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医師が処方を決めるまで
小児の呼吸器感染症
日経DI2012年7月号

2012/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年7月号 No.177

講師
松村 成一
永田 智

(順天堂大学医学部附属静岡病院小児科)

講師から一言
 順天堂大学医学部附属静岡病院小児科は、大学病院としての高度医療を心掛けながら、静岡県東部の地域医療の拠点として小児の救急・時間外診療にも積極的に取り組んでいる。「患児の中には、短期間であっても『薬が飲めない』という子が多くいるので、薬剤師の方々には、飲みやすい味の後発品の提案や賦形の工夫など、小児科のチーム医療の一員として積極的に診療に関わっていただきたいと思います」。

 小児科の外来では、感冒から重症肺炎まで様々な気道感染症に遭遇する。多くは初診時での診断は困難であり、臨床症状や迅速検査などの結果から暫定診断と重症度を判断した上で、外来治療とするか、入院管理とするかを決定している。

 本稿では、小児のコモンディジーズである呼吸器感染症について、最新のガイドラインに準じた治療を、筆者らの臨床経験と織り交ぜて解説する。

溶連菌感染症にはペニシリン系で10日間が基本

 最初に紹介する症例は、2日前から38℃台の発熱があり、咳嗽と咽頭痛を訴えて来院した5歳男児である。

 初診時、呼吸音は清明だったが、咽頭の所見で、いちご舌を伴う軟口蓋の著明な発赤と点状出血斑を認め、溶連菌感染症を疑った。

 保護者によると、周囲で溶連菌感染症が流行しているとのことで、咽頭粘膜の拭い液を用いて10分程度で診断できる溶連菌感染症の迅速検査を行ったところ、陽性で、確定診断とした。

 溶連菌感染症の原因菌はA群溶血性レンサ球菌で、ヒトに病原性を持つ菌種はStreptococcus pyogenesである。

 第一選択となる抗菌薬はアモキシシリン水和物(商品名サワシリン、パセトシン他)で、通常10日間内服させ、咽頭炎に対してトラネキサム酸(トランサミン他)とカルボシステイン(ムコダイン他)、発熱に対してアセトアミノフェン(カロナール他)も投与した(処方箋内の用量は製剤量)。

 ペニシリン系抗菌薬を10日間と、比較的長期間投与する理由は、(1)症状の緩和、(2)続発症としてのリウマチ熱や急性糸球体腎炎の発症の予防、(3)周囲への感染拡大の防止─が挙げられる。

 一般に、内服を開始して24~48時間以内には解熱を認め、咽頭痛などの臨床症状も緩和される。しかし、その時点では十分に除菌されておらず、内服をやめた時点で再燃しやすいことが、多くの研究で明らかにされている。

 溶連菌感染症は、セフェム系、マクロライド系、リンコマイシン系も有効とされている(表1)。

表1 溶連菌咽頭炎の抗菌薬療法

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 S.pyogenesにはペニシリン耐性株はほとんどないとされているが、ペニシリン系抗菌薬を投与して解熱しない場合はβラクタマーゼ産生菌の共存を考慮し、セフェム系やペニシリン系とβラクタマーゼ阻害薬の合剤(小児用の商品名クラバモックス)に変更する場合もある。

 溶連菌感染症に対する抗菌薬の選択や内服期間に関しては、小児科医や感染症専門医の間でも議論がある。

 実際、10日間も内服を続けるのは小児にとっては負担が大きいため、セフェム系を5日間内服するという、半分の服用期間で済む投与法が提案されている。

 アジスロマイシン水和物(商品名ジスロマック)のように長期間作用型のマクロライド系なら短期間(1日1回、3日間)の内服でもよく、より理想的ともいえる。

 だが、ペニシリン系以外の抗菌薬は、リウマチ熱などの続発症の発症予防に対するエビデンスが十分に確立されておらず、日本ではマクロライド耐性の溶連菌が15%以上見られるとの報告もあり、第一選択とするのには迷う。

 無事に軽快した後は、2~3週間後に尿検査を実施し、急性糸球体腎炎の合併をチェックすることが多い。先述の患児は10日間無事に服用し、続発症を起こすことなく、元気に回復した。

百日咳にはマクロライドが第一選択

 次は、百日咳が疑われた乳児の症例である。

 百日咳は、Bordetella pertussisの気道感染によって発症し、特有の咳嗽や白血球増多を特徴とする。

 潜伏期間は7~10日間であり、臨床期間はカタル期、痙咳期、回復期の3期に分かれる。最初は軽い咳嗽、鼻汁などの感冒症状から始まり(カタル期)、やがて反復性の激しい咳込みを生じる(痙咳期)。その後、2週間ほどかけて症状が改善していく(回復期)。通常、診断のきっかけとなる時期は痙咳期である。

