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副作用症状のメカニズム
第22回 便秘
日経DI2012年7月号

2012/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年7月号 No.177

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 50歳女性。閉経後の骨粗鬆症を心配して、数日前に来局してOTC薬のカルシウムとビタミンDの配合薬を購入。今日は緩下剤を求めて来局した。女性は「おしっこは頻繁に出るのに、便通が悪く5日も排便がない」と、疲れた表情で薬剤師に話した。

「便秘」が起こるメカニズム

 便秘とは、排便の回数が少なくなった状態をいうが、便秘のメカニズムを考える前に、排便が起こるメカニズムを見てみよう。

 食物が胃に入ると、大腸の入り口の回盲弁が開いて、小腸の内容物が大腸に移動する。大腸では小腸で吸収されなかった水分が再吸収され、腸内細菌によって内容物から便が形成され、それがS状結腸に到達する。

 上部直腸の内圧はS状結腸より高く、境界にある輪状筋(Rossi括約筋)が収縮しているため、便塊は通過を妨げられS状結腸に停滞する。食事による刺激が加わると、横行結腸からS状結腸にかけて強い運動(蠕動運動)が起こり、内容物は直腸に押し出される。蠕動運動は、交感神経と副交感神経によって支配されており、副交感神経が亢進する夜間は蠕動運動が活発になる。

 大腸の粘膜下には、大腸に加わる刺激を感知し、粘膜からの粘液分泌を司るマイスナー(Meissner)神経叢がある。筋層には、アウエルバッハ(Auerbach)神経叢がある。アウエルバッハ神経叢は、副交感神経の支配を受けている。また、5HT3、5HT4受容体があり、粘膜内にあるクロム親和性細胞が刺激を受けることでセロトニンが遊離し、それらの受容体に結合してアセチルコリンの遊離を増大させることで蠕動運動を促進する(参考文献1)。

 便塊が入ってくることによって、直腸の内圧は亢進し、腸壁が伸びる。この刺激は骨盤神経を介して仙髄にある排便中枢に伝わり、視床を経て大脳皮質の近くの領域に達して便意をもよおす。しかし通常は、排便ができる環境が整うまで、便塊は直腸に保持される。便意が起こると反射的に交感神経である下腹神経の緊張が低下し、副交感神経である骨盤神経が興奮して、内肛門括約筋が弛緩するが、ほぼ同時に意識的に陰部神経を介して外肛門括約筋を収縮させて、便やガスが漏れるのを防ぐ。

 排便の用意が整い排便するまでは次の通り。腹圧(イキミ)をかけると胸腔内圧が上昇し、横隔膜が低下し、腹筋の収縮によって腹腔内圧が上昇し、骨盤の底部の筋肉群は弛緩して、骨盤底が下降し、便が出やすいようになる。直腸の内圧が高まると、その刺激により前述の通り、交感神経である下腹神経の緊張が低下し、副交感神経である骨盤神経が興奮して、内肛門括約筋が弛緩する。

 排便環境が整っている場合は、同時に陰部神経を介して意識的に、外肛門括約筋を弛緩させるため、便やガスが排泄される。肛門管内に便が存在する間は、排便反射により結腸や直腸が持続的に収縮するため、下行結腸にある便も一緒に排出される(参考文献2、3)。

 では、便秘はどうして起こるのか。便秘は、(1)便の移動が機能的に障害されて起こる(機能性便秘)、(2)物理的に障害されて起こる(器質的便秘)、(3)他の疾患のために二次的に起こる─の3つに分けられる。

 機能性便秘は、さらに結腸の運動減退による便秘(弛緩性便秘)、結腸の痙攣による糞便通過障害(痙性便秘)、便意の低下による便秘(直腸性便秘)に分けられる。弛緩性便秘では結腸の運動が低下し、便の結腸内停滞時間が長くなるため、水分が過剰に吸収されて便が硬くなる。腸管の運動が低下する原因には、食事の量や繊維成分が少ないなどが挙げられる。残渣が少ないと腸管壁への物理的な刺激が低下し(a)、腸管は拡張しないため血流が低下し(b)、さらに腸管の運動が悪くなる。

