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特集:聞き取り編
副作用に強くなる:聞き取り編
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 コミュニケーションはどんな場合であっても「ギブ・アンド・テーク」が基本。一方通行では始まらない。

 もちろん、薬のリスクコミュニケーションもその例外ではない。薬剤師が副作用について患者に説明するのと同じか、それ以上に重要なのが、患者からの聞き取りだ。

 「どの薬の副作用を聞き取るか」に関して、「常に聞き取る」と「だいたい聞き取る」の合計が多かったのは、順に「ハイリスク薬」「頻度の高い副作用のある薬」「重い副作用のある薬」だった(Q5)。傾向としてはQ1と同じで、説明したことについては、次回来局時にきっちり聞き取っていることがうかがわれる。

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「オープン」対「クローズ」

 その際に難しいのが、自分からは副作用の訴えをしない患者に対して、どのように聞き取るかだ。

 質問には大きく分けて、(1)「はい」または「いいえ」で明確に答えられる「クローズドクエスチョン」、(2)相手の自由な発言をうながす「オープンクエスチョン」─の2種類がある。調査では、「具体的な症状を挙げて聞く」というクローズドクエスチョンと、「具体的な症状を特定せずに聞く」というオープンクエスチョンの両方を使うという回答が54.4%と最も多かった(Q6)。

 自由意見欄には、2種類の質問法のどちらに対しても、支持する意見が寄せられた(別掲記事参照)。確かに、具体的な症状を挙げて聞いた方が、患者が思い出しやすいということもあるだろうし、逆に、症状を特定しないで聞いた方が、患者が気軽に話しやすいということもあるだろう。どちらの質問法にもメリットがある。

 しかし、薬の副作用には「これで全て」ということはなく、「未知の副作用」が新たに見つかる可能性が常にゼロではない。「既知の副作用をピンポイントで聞くだけでは、どうしても“漏れ”が生じる。患者の話し方や様子から、前回の来局時と何か違ったことがあったら、『どうされましたか』と声を掛ける方が、結果的に網羅性が高まる。患者が『自分のことを気に掛けてくれている』と思ってくれるというメリットもある」と、名城大の大津氏は指摘する。

 一般に、オープンクエスチョンを交えることは、会話する両者の間に親密な関係を作るためにも役立つとされる。クローズドクエスチョンは、「はい」または「いいえ」のどちらかで答えが終わってしまうので、会話のキャッチボールが盛り上がらず、話が続かなくなってしまいがちだ。

 もっとも、オープンクエスチョンを使うにせよ、そのきっかけに悩むこともあるだろう。岡山県で薬局を展開するマスカット薬局で医薬品情報管理室室長を務める守安洋子氏は、特に皮膚症状に着目している。衣服から出ている部分であれば、薬剤師でも自然にチェックできる。

 守安氏は、「病院に勤務していた時、薬疹など薬の副作用による症状が出ている患者が受診すると、皮膚科医から呼び出しがかかり、よく観察して覚えておくようにと指導された。その経験を通じ、実際の症例から学ぶことの大切さを実感した」と話す。

 薬局で後輩薬剤師を指導する立場になった現在も、患者に薬の副作用が疑われる皮膚症状を見つけたら、その場で写真を撮らせてもらって薬歴に記録、次回に担当する薬剤師に伝えるよう指導している。

「皮膚症状は実際に目で見て確認することが重要」と話す、マスカット薬局の守安洋子氏(右)と本店管理薬剤師の岡泰子氏。

なぜ聞くのかを一緒に伝える

 ただし、薬局で薬剤師が患者に対して、「どうなさいましたか」「お変わりありませんか」といったオープンクエスチョンを多用することには注意も必要だろう。

 大津氏は、こんなエピソードを紹介する。ある人が自分のブログで、「いつ行っても薬剤師に『今日はどうされましたか』と聞かれるが、なぜいつも聞かれるのか分からない」と書き込んだところ、そのブログを読んでいた多くの人がコメントを寄せた。ブログの主は水虫の治療中で、他の患者にも話が聞こえてしまうような薬局内で、水虫のことを毎回薬剤師に話さなければならなかったのが、恥ずかしいと同時に腹立たしかったというのだ。

