局が腎機能に注目して調剤業務を行うようになると、医療機関との連携も密になっていく」と濱口氏。

 「このカードによって、忙しい調剤の合間にも注意して確認する習慣がつき、処方鑑査がよりきちんと行える」と、同院薬剤科の林昭文氏は話す。

 こうした取り組みがベースとなり、静岡県薬剤師会が医師会や歯科医師会と作成したお薬手帳には、CKDのチェック欄が盛り込まれたという。

 濱口氏は、「薬局が腎機能に注目した調剤業務を行うようになると、医師から、『この抗菌薬は投与しても大丈夫か』といった相談を受けるようになったり、処方箋の発行元である病院薬剤師との連携も密になっていく。患者に安心して服薬してもらうためにも、積極的に取り組んでほしい」と話している。

CKD診療ガイドが改訂に

 2012年6月、慢性腎臓病(CKD)の診断や治療、管理をまとめた『CKD診療ガイド2012』(東京医学社、1260円)が3年ぶりに改訂された。

 同書の改訂委員会委員長を務めた、名古屋大学大学院医学系研究科腎臓内科学特任教授の今井圓裕氏は、「薬局薬剤師の方々にも参考になる、薬物治療の注意点を盛り込んだ」と話す。

 腎機能が低下したCKD患者に腎排泄型の薬剤を投与する場合、体表面積で補正していないeGFRに基づいて、薬剤の減量を行う必要がある。今回の改訂では、その体表面積の補正を外す係数の早見表を掲載した。

 また、筋肉量が著しく減少している高齢者などでは、血清クレアチニンからGFRを推算すると高値となってしまう。そこで、筋肉量などの影響を受けずに腎機能を評価できる、血清シスタチンC値に基づくGFRの換算式も紹介されている。

 患者のクレアチニンクリアランスから推奨される、薬剤の投与量をまとめた表は、調剤時の参考になる。

 さらに、「今回新設されたCKDの重症度分類についても、ぜひ知っておいてほしい」と今井氏。

 これまでCKDは、GFR値のみに基づいて病期ステージ1~5に分類されていたが、同じGFRでも尿中の蛋白量によって、死亡や末期腎不全などのリスクが異なるため、GFRの区分(G1~5)と蛋白尿の区分(A1~3)、および原因疾患を組み合わせた重症度分類となった。

 例えば、糖尿病があり、GFRの区分はG2で、顕性アルブミン尿の見られる患者では、「糖尿病G2A3」といったように重症度を表記する。

 ただし、薬剤投与量はGFRのみで決定されることがあるため、従来の「CKDステージG4」といった表記も残るという。

 なお、GFRの区分で、従来のG3がG3aとG3bの2つに分けられた点にも、留意しておきたい。

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