講師 三上 彰貴子 気温が高まる7月は、肌の露出が増えて、虫に刺されやすくなる。 虫刺されの一般的な症状は、痒みや痛み、腫れや赤みなどである。 虫に刺されて、カなどの唾液やケムシの毛が体内に入ると、アレルゲンとなって、マスト細胞が関連する即時型アレルギーを起こし、1~2分後には痒くなる。 一方、虫に刺されてから5~6時間後に痒くなるのは、遅発型アレルギーによるもので、白血球の遊走能が高まり、サイトカインが分泌されることで生じるとされる。 虫刺され用のOTC医薬品のほとんどには、抗ヒスタミン成分、局所麻酔成分、抗炎症成分が含まれている。さらに、最近はステロイド入りの製品が増えている。化膿や2次感染が懸念される場合に用いる製品には、抗菌薬が含まれている。 剤形としては、液剤とクリーム、ジェル、軟膏、パッチがあり、特に清涼感のある液剤は人気がある。 痒みを伴う虫刺されでは、患部を掻き壊すことによって2次感染を起こすこともある。これを防ぐための製品として代表的なのが、患部を保護するパッチである。 また、虫に刺された後に使用するものだけでなく、刺される前に使用する虫よけの製品も併せて薦めるとよい。家族で使える大容量のスプレーや持ち運びに便利な雑貨など、種類が多いので、患者のニーズに合わせて薦める。 虫よけの雑貨には、虫が嫌がるレモンユーカリオイルを配合したブレスレッドのほか、衣服に貼るシールもある。 抗炎症作用や血管収縮作用、抗アレルギー作用で局所の炎症を抑える。 ステロイドの強さがweakのデキサメタゾン酢酸エステルやヒドロコルチゾン酢酸エステル、strongのプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルなどがある。 痒みを抑える成分として、塩酸イソチペンジル、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン塩酸塩がある。 鎮痒成分のクロタミトンは、皮膚に軽い熱感を与え、皮膚の痒みを抑える。 知覚神経に作用し、痒みの伝達を可逆的に遮断する。リドカイン、アミノ安息香酸エチル、ジブカイン塩酸塩などがある。 炎症を抑えるグリチルリチン酸二カリウム、グリチルレチン酸、サリチル酸メチルなど。 殺菌作用と掻き壊しによる2次感染を予防する。イソプロピルメチルフェノール、クロルヘキシジン塩酸塩など。 dl-カンフル、l-メントールは、清涼感を与え、その刺激で痒みを抑える。 トコフェロール酢酸エステルは、毛細血管の血行を促進し、傷口の治癒を促す。 ディートやレモンユーカリオイルは、吸血害虫が忌避する成分として知られている。 ステロイドを配合している虫刺され用薬のうち、すーっとした清涼感が高くお薦めなのが、マキロンsかゆみどめ液(第一三共ヘルスケア)である。 配合しているステロイドは、weakのデキサメタゾン酢酸エステルで、鎮痒成分としてジフェンヒドラミン塩酸塩、清涼成分として、l-メントールとdl-カンフルも配合している。 また、殺菌成分として、イソプロピルメチルフェノールを配合しているので、掻き壊しがある患部にも向いている。 ただし、添付文書では、水痘、水虫やたむし、化膿している患部には使用しないこととされている。 「痒みがひどい」という患者には、同じくデキサメタゾン酢酸エステルとジフェンヒドラミン塩酸塩を配合し、局所麻酔成分のリドカインも含む液剤のウナコーワα(興和)もある。 また、クリームの製品を好む患者には、ムヒアルファEX(池田模範堂)を薦めるとよいだろう。strongのステロイドのプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルとジフェンヒドラミン塩酸塩が配合されている。 体質によっては虫刺され痕が残りやすい患者も少なくない。