 一般市民の間で、プライバシーへの配慮を薬局に求める声が少なくないことは、本誌調査(12年1月号特集)でも示されている。だが、それ以上に大津氏が気になったのが、薬剤師が患者から聞き取りをする理由が患者に理解されていないという点だ。「薬の有効性、安全性を担保する最後のとりでが薬剤師であるということが、一般市民に伝わっていないことが大きな問題。お金(調剤報酬)のために聞いているんだな、と患者から誤解されやすい」と大津氏。

 患者から聞き取りをする際は、何のために聞き取るのか、聞き取った内容について薬剤師が何を考え、どういう行動につなげることができるのかを、一緒に伝えるようにすると、薬剤師の職能に対する理解も進むだろう。「患者から『あの人に相談すれば自分がトクをする』と思ってもらえればこっちのもの」(大津氏)だ。

薬薬連携で副作用のシグナル検出

 患者からの聞き取りを副作用の早期発見、早期対応につなげる、こんな取り組みもある。

 山口大学医学部附属病院薬剤部では、「副作用シグナル検出システム」を開発、地元の宇部薬剤師会との連携を進めている。ハイリスク薬と新薬に焦点を当てて、副作用の自覚症状を患者から上手に聞き出し、薬の適正使用につなげるのが目的だ。

 同病院薬剤部長で、『DIオンライン』で「STOP!メディケーションエラー」を執筆する古川裕之氏は、「山口大病院の院外処方箋発行率は90%。副作用のシグナルを早期に検出し、重症化を防ぐには、薬局との連携が欠かせない」と強調する。

 薬剤部のDI室を中心に図1のようなチェックリストを考案、A4判のシートにして、『Clinical Pharmacist』誌(メディカ出版、11年3月号)に閉じ込んでもらった。聞き取る症状は、「皮膚の症状」「目の症状」「尿の症状」「手や足の症状」「お腹の症状」「呼吸や胸の症状」「血液の症状」「全身の症状」の8種類。それぞれに具体的なチェック項目が書かれている。

図1 山口大病院薬剤部の「副作用シグナル検出システム」
(出典:Clinical Pharmacist. 2011; 3(2).)

 実はこれらの症状は、重篤な副作用の初期症状だ。例えば「目が充血した」と聞き取れた場合、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、TEN、緑内障・眼圧亢進の疑いがある。さらに「皮膚が赤くなった」「かゆい」「熱が出た」などが重なると、TENの初期症状である可能性が高まる、といった活用法を考えている。

 薬局では、患者から聞き取った結果を報告用紙に記録し、山口大病院薬剤部にファクスで送る。受け取った薬剤部は、患者のカルテを見て使用薬剤を確認、さらに自覚症状に関連する検査記録を確認する。検査値に大きな異常がある場合、あるいは検査記録がなく、かつ添付文書で要検査の記載がある場合は、医師に報告する。医師に報告するには至らなかったものも、データベースに登録する。こうして症例を集積することで、将来の「シグナル検出」に生かすねらいがある。

 宇部市内の薬局89施設を対象に調査したところ、回答したほとんど(37薬局中34薬局)がこのシステムを知っており、かつ必要であると回答した。古川氏は、「薬剤師の“副作用シグナル検出能力”を高めていきたい」と意気込む。

山口大病院薬剤師は、患者に自覚症状を尋ね、その組み合わせにより、重篤な副作用の“シグナル”を検出し、医師にフィードバックする仕組みを考案した。写真は左から、古川裕之氏、吉本久子氏、幸田恭治氏、長澤悠子氏。

地道な勉強が経験不足を補う

 現実には、重篤な副作用症例に自分が出合うことはそれほど多くない。それを補う意味で、日本メディカルシステムの笹嶋氏は、全社の学術大会にSJSを経験した患者を招き、講演してもらった。目を潤ませながら話を聞く薬剤師も多く、強い印象を残した。

 その後、ある店舗に薬疹が出た患者が来局した。担当薬剤師はSJSを疑って、唇の粘膜に発疹が出ているかどうかを確認、すぐに病院に受診してもらい、重症に至らずに済んだという。笹嶋氏は「重篤な副作用はめったに起きないと思い込んではいけないと、改めて痛感した」と振り返る。