 排便に関する筋力(腹筋、横紋筋、骨盤底筋肉群など)の加齢に伴う低下(c)も、便秘の原因となる。緊張やストレスによって交感神経が優位になった場合(d)も、蠕動運動は抑制されて便秘となる。

 結腸が痙攣すると糞便は腸管を移動しにくくなり、水分吸収量が増加して硬くなる。痙攣の具合によって糞便の性状は異なり、便秘だけでなく下痢が起こることもある。過敏性腸症候群の原因とも考えられている。

 習慣的に便意を我慢していると、直腸壁が便によって拡張したという刺激が正しく認識されにくくなり、便秘が起こる(e)(参考文献4)。摂取水分が少なく脱水を生じている場合や、食べ過ぎなどで内容量が増加したり固化して通過障害(f)が起こった場合も便秘となる。

 器質性便秘は、癌やイレウスなどによって腸管の通過が阻害されて起こる。また、神経系の異常(g)による排便反射の障害や便意の知覚障害、さらに脳血管障害やパーキンソン病などの神経疾患でも同様のことが起こる。

 二次的便秘では、糖尿病神経障害の結果、大腸機能の低下が起こり、便秘になりやすい。甲状腺機能低下症も、甲状腺ホルモンが不足することで、腸の蠕動運動が抑制され、便秘になる。

 悪性腫瘍があると、破骨細胞活性因子の放出によって破骨細胞が活性化され、骨吸収が増加して高カルシウム血症が起こる。高カルシウム血症では、血液中のカルシウムイオンが増え、細胞内の電位との差(膜電位)が大きくなる。膜電位が大きくなると、神経は興奮しにくくなるため、腸平滑筋の運動が低下し、便秘が発現する(h)。高カルシウム血症では、多尿や吐き気、食欲不振などを伴うことがある。副甲状腺機能亢進症でも、腸管からカルシウムの吸収を増大させるため、高カルシウム血症が起こる。膠原病やうつ病などによっても二次的に便秘が起こる。

 妊娠によっても便秘が起こるが、これは、妊娠に伴う食事内容や量の変化、運動量の低下、黄体ホルモンが優位(i)になることで、胃や腸管の平滑筋の緊張低下と蠕動運動の抑制が起こるためである(参考文献5)。

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副作用で便秘が起こるメカニズム

 薬の副作用で下痢が起こるメカニズムも、上記のa~iで説明できる。

 最も多いのは、交感神経が優位になり腸の蠕動運動が抑制されて起こる便秘(d)である。腸管は、交感神経と副交感神経の支配を受けているため、交感神経が刺激されるか、または副交感神経が抑制されると便秘が起こる。

 便秘がよく起こる薬としては、抗コリン薬やドパミン作動薬がある。具体的には、抗パーキンソン病薬、三環系抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬、ジソピラミド(商品名リスモダン他)などである。OTC薬では、酔い止め薬、総合感冒薬、鎮咳薬、胃腸薬などにも抗ヒスタミン薬が配合されているので注意が必要である。

 β刺激薬でも便秘が起こる。抗コリン薬の場合は、抗コリン症状として、散瞳、目の調節障害、眼圧上昇、口渇、尿閉、顔面紅潮、頻尿、血圧上昇などの随伴症状が見られる。また、抗癌剤は、腸粘膜内にあるクロム親和性細胞からセロトニンを遊離させ、それが腸管の5HT3、5HT4受容体に結合してアセチルコリンの遊離を増大させるため、一般には下痢が起こることが多い。しかし、制吐薬として5HT3受容体拮抗薬が同時に投与されることが多く、その影響で便秘傾向となる。抗精神病薬もセロトニン5HT3受容体の拮抗作用を示し、便秘傾向となる。

 腸管粘膜への刺激低下(a)によって便秘が起こるものとしては、経腸栄養剤が挙げられる。残渣が少ないため、腸への刺激が少なく便秘が起こる。腸管粘膜の血流低下(b)による便秘としては、胃薬としての水酸化アルミニウムや、止瀉剤としてのカルシウム剤などによる便秘がある。アルミニウムやカルシウムは収斂作用を持ち、蛋白質と結合し血管を収縮する2)。腸管では、腸管内における有害物質、過剰の水分や粘液などを吸着させて除去する。しかし、これが過剰となると便秘を引き起こす。