そんな患者に薦めたいのが、ムヒホワイティ(池田模範堂)である。昨年発売された製品で、女性をターゲットにした広告が印象的である。 同製品は、ステロイドのヒドロコルチゾンやジフェンヒドラミン塩酸塩、l-メントールとdl-カンフルに加えて、組織修復作用があり、化粧品などにも使用されているアラントインを配合しているのが特徴である。 前に紹介した液剤は塗り口がスポンジになっているのに対し、ムヒホワイティは容器の先端が細く、そこから必要な量を押し出して患部に塗布するジェル剤である。 手のひらサイズで容器が薄く、持ち運びしやすい。よく振ってから使用する。 使用上の注意として、「してはいけないこと」の欄には、同じ部位に長期連用しないよう記載されている(目安として顔面で2週間以内、その他の部位で4週間以内)。 虫刺され、痒みのほか、皮膚炎やかぶれ、蕁麻疹、あせもなどにも使用できる。 一方、虫よけの製品で薦めたいのは、虫よけ成分のディートを12%配合した、医薬品サラテクトFA(アース製薬)である。200mLと大容量なので、家族旅行に持っていくのに向いているが、6カ月未満の乳児にはディートは使用できないことに注意する。 容器には、「パウダーin」と書かれているが、液体が噴霧され、使用後の皮膚に白さが残らない。 噴霧後には、皮膚がさらっとするので、汗でべたべたしているときにも使いやすい。 カやアブ、ブユ、ダニなどの虫よけに使用する場合は、用時に皮膚から15cmほど離して噴霧するが、ツツガムシを忌避する場合は、4~6時間の間隔を空けて、露出した皮膚のほか、履物やズボンの裾に、15cmほど離して適量を噴霧する。いずれの場合も、顔や首筋には適量を手のひらにスプレーして、肌に塗布する。 ステロイドを配合していない製品を求める患者に薦めたいのが、(a)新ウナコーワクール「もろこしヘッド」(興和)である。 先端部分がブラシ状になっており、患部を傷付けず、やさしく掻くように塗布することができる。 抗ヒスタミン成分のジフェンヒドラミン塩酸塩、局所麻酔成分のリドカインを配合し、l-メントール、dl-カンフルの作用で、すーっとした使い心地がある。 乳幼児には、生後1カ月ぐらいから使える(b)ムヒ・ベビー(池田模範堂)がよい。 ジフェンヒドラミンのほか、生薬の甘草由来のグリチルレチン酸、殺菌作用のあるイソプロピルメチルフェノール、血行を促すトコフェロール酢酸エステルと、組織修復を助けるアラントインを配合している。 クリームタイプで清涼成分は含まれておらず、患部が染みたり、口に入っても強い刺激はない。万一、乳児がなめても、抗ヒスタミン成分のジフェンヒドラミン(1%)で多少眠気を生じる可能性がある程度で、少量であれば特に問題はないと考えられる。 なお、同じシリーズには液体ムヒベビーもあるが、2%のジフェンヒドラミン塩酸塩、皮膚の修復や保湿効果のあるパンテノール(プロビタミンB5)を配合していて、生後3カ月が使用開始の目安とされている。 小児など、患部を掻き壊しやすいという患者には、パッチタイプを薦めたい。 (c)マキロンパッチエース(第一三共ヘルスケア)は、ステロイドのデキサメタゾン酢酸エステルを含み、抗ヒスタミン成分のジフェンヒドラミン、殺菌作用のあるイソプロピルメチルフェノール、血行を促すトコフェロール酢酸エステルを含有する。 1日1~3回患部に貼るが、数時間使用して痒みがなくなったら剥がすように指導する。小児に使用する場合は、保護者の指導監督の下に使用することとされている。貼付部位のかぶれや色素沈着を起こすことがあるので、保護者には購入時に説明する。 ステロイドを含まないパッチには、(d)ムヒパッチA(池田模範堂)や、マキロンかゆみどめパッチP(第一三共ヘルスケア)がある。 ムヒパッチAは、ジフェンヒドラミン、殺菌成分のイソプロピルメチルフェノール、l-メントールを配合。