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Interview
土屋 文人氏(日本病院薬剤師会副会長)
日経DI2012年7月号

2012/07/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年7月号 No.177

 本号特集で紹介した通り、薬局は一般名で書かれた処方箋への対応に忙殺されている。だが処方箋の書き方に関しては、内服薬の分量の記載における「1日量」か「1回量」かの問題もある。厚生労働省が検討会での議論を経て、1回量を基本とすることを通知したのは今から2年半も前のこと。「1回量」は今、どうなっているのか。医療安全に長年取り組んできた土屋文人氏に聞いた。 (聞き手は本誌副編集長、北澤 京子)

Fumito Tsuchiya 1977年、東京大学薬学部卒業。帝京大学医学部附属市原病院薬剤部長、東京医科歯科大学歯学部附属病院薬剤部長、国際医療福祉大学附属病院薬剤統括部長を経て、2012年7月より現職(日本薬剤師会副会長を兼務)。専門は医療安全学、医療情報学、人間工学。

─そもそも、なぜ「1回量」なのですか。

土屋 医療安全の観点からは、「誰が見ても間違わない」ルールにしておくことが大切です。処方箋も例外ではありません。医師法(第22条)では、医師は患者、または現にその看護に当たっている者に対して、処方箋を交付しなければならないと定めています。言い換えれば、医師は、処方する薬の内容を処方箋の形で患者に開示することになっているのです。

 現実には、患者は病院や診療所から薬局へ処方箋を運んでいるだけかもしれませんが、本来は、患者に交付している以上、処方箋は患者にも分かる形で書かれていなければならないはずです。医師や薬剤師といったプロ同士が了解できればよいという話じゃないんです。処方箋の記載方法を考える場合も、この「患者に分かる」ということがカギとなります。

 昔は粉薬が多かったから、Aが何グラム、Bが何グラム、Cが何グラムと3種類出た場合、それらを混ぜて全体を3等分し、「分3」としていました。「分3」であれば、「3つに分ける」という意味が分かりますから、まだいいんです。ところが、オーダリングシステムが導入されたときに、ほとんどのシステムが「分3」と書くのをやめてしまい、その代わりに「1日3回」となった。

 でも、「3錠、1日3回」と書いてあった場合、3錠を3で割って「1錠×3回」という意味だと、皆が理解できるでしょうか。「3錠×3回」と、掛け算してしまうんじゃないでしょうか。実際に、そういうミスが起こっています。薬剤師は当たり前のように割り算をしてきましたが、それは日本人だからできるんです。

 一方で、世界の常識は1回量。1回量と1日に飲む回数を書いておけば、1日量は、「1回量×回数」ですぐ計算できます。この考え方、僕は間違っていないと思いますよ。コンピューターの世界で医療情報交換のための標準規約である「HL7」でもそうなっています。情報の基本単位(粒度)は、最も小さいものにしておくのが基本なのです。

─「1回量」の方が、理にかなっているのですね。

土屋 そうです。だって、薬袋にはちゃんと1回量で書いてありますよ。薬剤情報提供文書(薬情)だって1回量で書いてあります。それなのになぜ、処方箋は1日量なんですか。薬を飲む患者の立場に立てば、薬袋の記載と処方箋の記載は、一致している方が自然じゃないでしょうか。

 わが国の処方箋は、内服薬は1日量、頓服薬は1回量、外用薬は総量、注射は1回量とばらばらで、剤形ごとに単位を選ばなければならない。ルールが色々あるのは、それだけで安全じゃない。ルールは簡素化した方がいいんです。基本ルールを1回量にすれば、ルールを減らすことができる。患者の目線で見ても分かりやすい。かつ、世界標準とも一致する。最近の薬は、国際共同治験を行っているので、添付文書も1回量を基本として記載されています。このように考えていけば、やはり1回量だと思います。

