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特集:説明編
副作用に強くなる:説明編
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

 薬には病気の治療にとって好ましい「主作用」と同時に、主作用とは別の好ましくない「副作用」もあるということは、薬剤師にとっては常識だろう。

 だが、患者にとっては必ずしもそうではない。薬の副作用は「怖いもの」「避けた方がいいもの」というイメージを持つ人が少なくない。

 だからこそ薬剤師には、患者が薬の副作用による健康被害に遭わないよう、そして、仮に副作用が発現しても重症化しないよう、目を光らせる役割がある。薬の副作用をどう説明し、またどう聞き取るか、言い換えれば薬のリスクコミュニケーションが、これまで以上に重要になってきている。

 そこで本誌は、『DIオンライン』の会員薬剤師を対象に調査を行い、863人から有効回答を得た。インターネット経由で回答者を募る形式のため、関心の高い人が回答しやすいという限界はある。そのため、結果は必ずしも全国の薬剤師の平均像を反映しているとはいえないかもしれないが、今回の結果からは、現場の薬剤師が、薬のリスクコミュニケーションに真剣に取り組んでいる姿が浮かび上がってきた。

ハイリスク薬は8割超がほぼ説明

 「どの薬の副作用を説明するか」(Q1)に関して、「常に説明する」と「だいたい説明する」の合計が80%を超えたのは、多い順に「頻度の高い副作用のある薬」「特徴的な副作用のある薬」「ハイリスク薬」だった。「重い副作用のある薬」についても75.8%が説明していた。

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 ちなみに、ハイリスク薬を調剤した場合に特定薬剤管理指導加算を算定するかどうかについては、「常に算定する」が27.2%、「だいたい算定する」が32.2%だった。

 「発売されて日が浅い薬」については、これらに比べると「常に説明する」割合が少なかった。だが、新薬が発売された直後に重篤な副作用が報告されることはよくある。最近では、2011年11月に販売が開始されたC型肝炎治療薬のテラプレビル(商品名テラビック)に関して、市販直後調査で重篤な腎機能障害が報告された。そのため製造販売元の田辺三菱製薬は5月9日、投与開始1週間以内は少なくとも週2回は腎機能検査をするよう注意喚起を行った。

まず服薬の意義を伝える

 『DIオンライン』の「クスリの鉄則」コラムでおなじみの、日本メディカルシステム(東京都中央区)調剤事業部DI・安全管理部門統括マネージャーの笹嶋勝氏は、薬の副作用について説明する際の大前提として、「先に服薬の意義を伝える」ことを挙げる。「医師は、たとえ副作用が生じるリスクがあったとしても、治療に必要と考えるからこそ処方しているはずだ。薬剤師が副作用の説明をすることが、かえって治療の妨げになってはいけない」との考えからだ。

「薬理作用のため高頻度で起こる副作用はあらかじめ説明しておく」と話す日本メディカルシステムの笹嶋勝氏。

 その上で、「抗コリン作用を持つ薬を飲むと尿が出にくくなるといった、メカニズムから考えて起こりやすい副作用は、薬剤師にとっては当たり前でも、患者が驚いて服薬を中断してしまうことのないよう、あらかじめ説明しておくべき。『○○が起こるかもしれませんが、心配することはありません』と言い添えると、患者も安心して服薬できるだろう」とアドバイスする。

 また、抗パーキンソン病薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)など、「薬の量を自己判断で調節するとかえって副作用が起きやすくなる薬を服用中の患者には、自分で中断や減量をしないよう伝える」(笹嶋氏)。

 調査では、副作用について説明しない薬がある場合に、その理由についても聞いた(Q2)。回答した人の割合が最も多かったのは、やはり「患者が薬を飲まなくなるおそれがあるから」。実際に患者が薬を中断した経験があるという回答も見られた。

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 自由意見欄には、様々な説明の工夫が寄せられた(別掲記事参照)。患者の理解度に応じて言葉を選ぶ、メーカーが作成する指導箋を活用するなど、既に実行している薬剤師も多いだろう。医師の説明と矛盾しないよう連携を取るとの声もあった。

 結局のところ、「こうすればよい」という万能の説明方法があるわけではなく、一人ひとりの患者に応じた対応をせざるを得ない。本誌Premium版で「副作用症状のメカニズム」を連載中の、名城大学医薬品情報学・医薬情報センター准教授の大津史子氏は、「以前は『副作用はあってはならないもの』という考えの人も少なくなかったが、今は『薬には副作用があるものだ』という認識が広がっている。副作用の説明が患者に受け止めてもらえる許容度は増していると思う」と話す。

まれだが重篤な副作用の説明は?

 説明しない理由として2番目に多かったのが「頻度が低いから」(Q2)。だがここで悩ましいのが、頻度は低いが、いったん起きたら重症化しやすい副作用の説明だ。

 有名な高松高裁判決(1996年2月27日)では、まれだが重篤な副作用である中毒性表皮壊死症(TEN)について医師が患者に説明せず、「何かあればいらっしゃい」といった一般的な説明にとどまっていたために、説明義務違反として医療側が敗訴した。

 だがその後、やはりTENをめぐる東京高裁判決(02年9月11日)では、異なる判断が下された。判決では、TENの副作用が報告されている薬を複数処方する場合、医師はそれについて患者に説明するのが望ましいが、まれにしか起こらない副作用の説明は現実にはなかなか難しいことに加え、医師は、具合が悪くなったら服用を中止するよう患者に注意していたという事情も勘案し、「具体的な説明がなくても違法とまでいうことはできない」とした。

 大津氏は、「めったに起こらないような副作用まで全て説明しようとするときりがない。むしろ、患者に対して『何かあれば私に話してください』と言い、本当に話そうと思ってもらえる関係をつくることが重要ではないか」という考えだ(「聞き取り編」参照)。

