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副作用症状のメカニズム
第21回 体重増加
日経DI2012年6月号

2012/06/10

日経ドラッグインフォメーション 2012年6月号 No.176

講師
名城大学薬学部
医薬品情報学准教授
大津 史子(おおつ ふみこ)
1983年、神戸女子薬科大学卒業。滋賀医科大学外科学第2講座勤務を経て、名城大学薬学部専攻科に入学。87年に同大学薬学部医薬情報センターに入職、同学部医薬品情報学講師などを経て、2008年から現職。
イラスト:長岡 真理子

症例
 薬局の近くに住む主婦がOTC薬の防風通聖散を求めて来局。見たところ本人に肥満はないため薬剤師が尋ねると、「50歳の夫が最近太って、会社の健康診断でコレステロール値が高めと言われ、肥満解消にいいと聞いた防風通聖散を買いに来た」とのこと。夫は、半年前に胃潰瘍と診断され、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法を受けたという。

 体重増加は、主に体液量の増加と脂肪の増加によって生じる。体液量が増加する原因としては、心疾患や肝疾患、腎疾患による浮腫、および甲状腺機能低下症による粘液水腫などがある。

 体液量の増加については、本連載の第10回「浮腫」(本誌2011年7月号)で詳しく解説した。今回は、脂肪の増加について考えてみたい。

摂取と消費のバランスで決まる

 脂肪の増加は、単純に消費エネルギーより摂取エネルギーが上回ったときに起こる。両者のバランスに影響する因子は図1の通りだ。

図1 摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスに影響する因子

摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ると体重増加が起こる。

 食物として摂取された脂肪、蛋白質、炭水化物のどれもが、最終的にはブドウ糖に代謝され、血液によって全身の細胞に運ばれて使用される。残りは肝臓や筋肉でグリコーゲンとして貯蔵され、さらに余った場合はトリグリセリドになり脂肪細胞に蓄えられたり、筋肉にも詰め込まれる。その結果、体重が増加し肥満となる(参考文献1)。

 摂食エネルギーが消費エネルギーを上回る原因として最も多いのは、食欲の増加である。

食欲が起こるメカニズム

 食欲が起こる機序は、種々の摂食調節物質でコントロールされている。本連載の第1回「食欲不振」(10年10月号)でも触れたが、少しおさらいしておこう。

 空腹に伴う迷走神経刺激により胃から成長ホルモン分泌促進ホルモンであるグレリンが分泌される(参考文献2)。グレリンは視床下部の摂食中枢を刺激し、摂食中枢からはオレキシンやニューロペプチドYが産生・分泌され、脳内に情報を伝える。

 オレキシンの作用で、甘いものを欲するようになる。食べ物を見て匂いを嗅ぎ口にすると、脳からβエンドルフィンが分泌されて、「おいしい」という感情が湧いてくる。そしてドパミンが摂食中枢をさらに刺激し、「もっと食べたい」という欲求を引き起こす。グレリンは胃酸分泌を促すほか、胃排出促進作用も有するため、摂食がさらに進む。

 摂食によって血糖が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌される。また、白色脂肪組織からはレプチンが、消化管からはグルカゴン様ペプチド1(GLP 1)が分泌され、これらが満腹中枢の活動を高めて「満腹感」をもたらし、摂食が抑制される。

 グレリンの分泌は食事開始時をピークとして低下する。また、レプチンが胃酸分泌を抑制する。さらに、ヒスタミンやセロトニンなどが脳から分泌されて、脳は沈静化し充足感を覚えることで摂食の欲求はストップする(参考文献3)。ここで摂食がストップしないと、摂取過剰によって肥満となる。

肥満が起こる理由

 肥満には、原発性肥満と2次性肥満がある。肥満者の圧倒的多数を占める原発性肥満は、遺伝的素因、過食、摂食パターン異常、運動不足などによって起こる(参考文献4)。

 遺伝的素因では、摂食調節物質に関して遺伝子多型が認められているものがある。神経ペプチドY(NPY)やその受容体、コレシストキニン受容体などである。

 また、白色脂肪組織における脂肪分解や褐色脂肪細胞における熱産生亢進に関与しているβ3アドレナリン受容体、インスリン抵抗性と関連の深いPPARγ、レプチンと同様に脂肪細胞から特異的に産生されるアディポネクチンなどでも、遺伝子多型が知られている(参考文献1)。特にβ3アドレナリン受容体の遺伝子異常は、日本人肥満者の約25%に認められている(参考文献4)。

 健常者では、食べ過ぎると脂肪細胞から分泌されるレプチンにより満腹中枢が刺激され食欲が抑制されるが、肥満者ではネガティブフィードバックが働かず摂食が抑制されないため、過剰な脂肪がさらに蓄積されることになる(参考文献2)。加えて肥満になると、運動が抑制されエネルギー消費が減少し、悪循環に陥る。

 2次性肥満としては、内分泌性、視床下部性などがある。内分泌性肥満の代表的な疾患としてクッシング症候群が挙げられる。クッシング症候群の患者では、満月様顔貌や中心性肥満が約80%に見られるとされている(参考文献5)。

 クッシング症候群は、副腎腫瘍や副腎過形成などによりコルチゾールの過剰分泌が原因となり発症する。コルチゾールは、生命を守るホルモンであり、飢餓状態から脱するために、血糖値を高める方向に働く。具体的には、肝臓において糖新生を促進し、全身の細胞で糖の取り込みを抑制する。

