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CaseStudy
京都府薬剤師会 (京都市東山区)
日経DI2012年7月号

2012/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年7月号 No.177

 地域の薬剤師会がオリジナルのお薬手帳を作製するという取り組みは、これまでにもあった。だが、今春完成した「おくすり手帳」と「おくすり手帳カバー」は、京都府薬剤師会が、医師会、歯科医師会と共同で作ったという点が特徴だ。手帳やカバーの表紙にも、“三師”の名前が入っている(図1)。

図1 京都府の三師会が共同で作った「おくすり手帳」と「おくすり手帳カバー」

写真:直江 竜也(図1を除く)

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 同会副会長で、「おくすり手帳」の開発に携わった一人である甲斐純子氏(蘇生会総合病院[京都市伏見区]薬剤部長)は、「この『おくすり手帳』と『おくすり手帳カバー』を、多くの患者に利用してもらいたい」と力を込める。

「『おくすり手帳』をきっかけに、医療連携をいっそう進めたい」と話す京都府薬剤師会の甲斐純子氏。

災害時に役立つお薬手帳目指す

 「おくすり手帳」の作製は、2010年度の京都府の四師会(医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会)の場で、薬剤師会が提案したのがきっかけ。賛同を得た上で、11年度に薬剤師会内に「医療安全対策委員会」を立ち上げ、具体的な検討を進めてきた。

 昨年2月26日に開かれた、京都府医師会の主催による一般府民向けの「医療安全シンポジウム」では、薬剤師の立場で甲斐氏が登壇。お薬手帳の意義を説明した後、約300人いた参加者に「今、お手元にお薬手帳をお持ちの方はいらっしゃいますか」と問いかけた。ところが手が上がったのは2、3人にとどまった。ニュージーランド地震(2月22日)から日が浅かったこともあり、甲斐氏は、「お薬手帳を携帯していれば、地震などの災害が起こったときにも役立ちます。災害はいつ起こるか分かりませんので、常に携帯してください」と呼びかけ、発言を終えた。

 その半月後、東日本大震災が発生。甲斐氏は、「お薬手帳を携帯することの重要性を訴えたい気持ちがさらに高まった」と振り返る。

注意喚起カードで情報を共有

 患者に常に携帯してもらい、医療連携に役立つお薬手帳にしたい─。京都府の三師会の「おくすり手帳」と「おくすり手帳カバー」には、そのための工夫が詰まっている(図2)。

図2 「おくすり手帳」と「おくすり手帳カバー」の工夫

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 「おくすり手帳カバー」は半透明の素材で、「おくすり手帳」だけでなく、診察券や保険証などをはさめるポケットを作った。

 さらに、ポケットに入れられる2種類の注意喚起カードを作成。1つは、患者の副作用歴およびアレルギー体質を記すためのもので、裏面は原因薬剤やアレルゲンを記入する。もう1つは、ハイリスク薬を含む安全管理の必要な薬が処方されている場合に注意を促すためのもので、裏面は「抗腫瘍薬」「抗血液凝固剤」など、該当する薬剤をチェックできるようになっている。

 注意喚起カードの情報は、既存のお薬手帳に書かれていることも多い。だが、「重要な情報だから、一目見て分かるようにしたい。それでカードに行きついた」と、同会副会長でダイガク薬局(京都市下京区)開設者の渡邊大記氏は説明する。注意喚起カードを「おくすり手帳カバー」の外側から見えるところに入れておけば、確実に情報が伝わる。これら2種類のカードは、同会のウェブサイトの会員専用ページからpdfファイルをダウンロードできる。

「京都府全体にこの『おくすり手帳』を広めたい」と話す京都府薬剤師会の渡邊大記氏。

 「おくすり手帳」は計48ページで、継続的に使ってもらえるよう、表紙に番号を入れられるようにした。特徴は、各ページの下部に、医療機関と薬局との間の連絡欄を設けた点だ。

 この欄は、薬局との間だけでなく、例えばワルファリンカリウムを処方されている患者が抜歯をするときは、医師と歯科医師との間の連絡にも使える。この欄の活用により、薬剤師は当然のこと、医師や歯科医師も、患者を診察するたびに「おくすり手帳」を点検するようになることを期待している。

 裏表紙には、「おくすり手帳」に対する同会の思いを込めた。中でも「災害・事故・急病など緊急の事態にも役立ちますので、常に携帯しましょう」とのメッセージは、最も訴えたいことだ。

 また、「おくすり手帳カバー」には、手帳を3冊まではさめるようにした。「血圧の記録や血糖値の記録など、お薬手帳以外に医師から手帳をもらっている患者も大勢いる。薬局で処方箋を出すときに、『おくすり手帳』をカバーごと見せてもらえれば、薬剤師が検査値なども併せて把握できる」と渡邊氏。さらに、このような形で患者の情報を一つにまとめておくことにより、「緊急時には『おくすり手帳』が患者のカルテ代わりにもなる」(甲斐氏)わけだ。

府民への啓発にも力入れる

 京都府薬剤師会では、「おくすり手帳」を1冊20円(非会員は40円)、「おくすり手帳カバー」を1冊50円(同100円)で販売している。評判は上々で、それぞれ10万冊ずつ作製したところ、「わずか2カ月間で、『おくすり手帳』は約5万冊、『おくすり手帳カバー』は約3万7000冊が売れた」(同会専務理事の茂籠哲氏)。

「評判も良く、既に他県からの問い合わせも受けている」と喜ぶ京都府薬剤師会の茂籠哲氏。

 その背景には、「おくすり手帳」や「おくすり手帳カバー」の使いやすさに加えて、京都府では2010年度に、薬剤師会と病院薬剤師会が統合したことがあるかもしれない。両会の統合は都道府県で初めて、かつ現在のところ唯一だ。病院の薬剤師と薬局の薬剤師が、同じ「おくすり手帳」を使用するという共通認識があるため、利用が進んでいる面がありそうだ。

 京都府の三師会は、府民への「おくすり手帳」の啓発にも力を入れている(図3)。この6月に啓発用のポスターを新たに作製、背景には東日本大震災における救援風景の写真を挿入した。医療機関や薬局にポスターを張ってもらうことにしている。

図3 「おくすり手帳」の啓発活動

 さらに、「おくすり手帳MOVIE」と名付けた啓発用の動画も作成した。動画は、同会のウェブサイト(http://www.kyotofuyaku.or.jp/)や、インターネットの動画サイトであるユーチューブから誰でも見られる。

 動画には、京都府医師会長の森洋一氏が“特別出演”。森氏は、「検査や薬の情報は、患者にきちんと知っておいてもらいたい。そのために『おくすり手帳』が役に立つ。医師にとっても、『おくすり手帳』を見ると患者のこれまでの経緯が分かるので、大変ありがたい。『おくすり手帳』を介して、京都発のチーム医療を一層広げていきたい」と話している。(北澤 京子)

「患者さんの情報は、患者さんが持っているのがよい」と話す京都府医師会の森洋一氏。

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