そもそも頻度が分からない

 説明する内容に関して「常に説明する」との回答が多かったのは「症状」や「受診の判断」だった(Q3)。それに比べると、具体的な「頻度」を説明する人は少なかった。患者を安心させる意味で「少ない」と言うにとどめることが多いようだ。

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 そもそも、副作用が起こる頻度について、正確な実態を知ることは難しい。添付文書の副作用欄に書かれている副作用の頻度は、治験や使用成績調査の結果であることが多く、実際の臨床で、年齢も合併症も様々な患者に投与した場合にも当てはまるかどうかの保証がない。

 頻度を計算するには、分子(その薬で副作用を発現した人数)と分母(その薬を服用した総数)の両方が分かっていなければならないが、現状では分母が正確に分からない。分子についても、製薬企業や医薬関係者による自発的な報告が基になっているので、仮に何かが起こっていたとしても、報告されなければ把握できない(「報告編」参照)。使用実態をベースにした疫学研究の必要性については、厚生労働省「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の最終提言(10年4月28日)でも指摘されている。

 東京大学大学院医学系研究科教授で生物統計学が専門の大橋靖雄氏は、「レセプトなどのデータベースを活用することにより、薬と副作用の関連性を検討する研究は、今後ますます増えるだろう」と予測する。ただしその場合、「観察研究であるため、結果の解析方法や解釈については、十分に考慮する必要がある」と加える。

「データベースを活用した疫学研究が盛んになってくるだろう」と話す東大大学院の大橋靖雄氏。

手渡す文書は「薬情」がほとんど

 副作用について説明する際、患者に文書を手渡すとの回答は86.6%に上った。手渡す文書の種類としては、薬剤情報提供書(薬情)が圧倒的に多かった(Q4)。厚労省の指導の下、添付文書に警告欄が設けられている経口薬を中心に「患者向医薬品ガイド」が作成されているが、あまり利用されていない。「知らない」との回答も17.8%に上った。

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 ちなみに、「患者向医薬品ガイド」については、それが掲載されている医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトを薬情に記載するよう求める通知(12年3月29日薬食安発0329第2号)が出されている。

 だが、薬情には、副作用に関する情報をどれだけ掲載するかについての基準はない。副作用について何も書かれていない薬情もある。

 医薬品情報関連企業のシステムヨシイ(岡山市北区)は、薬情に記載する副作用情報の見直しを進めている。従来は、添付文書の「重大な副作用」欄に記載のある副作用を全て列挙していた。だが多くの場合、「重大な副作用」は数項目に上るので、情報量が多くなりすぎ、かえって患者に読んでもらいにくい。

 そこで、「重大な副作用」に加えて「その他の副作用」も対象とする代わり、「警告」の内容、「緊急安全性情報(イエローレター)」「安全性速報(ブルーレター)」、一般的な認知度などを考慮した上で、特に患者に伝えるべき特徴的な副作用に絞り込んだ(表1)。同社データ開発課で薬剤師の山崎千佳子氏は「多すぎず、かと言って少なすぎず、のバランスが難しいが、患者さんに読んでもえらえる薬情にしたい」と話す。

表1 薬情に記載する副作用情報の見直し例(システムヨシイによる)
プラザキサカプセル(ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩)の場合

現在の説明文では、「重大な副作用」にある出血(上)と間質性肺炎(下)を併記。これを、出血に焦点を当てて説明し、表現も簡潔なものに見直した。

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自由意見から
副作用の説明のコツ、私はこうしてます!

・必ず頻度を説明し、ほとんど起こらないという安心感を最初に与えてから、副作用症状を説明する。(50代男性)

・副作用を恐れて飲まなかったときのデメリットについても話している。(40代女性)

・薬の副作用を説明するときは、副作用が現れる理由や、副作用が現れた場合の対応も必ず説明し、不安を和らげるようにしている。(40代男性)

・メーカーの作成している指導箋はできる限り取り寄せている。(30代男性)

・糖尿病薬など副作用や注意事項が多いものに関しては、一度に伝えても忘れてしまうと思うので、説明時にオリジナルパンフレットをお薬手帳にはさむ。薬を飲むのをやめてしまいそうな患者には、初回時には最低限の情報だけを伝え、2回目以降に順番に1つずつ確認していくこともある。(20代女性)

・口渇や便秘、尿の色の変化など患者が気づきそうなことは、初回に必ず説明する。患者の多くは自分の症状を副作用と認識していないので、具体的な症状を挙げると、「そういえば最近…」といった感じで色々相談してくれる。(40代女性)

・高齢者の場合、出血の副作用を説明する際、「アザ」と聞くより方言の「くろにえ」と言う方が理解しやすいことがあった。(40代男性)

・患者ごとに、副作用出現のリスクが高いかどうかを確認してから説明することが多い。(無回答)

・季節やイベントに合わせて説明。例えばゴールデンウイークの前に、長距離運転の際は、眠気の出る薬やテオフィリンの頻尿に注意などと伝える。(40代男性)

・副作用を説明した後は、不安を抱えたまま帰さないように気をつけている。例えば、早期発見することで重大な健康被害に至らないなど、私たち薬剤師が支えていることを伝える。(40代女性)

・説明を簡単にしか行わない場合は、より慎重にモニタリングする。(30代男性)

・菅野彊先生(どんぐり工房)が提唱されている副作用機序別分類の理論を個々の薬に当てはめれば、患者に伝えるべき副作用、聞き取るべき副作用、それらの起こりうる時期、中止か経過観察か、などが明らかとなる。学んだ理論を学問として机上に飾っておくのではなく、実際に使ってこそ生きたものになる。(50代女性)

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