 本症例は生後1カ月の男児で、1週間前から咳嗽、鼻汁が出現し、咳込みがひどかったため受診となった。咳込みは悪化傾向で、一通り咳込むと、ヒューという音を立てて息を飲むという。こうした咳嗽発作は、レプリーゼと呼ばれ、百日咳に特徴的な所見である。

 診察すると呼吸音は清明で、酸素飽和度(SpO2)は100%と、呼吸状態は問題なく、発熱もなかった。

 月齢から百日咳のワクチン(三種混合)を受けていないことも百日咳の高リスク群と考えられ、診断のために咽頭培養をオーダーし、治療を開始した。

 百日咳にはマクロライド系抗菌薬が第一選択となる。実際に使用されている薬剤を表2に示した。治療効果は同等とされるが、クラリスロマイシンの方が投与日数も短く、保険が適用されるため、本症例でも同薬剤を投与した。

表2 百日咳の治療で用いるマクロライド系抗菌薬

 また、気管支炎に対して、カルボシステイン、サルブタモール硫酸塩(ベネトリン他)を投与した。

 3日後の再診で、咳嗽により顔面蒼白になることが数回あり、咳込み後には約10秒間の呼吸休止もあったとのことで、入院管理とした。

 入院後の支持療法により、呼吸状態は安定し、咳嗽も徐々に安定してきた。入院時の百日咳菌抗体価は陰性だったが、初診時の咽頭培養で百日咳菌を認め、百日咳と確定診断した。患児は10日間の入院後、咳嗽もほとんど見られなくなり、退院した。

 学童期の百日咳患者は、外来で内服治療することがほとんどだが、乳児、特に三種混合ワクチンの接種が終了していない6カ月未満の乳児の場合は、よほど軽症ではない限り、咳嗽による睡眠障害や哺乳障害を呈し、入院管理になることが少なくない。

 百日咳の症状は、菌が産生した百日咳毒素によるため、本症例のように抗菌薬の治療が、すぐに症状の改善につながらないことも多い。しかし早期に治療を開始することは、感染拡大の防止の意味で重要である。

マイコプラズマ肺炎には抗菌薬にステロイドを併用することも

 次に紹介するのは、昨年から感染者数が急増しているマイコプラズマ肺炎の6歳男児の症例である。

 患児は、5日前から咳嗽、2日前から発熱があり、来院した。

 全身状態は比較的良好でチアノーゼはなく、呼吸数は34回/分、努力呼吸は認めなかった。SpO2は室内気で97%で、循環不全を示す所見もなかった。

 胸部の聴診でも特に異常を認めなかったが、幼稚園でマイコプラズマ肺炎が流行しているとのことで、鑑別目的で、胸部単純X線撮影と血液検査を行った。

 X線写真では、右中肺野の斑状陰影(気管支肺炎像)、および肺葉に一致した均等な陰影(大葉性肺炎像)が混在していた。血液検査では、白血球数6800/μL(好中球58%、リンパ球30%)、血清CRP 3.8mg/dLと炎症反応が認められた。

 病歴および理学所見、画像所見よりマイコプラズマ肺炎が疑われた。マイコプラズマ血清抗体価が上昇していれば確定診断に結び付くが、結果が出るのに数日を要し、しかも多くは2週間後の抗体価(ペア血清抗体価)と比較する必要があるので、マイコプラズマ肺炎と暫定診断し、治療方針を検討した。

 表3から患児の肺炎の重症度を判定すると軽症で、外来で経口抗菌薬の投与により経過をみることとした。

表3 小児の肺炎の重症度評価(出典:『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011』)

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 また、表4に示すように、原因微生物不明の軽症肺炎において、6歳以上ではマクロライド系が第一選択薬である。母親によると、患児は薬を飲むのが上手とのことで、苦味はあるが、マイコプラズマに対する最小発育阻止濃度(MIC)に優れ、組織移行性が高いアジスロマイシンを投与した。

表4 原因微生物不明時の小児初期抗菌薬療法(軽症・外来)

 長時間作用型β刺激薬のツロブテロール(ホクナリンテープ他)を処方したのは、気管支炎による気管支粘膜腫脹を原因とした気管支狭窄に有効なためである。

 また、去痰を十分に行うため、カルボシステイン、アンブロキソール塩酸塩(ムコソルバン、ムコサール他)と、作用機序の異なる去痰薬を処方した。十分な去痰が重要との考えから、中枢性鎮咳薬の処方はあえて避けている。