 副作用の症例報告を題材にした勉強会を行っているのが、07年12月に発足した京滋副作用研究会だ。

 愛寿会同仁病院(京都市上京区)薬剤部の中西昭人氏は、「患者さんから症状を訴えられても、それが薬の副作用なのか原疾患の悪化なのかがよく分からず、副作用について知識を深める必要性を感じていた。同じ勉強するなら皆でやった方がいいと考え、研究会を立ち上げた」と、経緯を説明する。

「今後は勉強会をより実践的な内容にしていきたい」と話す愛寿会同仁病院の中西昭人氏。

 題材として利用しているのは、「医薬品・医療機器等安全性情報」に報告されている重篤な副作用の症例報告。症例ごとに、副作用が起きるメカニズムや、薬剤師が介入するポイントといった議論するテーマを決め、事前に参加者に知らせておく。

 勉強会の当日は、少人数のグループに分かれて、各自が予習してきたことを発言し、討論する(写真1)。討論の内容は、グループごとにリポートにまとめ、共有する。現在は年3回ほどのペースで開いており、近隣の薬剤師を中心に30人程度が集まるという。

写真1 副作用症例報告を題材にした勉強会(提供:京滋副作用研究会)

少人数でのグループディスカッションで議論した内容を記録に残しておくと、記憶にも残りやすい。

 参加者の一人は、研究会で「悪性症候群」をテーマに議論して間もなく、実際に悪性症候群を起こした患者が受診し、うまく対応できたという。中西氏は「病棟で患者さんと接する際も『薬の副作用ではないか』と考える癖がついてきた。副作用の聞き取りも、今までよりできるようになった」と手応えを感じている。

自由意見から
副作用の説明のコツ、私はこうしてます!

・薬の副作用であることを患者が気づいていないケースは多いので、「何かお変わりはありませんか」の一言を掛けると、患者からの発言を引き出しやすくなる。(50代男性)

・患者が体の変化を話しやすいように言葉を掛ける。「あいにくのお天気でだるいですねぇ」などと話を向けると、「だるいって言うよりね…」などと話してくれることが多い。情報も大切だが、患者が症状に対してどんな反応をするのかを予測することが重要。(60代女性)

・相手に合わせてオープンクエスチョンにするかクローズドクエスチョンにするかを判断する。(30代女性)

・「お変わりありませんか」では教えてくれないので、具体的な症状を伝えるようにしている。「お薬の適正な使用のために教えていただけませんか」とか「お薬による治療をよりよいものとするためにお聞かせいただけませんか」などと聞く。(30代女性)

・食欲が落ちるとか急に熱が出るといった特徴的な症状をこちらから提示し、心当たりがないか聞くようにしている。その際も「滅多にないが」とか「ないことの確認です」などと、患者を不安にさせないような表現で。(40代女性)

・患者が急いでいる場合は、1種類だけでも聞くように心掛けている。(50代男性)

・これまで出ていた薬が出なくなったり、他の薬に変更になったりしたときに「以前の薬で何かありましたか」と聞くと、副作用を聴取しやすい。(40代女性)

・新しく処方された薬は、次回来局時には必ず聞くようにしている。(50代女性)

・薬局に入ってきたときから患者さんをよく観察するようにしている。顔色、歩き方、むくみなど、いつもと違うことで、副作用が発現していることに気がつくこともある。(50代女性)

・最近のドクターは、問診や検査で薬の効果や副作用のチェックを行っているので、当店では腎機能障害関連のチェックに取り組んでいる。(70代女性)

・丁寧な傾聴を心掛けると、患者は副作用のことまで話してくれることが多い。(50代男性)

・OTC薬の販売時には併用薬を聞き取り、飲み合わせはもちろん、「副作用の発現ではないか」と常に考えて接客している。まれにではあるが、歯茎の腫れを訴えてオーラル商品を購入した顧客の中に、抗てんかん薬やカルシウム拮抗薬を服用している場合がある。念のために医師に伝えるように勧めた上で、商品を案内するようにしている。(20代女性)

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