 タンニンは収斂作用があるため、タンニンを多く含むお茶や食品でも同様の機序により便秘が起こり得る。排便に関わる筋力の低下による便秘(c)は、筋弛緩作用のある薬剤の服用で起こり得る。

 長期にセンナ(センナ他)やビサコジル(テレミンソフト他)を使用していると、大腸の反応性が悪くなり、正常の蠕動を抑制するような平滑筋の緊張と収縮性の消失が起こり便秘となる(e)。これは便意を習慣的に我慢したときに起こる便秘と同様の機序による。

 内容物の通過障害(f)は、脂質異常症の治療に使われるコレスチラミン(クエストラン他)やリン吸着薬などが腸内で固化してしまうことで起こり得る。また、αグルコシダーゼ阻害薬は食物中の炭水化物の消化を遅らせる。そのため腸内容物が増加し停滞して便秘を起こす。また、利尿薬の多用でも、脱水を引き起こすことで、便の固化が起こる(参考文献6)。

 神経系の異常(g)による便秘は、モルヒネなどの麻薬系鎮痛薬によって起こり得る。腸間膜神経叢には、オピオイドμ受容体があり、刺激されると胃や小腸の蠕動運動が抑制され、胃内容物が停滞し、胃前庭部および十二指腸の通過が遅れて、便の固化が進む(参考文献6)。さらに、肛門括約筋の緊張や中枢作用の排便反射抑制を起こし、便秘が起こる。

 下痢止めのロペラミド塩酸塩(ロペミン他)は、小腸のμ受容体を刺激する作用を持つため、下痢止めとして使うが、便秘を起こしやすい。また、マクロライド構造を持つエリスロマイシン(エリスロシン他)やタクロリムス水和物(プログラフ他)でも腸管収縮、蠕動運動の異常を来し、嘔吐や便秘が起こることがある。

 便秘を起こす抗癌剤としては、ビンクリスチン硫酸塩(オンコビン)、ビンデシン硫酸塩(フィルデシン)、ビンブラスチン硫酸塩(エクザール)、パクリタキセル水和物(タキソール他)、ドセタキセル(タキソテール他)などがある。これらは、腸管を制御する自律神経の微小管も傷害するため腸管の運動抑制を起こすと考えられている(参考文献6)。

 癌患者では、運動不足や食事量の減少など、患者が便秘の危険因子を複数持つことが多く、便秘が発現しやすい。

 カルシウム拮抗薬、特にベラパミル塩酸塩(ワソラン他)では、消化管の平滑筋の弛緩を起こし、便秘を引き起こすとされている。また、カルシウム製剤の取り過ぎは、時に高カルシウム血症を引き起こし、腸平滑筋の運動低下による便秘が起こる(h)。

 黄体ホルモンが優位になることで便秘を起こす薬として、黄体ホルモンを含む経口避妊薬が挙げられる(i)。

* * *

 冒頭の症例を考えてみよう。閉経後は骨粗鬆症になりやすいと聞いた患者は、その予防を目的に薬局で以前、カルシウムとビタミンDの配合剤を購入していた。さらに、インターネットで別のカルシウムサプリメントも購入して服用していることが分かった。患者の話から計算すると、1日にカルシウム2500mgと、厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準」の1日摂取上限量の2300mgを超えた量を2カ月間、服用していることが分かった。

 患者は多尿を訴えており、そのことと便秘の症状より、薬剤師は高カルシウム血症による便秘を疑い、さらに腎障害を起こしている可能性を考え、受診を強く勧めた。受診した患者は、急性腎不全と高カルシウム血症と診断され入院となった。

参考文献
1)平塚秀雄『便秘:そのメカニズム・診断・治療』(ライフサイエンス出版、2000)
2)須藤紀子、治療 2010;92:145-9.
3)堺 章『目で見る身体のメカニズム』(医学書院、1996)
4)安武優一ら、綜合臨床 増刊号2011;60:1180-4.
5)ペリネイタルケア 2010;29(6):857-60.
6)厚生労働省、『重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス』

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