 3日後の受診時、解熱しておらず、咳嗽もあまり改善していなかった。

 発熱が計5日間に及んだため、血液検査を再度行った。その結果、白血球数8200/μL(好中球60%、リンパ球28%)、血清CRP 5.2mg/dLと炎症所見がさらに悪化していたため、入院管理を勧めた。

 だが、家族が外来治療を希望しており、肺炎としては軽症の診断だったため、外来治療を継続した。

 アジスロマイシンは組織中に取り込まれて1週間有効性を発揮する。3日間で十分な組織中濃度が得られるので、4日目に症状の改善がなければ無効と判断することになっている。本症例は、マクロライド耐性のマイコプラズマ肺炎と考えた。

 図1に『小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011』から、初期抗菌薬治療が無効だった場合の抗菌薬変更例を示す。これに従えば、トスフロキサシントシル酸塩水和物もしくはテトラサイクリンへの変更が示されているが、患児は8歳以下であるため、トスフロキサシン(オゼックス、トスキサシン他)を処方した。

図1 初期抗菌薬治療が無効だった場合の抗菌薬変更例(軽症・外来)

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 翌日解熱したが、咳嗽が改善しないとのことで2日後に来院した。咳嗽が長引いている原因は、去痰薬および気管支拡張薬が十分に用いられ、気道の炎症が持続しているためと思われた。

 そこで、患児の免疫力を多少低下させても、抗菌薬の効果で感染を悪化させる危険性がないとの判断から、気道の抗炎症を目的として、経口ステロイドを投与することにした。ステロイドの種類は、抗炎症作用が強く、半減期の長いベタメタゾン(リンデロン他)を選択した。抗菌薬は有効と考えたため、さらに2日間継続した。

 数日後、この処方により咳嗽は明らかに軽減し、治療を終了とした。

耐性菌が疑われたら追加治療が必要

 最後に紹介するのは、7日前から咳嗽、2日前から発熱を認め、来院した2歳女児である。

 予防接種は、3種混合I期3回+追加、BCG、生ポリオ2回、MRワクチン、日本脳炎I期を終了しているが、インフルエンザ菌b型(Hib)および肺炎球菌ワクチンの接種歴はない。

 初診時の全身状態は良好で、チアノーゼはなく、呼吸数は38回/分、努力呼吸は認められなかった。SpO2は室内気で98%で、循環不全を示す所見もなかった。

 胸部の聴診では、右肺野に小水疱音を認め、右鼓膜には中等度の発赤を認めた。

 理学所見から肺炎を疑い、胸部単純X線撮影と血液検査を行った。

 胸部X線写真では、右中肺野に気管支の走行に一致した境界不明瞭な陰影 (小葉性肺炎像)を認めた。血液検査では、白血球数1万2000/μL(好中球66%、リンパ球24%)、血清CRP 3.2mg/dLだった。

 年齢と病歴から、Hib肺炎もしくは肺炎球菌肺炎が疑われた。重症度は、表3から軽症と判断し、外来で経口抗菌薬の投与を開始した。表4に従って、広範囲ペニシリン系薬を選択した。

 2日後の受診では解熱はしておらず、咳嗽もあまり改善していなかった。

 発熱して4日目だったが、年齢が幼少であり、炎症所見の変化をみたかったため、血液検査を再度行った。白血球1万4000/μL(好中球64%、リンパ球24%)、血清CRP 5.0mg/dLと炎症所見はさらに悪化していた。

 症状は、初診時と変わらず、軽症の診断だった。家族の強い希望もあり、外来で経過をみることとした。

 病原体について、初診時の後鼻腔培養の結果が出ていなかったが、広範囲ペニシリン系薬に耐性の肺炎球菌またはHib(ペニシリン耐性肺炎球菌[PRSP]やβラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌[BLNAR])の可能性が考えられた。

 そこで図1に従い、追加治療で両菌群に優れた抗菌力を示す経口カルバペネムのテビペネム ピボキシル(オラペネム)を投与し、ペニシリン製剤は中止した。

 翌日の夜、患児は解熱し、後日、初診時の後鼻腔培養からBLNARが検出されたとの報告を受けた。

 Hibや肺炎球菌は、肺炎より化膿性髄膜炎の病原菌として注目されている。化膿性髄膜炎は、生命予後、神経学的予後が非常に不良である。経過が急激で診断が困難であり、しかも急速に抗菌薬に対する耐性化が進んでいるといわれている。こうした恐ろしい感染症に対しては、予防が何よりも大切である。

 Hibワクチン、肺炎球菌ワクチンの接種により、9割以上の化膿性髄膜炎の発症が予防できるというデータもある。最近では、ほとんどの地域で公費助成の対象となっている、Hibワクチン、肺炎球菌ワクチンのより一層の接種率の向上が強く望まれる。

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