1回の使用は、4~5時間を目安とし、同じ場所に長時間使用しないように注意する。 虫刺されの症状として、痒みが比較的少なく、患部に腫れや赤み、熱感など炎症や化膿がみられる患者には、ステロイドと抗菌薬を配合した軟膏を薦めている。 (e)テラ・コートリル軟膏a(ジョンソン・エンド・ジョンソン)は、weakのヒドロコルチゾンと、テトラサイクリン系抗菌薬のオキシテトラサイクリン塩酸塩を含む。掻き壊した引っ掻き傷や、じゅくじゅくした患部にも刺激を与えない。 フルコートf(田辺三菱製薬)は、フルオシノロンアセトニドとアミノグリコシド系抗菌薬のフラジオマイシン硫酸塩を含む軟膏。ステロイドがstrongなので、赤みが強い患者に薦めるとよい。 こうした軟膏は、虫刺され以外のあせもやかぶれ、とびひなどにも使用でき汎用性が高い。ただし、顔面に広範囲に使用したり、また化粧やひげそり後に使ったりしないように伝える。 携帯しやすい虫よけ製品を探している患者には、60mLの(f)ムシペールα(池田模範堂)が向いている。 サラテクトと同様にディートを12%配合しているが、ノンガススプレーで液が飛び散りにくく、使用時にむせにくいのが特徴である。6カ月以上2歳未満は1日1回、2歳以上12歳未満は1日1~3回を目安に使用する。 乳幼児には、天然のレモンユーカリオイルを含んだブレスレットの(g)虫よけブレスα子供用サイズ(アース製薬)を薦めたい。同製品には大人用もある。 使用しないときは、専用の保存袋で保管すればよく、1日8時間使用した場合、約1カ月持続する。 虫刺されのOTC薬の多くは、ステロイドを配合しているため、5~6日間使用しても改善しない場合は、皮膚科を受診するよう指導する。 使用上の注意として、目の周囲や口唇などの粘膜には使用しないこととされているので、こうした部位を刺された場合も受診を勧める。 また、虫刺されの際に注意したいのは、アナフィラキシーショックである。 特にスズメバチやアシナガバチなどで注意が必要だ。初めて刺された場合、症状はそれほどひどくならないことが多いが、2回目以降はアナフィラキシーショックが起こりやすいとされる。刺された後に気分が悪くなったり、意識がもうろうとして倒れてしまったら、すぐに救急車を呼ぶように伝えておく。 近年、療養病床や精神病床などで、ヒゼンダニによる疥癬の集団感染が報告されている。高齢者宅での家族内感染も少なくないため、「眠れないほど痒い」といった訴えを聞いたら、皮膚科を受診するよう指導するとよい。 また、腹部など皮膚の柔らかい部位を多数刺されたら、布団や衣類に付着したダニによる可能性が高いので、清潔に保つようアドバイスしたい。 使用後に、発疹や発赤、痒み、腫れが見られた場合は、接触皮膚炎の可能性があるため、使用を中止する。 虫刺されに対するOTC薬の多くは、ステロイドを配合しているため、長期間使用しないように指導したい。 また、ステロイドを含有している製品は、患部に水虫やたむし、にきびのほか、化膿症状が現れたり、刺激感が続くことがある。 一方、虫よけ成分のディートは、皮膚炎を起こすことがある。また、まれにだが中枢神経障害による痙攣、不眠なども報告されているので、過量の塗布や吸入、傷口への使用は避ける。 スプレーを塗布する際、目に入らないように注意したり、換気するように伝える。
Mikami Akiko
株式会社A.M.C 代表取締役社長
製薬会社勤務後、経営学修士(MBA)を取得。コンサルティング会社勤務を経て2005年より現職。医療分野のコンサルティングなどを行う傍ら、OTC薬に関する寄稿や講師としての活動も行う。薬剤師。この成分に注目
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