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特集:報告編
副作用に強くなる:報告編
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 薬剤師が丁寧な説明や聞き取りを通じて薬の副作用を早期発見することが重要なのは、それを基に何らかの行動を取ることで、重症化を防ぐことが可能だからだ。

 行動としてまず考えられるのは、処方医に対するフィードバックだろう。「聞き取り編」で紹介した山口大病院薬剤部の「副作用シグナル検出システム」では、医師に知らせて必要な検査を促すことで、薬の適正使用につなげている。

 調査では、副作用が疑われた場合、処方医にフィードバックする際の方針についても聞いた(Q7)。最も多かった回答は「処方変更が必要と考えられれば報告する」で45.0%。聞き取った内容を薬剤師の立場でアセスメントして、対応を決めていることがうかがわれる結果だ。

 だが、薬剤師が取れる行動は、処方医への報告だけではない。社会全体にフィードバックすることで、次の副作用を防ぐことができる。

報告経験「あり」は4分の1

 薬の副作用報告制度には、医療機関や薬局などの医薬関係者が厚労省に報告するルートと、製薬企業がPMDAに報告するルートの2通りがある。医薬関係者からの報告よりも企業からの報告が圧倒的に多いのが、わが国の特徴だ。

 ちなみに10年度の報告数は、企業報告(国内)が3万4578件、それに対して医薬関係者からの報告は、約10分の1の3656件だった。ただし、医薬関係者の職種別に分けた統計は取られていないので、3656件のうち薬剤師からの報告が何件だったのかは分からない。

 調査では、厚労省への副作用報告の経験が「ある」と回答したのは24.6%で、「ない」人の方が多数派だった(Q8)。

 報告がなければ、それへの対応もない。そのよい例が、糖尿病治療薬のピオグリタゾン塩酸塩(アクトス)と膀胱癌の発生リスク上昇との関連だ。

 フランスで行われた疫学研究の結果、ピオグリタゾン使用者での膀胱癌の発生リスクが、非使用者に比べて有意に上昇した(ハザード比1.22、95%信頼区間1.05-1.43)。それを受けて同国では11年6月9日に、新規の処方を差し止めると発表した。

 「医薬品・医療機器等安全性情報」(No.283、2011年9月)によれば、日本で報告された、ピオグリタゾンを含有する製剤の膀胱癌に関する国内副作用報告は、いずれもフランスでの措置が行われた後だった。それ以前は誰も気がついていなかったのか、それとも気がついていても報告していなかったのかは分からない。わが国では、フランスを含む海外での疫学研究を基に、6月24日に「膀胱癌治療中の患者には投与を避けること」などとする使用上の注意の改訂が指示された。

 大津氏ら名城大薬学部医薬品情報学研究室と、日本薬剤師会DI委員会は共同で、09年の日本薬剤師会学術大会シンポジウムの参加者(n=197)を対象に調査を行い、結果を11年の日本医薬品情報学会で発表した。設問の中には副作用報告に関するものも含まれていた。

 業務の中で副作用と疑う事例に遭遇する頻度は、「ほぼ毎日」「週に2~3回程度」「週に1回程度」の合計で39.6%に上っていた。だが、実際に副作用報告をしたことがあるのは23.4%にとどまっていた。一方で「年に数回あるかないか」が26.4%、「全くない」が2.5%もあった。「副作用について意識の差があるのではないか」と大津氏。

「副作用が疑われる事例に遭遇している薬剤師は多いのに、副作用報告は増えていない」と話す名城大の大津史子氏。

 副作用報告が増えない理由のベスト3は、「副作用かどうかの判断が難しい」(71.6%)、「複数の薬を服用しているためどれが原因か分からない」(46.7%)、「薬剤師のみの判断で副作用報告をしてよいかどうか分からない」(38.6%)だった(図2)。これらはいずれも、副作用かどうかの判断に関係している。研究グループでは、薬剤師が副作用を報告する際の手順を作成する必要があると考えている。

図2 薬剤師による副作用報告が増えない理由(大津氏による)

大津氏ら名城大薬学部のグループと日本薬剤師会DI委員会が共同で実施した調査の結果。薬と症状との因果関係の判断が難しいという回答が最も多かった。

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患者副作用報告がスタート

 医薬関係者や製薬企業からの報告に加え、今年3月から、患者やその家族が、副作用が疑われる経験を報告できるようになった。PMDAが試行中の「患者副作用報告」だ。

 始まったばかりであるにもかかわらず、調査では、回答者の65.6%が患者副作用報告について「知っていた」と回答しており、関心の高さがうかがわれる。

 英国やオランダなどでは以前から、患者からの副作用報告が制度化され、実績も上がっている。英国(名称:イエローカードシステム)の06年の統計では報告者の17%が患者で、薬剤師(14%)よりも多かった。オランダ(同:Lareb)でも患者報告の割合が増えており、06年は18.9%を占めた(薬学図書館. 2008; 53: 190-202.)。

 「患者副作用報告」は、患者自身が薬の副作用に向き合うきっかけになるだろう。それにより、患者と薬剤師とのリスクコミュニケーションも、変化していくに違いない。

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