 糖新生が促進され細胞への糖の取り込みが抑制された結果、高血糖状態が持続し糖尿病に至る。また、インスリン分泌の亢進により、一部の脂肪組織では脂肪分解を上まわる合成が起こる。

 コルチゾールとインスリンに対する感受性は体の各脂肪組織で違うことから、脂肪の分布異常が起こり、中心性肥満(満月様顔貌、野牛型など)が起こる。

 膵臓に生ずるインスリン分泌内分泌腫瘍であるインスリノーマでは、インスリンの持続性分泌が起こり、低血糖となるため過食に陥りやすく、同化作用が亢進し皮下脂肪の蓄積が起こる。視床下部には、摂食中枢と満腹中枢があり、視床下部に腫瘍や外傷、炎症が起こると、摂食異常として過食や無食が起こることがある。

薬で体重増加が起こるメカニズム

 薬によって脂肪の増加が起こり体重増加を起こす要因としては、(1)摂食調節物質への影響(2)インスリン抵抗性の増大(3)糖尿病治療薬によるもの─などが考えられる(図2)。

図2 薬による体重増加のメカニズム

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(1)摂食調節物質への影響

 薬で「太る」ということは、患者には非常に受け入れ難いことであり、アドヒアランスの低下を招きやすい。

 特に、フェノチアジン系やブチロフェノン系の抗精神病薬は、セロトニン2C(5HT2C)受容体遮断作用とヒスタミンH1(H1)受容体遮断作用を持ち、摂食を中止する信号が遮断されることで食欲が収まらなくなる。

 また、これらの受容体阻害作用は、グレリンの分泌を促進させるとされている。さらに、空腹時にトリグリセリドを増加させたり、インスリン抵抗性を増大させることも知られている。これらの機序はまだ明確ではないが、血中アディポネクチンの低下とTNFα上昇が関与している可能性がある(参考文献6)。

 最近の非定型抗精神病薬の中ではクロザピン(商品名クロザリル)、オランザピン(ジプレキサ)で特に多く見られ、リスペリドン(リスパダール他)、クエチアピン(セロクエル)でも見られる。これらの薬剤服用時には、定期的な血糖測定が必要となる。シプロヘプタジン塩酸塩(ペリアクチン他)などの抗アレルギー薬も、同様の作用を持っている。

 抗うつ薬では、食欲亢進が起こり過食による体重増加を起こす。うつ病患者では、もともと食欲低下が見られるため、抗うつ薬による食欲増進がプラスに働くこともある。ミルタザピン(リフレックス、レメロン)や三環系抗うつ薬は、H1遮断作用と5HT2C遮断作用を持つことから、その頻度が高い。SSRIでは、パロキセチン(パキシル)で体重増加が見られる。

 抗てんかん薬のバルプロ酸ナトリウム(デパケン他)や炭酸リチウム(リーマス)は、双極性障害における気分安定薬として頻用されるが、食欲亢進と体重増加が起こる。バルプロ酸で肥満が見られた患者にレプチンやインスリンの血中濃度が高かったという報告があるが、明確ではない(参考文献7)。

 近年、ピロリ除菌治療後に体重増加が起こることが注目されている。グレリンは胃粘膜で産生されることから、ピロリ除菌の感染による胃粘膜障害のためグレリン産生が低下する。それが除菌によって元に戻るためであるという説があるが、これも明確にはなっていない(参考文献8)。なお、除菌に成功した患者の25%に脂質異常症が見られるとの報告もある(参考文献6)。

(2)インスリン抵抗性の増大

 副腎皮質ステロイドの投与では、前述の内因性のコルチゾールの増加時と同様の機序によって糖尿病が発症し、体重増加を起こす。

 経口避妊薬は、インスリンの受容体に対する親和性を減少させ、インスリン抵抗性を高めることが知られている。

 そのほかにも、リュープロレリン酢酸塩(リュープリン)や男性ホルモンなどのホルモン剤、インターフェロンでも耐糖能悪化に伴い、体重増加が起こり得ることが知られている。

(3)糖尿病治療薬によるもの

 インスリンやスルホニル尿素(SU)薬では、細胞への糖の取り込み亢進によって血糖が低下し、尿糖が減少する。そのため、尿中へのエネルギー消失が減少することから、治療前と同等のカロリーを摂取していると、体重が増加する。

 また、インスリンは同化ホルモンであり、筋肉や脂肪組織を増加させる。また、SU薬の投与で、血中レプチンが上昇することが報告されている。

* * *

 さて、冒頭の症例を見てみよう。患者は半年前にピロリ除菌治療を受けており、除菌に成功している。奥さんに食事の量が変化していないか聞いたところ、確かに除菌後は以前より食欲が高まり、食事量が増えているとのことだった。ほかに体重増加の原因が見当たらなかったため、薬剤師は除菌による食欲増進と体重増加が原因と考えられることを奥さんに話し、食事量に注意するようにアドバイスした。

参考文献
1)前田和久、臨床栄養 2007:110(2);165-71.
2)春田いずみら、Helicobacter Research 2012:16(1);26-31.
3)大津史子、日経DI 2010:156;PE013-5.
4)源馬理恵子ら、綜合臨床 2001:50(5);917-9.
5)『病気がみえるvol.3糖尿病・代謝・内分泌』(メディックメディア)、2011年
6)土井啓員、治療学 2010:44(4);509-11.
7)浜野久美子、Prog Med 2010:30;369-73.
8)大澤浩之、Helicobacter Research 2007:11(4);355-60.

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