 そもそも、薬物療法においては、薬をどれだけ処方したか、調剤したかより、患者さんの体内にどれだけ入ったかが重要です。病院では既に、入院患者に対する注射の実施記録を取っています。内服薬だって本来は、どれだけ飲んだかの記録を取るべきなんです。そして、薬歴も、実際に服薬した薬の記録を付けておくべきです。すると当然ながら、1回ごとの記録を付けていくことになりますよね。

 外来患者を対象に、服薬の記録を取るということは、トライアルとしては既に始まっています。僕としては、全ての薬の記録を付ける必要はないけれど、ハイリスク薬については、やったらいいんじゃないかと思っています。

─とはいえ、厚労省の通知が出てずいぶんたちます。「1回量」での記載は広がっているのですか。

土屋 処方箋の書き方は従来、先輩医師から後輩医師へ“伝授”されてきたことが、研究班で報告されています。厚労省の検討会では、こんなに大事なことを“伝授”で済ませていてはいけない、これからは教育をしていこうということになりました。処方箋の記載は1回量が基本ですが、移行期にあっては1回量と1日量を併記することになっており、薬剤師国家試験でも、1回量と1日量が併記されています。『調剤指針』も当然ながら、1回量と1日量を併記しています。

 これは何も新しいことではなくて、現行の保険のルール(「診療報酬請求書等の記載要領等について」76年8月7日保険発第82号)でも、1回量と1日量を併記することになっているんです。分量として、内服薬は「1日分量」を記載するとあり、用法および用量として、「1回量、1日の服用回数および服用時点、投与日数、服用に関する留意事項」を記載することと、ちゃんと書いてあります。でも、ほとんどの人が、1回量を併記するというルールを守っていないのです。まずこれを守ろうよ、ということが、検討会の報告書にも書かれているのです。

 病院の薬剤師は、入院患者に対して注射薬が多く処方されているから、1回量に慣れています。そのため、内服薬も1回量で記載することに、それほど違和感はないと思います。しかし、薬局の薬剤師は、外来患者が対象で内服薬が中心だから、1回量に慣れていない。この慣れの問題は、やはり大きいと思っています。

 薬局の薬剤師の中には、これまで1日量だったのを1回量にすると、かえってミスが起こるのではないかと、心配している方がいらっしゃるかもしれません。でも、今やろうとしているのは、1日量を1回量にシフトすることではなく、1回量と1日量を併記することなんです。たとえ慣れていなくても、「1回1錠、1日3回」と書いてあれば、間違えることはないはずです。

─「1回量」記載のための情報システムの開発は、どのあたりまで進んでいるのですか。

土屋 まずは、「1回量」記載をベースにした用法マスタがなければいけないということで、昨年、日本薬剤師会と日本病院薬剤師会が共同で、『標準用法用語集』を作りました(本誌2011年11月号TOPICS参照)。ここでの用法は「1回量」での記載を前提としていますから、「1日3回」という用語は出てきますが、「分3」は出てきません。ちなみに、「食間」についても、いつ飲むのか分かりにくい、情報伝達エラーが起きやすいというので、「食後2時間」という表現に改めました。

 さらに今年、日本医療情報学会が、『標準用法用語集』に収載されている用法と用語を対象とした「標準用法マスタ」(JAMI標準)を公表しました。これで「1回量」のための基盤整備ができたことになります。

 夏以降、このマスタを搭載したオーダリングシステムが発表されていくと思います。ただ、病院のシステム変更には時間がかかることも確かなので、現実問題としては、10年単位で考えていかなければならないでしょうね。

インタビューを終えて

 インタビューのために国際医療福祉大学に伺ったのは6月中旬。その後、土屋先生は、日本病院薬剤師会の常勤副会長となり、一方で、日本薬剤師会の副会長も兼務するという大役を担うことが決まりました。薬剤師の代表の一人として、これまで以上に手腕を発揮されることでしょう。

 そこで、「日薬と日病薬を一緒にしちゃったらどうですか」と聞いてみたところ、「組織を一つにするのには色々とあって……」と、イマイチ歯切れの悪いお答え。副会長就任後しばらくしたら、改めてお聞きしたいです。(北澤)

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